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私の体験したディズニーマジック、そして感動を呼ぶスタッフづくりの秘密 / 2007年1月(新春例会)

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私の体験したディズニーマジック、そして感動を呼ぶスタッフづくりの秘密
講師: 香取 貴信 氏 ((有)香取感動マネジメントオフィス 代表取締役)

 みなさん、あけましておめでとうございます! ただ今ご紹介にあずかりました、有限会社香取感動マネジメントの香取貴信です。今日はこのような素晴らしい機会にお招きいただきまして、本当にありがとうございます。感謝してます。

 以前ここにお招きいただいたのが3年前・・・ですかね、なので以前にも聴いたことがある方がいらっしゃるのではないかなと思うのです。ちょっと聞いてみたいのですが、以前僕が来た時に参加された、という方、どれぐらいいらっしゃいますかね。はい。あ、そうですか・・・。ありがとうございます。そうしたらほとんどの方が「はじめまして」ですかね。以前聴かれた方はちょっと同じ話になるかもしれないですが、後半ちょっとパネルディスカッションの方で以前とは違うところをテーマにやりたいと思います。
今回、いちばん最初、僕の話の中では、特にサービスについてちょっとお話をしていきたいと思います。それではすみません、よろしくお願いします!

簡単に自己紹介をしながら始めていきたいと思います。みなさん、東京ディズニーランドは行かれたことはありますか? ありますか? 結構いらっしゃいますね、ありがとうございます。もしかしたら、僕に会っている方がいらっしゃるかもしれないです。僕が働いていたのは1987年ですかね。ですから東京ディズニーランドがオープンして4年目を迎えたところから8年ぐらい、バイトさせてもらっていました。そんな中で教わったことを中心に話をしていきます。

その当時僕がやらせてもらっていたのは、主にアトラクションという所です。ご存知かどうか分からないですが、名前で言うとジャングルクルーズですとか、それからイッツ・ア・スモールワールド、それからシンデレラ城・ミステリーツアーといったような、お客様を乗せて楽しませるというところをさせてもらっていました。
せっかくですからね、ちょっと最初やりましょうね。そんないいもんじゃないんですけど・・・。みなさん、ジャングルクルーズって乗ったことありますかね。ご存知ないですか? あ、知ってますか・・・。あれはパークの中に造られた・・・、あ、ごめんなさい、「造られた」じゃないんだ、夢と魔法の王国ですからね、夢と魔法でできたジャングルがあるんですけど、この辺がむずかしいですね・・・。ボートに乗って約10分ぐらい、おもしろおかしくジャングルの中を探検していこうというアトラクションです。そこの最初のところだけでもやってみましょう。大事なのはイメージですね。ここ、ジャングルだと思ってくださいね。
じゃ、いってみましょう。こんな感じでやってました。やっぱ緊張しますね・・・。
「いやぁ、お待たせしました! 青い空、白い雲、やってまいりました、みなさんのボート、アマゾン・アニー号の到着です! あらためましてみなさん、こんにちは?! ジャングルクルーズへようこそ! 私がこのアマゾン・アニー号の船長、香取です。これからみなさんを危険がいっぱいのジャングルへご案内します。そう、何が起こるか分からないのがジャングル、二度と戻ってこれないかもしれない・・・。それでは、後ろを振り返ってください。私たちのためにたくさんの見送りの人たちが、45分も並んでくれています。じゃあ、一緒に見送りの人に元気良く手を振ってお別れしましょう。いきますよー! 右手挙げて、せーの! バイバーイ!」
・・・、ね、盛り上がってきました。こんな感じですかね。
 今でこそ、僕はこんなふうに流暢にしゃべれてますけども、実はこれは最初からできたわけではないですね。ごめんなさい、夢が壊れちゃうかもしれないですけど、あれは実はしゃべる内容というのが一応台本になってます。ですから入社すると、先輩からその台本を貰うのです。これがどれぐらいかというと、ページ数でいうと大体A4の20ページ弱ぐらいですね。それを渡されます。
僕の場合、見てのとおり調子に乗りやすいので、これぐらい楽勝でしょうと思ってましたから・・・。実は僕、勉強しなかった・・・ですね。勉強しないままにお客さんを乗せることになりました。これがもう大変でしてね。今でこそこんなふうに流暢にしゃべれているのですが、当時はひどいものでした。というのは、みなさんもそうだと思いますが、初めてお客さんの前に立った時というのはこれでも緊張しまして、覚えていたやつ、緊張すると半分ぐらいすると全部忘れるんですね。またこれ、忘れたからって黙っているわけにはいかない・・・ですね。黙っていたら、あんなつまらないアトラクションないですね。
一緒に乗っている僕のトレーナーは青っ面ですよ。僕がしゃべれなくなって凍りつきますから・・・。ちなみに、あれはスタートすると最後まで絶対に自分でやり切らなければいけないのです。途中で代わることは許されないんです。だから後ろでトレーナーも必死です。「香取、いいから、お前、何でもいいから言え!」
ってな感じですね。
 その時は舞い上がっているのでしょがないですね。何か言って次に進まなきゃならないんで、もう見たまま言っていました。ですから本当につまらなかった・・・ですね。
再現するとこんな感じですね。
「じゃあ、今度はみなさん右側を見てください! はい!・・・象ですね・・・。鼻長いでーす・・・」
とか言って、あとの5分、そんなです。
もう終わった後はお客さんカンカンですよね。それはそうです。お客さんにしてみたら、長い時間待ってくれてますし、また期待もしてくれてますからね。降りていく時にみんなに文句言われました。あれまた、聞こえるように言いますからね・・・。
「結構つまらなかったね、ハズレ!」
とか言われましたね。
「あの人、絶対に初めてだよ」
とか言われたり・・・。でも中には優しいお客さんがおりまして、近寄って来てくださって、励ましてくれようとするのです。つかつかと寄って来て、
「お兄ちゃん、結構面白かったよ! ほら、そんなに気落とさないでー」
とか・・・。それがいちばんへこむんだよ、っていう感じでしょう。ですから僕の場合、失敗しながらやってきたというのが実は正直なところです。

 まず、なぜ自分みたいな奴がアルバイトを始めたのかといったところです。働く動機というのがあるとすれば、振り返ると、実は僕はそんなに誇れるような動機があって入ったわけではないです。本当に不純な動機だらけでしたね。
 いちばんの理由は家が近かった、というのが第一の理由です。当時僕が住んでいた所が、ディズニーランドから単車で大体15分ぐらいの所でした。だからまずは近かったというのが一つ目です。
 働き出すきかっけになるのは、実はこれは本にも書いたとおりなのですが、当時付き合っていた彼女がいましてね、この彼女の一言がきっかけで入ります。本当に不純な動機ですね。
僕は見てのとおり、高校、中学と勉強もできなかったですし、スポーツもできなかったですね。当時目立つ方法というのは、やんちゃするしかねぇぞ、みたいな感じでしたね。ですから一般的に言うヤンキー・・・でした。当然自分がヤンキーですから、付き合っている彼女もヤンキーですね。そしてこれがディズニーとかサンリオが大好きです。それで、行こう、行こうと誘われるわけです。それで行くじゃないですか。
自分が遊びに行っていた時はまさか自分がここで働くなんていうのはこれっぽちも思ってなかったですかね。というのは、多分この中にも同じような経験をされた方が絶対にいると思うんですけど、自分にとっての東京ディズニーランドの印象というのは、「あそこは気持ちわりぃ場所だ」というのが僕の第一印象ですから・・・。何が気持ち悪かったかって、とにかくあそこに行くとあそこにいる従業員があり得ないぐらい優しいですね。
だから今でも忘れないです。例えば、僕、彼女と二人でパンフレットを開いて相談してますね。
「お前、次どれ乗る?」
とかやってるじゃないですか。それを見つけると、あそこの従業員、必ず寄って来ますね。はい。それで後ろから来て声をかけてくれますからね。つかつかと寄って来て、
「こんにちは、どちらかお探しですか?」
とか来るわけです。なんだお前?って感じでしょう。それでまた
「写真撮ろうぜ! 俺撮ってやるから、入れ入れ!」
ってやっているとまた来ます。
「お客様、写真だったら私がお撮りしましょう!」
とか言うわけです。当時それは別料金だと思ってますからね。だから断るし・・・、ね。
 中でもいちばん、「う、こいつ気持ちわりぃ」と思ったのは、普通に歩いているわけです。あそこって従業員がいっぱい立っているのですが、歩いていると立っている従業員と目が合う瞬間がありますね。あそこの従業員というのは、目が合った瞬間、みんなニコッて笑います。そしてずっと見ているとまた近寄って来ますね。
「こんにちは、どうかしました?」
とか言います。お前がどうかしてるんだろう、という話でしょう。
 だから僕、その当時思っていたのは、「ここ、絶対時給いいぞ」と思っていました。そんなもの、金が良くなかったら、あんなに生き生きわくわく働けるわけがないと思っていましたから・・・。当時の自分の中での働くことの目的は、イコール金でしたからね。それ以外にないと思ってましたから・・・。ですから絶対に時給いいんだと思ってたんですね。それが二つ目の理由ですよ。
 それで引き金になるのは、当時付き合っているこの彼女です。これがね、とにかくミッキーマウスが大好きですから・・・。会えないとずっと言っていますね。
「今日もミッキーと会えなかった・・・」
とぶつぶつ言ってます。そんなの聞いていたので、「そんなにミッキーがいいなら、俺、家近いし、時給も良さそうだし、俺が一丁ミッキーになってやっか」みたいなそんなような理由です。「自分がミッキーになったら、たまには着て帰ったら喜ぶかな」とか、「夜単車に乗る時にあれ被ったら絶対に目立つぜ」、みたいなそんなような理由です。そんなんで僕入りました。

 なぜ自分みたいな奴が入れたかというと、これ、ものすごく簡単です。今はもう僕みたいな奴は入れません。東京ディズニーランドというのは今年の4月15日で24年目を迎えます。ですから募集するとものすごい数の人が集まるようになりました。
ところが僕が入った時代というのは、当時一般に、マスコミとかに言われていたのは、ディズニーランドはあと何年かしたら潰れるというのが定説でした。遊園地に当時で1800億円ですからね。そんな遊園地ないです。今、遊園地一個造るのに、大体300億円ぐらいで造れます。300億円出すと結構良い遊園地が造れるんですね。当時のお金ですから、今で換算すれば3000億円ぐらいですかね、今、東京ディズニーシーというのがありますが、あれも3000億円ぐらいで造っているんです。そんなに巨額の投資をして遊園地がうまくいくわけがないというのが定説でした。ですから当時言われていたのは、あそこは何年かすると潰れる。ですから募集してもまず人が集まらない。
入ってみてよく分かるのですが、本当にルールが厳しい所でした。僕はたかがバイトで入ったのですが、まぁ金を貰うというのがこれぐらい厳しいのかと思わせるぐらい厳しかったですね。ま、自分が甘かったんですけどね。ですから辞めていく奴が続出するんです。定着率が良くなかった。現場がいつも人不足だったんですね。なので僕みたいな奴が入れたんですね。とりあえず来た奴は入れるしかないぞ、という状態です。
あともうひとつ感謝しているのは面接官ですね。あそこはちょっと面白いのですが、アルバイトの面接は誰がやるかというと、人事部の人たちもやるのですが、数が多いですから、実は各セクションのリーダーたちが行うんです。もちろん自分の所に入ってくるとは限りません。
じゃあどういう判断でその人を採用するかといったところなのですが、これが面白いです。僕、リーダーになった時、僕の想像の中ではものすごい数のチェック項目があると思ったんですよ。これチェックして、チェックして、チェックして、とかいって、合計で何点以上だったら合格みたいな、そのようなシステムだと思っていたんですけどね、全然そんなことなかったです。基準はたった一つだけなんです。大体面接は20分から30分で行うのですが、20分から30分行う中で、
「『あなたが今目の前にいる人と一緒に働きたいかどうか』です。これを考えながら質問してください」
と言われました。「俺、この人と一緒に働いてみたいな」、そんなことを思える人だったら採用しましょうということです。
 もちろんこの人と働きたいなと思っても、実際にはその人の希望がありますからね、ここで働きたい、あそこで働きたいという希望があります。ですから当然自分のアトラクション、セクションに来ることの方が確率が少ないです。
「でもいいの、あなたが決めなさい」
と言われました。あなたが一緒にこの人と働いてみたいなと思うんだったら合格、この人とはちょっと・・・と思うんだったら不合格ということにしようということです。
 一応不合格になったときのことは教えてもらいます。
「不合格になったときが大切だから」と言われます。不合格になった時点でディズニーランドのお客さんですからね。分かりますかね。要はこの人を気持ち良くして帰さなければいけないんですよ。そうですよね、ディズニーランドに何か興味があって来るわけですから、もちろんお客さんで来る可能性は大ですよね。ですから気持ち良く帰さなきゃいけない。なので、この人はちょっと・・・と思ったときに僕らがやらなきゃならないのは、いろいろな話をします。ディズニーランドのいろいろな話ですね。
「今度はこんなイベントがありますよ」
とか、まぁ宣伝ですよね。お客様ですから、最後は気持ち良く帰さなきゃいけないので、それこそドアの所まで見送りに行って、
「今度は是非パークでお会いしましょう。さようなら!」
とか言って気持ち良く帰すということになりますね。
そんなふうに決まっていました。ですからそんな難しい基準はないのですが、これはリーダーになって自分が面接をするときには、採用基準は一つなのですが、これ、結構辛いです。要は誰が面接したのか、どういうトレーニングを受けたのかというのは全部記録が残ります。そうすると、「俺、こいつと一緒に働きたい」と思って、自分の所に来ればまだいいですよね。やりようがありますから・・・。でも、その彼、彼女が違う所で働きたい、ここで働きたいという場所があれば、そっちに、希望どおりにいきます。ということは、「僕がこの人と一緒に働いてもいいな」と思って採用するのですが、現場に入って悪いことをするとどうなるかというと、僕は同期の仲間から言われます。
「この子さ、採用したの、香取だよな」
みたいな感じですよね。
「え? 何かあった?」
みたいな・・・。
「お前、問題だらけだよ」
そんなふうにされると、結構みんなからやいのやいの言われます。
 これはやはり一個しか採用基準がないのですが、結構真剣に考えます。本当に胃が痛いので、僕はなるべく自分の番が回らないように、回らないようにしてましたけど、そんなことがあります。
 振り返ってみると、僕みたいなのが入れたのは人不足だったというところもありますし、あともう一つはその当時面接をしてくれた僕の担当者ですね、この人が僕を選んでくれたので、本当に今、僕は感謝をしています。

