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心をひとつに患者様の幸せと働く喜びを創造する病院づくり ~外科医と経営~ / 2007年10月例会

講演録(PDFファイル)をご希望の方は、氏名・年令・役職・会社名・所在地・連絡先・ご使用の目的を必ず明記の上、メールにて「心をひとつに患者様の幸せと働く喜びを創造する病院づくり ~外科医と経営~」講演録希望と送信してください。(無償にて提供いたします。ただし、ご利用の目的がふさわしくないと判断した場合はお断り申し上げる場合がございますのでご了承願います。)確認後、送信させていただきます。

心をひとつに患者様の幸せと働く喜びを創造する病院づくり ~外科医と経営~
講師: 川越胃腸病院 望月院長

 過分なご紹介をいただきましてありがとうございました。川越胃腸病院の望月と申します。実は今日のこの会、鬼澤さんからお話をいただきまして、その言葉に乗せられてやって来るのは来ましたけれど、果たして皆さま方にご満足いただけるようなお話ができるかどうか、それは全く自信がありません。また鬼澤さんから、今日は全国から人が見えるからと何度も何度も脅迫されて(?)おりまして、その点でも少々プレッシャーに感じております。
 実はこのタイトルは鬼澤さんから頂戴したものでございますが、私は元々大きなことや華やかなことが能力的にも性格的にもあまりできない人間でございまして、こういう大きなタイトルにふさわしいお話をするということはとてもできそうにありません。ただ25年間、小さなことを日々淡々と今日まで続けてきたというだけでございます。
今日お集まりのみなさま方の中に、もしこれから事業を大きくしたいという想いの方がおられましたら、多分私の話は全くつまらない内容だと思いますし失望されるだろうと思います。そういう方はどうぞご遠慮なく、安らかに!お眠りいただいて結構でございます。
ですが、私は今日こちらにうかがうのを一面大変楽しみにしておりました。と申しますのも、人と人とのご縁ということが私にとっては非常に大きな人生のテーマであるからでございます。先ほど、ブロックスの西川さんの話もありました。大久保さんの話もありました。そして鬼澤さんにこういう形でお呼びいただいたのも今まで何とか頑張ってきたそのお陰で、今日こうして皆さま方ともお会いできたのだろうというふうに思って感謝しております。

 最初に私どもの病院をちらっとご紹介いたします。まだ創立して38年の、病院としては大変若い病院でございます。川越市にございまして、病床数40の消化器科だけの、間口の狭い小規模専門病院でございます。職員数がたかだか100名前後でございまして、こういう小規模病院がどのような経営をしてこの厳しい時代を生きているのか。それを少しご紹介すればいいのかなと思っております。
消化器科だけの専門病院ですので、他の疾患の方は全くおいでにはなりませんが、それでも年間だいたい300件ぐらいのガンを中心としたメジャー手術をさせていただいております。外来に訪れていただきます患者様も1000人ぐらいはガンの患者様だと思います。
当院は3年前に消化器内視鏡センターという附属施設を新しく創りましたが、ここでは年間約1万6000件ぐらいの内視鏡件数をこなしておりまして、これが当院の診療の中心的役割を果たしております。
これは沿革です。病院自体は1969年に先代の院長が開設し、私が二代目を継承しましたのが83年でございます。それから25年ぐらい、ほぼ四半世紀何とかかんとかやってきたと・・・。その歴史を簡単に振り返ってみますと、医療サービスと職員満足の追求、この二つを私の目標にしてきた足跡かなというふうに思います。このあたりはゆっくりとお手元の資料を後でご覧いただければいいかと思います。
消化器の専門病院でございますので、地域の皆さま方にきちんと信頼していただけるだけの医療レベルを維持したいと思い、学会の施設認定はご覧のようにほぼ全て取らせていただいております。
皆さま方ご承知のとおり、10年前に日本の医療界で初めて第三者評価である、いわゆる「病院の医療機能評価制度」というものができました。1997年です。その時、第1回の発足時に当院も応募させていただき、幸いにも認定をいただきました。その時は全国でまだ8病院しか認定されませんでしたが、その8病院の中の一つに選んでいただいたということでございます。これは5年毎の更新制ですので先日再更新があり、やっと更新認定を済ませたところでございます。
院内の施設写真でございます。規模は小さくて建物も決して豪華ではありません。私的民間病院ゆえに潤沢な資金があるわけではございませんので、施設はこんなものなのですが、私たちがこだわっているのは、人様に来ていただく、人をお迎えする病院としての心と清潔、これだけは少々こだわっているかなというところでございます。