 そこから僕は8年間働きます。その中で最初は、実は中途半端でした。さっき言ったように、たかがバイトと思って働いています。目的も、イコール金でしたから・・・。僕は金さえ貰えればそれでいいという感じでした。ですから真剣に働いていたかというと、そうですね、全然働いていないですね。もうそれこそ学校の延長です。遅刻はするし、欠勤はするし、ずる休みもしますね。
 ところが、なぜそんな自分が8年も続けられて、自分自身が変われたかと言うと、これがいちばん大きかったのは、そこにいた先輩たちですかね。僕を指導してくれた先輩たちです。
 いろいろな指導の仕方があると思いますが、例えばですね、そうですね、面白いところで言うと、遅刻、欠勤ってあるじゃないですか。これ、面白いですね。去年久保さんも同じようなことを言ってらっしゃったかと思いますが、僕はなぜ遅刻、欠勤ができなくなったかと言うと、ある時心配されたのです。そこからです。
 例えばずる休みしようとするじゃないですか。ずる休みしようとする自分は今でもやっぱりいます。スミマセン・・・。一回ずる休みします。
「今日、腹痛いんで休みます」
と電話をかけます。
「あ、そうなんだ。じゃあゆっくり休んでね」
と言われて電話を切ります。ウッシッシ・・・って感じですよ。
それでずっとボーッとしてます。あぁ、眠てぇとか言って昼ぐらいまで寝るんです。でもね、人間って昼ぐらいまで寝てるともう寝られないですね。そんなにいっぱい、ね。だから昼ぐらいになると元気になるんですね。だからどっかに遊びに行きたくなるんです。それで遊びに行くじゃないですか。さぼってね・・・。本当は腹痛いからとか、病院に行くとか嘘ついて休んでいるのに、どこかに行って遊んでるんです。ゲームセンターとか、パチンコとか行って、ね。それで帰ってきます。
それでね、面白いんですよ。帰ってくると何が起きているかと言うと、家に帰ってくると留守電がピコーン、ピコーンってなってるんです。考えますよ。「これ、絶対会社やな」とか思いながら、よしって決めてピッと押すじゃないですか。そうするとやっぱり案の定上司の声ですよね。
「香取くーん、大丈夫かー? どうしたー? 今倒れてるんじゃないかー?」
とか言うんです。やべぇ、これ、白さんだとか思いながら、どうしよう・・・って。
「大丈夫かー? この電話、気付いたら、いつでもいいから、何時でもいいから、白さんの所に電話くれなー。じゃあなー!」
プー、プーッて鳴るんです。考えるわけですよ。
 よし、これから白さんの所に電話をかけよう。でも僕がいない時に電話をかけてる。僕が留守だったってことは分かってる。そうなると言い訳考えなきゃいけません。僕はどうしてたのか、ずる休みというのがばれちゃいけないですから、いろいろ言い訳を考えるわけですよ。病院に行ったら病院が混んでいて、おじい、おばあばっかりで・・・とか、診察が終わって薬屋に行ったら・・・とか、よし、この理由でいこう、みたいなのを決めて、それで心して電話をかけるんです。
 ところがね、すごいです。電話をかけるじゃないですか。
「おお!香取、大丈夫か? 無事だったか?」
と言うんです。
「大丈夫です」
「どうした?」
実はこうこうこうで・・・。
「そうよな、病院は混んでるもんな」
あれ?ちょっと肩透かしだぞ、みたいな感じですよね。本当は僕が描いていたのは、
「本当か?」
というのですね。それに対して理由をいっぱい揃えていますから・・・。こうです、ああですと・・・。肩透かしです。あれ?聞かねぇのか、という感じです。
「いやぁ、もう白さん安心した。香取の元気な声を聞いて・・・。もう心配だったの」
「何がですか?」
「いや、あのさ、もし倒れてたらと思ってさ。なんで電話かけたかっていうと、実はさ、香取いっつも一生懸命働いてくれるじゃん。こんな時ぐらい、体壊してちょっと休んだ時ぐらいさ、ゆっくりしてもらおうと思って・・・。それであればね、香取の調子聞いてね、体の具合が悪いんだったら、明日ももう一日休んだ方がいいんじゃないかと思って・・・。早めに連絡とっておけばこっちだって補充つくからさ。香取の代わり、入れられるじゃない。だからそれで電話したんよ」
本当かな、と思うわけです。心の中で考えました。もしかしたら俺のこと試してんのかと・・・。本当は全部知っていながら、かまをかけているんじゃないか。どっちなんだろう、となるわけです。でもこっちも尻尾出すわけにいかないじゃないですか。
「いや、分かりました。でも、もう大丈夫です」
みたいなことを言いながら電話を切るわけです。
 それでその後出勤します。出勤すると
「どうだった? 大丈夫か? そうか。じゃあ一緒に頑張ろうな」
なんて言って、
「ま、病み上がりだからな」
とか言いながら、そんなふうに優しくしてくれるんです。
 これを一回されるじゃないですか。どういうことが起きるかと言うと、もう一回さぼろうという日がきます。僕の場合は、ですね。それをされているのに、もう一回さぼろうという気になります。
人間面白いもので、どんな悪い奴でもやっぱり良心はあります。ここなんですよね。もう一回
「今日はだりぃいな、今日はもういいや。かったるいし、朝早いし、休んじゃおうかな。もういいや!」
と電話をかけようかなというその瞬間、思い出すのはその上司のことですよね。本当かどうかは分からないですよ。本当はかまをかけていたのか、それこそ「こいつ、本当かな」というのをかまをかけながら言っていたのか、それとも本心で心配してくれたのか、これは本当のところは今でも分からないです。今でも分からないです、どっちか・・・。
 ただね、僕がその時に思ったのは、多分本心だろうなと受け取りました。本当に僕のことを心配してくれてるんじゃないかな。僕らバイトですけれども、普段からすごく大切にしてくれてました。
 さぼろうかなと思う瞬間に、もう一人の自分がいるんですよ。もう一回騙してもいいのか、という自分です。もし本気で俺のことを心配してくれてるんだとしたら、俺またその本当に心配してくれている人を裏切るんだ、という思いがこっち側にあるんです。そうするともう嘘つけなくなるんですよね。これはすごい不思議でした。
 僕が8年間働けた理由というのは、やっぱりその中で、僕のことを本当に心配してくれたり、それこそ僕のことを本当に大切に思ってくれるような上司や先輩たちがいました。ですから遅刻をすれば、
「遅刻は契約違反だ!」
と怒られることもありますし、僕がへこんで、遅刻してわりぃなと本当に反省して行くと、その時は優しくしてくれますよね。
「大丈夫か? 遅刻したか? どうだった? じゃあお前は今日から遅刻撲滅委員だ」
みたいな・・・。おいしいな、みたいな感じですけど、そんなふうにして、すごく僕自身を大事にしてくれる人たちがいました。
 これはですね、僕だけじゃないです。これは多分今までディズニーランドを卒業した人たち、みなさんの周りにもいらっしゃるかもしれないですが、是非聞いてみてください。ディズニーランド、オリエンタルランドはどんな会社だったか。みんな共通して、きっと良いことしか言わないはずですよ。それはなぜかと言うと、優しく、大切にされているからです。
 しつけについてはものすごく厳しいです。ものすごく厳しい面はしつけについてはあります。挨拶をちゃんとするとか、人として当たり前のことです。返事をちゃんとしろとか、お掃除をちゃんとするんだとか、思いやりを持ってやれ、みたいな、人として大切なこと、人として大切な部分についてはものすごく厳しくやられますが、ただ根底にはやっぱり愛情があります。
 だからそれこそ遅刻した奴がいたらどうするかといったら簡単です。みんなでそいつの所にモーニングコールをかけたりしましたし、それでも直らないんだったら、僕らトレーナー、リーダーたちが、
「よし、俺迎えに行ってやる!」
みたいな感じです。迎えに来られる方が困りますもんね。そりゃ遅刻しないですよね。
 要はそんなふうに心配されたりとか、ものすごく大切にされました。ですから僕は8年間の中でどんどん自分が変わっていくんです。

その中で今日はサービスについてちょっとお話をしていこうと思うんです。大きく分けると多分二種類のサービスがあるのかなというふうに思います。
一つは、当たり前のことを当たり前にやるというサービスですね。これはどういうことかと言うと、お客さんが、ディズニーランドに来たらこれぐらいは当たり前でしょうと思っている部分があるじゃないですか。それに対しては僕らも当たり前に応えようということです。
だからみなさん、ディズニーランドに行って怪我をするなんてあり得ないですよね。まさか命取られるなんてことはあり得ないですよね。要はそういうことです。ですから安全性というのが僕らのサービスの中でも最優先に考えられなければいけない部分になってきます。
というのは、これもあまり言っちゃいけないんですけど、実は働いている人ってどれぐらいがバイトかと言うと、今大体2万人弱ぐらいの従業員がおりますが、その中で約9割バイトなんです。だからみなさんが遊びに行かれて、目にする人たちはほとんどバイトだと思ってください。だから何かサービスを損なうようなことがあって文句を言うとき、
「お前、責任者出せ!」
と言って、最初に出てくるのはバイトの責任者ですからね。
だから「もっと上出せ!」と言わないとだめですね。これは覚えておいてもらえればと思いますが・・・。
ほとんどがバイトなのです。要は昨日、今日トレーニングをして入ってきたようなバイトが、実はアトラクションを動かします。ということはどういうことが起きるかというと、一歩でも間違えたらいくらでも人を殺せるんです。だってあんなでかい機械を動かしていますから、ボタン一個でアトラクションを動かすわけですよ。ポチッと押して、
「あ!間違えちゃった!」
ブチュ!
「あ、死んじゃった・・・」
みたいなね、こんなの、あり得ないですし、みなさん嫌でしょう。遊園地に行って、ジェットコースターに乗ろうかな、と思った時、
「ここのジェットコースター、やめた方がいいよ。今年で3人死んでるんだって。」
「え? 乗んねぇよ」
みたいな感じでしょう。食事もそうですよね。レストランでご飯食べようかなといったときに、
「あ、やめた方がいいよ。今年ね、3回食中毒起こしてる」
みたいな・・・。
「え? 食うのやめよう」
みたいな感じじゃないですか。
 要はお客さんが当たり前だと思っていることに関しては、僕らは当たり前に応えなければならないというサービスがあるのかなというふうに思います。
 ですからさっき言った安全性であれば、マニュアルやトレーニングをきちんとするというのが一個ありますかね。これは人が代わろうが、誰が代わろうが、安全性のレベルは下げちゃいけないんです。
ですから面白いのが、例えばマニュアル。ディズニーランドはいっぱいマニュアルがあると思われると思います。確かにあるんですが、あれ、いちばん多くは「標準作業手順書」といって、安全性を損なわないように手順化されていることがいっぱい書いてあるマニュアルです。ちなみにマニュアルは新人に渡して読ませません。読んだところでできないですもんね。それこそできたら魔法でしょう。だからマニュアルは誰が読むかというと、教える側の人間です。僕らがそれを読んで、できるようにしてそれを見せてあげるということです。だからマニュアルが揃ってるんです。
そのマニュアルの中身は本当に作業手順です。さっき言ったように、アトラクションを動かすのであれば、ここに立った時に右手はどこの位置にあって、左手は何を握っていて、アトラクションが入ってきた時にはどこを見て、このランプがこの色からこの色に変わったらこのボタンを押す。その時にはどういうサインを送るか、みたいなそんなことが細かく書いてあるんです。それをトレーニングしてできるようにしていく。
ですからみなさん、今度ディズニーランドに行かれて、アトラクションを動かす人が見れるアトラクションってあります。外のアトラクションですね。あれ、15分に1回ぐらい人が代わります。1時間ぐらい見ていると4人ぐらい見れますから、よく見ておいてください。同じ動きをしますから・・・。全く同じ動きをします。人それぞれ個性はありますけどね、ただ動きとしては同じ動きをします。それが安全性を、当たり前のことなのですが、当たり前にやろうということです。
お掃除も一緒です。これも前回お話ししたとおりです。夜中にみんなでお掃除するのですが、水洗いするのです。それはなぜか。あそこは屋根がないので、小さな小石や小さな砂、そんなもんがそのまんまになります。もちろんお掃除するのはほうきとちりとりですから、取れないような小さな小石が残ってしまうと、僕らのお客さんの中には赤ちゃんを抱いて遊びに来るお客さんがいます。何かの拍子に赤ちゃんがハイハイしたら、昨日洗い流さなかったら、その小さな小石で手を切っちゃいますもんね。それこそ手を切っちゃったら、お客さんの大事な思い出、台無しですもんね。ですから毎日お掃除を徹底しよう、洗い流そうぜ、ということです。
ですから、その安全性という部分はものすごく、いちばん最優先に考えられてます。
僕もいちばんびっくりしたのは、そうですね、これはあまり言っちゃいけないのかな。ちょっと内緒にしておいてくださいね。パレードを見ているお客様の中で車椅子を使って見てたお客様がいました。ちょっとだけ傾斜がついた所に車椅子を置いて見られていたんです。パレードが終わった後にそのロックを外したそうです。そうしたらそうっとそうっと動きまして、段差がすぐあるんですけど、その段差でバーンって転んじゃって怪我をしてしまったというケースが、僕が働いている中でありました。
これは状況報告書とかを書いて原因を追究するんですけども、その時に、あれがスロープだったらまだ大丈夫だったんじゃないか、みたいなことになりました。ディズニーランドの中って自前の救急車とかがあるんですよ。すごいですよね。幸いそのお客様はそんなのに乗ったりして大丈夫は大丈夫だったんですけど、僕がびっくりしたのは翌日です。状況報告書を書きます。書くといろいろな部署に送られるんですが、それが送られて改善書に変わりました。翌日ですよ、翌日行ったら、危ない傾斜がついている段差という段差がほとんどスロープになっていましたから・・・。これは本当にディズニーマジックだと思いました。これは業者の人はかわいそうだと思います。夜中来て、何とかしろって話ですからね。ものすごい大変だと思います。ただ、働いている僕らはびっくりしました。
だから安全性というのを最優先に考えろって言われても、そういうものが実際に見えてきますから、それはそうなんだなと納得ができるというんですかね、これは口先だけじゃないんだというようなことですかね。
ですから徹底度というところ、当たり前のことなんですが、当たり前のことを徹底してやっていくというのがディズニーランドのまず当たり前のサービスの本質なのかなと思います。

 あともう一つ、もう一方ではどんなサービスがあるかと言うと、もう一方では、お客さんが喜んでくれる、お客さんの声に出さない声ってあるじゃないですか。「心の声」って僕らは言っていましたが、要はお客さんの心の声を聞いて、この人が今望んでいることをやってあげたらいいんじゃないかってやつですね。このサービスができてくると、お客さんは感動して
「いやぁ、そこまでやってくれてありがとう!」
みたいになっていくんです。これが感動を呼ぶサービス、伝説になるようなサービスにつながっていきますね。

 具体的に話した方が分かり易いと思うので・・・。みなさん多分ご存知だと思いますけど、「お子様ランチの話」ってご存知ないですか? 知ってらっしゃいますか? これは結構有名な話で、僕が高校生の時にあった話です。
 あるご夫婦がディズニーランドに来園されます。来園された時に食事をしようと思って、昼時レストランに行きました。この伝説のサービスを生み出したのは、レストランで働いている土日の学生のアルバイトの女性スタッフでした。
いつものように通してメニューを伺うんですね。そうしたら奥様と旦那様がこれとこれと決めてくださって・・・。そうしたら奥様が、
「お子様ランチ」
と言ったそうです。見たところ、お子さんがいないわけです。あれ?と思って、一応あれは6歳以下のメニューになってますからお断りをします。
「すみません、お客様、このメニューはですね・・・」
とお話をして、
「そうよね、ごめんなさいね。そんなの気が付かなかった。すみません。いいの、いいの。私たち二人の出して」
と言われて、
「そうですか、かしこまりました。じゃあすぐにお持ちします」
と言って通常業務に戻ります。
 通常業務に戻るのですが、その女性スタッフが通常業務をやっている間にすごく気になったらしいですね。あの人、なんでお子様ランチなんだろうと・・・。食べたいのかな、いや、そうじゃないな。なんでなんだろうといろいろ考えてたら、もしかしたら、後からお子さんが来るんじゃないか。後から来るんだったら、一緒に出してあげなかったらタイムラグが生まれてしまいますよね。せっかくのディズニーランドの時間、無駄になっちゃいますから・・・。そうだ、これ聞くの忘れたと思って、そこでアクションを起こしていくんです。
 
僕、ここがすごいなと思いました。ディズニーランドって、良いサービスをした人が今度トレーナーになって僕らにいろいろ教えてくれるんですが、その時にその話を聞いて思いました。自分だったらどうかと思うと、多分行かないですね、その当時の自分は・・・。いや、想像はしたと思います。なんでお子様ランチなんだろうなっていうのは、考えてはいたと思います。でもね、昼時ですよ。ものすごく忙しいですから、やらなきゃいけないことが山積みですよ。あのお皿下げたり、案内したりって・・・。そうしたら目の前にある業務をこなすのが精一杯で、それは頭の中で考えても、もう一回そのお客さんの所にアクションを起こす、こんなことないですからね。でもその彼女はアクションを起こすんですよ。ここがすごいなと思いました。

 アクションを起こして聞きに行ったんですね。お子様ランチ、こうで、ああで、
「もしかしたら来られるんですか?」
「いや、全然来ない、来ない。いいの、いいの。あなた、気にさせちゃったわね。いいのよ、もう気にしないで」
その時にその彼女が
「どうかなさったんですか?」
と言ったらしいです。この一言がお客さんの心の声を聞くんです。
「こんな楽しい所でこんな話をしたらあれなんだけど、実はね、私たち二人には生まれれば今年で何歳になる子供がいたの。もうお腹の中に入っている時から、それこそ誕生日にはディズニーランドに来ようって話をしてたから・・・。毎年三人でこの日に来ようねって言ってたんで、実は今日も三人で来たような感じでやっちゃったのよね。ごめんなさいね。気にさせちゃったわね。もういいの、いいの」
それを聞いて、その女性スタッフは何とかしようと思うわけです。もうその心の声を聞いちゃいましたからね、何とかしてあげようってマネージャーにかけあうわけですよ。マネージャーのところに行って、こうこうこういうお客さんがいて、出してあげたいんですと・・・。
「もしお金がかかるんだったら、私、お子様ランチ代、出しますから」
みたいな感じですよね。それでマネージャーも、
「いいよ、いいよ」
って言って・・・。
「じゃあ出してあげようよ!」
それですぐに注文を通して出来上がるんです。
そして出来上がった時に、マネージャーがその聞いてきた彼女を呼ぶんです。
「あなたが聞いてきたんだから、あなたが出してあげなさい」
僕、これもすごいなって思いました。この話を、僕、リーダーになる時の研修でも聞いているんですよね。自分がリーダーだったらと思ったら、多分僕がリーダーだったら、マネージャーだったら、自分で出しに行きますね。だっていちばんおいしいでしょう、ね?
「はい、どうぞ」
って言ったら、絶対に
「ありがとう!」
って言われるじゃないですか。そんなことをしたら、多分部下の手柄を自分で横取りしちゃったんだと思うんですけどね。でもさすが、そのマネージャーは彼女に言うんですよ。
 またその彼女が粋なことをするわけですよね。持って行くじゃないですか。旦那さんのメニューと奥さんのメニューを出して、奥さんの横が空いていたので、
「お子様ランチ、ここでよろしいですか?」
レストランですから大人の椅子があるじゃないですか。これをね、子供用の椅子に差し替えてあげたそうですよ。そして一言添えるんですね。
「この後も三人でごゆっくりお楽しみください」
 それをされて、そのお客さんはものすごく喜んでくださいました。涙を流しながら、帰る時も、お店を出る時も、何度も頭を下げて、そしてディズニーランドから帰る時には、ディズニーランドで売っているクッキーの詰め合わせがあるんですが、あれを買ってきてくれて、
「彼女に渡して」
みたいな感じだったですね。
 なぜこの話が一般に広がるかと言うと、実はディズニーランドはそういう良いサービスとか良い話というのは、毎回朝礼や終礼で話したりするんです。こんなことがあったというようなことを、です。これは後でも詳しくお話ししますが、バイ・デザインということらしいですけど、要は文化や風土は意図してつくるものだというふうにアメリカの人たちは言っていました。要するに良い風土になるような、そういうエピソードをみんなで話そう。これは「とっておきのエピソード」って言ってます。それで僕も知ったんです。そういう研修を受けるようになりました。
 結局今の話でもそうなんですが、これは要はその土日のアルバイトの女性キャストが動かなかったら、このサービスは成り立たないんですよね。つくり出しているのは誰かと言うと「人」なんですよ。
これは機械じゃできないんですよね。機械はそこまでできないですよね。自動販売機だってそうじゃないですか。機械が人の気持ちを読んだら怖いでしょう。自動販売機が、
「よーし、この人、今日は缶コーヒーかな?」
みたいな、ね。ガラガラガシャン、とか出さないですよね。
「でもね、僕ら人間はできるでしょう」
って言われました。
「私たち人はできるでしょう。相手と言葉を交わさなくても、相手の顔色、表情、雰囲気。そんなん見て、今この人がどういうふうに感じて、どう思っているのかって分かる時があるじゃない。『ああ、この人、道に迷ってんな?』とか、『あ、おばあちゃん、荷物重そうだな』とか、仲間もそうですよね。『今日ちょっとテンション低いな、何かあったのかな』とかね。そんなんがあった時にはアクション起こそうよ。これが思いやりでしょう。もし、道に迷っている人がいたら、行けばいいじゃん。『どうしました? どこ探してますか? 大丈夫ですか? じゃあ僕一緒に探してあげますよ。』大丈夫、自分が分からなくたって、自分たちには仲間がいる。家族がいる」
ディズニーファミリーという言い方をするのですが、従業員が2万人いるのです。ですから2万人の脳みそで考えたら何とかなる、みたいなことを言われましたけど・・・。
「まずその最初の一歩を起こそうよ」
と言われました。
「これが思いやりでしょう」
 だからサービスの本質というのは、多分僕はその思いやりなのかなというふうに思います。気が付いた時に動こうよ。その中で大切なのは、動くこともそうなのですが、大切なのはやはり結果ではなく、その動く行為ですよね。
 さっきの話に戻りますが、お子様ランチの話の時に、それをやったスタッフが最後お客様の手紙を読んでくれたんですけども、ものすごく嬉しかったと書いてありました。もちろんお子様ランチが出たこともすごく嬉しかったと書いてありました。ただ、その手紙に書いてあったのは、その彼女は泣きながら読んでいたんですけど、
「私が嬉しかったのは、お子様ランチが出たことよりも何よりも、そこにいた彼女が私の気持ちを分かってくれたことが嬉しかった」
こう書いてありました。
「素晴らしいスタッフがたくさんいますね。これからも頑張ってください」
 僕がその研修を受けて自分の中で気付かせてもらったのは、大事なのは結果も確かに大事だと思います。でもね、その結果、無理でもいいんです。チャレンジすることがすごくお客さんにとっては大事なんだなと思いました。「それは無理だぜ」と断ることはいくらでもできますもんね。でも僕ら人間であれば、チャレンジはできますもんね。だからチャレンジすることが、やっぱり最初、感動を呼ぶサービスでは大事なのかなと思いました。

 今お話ししたように、もう一方で、ここまでしてくれてありがとうという感動を呼ぶサービス、伝説になるようなサービスというのは人でしかできません。しかも人でしかできないんですけど、これはたかがバイトの人間はやらないです。これは本気になった人間にしかやれないです。だってそうですよね。僕だってそうでしたから・・・。たかがバイトで働いている時は時給で決まってます。8時間半働いたら、今日いくらになるというのは分かってます。どんなに動こうが8時間半です。ボーッとしてようが8時間半、同じ給料だし、それこそお客さんの心の声に耳を傾けようってワーッてやっていっても同じ給料ですよね。
 だから要は本気になった人間しかやらないということです。だから僕らリーダーは何をしなければいけないかと言うと、僕らリーダーが人事部でトレーナーの人たちに言われたのは、
「とにかく今いる自分の部下、自分の周りのチームのみんな、後輩たちを本気にしてあげなさい」
という話です。
「最初の本気の火を燃やしてあげなさい。燃え切ったら、もうそんなものは放っておいても燃える。だからあなたたちが絶えず良い話をしてあげなさい。」
「とっておきのエピソード」と僕らは言ってますが、要は朝礼や終礼、ミーティングなんかの時に、本当に良い話をバンバンしなさい。特に自分自身のとっておきのエピソード・・・。
「僕ね、この仕事やっててね、僕が本気のスイッチを入れたのはね、実はこうこうこんなことがあったんだ。こんなことがあってね、こんなお客さんが来てね、その時僕初めて知ったよ、僕らの仕事の素晴らしさ、それと責任・・・。お客さんがこんな思いをして来てくれんのよ。その時本気になったんだ」
というような自分自身の大切なエピソード。だから良い話をバンバンしていきなさいと言われました。
 でもこれ、難しいように感じるかもしれないですけど、その時にトレーナーに言われたのは、
「だって家族だったら簡単よ」
って言われました。家族だったら、それこそお父ちゃん、お母ちゃんが家に帰ってきてどんな話をするかじゃないですか。家に帰ってきて、父ちゃん、母ちゃんが子供を目の前にして仕事の愚痴、不平、不満とか、上司の恨み、妬み、嫉み、こんなんずっと話してたらね、子供たちは、まあ同情はしてくれますわね。父ちゃん、仕事は大変だなと・・・。でも父ちゃんの仕事やりたいかな? いい、いい、これはちょっと置いておこう、みたいな感じですよね。よっぽど志のある素晴らしい子供であればやるとは思いますけど・・・。でもほとんどそうはならないんじゃないかな。
「これが逆だったら、ってことを考えてごらんなさい」
って言われましたね。
「自分が帰ってきた時に、父ちゃんが家に帰ってきて、母ちゃんが家に帰ってきて、いつもいつも子供たちの目の前で、『今日ね、お父ちゃんこんなことがあったよ。会社でね、こんなことがあってね。お客さんにこんなん言われてね。本当に父ちゃんね、この仕事やってて良かったと思うな』というようなことを心から語ってあげなさい。それは下手でもかまわない。自分の言葉でいいからとっておきのエピソードを話しなさい」
と言われました。
「そうしたらそこに共感したり、共鳴する人間が出てくる」
「なるほど、すげぇな。結構俺らの仕事っていいことしてるじゃん」
みたいな、ですね。
「そうすると共鳴したり、共感した人間たちは、『よ?し、じゃあ俺もそれ、ちょっとやってみようかな。』と動くかもしれない。でもそれはすぐには変わらないと思う。でもね、絶えずそれをしていきなさい」
と言われました。みんなが変わるまで・・・。
「オセロと一緒よ」
と言われました。水戸はオセロ、ですもんね。
「オセロと一緒よ。自分さえ白でいたら、全部真っ黒にはならないはずだから。だから挟んでいくのよ、ちょっとずつ・・・」
 だから僕もそうでした。僕も同じように、良い話を聞いて、そういうふうに挟まれてバシーンと白になって、またちょっとすると黒になって、ですね。また白になって、黒になって、みたいな・・・。途中灰色、みたいなのもありますが・・・。