人生は不思議で面白い
 いきなりこんなスライドを出して申し訳ありませんが、実は私の自己紹介を兼ねまして、ちょっとお話をさせていただきたいと思います。私どもの病院がどうやってここまできたかということは、私が何を考えているかということと少し重なってまいりますので、少し時間をいただいてお話をしたいと思います。

 私は時々「人は何のために頑張っているんだろう、何のために生きているんだろう」ということを職員の人たちと話題にすることがあります。答えはいくらでもあるのだと思いますが、私が一つだけ決まってお話することがあります。それは『頑張っていると良い人に出会えるからだよ』ということです。これは私自身の信念でもございます。
じゃあ頑張って良い人に出会えるとどんなに良いことがあるの?ということなのですが、良い人に出会える良い刺激を受け、個人としては自分を成長させていただけるチャンスにもなる、それから企業や病院にとってはも支援や指導をいただける機会が増え、やはり成長するチャンスをいただけるということでございます。企業や病院が成長できれば良い仕事ができ、社会貢献ができる。そして個人も良い人に出会えれば視野や世界が拡がり、人生が充実する。やはり最後は良い人生が送れるということになるような気がしているんです。したがって私は「日々の仕事は多少しんどくても、辛くても、とにかく前を向いて頑張っているといつか素晴らしい人に出会え、いつか良いことにもめぐり合えるよ」と、職員に話をします。
 少し前に講演を頼まれて福岡に参りました。その夜、親友と久しぶりに飲んだのですが、ある料理屋さんでトイレに入りました。そこの洗面台の正面に私の大好きな小石原焼という焼き物の陶板がありました。そこに「この世はご縁をいただきに来た処」と書いてありました。これはとっても良い言葉だなと思って、すぐメモして持ち帰りました。
 すなわち私たちが生きていくということはこういうことではないかと。いろいろな人とご縁をいただきながら自分を成長させていく場が人生じゃないかと思っているんです。ですから今日みなさま方にお会いできたことも、私としては非常に嬉しい人生の一つの展開だろうという気がしております。

 実は私は根っからの臨床医でございます。胃がんや大腸がんを専門とする消化器外科医でございまして、経営に関しては全くずぶの素人と言ってもいいと思います。したがいまして私の話は学問的でもなければ経営の知識もありません。きちんと経営を勉強したわけでもなく、そういう意味ではみなさま方のご満足をいただく話をすることは難しいと思います。手術経験だけは多くても、経営では全くの素人だと自分では思っております。
 いわば「素人経営」を続けてきて今日あるのですが、私が一つだけ心の中にいつも思っていたのは、とにかく気持ちよく仕事がしたい、それも良い人たちと仕事がしたい、この二つの思いでございました。言葉を換えて言えば、「人にとって心地よい病院をつくりたい」、これが私の強い想いでございました。心地よいということはなかなか言葉の響きもいいし、自分の心も人の心も豊かになるので、こういう病院ができたらいいなと思ってきました。

 実は私は普通高校を出ておりません。田舎の小さな工業高校の電機科の出身です。高校3年生の春に就職活動がありまして、その時に某大手電機メーカーに就職が内定しました。しかし困ったことに私は3年間の高校生活の中で、電気の授業や実習を楽しいと思ったことが1回もなかったのです。これは私にとっては非常に苦痛でもあり不安でもありました。だんだん卒業は迫ってくるし、このままでいいのかなという不安な思いはあったんですけども、しかしそれを解消させるほど前向きな気持ちも勇気もありませんでした。
 卒業を前にした3年生の終わりの頃、義理の兄であり川越胃腸病院の開設者でもあった先代の院長が、遊びに来た私に「手術というものに興味があるか?見たいか?」と一言・・・。まあ飲んだ勢いで言ったのだと思いますが、それに私はすぐ反応してしまって「是非見せてください!」と興味深々で言ったわけです。「それじゃあ手術室の遠くの方から、邪魔にならない範囲で見せてやる」と私に言ったのです。当時は個人情報保護法なんてそういう堅苦しい法律も何もありませんので許してもらえたのだと思うのですが、手術室の片隅の壁のところで立って2時間ばかりの手術場を見学しました。
 