 でもね、僕自身も本気の火をつけさせてもらいました。そこからです、僕が本気に変わったのは・・・。僕の場合はいろいろあるのですが、今日は時間がないので一つだけちょっとエピソードをお話しします。
 僕の場合はですね、いちばん大きかったのは、これはこの間も話したとおりなのですが、僕は最後お客さんに最後のスイッチを押してもらったというんですかね。これは僕がシンデレラ城ミステリーツアーというアトラクションに配属された出来事です。
 ディズニーランドは異動とクロストレーニングというのがあるのですが、とにかく部署が変わると、セクションが変わると必ずトレーニングを受けます。これは社長であろうが、部長であろうが関係ないです。誰でも部署が変わったらトレーニングをうけなきゃいけないことになってます。だから僕らも同じです。トレーニングを受けます。5日間ぐらいのトレーニングだったんです。
その中で、お客様からいただいた声というのがあります。これは「ゲストコメントシート」というんですが、お手紙で寄せられたり、電話で言ってくれたり、いろいろな方法があると思いますが、お客さんからの声が全部コメントシートとしてファイルに残ってるんですね。そのファイルがアトラクションごとになってます。自分のアトラクションのを読む時間があるんですね。読まさせられまして、ワーッと読んでました。
当時3分の2ぐらいはクレームです。やっぱりお客さんの期待が高いですから、ちょっとしたことでクレームになります。でもね、まだ言ってくれただけいいですね。あれがあるから原因を探ろうとしますよ。あれ、言ってもらえなかったらどこに原因があるか分からないですもんね。お客さんから言われて初めて原因を突き止めるようにして、だからそのお客さんの声があって、マニュアルやサービスが進化していくというのは本当です。
僕も読んでまして、大体あとの3分の1、これは「ありがとう」というやつです。ちょっと少ないですけど、でも嬉しかったですね。今、もうちょっと増えてるんだと思います。僕の時代はそうでした。
読んでました。全部読み終わりましてね、そうしたら僕の先輩が入ってきました。
「おい、香取、お前、これ読んだか?」
「読みました」
「どうだった?」
ああでもない、こうでもないと話をしました。
そうしたら僕のトレーナーが、また粋なことをするんですよね。ポケットから一通手紙を出しました。
「これな、この手紙、あるお母さんが書いてくれたんだ。これさ、ものすげぇ大事なことが書いてあると思うな。俺ちょっとな、今から読むから、目つぶって聞け」
と言われて、僕の前で朗読をしてくれました。
 読んでいくと分かるのですが、一年前に家族3人でディズニーランドに遊びに来ましたというお手紙でした。「本当に楽しかったです。ありがとうございました」と書いてあるんです。ですから賞賛のお手紙だったですね。
 でも読み進めていくうちに分かるのですが、その家族3人というのが、お父さんとお母さんと当時5歳の男の子で、たかし君という男の子でした。ただこのたかし君というのが、実は生まれながらにして重い病気、難病を抱えてらっしゃるような、そんなお子さんだったらしいです。
ある時、病院の先生からたかし君の病気についての説明を受けた、と書いてありました、説明というのはもう余命宣告、ですよね。「たかし君の病気は、もってあと半年です」みたいなことを言われたそうです。それを聞いて、何とかしてあげようと考えるわけですよね。
 読んでいくと分かるのですが、そこからお父ちゃんとお母ちゃんで決めたそうです。もし先生が言うように、そのリミットが本当だったら、たかし君に何をしてあげられるか。だからお父ちゃんとお母ちゃんが決めたのは、たかし君が望むことを全部させてあげようと考えたんです。だからその日から
「何か欲しい物ない? 食べたいものない?」
そしてある時、
「どこか行きたい所ない?」
と聞いたんです。そうしたらそのたかし君が
「ディズニーランドに行きたい」
と言ってくれたらしいです。それを聞いて、よっしゃ、ということで、たかし君のお父さんとお母さんは先生にかけあって、何とか外出許可を貰って、一年前に遊びに来ましたというお手紙でした。
 ただ幸いだったのは、本当に楽しかったと書いてくれたんですよ。でもね、病気ですからね、もちろん安全上の理由があるんで、実はアトラクションも利用制限というのがあります。だから乗れないアトラクションも実はあります。でもそれでも乗れるアトラクション、ショーを見たり、本当に楽しかったって書いてくれました。その中でも最後に利用したシンデレラ城ミステリーツアー、これだけは忘れられない思い出になりましたと書いてありました。これが僕が担当するアトラクションですね。
 どんなアトラクションかと言うと、シンデレラ城ってあるじゃないですか。あのシンデレラ城の中を、僕らガイドが1人ついて、30人のお客さんを1グループにして中を20分かけて案内していくんです。もう今はなくなってしまったんです。入ったことのある方は分かると思うんですけど、シンデレラ城なんですけどシンデレラって出てこないですね。悪い奴らしか出てこないんですね。小さい子にとってちょっと怖いんですよ。お手紙によると、それでもたかし君はお父さんにだっこされながら、最後までついて行くんですって・・・。最後、クライマックスの所で悪の大王っていうのが出てきます。ウォッホッホッて言ってね・・・。その悪の大王をみんなでやっつけようぜ、というアトラクションですね。
 ところがやはりちょっと怖いシーンが多いですからね。それでも最後までついて来て、最後のクライマックスの所で決着をつけようっていうのがあります。ストーリー上、伝説の光の剣というのがありましてね、これは勇気があって、善意があって、純粋な心のある人、そんな人が握ると光が宿って、爆発して、悪い奴はやっつけられるみたいな、そんなストーリーになってます。ですから僕らガイドは30人の中から1人手伝ってくれる人を選ぶんですね。それこそ迫真の演技ですよね。
「どなたかいらっしゃいませんか! 誰か力を貸してください!」
とかやるんです。
そうしたらその中でたまたまたかし君が自分から手を挙げてくれたらしいです。そう書いてありました。お手紙にも書いてありました。まさか自分の息子がこんなに積極的だとは思いませんでしたって・・・。でも嬉しかったって書いてありました。
またね、数人手を挙げてくれた人たちはいたらしいですけど、その時のガイドがたかし君を選ぶんですよね。そんなことってあるんだなと思いますが・・・。
「よし、それじゃ何かあったらよろしくね!」
って言ってクライマックスの所に入って行きます。
 まあセオリーどおりですね。時間が経つと悪い奴、親玉が出てきます。ウォッホッホって出てきます。それでたかし君を呼んで、光の剣を持ってもらって、あと残りのみんなで応援するわけです。
「よーし、みんなで応援しましょう! 気持ちを一つにして、悪い奴をやっつけられますように! 光の剣に力を与えて!」
って言ってバーンってやっつけるんです。そして悪い奴が
「ワァ、やられた・・・」
僕らはやった、やったってことで、次の部屋、これが最後の部屋になるんですが、フィナーレのシーンです。ここはちょっとした壇上がありまして、壇上にさっき手伝ってくれた人を上げるんですね。みんなの前で賞賛するシーンですかね。
「この人がやっつけてくれました! ありがとう!」
ってやるんですね。その時にディズニーランドからは記念のヒーローメダルっていうのを貰うんです。このぐらいで、ヒーローって書いてあるやつです。原価にすると150円ぐらいですかね。だから僕らにとってはたかがメダルですよね。
 ところが、このたかがメダルがものすごいものに変わるんです。首から下げてあげるんですけど、そのお手紙によると、さげてもらったそのメダルを、たかし君は最後まで、もう病院に戻っても一時も外さなかったと書いてあるんです。ものすごい嬉しかったんでしょう。だから病院に戻って、来る人、来る人みんなに自慢してたって書いてありました。
「見て見て! これ、この間ね、僕ディズニーランドに行って悪い奴やっつけたんだぞ! だからね、病気だってやっつけちゃうぜ!」
そんなふうにして自慢してくれたらしいです。だからよっぽど嬉しかったんだろうと思います。ただ残念ながら、お手紙によるとたかし君は半年が経って天国に逝ってしまったそうなんですが・・・。
 手紙の最後に書いてある一文がありまして、これにやられましたね。お母さんが書いてくれたんですが、こう書いてありました。
「確かに5歳というのは短い一生だったかもしれません。でもあの時ディズニーランドに行った思い出は、私たち家族にとっても、たかしにとっても一生の思い出になりました。本当にありがとうございました。これからもたくさんのお客様がいらっしゃると思います。是非そのたくさんのお客様の思い出を作ってさしあげてください。応援しています。ありがとうございました」
 これ、結構きつかったですね。もちろんたかし君が亡くなってしまったということもすごく辛かったんですが、それ以上に情けなかった自分がいましてね。振り返った時に、このたかし君が来てた時期というのは、実は僕、さっき冒頭にジャングルクルーズってありましたが、被ってんですよね。だからね、もしかしたらですよ、このたかし君が僕のボートに乗ってたかもしれないんですよね。乗ってなかったって言い切れないんで・・・。だって乗ってたとしても分からないですよね、どれがたかし君なのか・・・。それを考えたら、滅茶苦茶怖くなりましてね。
 正直言うと、頭では理解してました。
「全てはお客様のために、なんだ。毎日が初演なんだ。絶対に手を抜くな」
そんなことは毎回毎回教えてもらってます。頭では理解してるはずなんですよ。でもね、頭では理解してても、やっぱり人間弱いですからさぼる自分がいましてね、弱い自分に負けちゃうんですよね。それこそ勝手な理由ですよ。
「もう今日はお客さん少ねぇし・・・」「今日雨降ってるし・・・・さみぃし・・・」みたいな、
そんなんで自分のテンション上げ下げしてました。
 全力でやってる時はまだいいです。僕もそれだったら結構自信があるんですけど、手を抜いている自分もおりましたから、自分が手を抜いていた時に、もしかしてこのたかし君とその家族が乗ってたとしたら、もう取り返しつかないですもんね。もう一回ってわけにいかないですよね、たかし君は天国に行ってしまっていますもんね。それを考えたら、もう滅茶苦茶へこみましたね。
 でもそれを見てたんで、その後先輩から
「よし、香取、お前バカだから、これを何回も読め!」
って言われて何回も、何回も読みました。
僕もバカだから、また調子に乗って、新しい奴が入ってくるたんびに真似してましてね。
「よし、お前、今から読んでやるから目をつぶれ!」
と言ってですね、何度も何度も読んでいきました。何度も読んでくうちに、自分自身のスイッチが入ったというか、入れてもらったというか・・・。

考えました。そんなもの、僕じゃなくたって代わりなんかいくらでもいます。3日とか5日トレーニングすると、誰でもできるようになってますからね。だから僕じゃなくたって、代わりなんかいくらでもいるんですよね。でもね、こんな自分でも、たかがバイトですけど、今与えられたことをとにかく一生懸命やったら、どこかで誰かの役に立つのかな、と考えましたね。そこからですかね、僕が本気になれたのは・・・。
 だとしたら、そりゃ最初は下手っぴかもしれないです。でもそれでも、
「下手っぴでもいい」
って言われました。
「とにかく手を抜かずに一生懸命やるんだよ。それが大事なんだよ」
それが全てはお客様のために、ということなのですが・・・。
こんな自分でも、どこかで誰かの役に立つのかなと思って、そこからですかね、本当に使命感のスイッチがバシーンと入ったのは・・・。ですからその後も本気でやるようになってきました。
8年間もバイトしてますからね、近所のおばちゃんにはよく言われてました。
「あんた、もうバイトなんかしないで就職しなさい!」
とか言われて・・・。でもそのスイッチが入った瞬間からは、おばちゃんのことを説得してましたからね。
「いや、おばちゃん、俺、違うぜ。バイトって言ってもすげぇことしてんだぜ」
「でもバイトでしょう?」
「くそババァ、もうチケットやんねぇぞ!」
みたいな、そんな感じでした。自分の仕事に誇りや使命感、そんなものを持たせてもらったのがそこからでしたね。
 これね、みなさんのお仕事も一緒なんじゃないかなって思います。これはどの仕事も一緒じゃないですかね。
お給料を貰うってことは、お金を貰うってことは誰かの役に立ってるから金を貰えるんですもんね。役に立たなかったら、僕らお客さんの時、金返せって話でしょう。そんなもの、役に立たないものには金を払いたくないですしね。
 さらに今、テレビショッピングだってそうです。
「2週間やって結果が出なかったら返します。」
って言ってるじゃないですか。要はそういうことですよね。
 だから僕らがお給料を貰ってるっていうのは、どこかで誰かの役に立ってて、「いや、ありがとう! もう役に立ったよ」っていうことに対してお金を貰ってるんじゃないかと思うんです。これはね、多分どの仕事も一緒だと思うんですよ。だとしたら、今できることを手を抜かずにやっていくということは、やっぱりすごく大事なことなんではないかなというふうに思います。

さらに、僕ら人がやることっていうのは、やっぱりものすごい影響を周りに与えますね。今日はリーダーということなのですが、リーダーの役割の中でいちばん大事だろうなって思うのは、やっぱり楽しく仕事をメイクすることかなと思います。
これは僕の先輩に言われたことなんですけど、本にも書いたとおりなんですが、どんなことがあっても、やっぱりリーダーが生き生き楽しく仕事をしてたら、これは周りに影響を与えます。
分かり易い話でいくと、これはあんまり良い話じゃないんですけど・・・。ディズニーランドにもそういう人もいるんですけど、僕の働いていた部署の中で、責任者の人で1人ものすい阪神ファンの人がいましてね。もう話読めたと思いますけど・・・。阪神が勝った日は、朝ものすごく調子いいんですよね。阪神が負けた日は、もう朝から
「おはよう・・・。おはよう・・・」
みたいな、ね。
「お前、もしかして巨人ファンじゃねぇだろうな?」
みたいな、そんな勢いで来ます。そういう雰囲気で朝来られると、ものすごく萎縮しますね。この雰囲気って大事だと思います。逆に阪神が勝った日は、もうそれこそ六甲おろし歌って来ますからね。もう楽しいわけですよね。ですから楽しく仕事をする、楽しく仕事をメイクするっていうのはものすごく大事なんじゃないかなと思います。
 ちなみにディズニーランドでいちばん面白かったのは、こんなことしてます。ディズニーランドで新しい商品が発売されると、発売前に商品開発部から、いついつからこういう商品を売り出しますよっていうのが回ってくるんです。それが部長の席に来るんですよ。あれね、うちの部だけかどうか分からないんですけど、笑えますよ。多分アメリカ人がそういうことを言っていったんだと思います。それを日本人が真面目に真似してるんですが、新しい商品が配られたら、それを一日付けて仕事をしろっていうのがルールになってました。これね、ディズニーランドですからね、面白いですよ。奇妙な帽子、いっぱい売ってるじゃないですか。あれが来るわけです。あれが来ると、あれ被って仕事をしなければいけないわけですね。ありえないでしょう。部長、その格好でミーディングとか出ますからね。笑えますよね、それだけでね。あとは、そうですね。BGMもそうですね。ディズニーランドの中でかかってるBGMが事務所の中でもかかってます。

僕はディズニーランドを卒業してから、コンサルタントという仕事をさせてもらいながら違うパークに教育支援とかで行っていたんですけど、びっくりしますね。うちの従業員をウキウキ、ワクワク、元気に働く従業員にさせてほしいと依頼を受けて行くんです。依頼をしてきた人がそこの部長なんですが、事務所に入ると笑えますよ。シーンとしてるんです。シーンとしていて、事務所の壁に、その部長の後ろの所に、「私語厳禁」って書いてあります。それはね、楽しく仕事できないですよね。
「いやぁ、うちのスタッフは元気がないんだ」
って、
「これですよ、原因・・・」
みたいな、ね。
「これ、はずしましょうよ」
みたいな感じでしょう。
 そんな、いくらテーマパークっていったって、人間そんなに器用じゃないですよね。事務所にいる時には、それこそ虫の声でヒソヒソ話したりするわけです。一歩外に出たら現場でしょう。今までおとなしくやってて
「はい、こんにちは・・・」
ってとかやってるのに、いきなり現場に出て、
「はい、みなさん、こんにちは!」
ってできるわけないですよね。そんな二重人格じゃないんで・・・。だからやっぱり楽しく仕事をするっていうのはすごく大事じゃないかなって思います。
 
 ちょっと話が戻りますが、みなさん働いている中で、何のために働くかっていうのがすごく大事になるんだと思うんです。これからの時期、新卒で後輩たちが来ると思うんで、何のために働くのっていうのをみんなで考えられると面白いと思いますね。これは今僕がコンサルしている先でもやりますが、これね、結構いろいろな意見が出てくるんですよね。面白いですね。
 学生たちもそうなんです。この間も話したんですけど、
「何のために働くの?」
と言うと、今の学生たちはやっぱりすごいです。
「今まで両親たちに迷惑をかけたので、両親を楽にしてあげるために就職しにきました」みたいなね。「すげぇ、俺、そんなこといまだに言ったことねぇ」みたいな・・・。すごいなと思ったり、あとは自己実現だったり・・・。いちばん多いのは生活のため、お金のため、というのがありますね。これは、俺も一緒、一緒みたいな感じでしたね。
 ここで大事なのはそこで止まらないことですよね。そこの本質のところまでいった方がいいと思います。要は生活のためというのだったら、その生活もレベルがあるじゃないですか。いろいろな生活のレベルがありますね。それこそ東京であれば、六本木ヒルズに家を構えて住むような生活がしたいのか、それとも僕が住んでいる墨田区という、非常に汚い街なのですが、そこら辺で平々凡々でいいかとか、いやもっとこっち側でいいかとか、いろいろな生活のレベルがあります。
「あなた、どの生活がしたい?」
という話ですよ。
「やっぱり働いているうちに、最後はローンを組んでマイホームぐらい持ちたいですよね。それぐらいの生活がしたいです」
「おお、いいねー。じゃあ他には?」
こうこうこうで・・・。
「へぇ、じゃあそういうレベルの生活がしたいのであれば、それができたとしよう。お給料貰えるから、仮にこれができたとしたら、それ、どんな気持ちよ?」
みたいな話ですよね。
「いや、嬉しいですよね?」
「この嬉しいのが、実は社会人になるとね、毎月続くんよ。給料日っちゅうのがあって・・・。これどうよ? 毎月続くんよ。それこそね、一生働いていたら一生続くんよ。これどうよ?」
「いや、幸せじゃないですか?」
「そうよな」
要は、行きつく先は全部そこです。僕、そんなふうに習いました。幸せのためですもんね。
だから幸せになるような働き方がいいですね。だって本来は幸せになるために働きに行くわけじゃないですか。そんな生活ができたら幸せだし、それこそ家族の幸せだとか、周りの人の幸せとか、そんな幸せのために働きに行っているのに、実は幸せのために働きに行くことが辛くなるって、これ、あり得ないでしょう。これ、良くないですよね? だから幸せになるような働き方をした方がいいんじゃないかなと思います。
それは何かといったら、楽しんで仕事をすることなのではないかと思います。それがどんな仕事であれ、楽しもうと思えば絶対楽しめますもんね。
 一個だけ事例を言って休憩にしようと思います。楽しく働くことの中で僕がやったのが、当時三つ折りにして袋詰めする作業があったんですよ。でもこれもね、楽しもうと思ったら楽しめますね。
 機械でやればいいのに、っていう作業なんですけど、そのコンサルティングの会社は全部手作業だったので、何千枚とか何万枚やるわけです。セミナーの案内とか、こうやって三つ折りにする。これ、結構ハードなんですよ。それしかやらないですからね。ボーッとこうやってやっていくわけですよ。なんか、俺、機械になったみたい・・・、みたいな感じですよね。これね、つまらないと思ったらこの作業ものすごくつまらないですよね。
楽しく仕事をメイクするっていうのはどういうことかというと、じゃあ何かこれを楽しくできねぇのかなっていうことですよね。そこで考えました。「よし、世界中でこの三つ折り選手権っちゅうのがあったら、俺、一位になろう」って思いましてね。バカですからね。それでストップウォッチを出してきて、よし、100枚折るのに一体何分でできるかっていうのを自分で試しました。
そうするとね、やっていくうちに、100枚やるのに、3枚重ねてやった方がいいなとか、知恵がついてくるんですよね。3枚重ねるだけじゃなくて、今度手が痛いので、何かねぇかなって
「あ、これ、いいじゃん!」
って言って部長のふりかけのビンですよね。よし、これでやったらってビュッてやったら、一気にバンッて折れたんですね。
「お、これいいぞ!」
僕はどんどんタイムを良くしていきました。
 多分社内では一番だと思いましたんで、家に帰ってチャンピオンベルトを作りました。それで自分の席の上に貼りましたからね。「三つ折り選手権社内チャンピオン!かかってこい!」ってね。
 それでも新入社員が入ってくると勝負しましたね。
「な、俺のがすげぇだろ? お前にはチャンピオンベルト渡さねぇ。いつでも勝負してやる!」
とかやってました。
でもね、これね、楽しかったですね。三つ折りやらしたら速いですよ。
 ちょっと余談ですけどね、つまらない仕事って思うとやっぱつまらなくなりますよね。でもね、楽しくしたいなって思ったら、多分僕、楽しくできるんじゃないかなって思うんです。
 ですから幸せな働き方っていうのは、働き終わった時に、
「お、今日も一日やったぞ!楽しかったぜ!元気になったぜ!」
っていう働き方だと思うし、朝起きた時に、
「うゎ、だりぃ、行きたくねぇな」
っていうのではなくて、
「よーし!今日は何してやっかな?」
っていう働き方だと思いますね。それが本当に楽しくなることだと思います。