 それは私にとって衝撃的でした。とにかく1人の患者様を助けるために、10人ぐらいのスタッフが一糸乱れぬチームワークで、しかも緊張感の中にも心地の良い動きで全員が、1人の手術に全力を挙げている姿を垣間見ました。しかも手術という、悪いものを一旦取り去って現状を破壊し、また新しい命をそこに誕生させるというドラマに、私自身が非常に心打たれました。そこで一瞬にして私は医者になりたいと思ってしまいました。今思えば、その時に私の人生の扉が1センチほど開いたということになるのだろうと思います。
 しかし医者になりたいといってもこればかりは医学部にも入らなくちゃいけないし、国家試験にも受からなきゃいけない。国家試験なんていうのは誰も受かるのですが・・・。とにかく医者になりたい。でもなりたいからなれるという職業でもなかったものですから、これは大きな壁があることは分かっていました。しかしやりたいという強い想いは止められなくて、とにかく担任の先生に採用内定を取り消してもらいたい、私は医者を目指したい、と申し出ました。
 小さな高校は大騒ぎになりました。何せ卒業前ですし、県内で2人だけの採用枠の1人が私だった(採用試験枠をいただくのに、校長先生が何度もその本社に掛け合ったことを後で知りました)ものですから、とにかく99%の人が大反対でした。朝から晩まで校長室に拉致(?)されて、とにかく翻意を迫られました。しかし私の気持ちは変わりませんでした。最終的にはお許しをいただいて、内定を取り消しさせていただきました。実はその企業の方が本日ご参加になっておられまして、この場をお借りして深くお詫び申し上げたいと思います。
 
 とにかく私は医者になるという決意はしました。しかし経済的には国立しか行けないということが分かっておりまして、国立の医学部を挑戦し、2回目で何とか合格しました。これも私にとっては99%可能性のない道だと実は覚悟しておりました。でも私はその1%の可能性に挑戦しました。その時は向こう見ずだったというか、まだ若かったので、失敗しても、医師になれなくても、またゼロからやり直せばいいと思っていたのだろうと思います。
 私が後で振り返って考えたことは、「チャンスというのは人生誰にでもある」ということでした。それに飛びつくか飛びつかないか、その「勇気があるかないかの違いは大きい」んじゃないかと思ったんです。
 念ずれば道は開けるということで、とにかく医者にはなりました。そしてそこに待っていたのはどん底の学生生活でした。月曜日から土曜日までの夜11時ぐらいまではアルバイトに明け暮れて生活費を稼ぎました。それから夜の2時ぐらいまでが自分の机に座れる時間でした。
しかしこの生活は自分にとって非常に楽しいものでした。それは自分のやりたいことができる、夢に進んで向かっている。それ以外のことは一切辛いとは感じませんでした。
 
 医者になって大学を卒業して東京に出てまいりまして、順天堂大学の外科に入りました。これからはさらに苦しい毎日の生活が待っていました。昼は大学病院で研究と臨床の仕事をし、そして夜は川越胃腸病院の当直勤務という一年中まったく休みのない毎日でした。先代の院長が創ったこの川越胃腸病院の夜勤をほぼ1人でやり通しました。したがって24時間、365日、それを8年間続けました。ですからほとんど盆も正月も休んだことはなく、人の2倍はゆうに働きました。そういう時には時間的、精神的には結構厳しいものがありましたが、それでも医者になれた、医療の世界で仕事が出来るという想いはそれを大きく超える喜びでした。
 その時に私が夜な夜な夜勤の看護師さんの仕事をサポートしながらいろいろ見たり聞いたりしたことが、後で私が院長になってから非常に役立ちました。職員は何を考えている、何に悩んでいる、何を欲しているか、などを聞き取ることが出来ました。ですから人生には無駄はありません。経験は全てプラス、どんなに苦しい思いをしようとも、それは自分の財産にちゃんとなる、私はそういうふうに感じました。
 