 今日はみなさん、本当に楽しく帰っていただきたいなと思いますんで、これね、嘘でもいいからやってください。家に帰る時にスキップして帰ってください。
「楽しかった?!」
って言って帰ってくださいね。これ、楽しくなりますから・・・。本当です。
 家を出る時も、これね、僕の師匠にも言われたんですけども、子供たちとか、嫁とかが
「行ってらっしゃい!」
って言うじゃないですか。その時にね、
「嘘でもいいから『よし、父ちゃんな、今日は日本を元気にするために行ってきます!』
って言え」
って言われたんで、これ、やってるんです。これ、決めると、案外そうなりますね。パワー湧きますね。
 これ、冗談のように思えるかもしれないですけど、やってみてください。朝出る時、一人暮らしの人はいない部屋に向かってでもいいです。
「さあ、今日も日本を元気にするために行ってきまーす!」
って声を出して言ってみてください。これね、結構元気になりますね。
 それで家に帰ってきて子供たちに聞かれますからね。
「今日は日本、元気になった?」
「多分なった!今日は茨城のこの辺が元気になったと思う」
みたいな感じですけど・・・。そんなふうにできたら結構楽しいんじゃないかなと思うんですが・・・。是非みなさんの所でもやってみてください。
 そうやって楽しく働ける従業員が、きっとお客さんの気持ちを考えて、楽しい、元気な、感動を呼ぶようなサービスを生むんじゃないかと思います。ですから形や仕組みではないです。そこで働く人たちが、働き甲斐を持って生き生き働いていることが感動を生むんじゃないかと思いますんで、是非みなさん、頑張ってやってみてください。応援してますんで・・・。

 すみません、じゃあここでちょっと休憩をとりましょうね。休憩をとった後、今日、ビデオを持ってきましたんで・・・。このビデオ、映ると思うんですけど、社外に持ち出しちゃいけないっていうビデオなんで見なかったことにしてください。以上です。
どうもありがとうございました。

(ビデオ)
 これは10周年を迎えた時に社員の人たちに配られたビデオで、社員の家族に向けて、「みなさんがやっている仕事はこんな仕事だというのを家族の人たちに見せてあげてください」というので贈られたビデオです。

 これは特別に従業員の人たち向けにやったパーティーではなくて、営業時間中にお城の前でこういう表彰をしてましたんで、お客さんは普通に見てます。ミッキーが出るんで、なんだかよく分からないけどって・・・。これは夢、壊れちゃうんじゃないかと思うんですけど・・・。

 はい、ありがとうございました。今のビデオが、先程ちょっとご説明したとおりで、10周年の時に社員の人たち、しかもその家族に向けて見せてあげてくださいという兼ね合いで出したビデオです。
 今見ていただいて、途中出てくる映像、「あ、このシーン見たことあるな」とディズニーランド好きな人はちょっと分かると思います。実はディズニーランドの中で行われている研修の中で使われている映像とか全てそうなのですが、コマーシャルで撮った映像とかをまた編集し直して社員用に使ったりするんです。だから何回も、何回も、何回転もさせてます。ですからコマーシャルで使った映像とかをそのままにせずに、それをまたもう一回繰り返し使って、メッセージを乗せてこうやって編集したり、ですね。
 あと特徴的なのは、さっきアワードの所でちょっとお話ししましたが、あれは営業中にやるんです。あれは永年勤続のアワードのところだったのですが、僕らの時に「スプリット・オブ・東京ディズニーランド」といって、1人1票持って、この一年間でいちばんスピリットを継承したのは誰だろうとみんなで投票して、表彰する制度がありました。これも同じように授賞式、今はどうか分からないですけど、営業中にお城の前のステージでやりました。ですからお客さんは何かよく分からないんですけど、とりあえずミッキーが来るんでワーッ、みたいな感じですね。
 ただこれはどういうふうになるのかというと、そのアワード、僕も1回貰ったんですが、これ、貰っても、そこまでされるんですけど、給料は一円も上がりません。お金は一銭もないです。賞金もないです。それから商品もないですね。ですからパスポートが何枚か貰えるとかいうのもないです。だから全ては名誉ですね。この辺はちょっとうまいかな?と思いました。
 ですからお金のかけどころでいったらものすごく金をかけていると思います。営業中にああいうステージでやりますから、ものすごいお金をかけてやるんですが、それはその社員のモチベーションにお金をかけるというか・・・。目先の給料は上がらないので、当時は僕、文句を言っていたのですが、今はすごく良い思い出になってるなというふうに思います。
 そんなことをみなさんにも見ていただこうかなと、ちょっとお見せしました。ディズニーランドの教育ってこんなことをやっているというのが分かっていただければなと思います。
 じゃあ、後半戦に進んでいきましょう。


【鬼澤】ここから後半はみなさんからいただいた質問もありますし、またちょっといろいろ掛け合いでやっていこうかなと・・・。結構この組み合わせで、全国各地で掛け合いをやっています。なんでもっと地元でやらないんだと言われるのですが・・・。例えば会津大学に行って、2人で4年生対象に就職セミナーで話をしたり、各地の青年会議所でやったりしています。これから5時までの約1時間ぐらいになりますが、掛け合いをしていきたいなと思います。
 向こうに一つ席があります。実は私にとっても、みなさまにとっても新春のお年玉みたいなことなのですが、我々茨城県経営品質協議会は毎年6月に設立記念総会をやっています。もう6年も毎年講師としてお越しいただいています。僕も本当にびっくりしたのですが、今日、その大久保寛司さんにお越しいただいております。ぜひ大久保さんに壇上に上がっていただいて、ちょっと3人でいろいろと話をしていきたいと思います。
 今日はお昼からご一緒させていただいて、もう香取君は緊張しっぱなしですね・・・。大久保さんもよろしくお願いします。
 実は1週間ぐらい前に大久保さんからメールをいただきました。香取君に聞きたいことが山ほどあるんだということで、わざわざ水戸までお越しいただきました。最初に大久保さんの方から今日の香取君の話とか、「ちょっと香取君、こういうことどうなのよ?」というのがありましたら、まず出していただいて・・・。

【大久保】ありがとうございます。僕自身も実はディズニーランドすごく好きで、五十代でおじさんが1人で行ったというのは多分少ないケースだと思いますけど、それぐらい好きなんですね。なんで楽しいのかな、、、うーん?
私の父親も、どちらかと言えば全く遊ぶタイプではなかったのですが、ディズニーランドが大好きで、父親がよく言っていたのがパレードの笑顔です。「あの笑顔を見るだけでお金を出す価値がある」これがうちの父親がよく言っていたことです。
私自身もすごいなと思うのですが、あのパレードする方というのはスタートしてからエンドまで相当な時間がかかるわけですが、でもどの局面を見ても、ものすごい笑顔を維持できているというか・・・。あれっていうのはどうやったらああいうふうにできるんですか?もしくは何か特別なトレーニングしているんですか?香取さんに聞くのが適切なのかどうかよく分からないのですが、あの笑顔をずっと維持、瞬間じゃないでしょう。すごい長時間ですよね。すごいなと・・・。何なんですか!あれは・・・。
【香取】ごめんなさいね、ちょっと夢壊れてしまうかもしれないんですけど、実はあのダンサーの人たちというのは年契約なんです。僕らはまだいいんですが、ダンサーの人たちは1年に1回、全員がオーディションをするんです。
【大久保】毎年更新していかなきゃいけない?
【香取】はい。ですからその年センターで主役を踊っていた人間も、実は来年には代わっちゃう可能性があるということですね。
「笑顔が錆びてきたらいけないんだ」
ということを彼らはよく言ってます。ですからそれをチェックしている人たちもいます。
【大久保】チェックしてる人がいるんだ・・・!!
【香取】ですからちょっとでも曇ってくれば交代という・・・。
【大久保】厳しい世界ですね。
【香取】厳しい世界ですね。僕らはオーディションじゃないんですね。紙の契約更新ですから・・・。ですからもし仮に、僕らサービスする側もエンターテイメント部みたいにオーディションさせられたら
「やばい、俺、絶対次受かんねぇよ・・・」
そんな話をしてましたね。結構危機感は感じてました。

【大久保】香取さん自身、いろいろなテーマパークに行ってアドバイスをされてますね。やはり他のテーマパークはディズニーランドと随分違いますか?
【香取】そうですね。
【大久保】何が違うんですか?いろいろなテーマパークに行かれたと思いますが、何が大きく違いますか? 人自身は同じはずですが。
【香取】そうですね、いちばん大きいのはリーダーが違うんじゃないかなという気がします。リーダーのあり方というか、リーダーの存在がちょっと違うんじゃないかなという気がします。
【大久保】どんなふうに違うんですか?
【香取】もちろん全部が全部ということではないと思うんですけど、見ている中で、先程言ったようにディズニーランド側は、どっちかと言うとリーダーだからこそ楽しく仕事をメイクするということをやっていくんです。でも他のパークで見ると、多いのが管理に徹底するリーダーというんですか・・・。ですからいつも怒ってるっていう・・・。何かあると突っついてくるとような、その辺の違いが大きくあるんではないかなと思いますね。
【大久保】疲れているのにお客さんに楽しんでもらうというのは難しいでしょうね。
【香取】難しいですよね。
【大久保】そこら辺が大きく違う?
【香取】だと思いますね。楽しい場所かどうかっていうのは、多分場所的には一緒だと思うんですよね。乗り物もありますし、ショーもありますし・・・。ただその中の大きな違いは、ソフト、キャラクターはちょっと違うかもしれないですけど、やっていることは一緒なんですけど、仕事を難しくしていたりとか・・・。だから地方のテーマパークに行っていちばん苦戦するのはそこですね。なんでこの人たちはそんなに難しく仕事をしちゃうんだろうっていう・・・、ね。楽しんでいいんだよ、というところをどんどん難しくしていくというか、そうすると結局それで足がこんがらがって前に進めないというのがあるというか・・・。
【大久保】香取さん自身、ディズニーじゃなくて他のテーマパークに行ったらもたなかった可能性が高いですか?
【香取】そうですね、きっと辞めてたでしょうね。辞めてたか、悪い方のリーダーのトップをいっていたか、ですね。
「よーし、お前ら、働けー」
みたいな、ね。
 
【鬼澤】今日も昼間、香取君と話をしていて、香取君の口癖というのがあって、香取君って「スゲェ!」って言うんですよ。1時間ぐらいしゃべっていると、20回ぐらい言うんですよね。
それで「なんでそんなに『スゲェ!』『スゲェ!』って言うの? 自分で認識してるの?」
って聞いたら、トレーニングだと言うんです。
【大久保】「スゲェ!」トレーニングをやってる?
【鬼澤】ちょうど彼がリーダーになる時に、コミュニケーションのトレーニングをディズニーで受けたと聞いて・・・。だからそれを受けなかったら、悪の管理職にどんどんどんどん・・・。
【香取】そうです、悪の管理職です。
【鬼澤】なので、ちょっとその話をしてもらっていいですか。
【香取】はい、コミュニケーションのトレーニングがありまして、一通りずっとやっていって、その時に先生に言われたのが、
「香取君がしゃべっているのをずっと聞いていると、あなたはYes Butだ」
と言われたんです。アメリカ人の先生なんですけど、Yes Butと言われました。
「どういうことですか?」
と聞いたら、全てを否定してかかると・・・。
「へぇ、そうなんだ。でもそれはさ・・・」
とかですね。
「ふーん、そうなんだ。へぇー、変なの」
とか、要するに自分が正しくて、周りを否定して自分が正しいということを認識させよう、認識させようとやると・・・。
「それはあなたがリーダーになった時に全然尊敬されないよ」
と言われました。
「そうじゃなくて変えなさい。逆にしなさい。もっとポジティブになりなさい」
と言われて、
「どうすればいいんですか?」
「簡単。ポジティブな言葉、相槌を打てばいい。Yes Andなんだ。」
「へぇー、そうなんだ。それ、すごいね。で、それから?」
みたいなのを、ずっとそう言いなさいと・・・。
「ポジティブな言葉、『楽しいね』とか、『楽しそうだね』『それはすごいね』とか、まず相手を認めなさい。認めたところで『でも』って言うな」
と言われて・・・。
「それを意識しなさい」
「じゃあ言っていったら変わるんですか?」
「変わる」
って言われました。
【大久保】それはディズニーで働き出してから何年か経って、リーダーになる時の段階で言われているわけですね。
【香取】そうです。リーダーになる研修トレーニング、リーダーに推薦された人たちが集まるトレーニングです。
「その言葉をなくしなさい」
と言われて
「え? じゃあすごいと思わなくてもいいんですか?」
と言ったら
「いい」
と言うんです。
「後からすごいと思うようになる」
本当かなと思っていて、でもその先生は説得力があって、アメリカ人の先生なので、じゃあそうなのかなと思って・・・。
でもその先生が
「私もあなたと同じだった」
と言われて、そっかと思って
「じゃあやってみます」
と言って、それから強制的にずっと言うようにしました。
 最初はだからすごいなんて思ってないですね。
「へぇ!すごいね・・・」
っていう感じでしたね。
「それでもいいからやり続けろ」
って言われてたら、それがもう今度は口癖のようになってきまして、そこから本当に相手のことがすごいと思えたりするようになりましたね。
 でもそれはよかったです。僕ね、これ教わってなかったら、多分新しいスタッフを教える側になった時にすぐに頭にきてたと思います。自分中心に考えるから
「俺できんのに、なんでお前できないんだ、バ?カ」
とか平気で言っちゃってましたから・・・。だからきっと、ちょっとでもできたことが
「すごいね!もうそこまで分かるんだ!」
というのを本気で言えるようになれたんですよね。だから
「こんなことでもできました!」
って勝手に部下がどんどん成長していくというか・・・。それは本当によかったですね。

【大久保】香取さん自身、ご自分を採用された人に直接話を聞かれましたか? 要はいくら人が足りないといっても、よく採用したなって感じがちょっとしたので・・・。いや、だってもう当時は多分大変な格好してたでしょう!?
【香取】そうですね。
【大久保】そのような人間をよく・・・。ディズニーランドで楽しさを提供するパークが、まずは採用した人が偉いなと思ったわけですよ。
「なんで僕を採用したんですか?」
とその人と話をされたことがありますか。
【香取】あります。トレーナーになった時に、自分の面接をしてくれた社員の人と会いまして、
「ありがとうございました!あの時、採用してもらわなかったら・・・」
「内心すごく怖かった」
って言ってました。
【大久保】やぱり、ね・・・。
【香取】「どうしようと思った」って・・・。
【大久保】怖くて採用したの? 採用しないと怒られちゃうからとか、そういうのじゃないんですか?
【香取】「ただ、あなたの笑顔は本物だった」
っていうふうに言われましたね。あれね、面白いんですよ。笑わせよう、笑わせようとするんですよ。
【大久保】なるほどね。
【香取】覚えてますよ。その人は僕の前でドナルドダックのものまねをしましたからね。
【大久保】その方が笑わせよう、笑わせようとさせるのですか?
【香取】はい、初対面でいきなりですよ。
【大久保】初対面で・・・!
【香取】七三分けの食堂部の人だったんですよ。七三分けのネクタイ締めたおじさんが
「香取君はドナルドダックって知ってる?」
とかって言われて
「知らねぇよ」
「こうなんだよ、ちょっと見てて! ウィーウィー、ウィーウィー」
お前、何やってんの?みたいな・・・。
一生懸命笑わせようとしてくれて、その時に僕が何かで笑ったらしいんですよね、覚えてないんですけど・・・。これだったらいけると思うと思ったらしいです。本当に助かりましたね。
【大久保】当時も、この人と一緒に働いてみたいという人を採用するというその基準というのは同じなんでしょうか?
【香取】そうです。多分今でも変わらないと思います。だから会社もよく信じてますよね。だってリーダーを信じられなかったら、そんなこと言い切れないですもんね。だから結構真剣に悩みます。

【大久保】ちょっとジャンプしてしまうのですが、一緒に働いていたいと思えるかというのが基準というのは、ものすごく面白いというか大事だなと思います。一つの企業、組織でも、年度末にお互いを評価する時に、この人と一緒に来年と一緒に働いてみたいかどうかというのをやったら・・・。もっとも多くの組織は崩壊する可能性があるから、これはなかなか現実には難しいのですが、すごく大事だと思います。
【香取】そうですね。
【大久保】やはり一緒にやりたいというのは楽しいからで、嫌な人とはそうなりたいと思わないだろうな、、、。
【鬼澤】大久保さん、アメリカの会社というのはそういうところが結構あるのではないかと思ったのですが・・・。
【大久保】ありますか?
【鬼澤】僕、その話を聞いた時に、私が前の前にいた外資系の証券会社というのも人事部なんかないんです。採用は現場の人間が採用してくるのですが、基準はたった一つなのです。○か×か。一緒に働いていいかどうか。
【大久保】やっぱり基準は・・・?
【鬼澤】一緒です。そして○をつけたら最後まで面倒を見ろというのがポイントなのです。実は7人が全員○をつけないと入社できないような・・・。僕の所は正社員だったので、7人が○をつけないとだめなんです。7人が○をつけてその人間が入ってくると、一生面倒を見ろというコミットをさせられるんです。面白いなと・・・。
【大久保】面白いですね。
【鬼澤】その前の日本の銀行とは採用の仕方が全然違うなと・・・。
【大久保】もう一つ今の話で思ったのは、そういう一緒の基準でやれるかどうかというので採用すると、チームだ、仲間だといっても、その仲間が目指す方向が大事だなというのをすごく感じました。こいつとなら一緒にやれば儲かるな、だから一緒に働きたいというのだってあるわけです。一緒に良いものを実現していこうというものと一緒とは随分違いますね。
【香取】そうですね。
【大久保】前の仕事柄を言ってちょっとあれなんですけどね。儲かる、儲からないがベースにあるでしょうから・・・。ディズニーランドの場合は違うだろうし、なるほどね。

【鬼澤】香取君の笑顔について、結構多くの人から質問がきています。
【大久保】是非、是非・・・!
【鬼澤】「笑顔が素敵です。その笑顔はトレーニングでできるようになったんですか」という方が三人ぐらい、質問がきているのですが・・・。
【香取】はい、最初はトレーニングでした。もう僕ね、笑顔よりもしかめっ面の方が得意でしたから、街を歩いている時はずっとこんな感じですよね。
「お前何か見てんのか!」
っちゅう感じでした。
それを笑顔にするのに、うちの母ちゃんが今でも言うんですけど、ディズニーランドに行ってから鏡の前でニッっていう練習をずっとしてたんですね。別に練習しろって言われるわけじゃなくて、
「笑顔の方がいいよ。これ、ディズニースマイルだからね」
って言われて・・・。
最初はひきつってたんですけど、それを鏡を見ながらどうやったらいいんだろうってずっとやってたんです。ある時先輩に
「お前の笑顔、気持ち悪い」
って言われたんですね。
「なんか、作ってねぇ?」
「『作ってない?』って、作る以外に笑顔なんてないじゃないですか」
「あのな、ディズニースマイルって大事なんは笑顔なんだけど、内から出てる微笑なんだよ。それは作ったもんじゃないんだ」
って言われた時にふっ切れたんです。
「え、じゃあ嬉しくなかったら笑わなくてもいいんですか?」
「うん、極端な話、いいよ」
「本当ですか?」
「そんなん、気持ち悪いじゃん。『ヘヘヘヘヘ』って来るより、それこそ笑いたくなければ笑わなくてもいい。ただ、どういう笑顔がいいかっていうと、これだけは覚えておいて」
って言われました。
微笑みっていうのは、あなたが自分の子供、僕、その時いなかったですけど、子供がいたとして、自分の子供、赤ちゃんを抱いた時に、赤ちゃんを抱いた瞬間に、自分の子供の顔を見てちょっと嬉しくなるじゃない。こっちを見てちょっとでも笑ってくれたら、
「あ!笑った!」
ってなるでしょう。この笑顔の感じ。だから顔の表情ではなくて、ハートの部分が温かくなるというか、心から出る笑顔にしてほしい。ということをずっと言われましたね。そこからですかね。
自然に笑わなきゃいけないんだって思ってやってくんですが、いっつも
「自然じゃない、自然じゃない」
って言われて、その後ですかね
「想像しろ、想像しろ」
って言われました。イマジネーションですね。
あそこ、特徴的なのは、いつも「想像しろ」って言われるんです。
「想像してごらん、あの人、どんな思いで来たか。今目の前にいる、この人よ。この人ね、多分電車で来てるよ。きっと東北の方の人だね。ものすごく大変だろう。これで来たんだよ。この人がどんな思いで来てるかって考えてごらんよ。それであなたの所に聞きに来てるのよ。『すみません。これ、どこですか?』って・・・。ほら、その時にさ、どうやって返したらいい? どんな笑顔になったらいい? 『よく来てくれたね!』ってなるでしょう」
って言われました。
 だからそういう意味では練習はしました。練習はしたんですが、練習をしながら少しずつできるようになってきつつ、今度は想像しながらハートがこうなっていくというかですね・・・。今はもう本当に、笑顔に自然となれるようになりましたね。
 ただこうは見えても元々ヤンキーですから、僕、今日、車で来たんですけど、煽られれば、ね。
「そうっとサイドブレーキ引くか、この野郎!」
みたいなのも実はあったりもするんですが、そうならないように気をつけてます。
 でも決めればできると思います。決めるのって大事だと思います。僕、決めてます。今日一日楽しく過ごそうって決めてるし、今日一日絶対に怒らないっていうのを毎朝決めてます。それ、決めてても切れちゃう時があるんですよね。だから人間まだまだなんですけど、でも決めると、決めた自分がいるので、イライラしてきた時に思い出すんです。
「決めた、決めた、決めた・・・。よし、よし、よし・・・。試されてるぞ、試されてるぞ・・・。俺はこんなことで怒んねぇぞ!」
みたいなことをやってますね。

【大久保】奥さんは旦那さんのことを何と言っているんですか?
【香取】奇妙な人だと思ってますね。でもカミサンも今どんどん付き合ってくれますね。だから最初、呆れてたと思いますよ。
「日本を元気にするために行ってきま?す!」
って言った時には
「はい、どうぞ・・・。行ってらっしゃい・・・」
みたいな感じでしたけど、これで、毎日続けるって大事ですね。そのうち、嫁さんも本気になってくるので、それを言わないで出かけようとすると、嫁から言われた時がありますからね。
「今日は元気にしないでいいの?」
「いや、いや、元気にしてくるよ!してくるよ!」
「そんなんじゃ元気になんないよ、日本は」
とか言われて
「はい・・・」
だんだん、「お前、俺が最初に考えたんだぞ!」みたいな・・・。

【鬼澤】これね、質問であるんですよ。
「これは笑えないなとか、しんどいなと思う時、腹が立ってしまうと思う時、どんなふうにポジティブなエネルギーに転換するのですか。」
【香取】そうですね、これは時間かかりました。ものすごい時間がかかりました。今でも難しいです。僕は元々本当に気が短いので、決めるということをしているのと、あとは元、根本を考えよう、考えようということをいつも口癖のように言っているし、それを教えられたとおりにやろうと思ってます。
 大事なのは素直さだと思います。僕が昔の自分と今の自分を比べたときに、いちばん大きく違うのは素直さだと思います。素直じゃなかったですから・・・。僕が世界一でしたから・・・。俺が世界一で、俺を中心に世界は回ってると思ってましたから、暴走族をやっていても、絶対日本統一というのが僕の目標でしたし・・・。バカでしょう? これって録音してんでしたっけ? やばい・・・、カットしておいてもらって・・・。
本当にそういうふうに思ってたんですが、それがディズニーランドの中でこてんぱんにやられて、「素直になりなさい」「素直になりなさい」「もっと他人の言うことを聞き入れなさい」とか、素直になった方がいいんだということを何度も何度もやられて、
「それには根本を考えるんだ。問題が起きた時ほど根本を考えろ」
と言われました。
 いちばん分かり易いところは、この間あった、というか2、3年前にあったのですが、スピード違反で捕まるじゃないですか。また変な事例ですけど、捕まったんですね。僕ね、僕は絶対に捕まらないと思ってたんですよ。レーダーもつけてるし、絶対に捕まらないと思ってたんです。赤灯回されたって、絶対にブレーキ踏まねぇぞと思ってましたから・・・。あれね、ブレーキ踏んだ瞬間測られますからね。だからブレーキを踏まない方がいいですよ。踏んだ瞬間にパッと測ります。その測定ですから、ウーって回った瞬間にエンジンブレーキで、ブレーキランプ・・・、まぁいいや、そんなこと・・・。そんなん知ってるので、絶対に捕まらないと思ってたんです。
 ところがある時、捕まったんですよ。これ、やられましてね。100キロ道路を僕130キロで飛ばしてました。バシーンって捕まって、ウーって回されました。その瞬間思ったことは何か。
「クソ!この野郎!」
って思いましたね。
「覆面パトカー? 汚ねぇことすんじゃねぇぞ!」
とか思いながら、パトカーに先導されながら行くわけですよ。
「空いている所に行ったら止まりなさい。ついて来なさい」
もうその時はものすごい怒ってました。それで横を見れば、俺より速い車がバンバン通るわけですよね。
「あれ捕まえろ、あれ!」
って感じでしょう。すごくイライラしていて、その時に決めたんです。車を降りて、絶対開口いちばん怒鳴ってやるって・・・。
「俺捕まえやがって・・・。俺じゃなくたって、もっと他の奴捕まえればいいんだ、このボケ!お前ら税金で・・・、この野郎!」
とか文句を言ってやろうと思って、ずっとカリカリして怒っていたわけです。
 怒っていた時に、
「何か問題があったら元根本なんだ。元根本を考えろ」
と言われていたのを、いつも口癖のように、ずっと自分でも言うようにしていたので、その時にふっと思い出せたんです。これ、良かったですね。思い出せました。
 元根本はなぜ捕まったのかということですよね。捕まえたのは、捕まえたこの人が悪いわけではないですよね。スピードを出した僕が悪いわけじゃないですか。ね、捕まえたこの人には悪気も何もないわけです。だってそれ、職務ですから・・・。
それを考えた時に、
「俺、なんでこんなことされなきゃいけないんだ」
と思っていたのに、気がついたんです。
「分かった、調子に乗ってんだ」
と思いました。多分、僕、そこで捕まえてもらわなかったら、絶対に捕まらないと思ってましたから、それは行きだったんですが、帰りは150キロで飛ばして帰りますよ。きっと俺、このままいっていたら交通事故で死ぬんだなと思って・・・。その時に本当に霧が晴れたというか、
「そうか、だから神様は俺を捕まえさせてくれたんだ」
と思いました。
こんな自分でも、一度捕まって罰金を払ったら、一応2ヶ月ぐらいは反省しますよ。それこそその日帰る時ぐらいは法定速度を守って帰ると思ったんです。そうしたら、あ、よかったと思って・・・。もしここで捕まえてもらわなかったら、この人が捕まえてくれなかったら、多分帰りの道で150キロぶっ飛ばして事故に遭って死んでましたから・・・。僕の所ね、3歳の息子と10ヶ月の娘がいるんですね。これ、今死ねないんですよね。死んじゃったらどうしようもないんですよ。僕、大好きですからね、息子と娘。あ、嫁も・・・。だから今死ねないんですよね。それを考えたらものすごい感謝しました。
 そうしたらね、このパトカーが本当に素晴らしく見えましたよ。よかった、と思って
「よし、お礼を言おう」
って決めたんですよ。
「捕まえてくれてありがとうございます。これで捕まらなかったら、調子に乗って多分死んでます。だから本当によかったです。ありがとうございました」
って言おうと思って・・・。言おうと思ったまではよかったんですけど、そこからちょっと長かったんで、
「これ、言ったら許してもらえるかな?」
ってことまで考えちゃったんですね。やっぱ人間欲かくとだめですね。
「ありがとうございます!」
本心で言ったんですけど、心の裏側にそういうのがあると、許してはくれなかったですね。
 そういう意味では怒る時もありますし、切れる瞬間もあります。ただその時に、自分の中で思ってるのは、問題があった時に、なんで僕がこんな問題にさらされなきゃならないんだという根本の問題は何だろう、何だろうということを考えよう、考えようとするようにしてから、切れる前に一呼吸おけるようになりましたね。
 それまでというのは、バーンと来たことに対して
「てめぇ! この野郎!」
みたいにパンと言ってしまったんですが、なんでなんだろうと考えようとするので、一旦ちょっとクールダウンできるというか、そんなふうになりました。
 よく、頭にきたことがあったら10数えろって言うじゃないですか。そうすると落ち着くよって言われるじゃないですか。多分それと一緒だと思うんですけど、そういう意味で僕は「根本を考えろ」っていうのがあったので、クールダウンできるようになりました。でもね、それは何度も同じ繰り返しですね。去年もちょっと洗濯機の話をしましたけど、あれと一緒なんですけどね。結局はそれの繰り返しなんです。
でも人間、怒る時もありますもんね。だから別に怒ってもいいのかなと思いますが、ただ反省しないとダメなのかなと思うんです。そんな感じですかね。大丈夫ですか?