 元々私は人から外科医には向かないと言われていました。結構優柔不断なところがあり、思ったことがすぐ決断できないというような性格を持っていまして、医者になっても内科か小児科向きだとみんなに言われました。しかし私は外科医の醍醐味というのが好きでしたので、外科の選択を迷うことはありませんでした。
 しかし外科になってやはり厳しい思いはいろいろしました。それはなぜかと言うと、外科医というのは手術をする時に瞬間的に現れる新しい世界を判断しなければならない。お腹を開けた瞬間に、今まで自分が予想していた世界と全く違う世界が出てくることがあります。予想どおりの世界だったらいいのですが、予想を超えるような厳しい状態が出てきた時に、その場で遅滞なく最高度の判断をしなければいけない。そして判断をしたらそのまま実行しなければいけない。実行したら途中でやめられない。リセットもできない。今日はちょっとまずかったから明日やり直そう、それはできないわけです。状況が違ったからこの次にしましょう、というようなことも許されない。したがって仕事は常にその場で完結しなければいけない。そして手術が終わってもその人の人生をずっと抱えていかなければいけない。そのような仕事の繰り返しが私の性格というか、人格というか、人を変えてくれました。もちろん本来もっている骨格部分は変わらないと思いますが、それ以外のものは仕事によって人は変わります。私はこの外科医という仕事で自分を変えてもらったと思っています。
 
 私が外科医として成功したかしないかはまだこれからの問題なのですが、成功する秘訣というのはとにかく思い立ったら始めること、始めたら絶対に途中で諦めないこと、これがコツだろうというふうに思います。
 私が当院で№2の副院長だったころ、つまり先代の院長をサポートする立場で仕事をしていた時、私は結構職員に理解のある№2でした。しかし自分がトップになってみると、同じような理解を職員の人たちに与えるということの難しさを知りました。
 立場が違うと言葉が違う。立場が違うと責任度と行動が違ってくる。これは医療の世界にはしばしばあります。私が経験しました某公立病院などで、同僚として医師と良い関係で仕事をしていた看護師さんたちが、そのドクターが開業する際に、この先生と一緒に仕事をしたいと思って退職することが少なくありませんでした。しかし開業先でそのドクターと一緒に仕事をするようになると出ると、半年か一年ぐらいで半分以上が辞めてしまう。それはなぜかと言うと、同僚としては良き理解者だと思ったけれど、院長になったらいきなり態度が変わってきた、言葉も違ってきたと、ということがしばしばあるのです。立場が言わせる言葉の厳しさというものもありますので、それを部下がよく誤解してしまう。
 自分自身もそれは経験しました。しかし私は№2の時とトップになった時の自分の経験の中から、トップというものは能力、もちろんあった方がいいに決まっているのですけども、「能力よりもやはり思いやり」だと自分で思いました。「能力の不足というのは全員の能力を結集すれば何とかカバーできる。しかしトップの思いやりの欠如というのはもう補いようがない」と思いました。したがって私は職員への思いやりということについては、一生忘れてはいけないと心に誓いました。
そんなことを考えながら、私自身が1983年からささやかな道のりを始めたわけなのです。

当院のささやかな挑戦
 今でもそうなのですが、当時は特に病院界のサクセスストーリーというのがありました。それは規模を拡大することでした。無床の診療所から始めて有床診療所に、そして病院にし、そしてどんどん病床数を拡げて大病院にしていく。これが医者としてのサクセスストーリーの標準的な姿でした。
いろいろな所で会合があって名刺交換をしたり、ご挨拶をしたりします。「川越胃腸病院でございます」と言うと「おぉ」と言って、その次によく聞かれることは「ベッド数はいくらですか?」で、「40床です」と言うと「あ、40ね・・・。それはご苦労様です」と言われてしまうことがよくありました。「小さな病院=たいしたことない病院」という医師の感覚が私には我慢できませんでした。
そこで私が思ったことは、小さくても良い病院をつくってやろう。これが私自身のライフワークになりました。
実を言うと私にはもう一つ、病院づくりの動機がありました。大学にいた時に研究者として生きたいという叶わぬ願望がありました。それが先代の院長が病気という突然のアクシデントで私に院長のお鉢が回ってきてしまったのです。後を継がなくちゃならないという責任上、研究者の夢を断ち切ったという経緯がありました。それでもただの開業医になるのは嫌だ、ただの便利なだけの医者で一生を終わるのは嫌だという強い思いがあったので、良い病院をつくりたい、いつか日本一の病院にしたい!という、ある意味途方もない夢をもっての院長生活の始まりでした。