【大久保】いやいや、今日は楽しみに来たので・・・。話しに来ないで聴きに来るというのはこんなに楽しいのかと思って・・・。まず気が楽です。本当に楽ですね。
 今の、どうも自分が盛り上がらないとか、がっかりとか、悩んだりとか、苦しんだりとか、そういうのは人間、絶対誰にもありますよね。不安とか取り越し苦労とかいうのはいくつかあって、これまた解説し出すと長くなってしまうので全部はできませんけど、一つは将来の心配。もう一つは自分への評価が下がる。特に組織の中においての多くの不安とか苦しみというのは、結局自分の評価が下がるというところにいくということがものすごく多いのです。どうしたらいいかと言うと、諦める。他人がどう評価するかはしょうがない。そうなった時に実は発想が変わります。発想が変わって、生き方と行動が変わって、逆の評価がされるような行動をとり易くなるのです。
 だからともかく、人は絶対に理解しないし、もっと大袈裟に言うと自分自身も自分を理解できないのです。これまた六月ぐらいに来たらゆっくりお話ししたいと思いますけど、見えないのです。だからそこらへんで分かってもらうことは難しいし、諦めるというのは一つの手じゃないかと思っています。
もう一つは香取さんご自身の、今日の話の中にも出てきていますが、やはり、これはこうだなと思って、正しいとか良いと思うことをどんどん言い続けると、そのどうしようもない局面に入った時に、自分が言っている言葉がその局面で出るわけです。
さっき最後に、ちょっと半分冗談めかして
「今日はスキップして帰ってください」
と言われましたよね。この中で何人ぐらいスキップされるのかなと思うわけですが、ここが大事なのです。実は生き方が変わる人はそこでやる人なのです。100%お約束できるのは、そこで
「それをやったら良くなるのかな?」
と考える人は未来永劫良くならない。行動しないからだめなんですよね。
 だから笑うトレーニングもそうだし、
「日本を元気にするぜ!」
とそこまで大きく言わなくていいです。
「今日は会社で楽しく仕事をするぜ!」
でも何でもいいのです。やはりそういう言葉を出してやるということは、やはり楽しくない時にその言葉を思い出すし・・・。だからそういう良い言葉を出し続けるというのはものすごく大事だと思います。
 やはり悩んだり、苦しんだりというのは誰にもあります。もちろん私だってあります。ただ大切なのは、悩み続けないことだと思います。苦しみ続けないこと・・・。倒れるなんて誰でもあります。
「私は倒れたことがない」
嘘でしょう!どんな人だって絶対あります。
 だけど大事なのは、倒れてずっと倒れたまま時間を過ごさないで、倒れる時間を少しずつ短くしていく。そうすると倒れた瞬間立ち上がると、他人が見ると倒れていないように見える。実は倒れてるんです。僕は倒れない人はいないと思います。大事なのは倒れ続けないことです。だから倒れて「自分はだめなんだ・・・」とか、「ふさぎこんでしまったからだめだ・・・」とか思う必要はありません。そんなのは誰でもあるのです。ただそこから抜け出すためにどうするかということです。
 この間も・・・、ちょっといいですか?まだ時間いいかな。ある所で話をさせてもらって、質疑応答の時間になりました。
「会社に出る時、ブルーの日があるんです。どうしたらいいでしょう?」
と言うのです。大袈裟に言うと、その気になって答えれば100ぐらい答はあるかもしれません。聴衆の人全員に聞いていきました。
「この人、時々ブルーなんだそうです。どうしたらいいですか?」
「ウォークマン聴いたらどうですか? 楽しい曲を・・・」
と言ったら
「聴いてます」
と言うのです。
「事務所に来て、外した途端ブルーになります」
と言うわけです。いや、本当の話です。それで
「やっぱり楽しいことを考えたらいいんじゃないですか?」
「最近ないんです」
とか、いくらでもくるわけです。もういろいろな答えが出たんです。それで私の答は何かと言うと、実は答はなくて、
「たくさん出ましたよね。どうでした? でも結局ブルーでどうしようもないと言ったって、仕事をし出したら忘れてちゃんと仕事をしてるんでしょう?」
と言ったら
「そうです」
「それだったらそれでいいじゃないですか」
と言って私は質問に一切答えなかったわけです。これも一つの応えです。
 意外と、こうしなさい、ああしなさいと言われると、もう嫌の典型でしょう。典型という言い方は失礼だけれど、香取さんなんか、上からああせい、こうせい言われるの、嫌でしょう!
【香取】はい。嫌ですね。
【大久保】香取さんを育てた人はそういう人ではないのでは?
【香取】はい。特徴的なのは、こうしなさい、ああしなさいということは言われなかったんですよね。
【大久保】やっぱり!!
【香取】振り返ってみると全て質問系なんです。
【大久保】なるほど・・・。
【香取】今、こうこうこういう状況で、お客さんがこうやって来てるんだけど、お客さんの中でこういう不具合が生じてる。なのでこういうふうにしなさいと言われたことは一つもなくて、こういうふうになってる。
「この状況を香取君はどうやる? どうだったらできる? どうだったらできると思う?」
って言われて
「え? 分かんないですよね。とりあえずこうじゃないですか」
「おう、じゃあそれ、やんなよ」
「え? いいんですか?」
「うん。じゃあ高橋君はどう?」
「私はこう思います」
「うん、じゃあそれ、やんな」
「え? いいんですか?」
「みんなバラバラですけど、いいんですか? うん、方向一緒だから多分大丈夫だと思う」
みたいな・・・。ほぅ・・・って感じですよね。
 実は事細かいところまで決まっていなくて、全てを考えさせるんです。多分失敗することも分かっていてやらせていると思います。
【大久保】多分そうでしょうね。
【香取】それで挫折するんですよね。
「やっぱ無理でした。できませんでした・・・」
「本当? 残念だったね。じゃあ何がいけなかったんだろうね」
【大久保】で、また質問?
【香取】また質問なんですよね。
「なんですかね?」
「その時の自分の気分は? 昨日、ちゃんと寝た?」
とか質問されて、
「こうこうこうですね・・・」
「あ!ここじゃないの? ここだな。どう思う?」
「ここかもしれないです」
「じゃあ、ここ、変えようよ。これ、変えるためにどうする?」
それでまた質問ですよね。そういう感じでやらされていて、結局は手のひらで転がされていたような感じがします。

【鬼澤】この『社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった』という本、20万部ぐらい売れている本です。
【香取】ありがとうございます。
【鬼澤】ディズニーの本とかも教える側の人の本というのは多いのですが、この本は教わった方の話で、教えているリーダーたちがものすごい引き出しを出してくるというところがあります。
 実はさっき香取君もちょっと言いましたが、フロリダに行ったのは2年前だっけ? 我々でフロリダのディズニー・インスティチュートという所に行ったのです。
ディズニーの教育は何なんだろうね、ということで行った時に、さっき彼も言っていましたが、いわゆる「バイ・デザイン(By design)」なんだ、全てちゃんと考えて創っているんですよと・・・。現場の人たちはあまりそういう意識にはなっていないのだけれども、現場の人たちをそういうふうにするトレーナーであるとか、リーダーという人たちになっていく過程で、実はものすごく科学的なトレーニングを受けているんです。でもそういうのは分からないのです。香取君も現場にいる時はそのことが分からないで、後になって気付いていくということがあったのです。全てああいう現場がちゃんとつくれるように、設計されているんですよと・・・。
 どうしてですかと聞いたら、向こうの人が言ったのは
「ディズニーは映画会社ですから・・・。ストーリーはちゃんと作っているんです」
逆に言うと、作り物のようには見せないで科学的なトレーニングをやっているのです。
 さっきのビデオのいちばん最後にありましたが、あれ、英語で全然読めなかったと思いますが、ウォルト・ディズニーの言葉です。素晴らしい建物などはいろいろ造れるけれど、最後はやはり人なんだ。どうやって人のイマジネーションを育てていくかということがものすごく大事だよと・・・。
 さっき香取君が言った「想像してごらん」という言葉ですが、日本の企業だと「お前考えろ」と言われますが、「想像してごらん」と言われるのは結構いいなと思ってさっき聞いていました。
【大久保】確かにね、普通はなぜだめだったかとか、相手はどう考えていたか考えろと言われるのだけれど、「想像してごらん」というのは非常に面白い言葉ですね。
【香取】絵として浮かんでくるというんですかね。
 これはみなさんの所も是非やっていただきたいのですが、トレーナーになる時のトレーニングはみんなで「ピノキオ」を真剣に見ます。笑えますけどね・・・。ピノキオって木の人形じゃないですか。あれ、良心がないんです。良いことをしないと人間になれないのですが、良心がないので良いこと、悪いことの分別がつかないのです。なので、ピノキオには良心の役割をするジミニー・クリケットというコウロギがいるんです。これがトレーナーの役割なんです。この人の視点で見なさいとみんなで見ます。後で気づきをみんなで発表し合うのですが、これが深くなるというか・・・。
 すごく描写がちゃんとされています。良心ですから体を張って悪い方にいくのを止めることができないんですよ。良心ですから
「そっち行ったらだめだー!」
と引っ張れないんです。アニメーションの中では小さいコオロギなので、力技では引っ張れません。言って聞かせるしかない、考えていくしかないんです。それをすごいうまく描写しています。
 僕がそれを見た時いちばん気づいたのは、リーダーって感情的になって怒ってもいいんだということを学びました。僕は逆だと思ってたんです。リーダーは聖人君主で、それこそ怒ってもいけないし、感情的になってもいけないし、絶対そんなことになっちゃいけないんだと僕はずっと思っていたんです。だから辛いなと思った時期もありました。でもあの映画を見た時に、途中でジミニークリケットは見放すんです。多分ご存じの方もいらっしゃると思うのですが、ロバの国に行ってしまいます。
「もういい!お前、勝手にしろ!」
バーン!ってやって
「俺はもう下りた!」
って下りてしまうのです。いいの?って思ったんですけど、そうはなっても結局最後は、でもそれでも心のどこかで引っかかって、ピノキオが心配になって帰ってきて、一緒に目標を達成した時に涙を流して一緒になって喜ぶんです。人間になれた時に・・・。
 だからリーダーは時にはそういうことが、人間ですからね、感情的になることもやむを得ないのかなと・・・。ただ大事なのは、絶対に諦めたらいけないんだということです。その時はそうかもしれないけれど、もう一回戻れればそれは良しなんだなと僕は気づいて、それで楽になりました。
 そういうアニメーションとか、そういうものでトレーニングされたりします。「ダンボ」を見たりとか、ね。いい大人たちがですね。結構面白いですよ。あれ、子供だましのように作っていると思われると思いますが、子供だましではなくて、さっきも出てきたように大人の中にある子供の心に訴えて作ってあるので、細部にわたっていろいろ考えて作ってあるので、その役になりきっていろいろなものを見ると面白いと思います。自分だったらどうしよう、みたいなのを見ながらやっていくと面白いと思います。
【大久保】今、香取さんが
「リーダーは怒ってもいいんだ」
と言いましたが、ここでまた短絡的に、表面的にだけとらないように・・・。「時には」ということですから・・・。それからその前とその後が全然違うわけです。普段怒っている人が怒ってもいいんだというとずっと怒っていますから、そういう人には、「一切怒るな」と言った方がいいわけです。
【香取】そうですね。
【大久保】怒る時の基本は、やはり本当の熱意とか、相手を良くしたいという思いの深さとか、強さとかいうベースがあって初めて良い方向に展開していくのではないかと思うのです。ただただ、四六時中感情的になってばかにしてたら、怒らない方がいいでしょう。
 鬼澤さん、まだ質問はいっぱいありますか?

【鬼澤】ええ。人が本気になる、さっきの本気のスイッチが入るというところのリーダーの役目という話で、今日の大きなテーマも、そういう現場の、感動を生むようなサービスを生む人たちが本気のスイッチが入るようなリーダーというのはどういうふうに考えたらいいんだろうねという話なのですが、ご質問で、人が本気になるような方法として、リーダーが自分のとっておきの話をする以外に、今までに何かあったらそういうことを教えてほしいということです。
【香取】そうですね、自分自身が本気になることなのかなというふうに思います。それがいちばん早い道だと思います。いちばん近くにいるので、自分がいちばん真剣に、今の仕事であり、生活であり、これを一生懸命本気になってやっている人はやっぱり背中で・・・。「背中で語れよ」というのはそういうことなのかなと思います。
【鬼澤】この本の中でいろいろなトレーナーやリーダーの人たちがいて、彼はそういう人たちになっていきたいという思いがある。今世の中では入社して3年で3割ぐらいが辞めてしまって、この間実はショッキングなのが日経ビジネスとかいろいろな所に出ましたが、管理職になりたくない社員が若者の半分以上だというのです。つまりあんなふうになりたくないというのがものすごく大きな企業にあって、
「そういうのってどうなの?」
とこの間香取君に聞いたら
「僕はトレーナーとかリーダーに早くなりたかったですね」
あそこはそういう場所なのです。そのあたりのところの話をお願いします。
トレーナーやリーダーのみなさんは、同じようなタイプではないと思うんです。町丸さんみたいに厳しい人もいれば、たくさん・・・。
【香取】ディズニーランドで特徴的なのは、入社すると3日間から5日間はトレーナーという人が出退勤全部同じ時間で付き添うんですよ。ですから朝出勤するともうトレーナーが待っていて、タイムカードを押すところから始まって、帰るまでの間ずっと一緒なんです。休憩も一緒、食事も一緒なんです。ですから親以上に親のように思えるというか・・・。あとは不安じゃないですか。初めて入社した時、右も左も分からないですよね。そんな中で一人にされることってすごく不安なんです。特に食事とか、休憩とか・・・。
「休憩行っていいよ!」
って言われたって、休憩室すら分からない。やっと着いて座ったんだけど、誰も知らない、みたいな・・・。「どうしよう、これ、読んでよう・・・」みたいな、どんどん暗くなっていっちゃうじゃないですか。そうではなくて、3日なり5日一緒に過ごすので、休憩も一緒です。だから休憩する時にトレーナーが気をつけなければいけないのは、新人を真ん中に座らせろ、話の中心にさせるというところです。
 だから現場で何を教える云々というのは、そんなの、どうでもいいです。そんなの、仕事をし出したら否応なしに覚えます。だから大体6、7割でいいんじゃないかなと思います。大事なことだけで・・・。あとは
「『分かりません』、『知りません』、『できません』ということを言うな」
と言っておけば聞いてくるので、その時に自分で考えますもんね。
 そういう意味では、僕らは休憩であるとか、出退勤であるとか、そういうところに孤独感を持たせないためにトレーナーが一緒についていると理解していて、いつも話題の中心にいさせるようにしてあげて、ここが楽しい場所で、安全な場所なんだということをまず認識させるということです。
 そして知り合いをいっぱい作るのもトレーニングの期間中です。いろいろな人に会わせて、
「多分、家、近いよ」
とか言って、その二人の話が盛り上がったら、トレーナーは引いて横で見ているという感じでいいと・・・。だっていずれこの子は独り立ちするので、1人でも多くの自分の知り合いを作っておくことの方が働きに行きたくなるじゃないですか。そういうことを狙ってやるんです。
 あと、挨拶しようというルールがあるじゃないですか。これは結構大事だと思います。ディズニーランドもそうです。社内でもバッチをつけている人がいたら挨拶をしましょうということを初日に一回だけ習うんです。僕、そんなの、忘れてるんですね、1回ですから・・・。現場に出るじゃないですか。トレーナーと一緒になります。僕のトレーナーはものすごく偉い人だと思ってたんです。なぜかと言うと、一緒について回っていると、行く所、行く所、みんなから挨拶されるんですよ。でしょ。
「この人スゲェ。やっぱこの人の言うこと聞いておいた方がいいな」
すごい偉い人だと思ってたんです。
 要は簡単な話です。
「バッチをつけている人を見たら挨拶をしよう。どっちが先か後かなんて関係ない。先手必勝よ。気がついたらやるんよ」
って言われてたので、みんなが
「おはようございま?す!」
「こんにちは!」
「お疲れ様でーす!」
ってやるじゃないですか。
「俺のトレーナーはスゲェ!」
って思ってましたからね。だからこの人みたいになりたいっていうふうに思えたというか・・・。すごく楽しそうに振る舞ってくれましたし・・・。
自分がトレーナーになりたい、なりたいと思ってなった時に、
「へぇ、トレーナーってそういうこともやるんだ・・・」
という辛さもありましたけど、でも楽しかった方の方が大きいですかね。今もそうですけどね。
 いちばんはやっぱり、トレーナーになった時に言われたのは、
「尊敬される先輩になりなさい」
と言われました。これ、みんな言われるんですけど
「リーダーとかトレーナーって特別なんだよ。選ばれた人しかなれないんだよ」
と言われて、
「そこに対して誇りと使命感を持ちなさい。だってあなたを推薦してくれた人いるんだよ。年数が長いから、『こいつそろそろリーダーか』ってそんなことは絶対にない」
って言われました。
「あなたが社長だったらどうか、考えなさい。これからこうなっていって、お客さんをもっと盛り上げてという時に『そろそろこいつリーダーにしておきゃいいか』、そんなんで選ばないでしょう。期待するんだよ、そのいっぱいいる中で、『こいつになってもらいたいな』だからあなたを選んだの、香取君。分かる? だからあなたは選ばれたの。選ばれた人間がやるんだよ。選ばれた人間なりの悩みがあるはず・・・。これは今までの悩みとは数段レベルが違う。すごい壁が立ちはだかるよ。でも、あなたは自分を選んでくれた人と自分の仕事に誇りを持ちなさい。あなたにしかできないんだ」
そんなことをずっと言われるんです。二人称で語られるというんですか・・・。一緒に受けている人は僕の他にもいっぱいいるんですけど・・・。
「はい、次。あなたも一緒」
なんだ、こいつも一緒か、みたいなそんな感じですけど・・・。

【大久保】香取さんは香取さんがリーダーになることを推薦した人の話は聞きましたか。なぜ自分をリーダーに推薦してくれたのか。
【香取】聞きましたけど、言ってくれなかったですね。僕、町丸さんというおっかない人で、僕のことを目の前で褒めない人なんです。けなす人なんですね。だから今でも電話かかってきて
「香取、社長になるとみんなから褒められて注意されることないから、俺が注意してやっから来い!」
と言う人なんですね。
【大久保】本の中に出てくる人ですね。
【香取】はい。すごくおっかない人なんですけど・・・。
「なんで僕、選んでくれたんですか?」
「あみだ!」
とか言ってましたね。人事部の人と違う!っていう感じでしたね。
 でも根底は分かってます。町丸さんが僕を選んでくれた理由は、僕が想像する中ですが、いちばん素直だったからじゃないかなというふうに思いますけど・・・。
【鬼澤】ハッハッハッ!
【香取】鬼澤さん、ここは笑うところじゃないんですけど・・・。
教えてくれなかったですけどね。でもね、これはテクニックかどうか分からないですけど、町丸さんって僕の前では絶対に僕のことを褒めないです。でも違う人の前ではすっごい褒めているらしいんですよ。それを人伝いに聞くんですよね。これはやられますよね。嬉しいじゃないですか。嬉しくて行きますよね。
「こんなこと言ってくれたんですか?」
「言ってねぇよ!お前、調子に乗んなよ!」
あれ?違う? そんな感じでしたけど・・・。
 そんな人、いますよね。家族で言うとお父さん的な人ですね。お父さん的な、父型の指導をするような人だったと思います。
【鬼澤】町丸さん、すごいいい人ですよね。僕も町丸さんは何度かお会いしているのですが・・・。
【大久保】そうですか。
【鬼澤】香取君には厳しいんですよ。
【香取】厳しいです。
【大久保】人に合わせて対応の仕方を変えてるんだ!
【鬼澤】だと思います。多分図に乗るタイプだとよく分かっているんだと思います。
【香取】そうですね、すぐ調子に乗るんで・・・。
【大久保】事実調子に乗る方ですか?
【香取】調子に乗りますね。すぐ調子に乗りますよ。
だってこの間の話じゃないですけど、ごめんなさいね、幻滅すると思いますけど、本が売れたじゃないですか。僕、結構鼻高くなりましてね。本が売れて、ちょっと名前が知れてきたぐらいのところでまたいい気になって、こうやって講演会とかに呼ばれるじゃないですか。飛行機で往復することが多いので、全日空を使っているんですけどグレードが上がっていくんです。それでダイヤモンドのグレードになったんですよ。嬉しくて・・・。僕はそれこそ鼻高々ですからね。もうカウンター行ったら、
「お前、俺はダイヤモンドじゃ、ボケェ!」
みたいな、ね。
「言うこと聞け! 挨拶ぐらいちゃんとしろ!」
それこそ
「香取さん、今日もありがとうございます!」
って言われなかったらむかつく、みたいになってたんです。最低でしょ? 本当です。それがゆくゆく洗濯機の問題になって・・・。洗濯機を買ったらその洗濯機が入らなくて・・・。その洗濯機、入らないわけないんです。全部調べたんですから・・・。
「なんでこれがあんなふうになるんだろう。みんなで楽しみにしてたのに」
と言った時に嫁に言われました。
「いつも言っている元根本を考えろってことじゃない?」
「何?」
「調子に乗ってるってことだよ」
「なに? 調子に乗ってねぇよ、俺」
とかって言っていたら
「飛行機」
って言われて、ハッと思って・・・。横柄だったんです。気がつくと、自分がサービスをしていた時に、いちばんこんな人にはなりたくないと思っていた人間に自分がなっているんですよね。
でも元根本を考えたら、僕が自分のお金で飛行機に乗ったことなんか数えるぐらいですよ。本来は僕じゃなくて、僕を呼んでくれた人たちがダイヤモンドサービスを受けるべきでしょう? ですよね。それを僕が受けさせてもらってるんですよね。それに気づかなくて調子に乗ってたのでそんな事件がおきたのです。
だからすぐ調子に乗ります。今戒めにあっています。
【大久保】でもいいですね、調子に乗ると覆面パトカーが出てきたり、ちゃんと折々に適切にアドバイスしてくれる人が出てくるわけですね。
【香取】そうなんです。

【鬼澤】気づくのも早いですよね。
【大久保】気づくのも早い・・・?
【鬼澤】忘れるのも早いみたいで・・・。
【香取】三歩歩くと忘れるんですね。ニワトリと一緒なんです。
【鬼澤】香取君がこの後もう一冊、本を出しています。もう一冊出した時に、僕に原稿を送ってきたんです。
「鬼澤さん、気づいた点があったら何か言ってください」
とか校正を求められたので、ずっと読んでいて
「ちょっと言っていい?」
というメールを送りました。
「これ、いつになったら本当に気づくわけ?」
いつも「あ!分かった!」、戻って。「分かった!」、戻って・・・。
【香取】パート2になっても成長がないんですよね。
【鬼澤】気づくというのは変わるということだから、結局気づいていないんだという・・・。
【大久保】本当の気づきになっていないんじゃないかと言われたんですか。その時の気持ちはどんな感じでしたか。
【香取】へこみましたよね。あ、そうか・・・と思って・・・。
【鬼澤】いや、僕もそうなんです。僕も気づいたな、と
「よし、気づいた!」
でも元に戻るじゃないですか。そうしたら僕も僕の師匠に言われたんです。
「気づいたというのは変わるのだから、戻るということは本当は気づいていないんだ。気づいてないことを気づいてないんだ。それを気づいたと思っている自分に気がつきなさい」
と言われて・・・。何か禅問答ですけどね。
【大久保】いや、分かり易い話です。知行合一、知るということはやはり行うことと一つになって知ったことになる。知っているけれど行えないとか、やれないとか、なんだかんだいうというのは、実は本当は知っていない、分かっていない。そういうところでしょうか。

【鬼澤】やはり香取君は良い師匠がたくさんいるなと・・・。
【大久保】そうですね、本の中にも本当に師匠だらけですね。
【香取】でもね、よく言われるんですよ。どうやったらそんなに良い人たちに巡り会うんですかと言われるんですけど、多分、これは本当に共通すると思うんですけど、自分自身が変わると本当に良い人たちが見えてくるんだと思います。いるんですよ。いるんです。やんちゃしてた時があるのでよく分かるんですけど、やんちゃしていた時をよくよく振り返ってみると、本心で僕を悪の道に行かないように、行かないように、と導いてくれていた人はいたんです。先生であったりとか、仲間であったりとか、そっちに行ったらだめなんだと、本気で僕のことをそうやって言ってくれている人がいたんです。でも僕が見えなかっただけなんです。その時素直じゃなかったから・・・。要はそういうふうに言われる時点で反抗してましたから・・・。
「うるせぇんじゃ、ボケ!お前、あっち行け!お前に俺の何が分かるんだ!」
とかやってましたから、それはもう言いたくないですもんね。
 要するにいないのではなくて、見えてないだけじゃないかなと思います。周りを見て、絶対にどこかにいるはずだし、あとは本とかを読んだらいいと思います。あれ、すごいですよ。本を読むといちばん後ろに連絡先が書いてあるんです。これ、絶対やった方がいいですよ。僕もやられて嬉しかったんでやるようにしました。電話がかかってくると嬉しいんですよ。
「読みました!」
って電話がかかってくると、これね、僕も迷惑だと思ってたんですけど、そんなことは絶対にありません。それはそうです。自分が作ったものに対して評価をしてくれるって嬉しいことじゃないですか。それも何も知らない人がですよ。
 だから本を読んで感銘を受けて、この人すごいなと思ったら、裏を見ると必ず連絡先が書いてあります。これ、電話番号が書いてあったら電話すればいいし、住所が書いてあったら手紙を送ればいいし・・・。これね、ものすごく嬉しいです。そうすると良い人との出会いがきっとできますね。それで僕、会いたい人と結構会ってます。これ、嘘じゃないんで、是非やられたらいいと思います。
 だって少なくとも1200円、1500円、2000円ぐらい払っているわけですから、会う権利はありますよね。だって払ってるんだから・・・。それはそうだと思います。それぐらいいけたら大丈夫だと思います。
 嬉しくないですか? 嬉しいですよね?
【大久保】いや、本当に・・・。
今の話でいちばん思ったのは、
「自分は周りの人に恵まれていません」
とか言う人って確かにいます。でも一つは香取さんが言われたように、見方を変えたらまるで違う人になります。それからもう一つは、そういう恵まれた人、素晴らしい人との出会いを自ら作る。今言われた、こちらから能動的に・・・。
「僕は恵まれないんですよね」
と言っている人はまず100%受身です。だから良い本を読んで素晴らしいと思ったら、感想を書く、電話する、何かする。嫌な気持ちはしない。その中で、またいろいろなつながりというのが生まれてくるのです。でもだめだ、だめだと言っている人は何もしません。していることは何かというと、「だめだ」と言っているだけ・・・。これで良くなるわけがない。だから良くならないように努力しているようなものです。
【鬼澤】そうですね、今日のこの場もそういう出会いから生まれています。
【大久保】良くならない人は良くならないように努力しているんですね。それも無意識のうちの努力だから、根が生えているわけです。結構厳しいことを言っていますよね。
【鬼澤】厳しいです。
【香取】いてぇ・・・。
【大久保】だけど、だから良くならないんですよね。なぜだめなのか。だめなことをしているからとしか言いようがないですね。また禅問答的だからちょっとやめましょう。

【鬼澤】大久保さんはよくご存知なのですが、ここは5時に退去しなければいけない所なので、せっかくですから最後に香取君と大久保さんから・・・。今日のテーマは、一つは、感動を生むサービスがディズニーランドにあるということなのですが、そういう現場を作っていくリーダーの役目、別にリーダーというのはトップだけではなくて、現場のリーダーたちというのが非常に大事なので、今日も会場には現場のリーダーたち、もしくは現場のリーダーになろうという人たちも多いと思うので、そういうリーダーに向けて、一言メッセージをいただければなと思います。
【香取】はい。これはメッセージになるかどうか分からないですけど、僕はトレーナー、リーダーになる時に先輩に言われました。
「あなたはどんなリーダーになりたいの?」
その時に僕がうっかり言ってしまったのが
「愛のある優しいリーダー」
と、とってつけたように言ってしまったのです。
「分かった。じゃああなたは愛のある優しいリーダーになりなさい」
と言われました。そこからずっと努力してるんですが、なかなかまだまだなれません。
 ここにリーダーの方たちがいらっしゃったら、是非後輩たちに対して優しさと愛を持って接することのできる、そんなリーダーになっていただきたいなというふうに思います。優しさの形は人それぞれいろいろな形があるとは思いますが、本当に愛を持って、優しさあふれるようなリーダーですね。だから相手に期待するのではなくて、自分に期待できるような、そんな矢印を向けて、そんなようなリーダーになれたら、本当の意味でみんなから尊敬されて、この人みたいになりたいとみんなから思ってもらえるんじゃないかなと思います。具体的にはいろいろな優しさの形があると思いますが、やはり優しさを持って、いつも優しい自分でいられるような、愛を持ったそんなリーダーに是非なってください。僕も頑張りますから、一緒に頑張りましょう。
【鬼澤】ありがとうございます。大久保さんからも是非・・・。
【大久保】やはり「人を活かすことを通して自分の命を生きる人」になっていただきたいと思います。

【鬼澤】重いなというか・・・、ありがとうございます。
 やはりどうしてもお金とか、メンツとかが大事になってしまうような企業や組織が今ものすごく世の中に多くて、そういうニュースがやたら目につきますが、我々が目指そうとしている素晴らしい経営というのは、今の大久保さんの話ではありませんが、とにかく人を活かしていく、大事にしていく、そういう組織を作り上げていくと、お客様も社員もみんな人ですから、幸せな社会が築けるのではないかと思っています。
 今年も茨城県経営品質協議会、みなさんと一緒にその実現のために頑張っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
 香取さん、大久保さん、本当にありがとうございました。