・病院づくりの目標(1983)
 ここから病院作りが始まりました。先ほど鬼澤さんともしみじみお話ししたのですが、とにかく茨の道でございました。小さな病院が生きていくのは非常に厳しい時代。もちろん大きな病院でも厳しいし、企業のみなさん方も同じ思いをしていらっしゃると思うんですが、私もご他聞にもれずそういう思いを何年間かしてきました。
これが1983年、私が病院づくりを始めた頃の一つの目標でした。もちろんこういうふうにしてきちんと整理していたわけではありません。最近になって、あの頃自分が目指していた病院はこういうことだったなと整理しながら書いてみたのです。
地域に必要とされ信頼される専門病院をつくりたい。そして患者様との距離の近い病院をつくりたい。規模を大きくするのではなくて、成長するよりも成熟したい。何より人が育ち、人が生きづく組織をつくりたい。そして心地よい職場、そしてとにかく線香花火のように短時間で消えてしまうような病院ではなくて、長く継続できる力を持ちたい。こんなことが私の目標でございました。

・院長就任と同時に目指したこと(1983)
 院長就任と同時にまずやったこと、それはまず職員を大事にする病院をつくりたい。そのためには職員を満足させたい。職員が幸せに仕事のできる環境をつくりたい。そのためにはいろいろな要素がありますけども、まずやる気を起こす賃金制度を導入して、その人たちが頑張ったことがきちんと自分に実感できる制度をつくりたいと思ったことが一つ、これは1983年にすぐ導入しました。
2番目は、今まで医療にサービスという言葉がありませんでした。実は私、20何年前にサービスということを言い始めました時に、医療界からある意味バッシングに近いような非常な抵抗を受けたことを思い出します。川越胃腸病院は変なことを言う病院だ。医療はサービスと言ったり、看護師さんにはピンクのユニフォームを着せたり、ちゃらちゃらと社会のご機嫌をとったり、注目を浴びるようなことばかりする、というような陰口を言われたことがよくあります。しかし今にして私は、医療がサービス業であるということにきちんと焦点を定めたということは間違っていなかったと思います。今になってやっと、医療はサービスでないと言う人は1人もいない時代になりました。
 もう一つ私が心にしましたことは、先ほど同僚として良かった医者が院長になった途端に変わったという事例がたくさんあるということを申し上げましたけども、それはなぜかと言うと、院長になった途端に企業の論理が先走るからなのです。今までは人の論理で自由にお話ができていて良い理解者だった、良い医者だった。こんな先生と仕事がしたいと思う人がいっぱいいた。しかしトップになると今度は違う論理が出てくるために、今までになかった経営者の姿を見せるようになってしまうわけです。
 
 ここで私が考えたことは、人の論理、つまり職員の立場を理解するということと、企業が生き残っていくということ、この二つのバランスをとる経営ということをしたいということでした。企業の論理は経営者としては当たり前ですから、逆に言えば人中心、人を活かす、人を大事する経営をしたい。こういうのが私の考え方の出発点でした。

 病院は企業とはやや活動目的が異なりますので、その最大価値がどうかと言うと、その第1は診療実績です。私どもの病院で言えば、胃がんや大腸がんなどの消化器がんの患者様を1人でも多く助ける。そして心温かい医療サービスを展開することによって、患者満足を追求したいということです。そしてその結果、1人でも地域や家族にとってかけがえのない人たちの命を助け、その方々が社会にもう一度復帰をされて、その方々が社会で大きな仕事や役割を担ってくだされば、それは直接間接に地域へ大きな貢献ができるだろう。そのことによって社会満足を得ていきたいということになろうかと思います。

 そこで私自身が考えましたことは、とにかく医療の理念をきちんとつくろうということでした。そこで考えたのが、「医療は究極のサービス業」だということです。普通のサービス業じゃいけない、究極のサービス業にしようというふうに思いました。そして「医療は人」、人が支えるものだから人を育てなくちゃいけない。そして人の活動に置いて何よりも大切なことが「医療は言葉」、言葉が大きな意味を持っているというふうに思います。

 そしてこれらの想いをロゴマークまとめてみました。これはもちろん川越胃腸病院のKなのですけども、左側の縦棒はろうそく、すなわち『ともし火』です。医療はサービスという医療理念の灯に、右の「人」が集まって川越胃腸病院「K」を創るという想いをロゴマークに託しました。

・経営理念確立の前提
 そこで経営理念を立ち上げるわけですが、「医療は究極のサービス業」であるということを根本にして考えました。そして「良い医療は良い医療人から」、逆に言えば良い医療人でないと医療はできない、こういうことがまず第一、それは人づくりということになります。そして二番目は、「消化器科専門病院としての機能と質を徹底的に追求していこう」。これは診療実績を上げようということです。そして三番目には、「すべての顧客満足をめざす」、つまりCS経営を展開していく。

この三つが私どもの大きな柱となって経営理念をつくりあげました。もちろんこれは44年の創立の時からおぼろげながらはあったのですが、それがだんだんと整理されて、今のような形になりました。これは患者様の満足の幸せの追求、そして集うスタッフ、職員の幸せを追求する、そして病院の発展性と安定性を追求する。この三つを柱といたしました。
その理念を実践する基本的な方針として、「高水準の専門医療技術と患者様の立場に立った心温かい医療サービスをもって医療活動を遂行し、人間性尊重の医療を行う病院を目指す」と定めました。

・経営戦略と方針
 理念はどんなに立派でも、それを実践しなければ全く意味がありません。その理念を実践するための戦略、戦略という言葉は医療にはあまり馴染まないので好きではないのですが、方針としてはこうなります。つまり第一が何としても良い人をつくる、人材基盤経営。そして良い人により強い組織をつくっていく。そしてその組織で満足と感動の仕事をする。そしてその仕事の成果によって社会に貢献する。この単純明快な四つの方針が私自身の病院づくりの根幹です。

・ひと満足の好循環スパイラル
 これを1枚のパネルにしたのがこれです。実はこれは私が作ったものではありません。私どもが日頃しょっちゅう職員に会話し、お話ししていることを、一職員が「院長の話していることはこういうことですか」というふうに自分で考えて作ってきたものです。それを見た時に、「これはいいね、よく整理されているね。これ、是非使わせてちょうだい」と言って使用しているのがこの「ひと満足の好循環スパイラル」でございます。
すなわち経営理念を柱にして、まず第一に集うスタッフの幸せの追求に全力を挙げる。スタッフの幸せがきちんと行き渡れば、職員のモラルや能力がアップします。職員がモチベーション高く仕事をしてくれれば、高水準の専門医療技術、心温かい医療サービスを通じて患者様の満足と感動の仕事を届けてくれる。患者様が満足してくだされば、病院の社会的評価が上がって患者様が次の患者様を産み、結果として患者数が増える。そしてそれは病院の収益性を向上させる。それが病院の安定性を維持する。病院が健全経営を維持して発展できれば、それは賞与や昇給につながる原資に余裕が出てくる。それをまた次の人間性尊重の職場づくりに投資して、さらなるスタッフの幸せにそれを回していこう。こういう右回りの循環スパイラルというのを、私どもは強力に右に回す努力をしています。
右回りのスパイラルですが、これを回すエネルギーは経営理念に対する職員の理解と共感です。そして病院と職員との相互信頼、お互いの発展を目指すという共創の理念というものがこのサイクルを回すエネルギーになっております。
スパイラルですから、これはどこが分断されてどこが途切れてもスパイラルは完成しません。したがってこれを真剣に、かつどの部分にも手を抜かないでやっていかないと成立しないものだと思います。
実はこのスパイラルを見ていて、ある事務職員がこう言いました。「院長先生、これって私たちのハッピースパイラルですよね」と。「君、良いことを言うね」と私もその考えに感動したのですが、確かにこれは誰もが幸せになれるスパイラルです。誰も不幸にならない。したがって誰にも抵抗がない。こういうプラスのスパイラルを回していくことが大事だと思うのです。誰かが犠牲にならなければいけない方針やスパイラル、これは絶対に長続きしないと思うのです。

 実は先々週ある福祉関係の団体に呼ばれてお話をしてきました。介護の人たちは今非常に悩んでいます。この間テレビを見ていましたら、介護のコマーシャルが出ていました。それは「私たち介護職員には明日が見えません」というコマーシャルで、心に残りました。あの人たちは非常に安い給料で働いています。私たちから見るとびっくりするぐらい安い給料です。そういう中で、あの人たちは介護イコール自己犠牲ということで頑張っています。しかしこれは長続きしません。必ずどこかで破綻します。そういう犠牲の上に成り立つような政策や経営というものは絶対に長続きしないというのが私の考え方です。
これは私たちのスパイラルですが、これは誰もが幸せになれるスパイラルとして、みなさん方にちょっと参考にしていただければいいかなという気がします。

・病院づくりは人づくり
 そこで私は病院づくり、組織づくりをするときに、こういう順番で考えています。人をつくって組織をつくる。組織ができれば仕事ができる。仕事ができれば社会に貢献ができる。つまり病院づくりはまず人をつくらなければだめだと・・・。病院を企業と置き換えていただいて結構だと思います。
私は企業のことはよく分かりませんが、日本は形から入る、システムから入る、制度から入るということがしばしば行われます。私はこれは基本的にはあまりうまくいかないだろうと思います。とにかく組織を支える人の理解がない、人の思いがそこについていかないのに組織図だけ作っても、形だけつくっても、箱だけつくってもだめだと私は思います。ですから私たちは遠回りであっても、まず人からつくっていこうというふうに思います。
そこで私自身は個人としての能力に限界があるので、実はあまり規模を大きくできないのです。私が一人ひとりの顔が見られるのはせいぜい100人、だからこの規模に留めている。実はそれが本音なのです。

職員の育成と定着 
 ここで私はどうやって職員を育成してきたかということに話を続けてまいります。
実は病院業界というのは極めて定着率が悪い。本当にすぐ辞めてしまいます。産業界よりはるかに定着率が悪いのです。どうしてこんなに定着性が悪いかというと、医療人の気質にも問題点があるように思います。

職員定着に関わる問題点
 これは先ほどもちょっと鬼澤さんとお話をしたのですが、実は医療人というのは国家的なライセンスに守られている人が圧倒的に多い。つまり資格を持っている。簡単に言うと、包丁一本さらしに巻いて、すぐに全国どこへでも放浪の旅に出てしまうのです。つまり包丁の代わりに資格免許証というのがあれば、辞めても明日からどこでも勤められるわけです。そうするとちょっと嫌なことがあるとすぐ辞めてしまう。そして長続きをしないというような状況が作り出されます。しかし一方では、例え少々給料が低くても、自分が納得できる仕事がしたいという熱い思いにかられている医療人も多いのです。
そういう人たちにはどういう共通項があるか。組織で仕事をしない。チーム医療と言いながら、みんなでまとまって動かない、チーム医療という意識が薄い人がいる。自分が納得できる仕事ができればそれでハッピーだと思っている人が少なくない。そういう人たちをまとめていくのが難しい。

 組織の定着性ということを考えると、問題点は病院側にもある。そして個人側にも問題がある。それを整理してみると、病院側としては理念や方針や戦略がしっかりしていないと、これでは内部がばらばらになるのは当然です。理念や方針がしっかりしていないから、仕事を評価してあげる仕組みもできていない。ですから頑張る人が報われないということになって、これが定着しない一つのパターンです。

 では個人はどうかというと、職員の側からいくと、まず職員の気質として何をやりたいという、例えば医師で言うと「自分は内視鏡をやりたいんだ」、「俺は手術をやりたい」というようなことをまず言います。こういうことを突き詰めてみると、まず個人目標が優先している。「僕はこの病院のために働きます」なんていうことを言ってくれる人は1人もいない。最初に個人目標が常に優先するためにチームや組織がまとまらない。それぞれが自分の目標に向かって仕事をしているために、ばらばらな方向を向いて仕事をしているから、組織全体としての一つのまとまった体制ができない。それがまた定着しないということにつながります。
それらの要因がまた交互に関連しますので、病院界という所はなかなか職員が定着しないという複雑な図式がここに出てまいります。これらをどうやって修正していくかということが大事だと思います。

ある雑誌が看護師さんに転職意識についてアンケート調査を行いました。そうしたらなんと85%の人が転職を考えていると分かりました。すごい数字ですよね。一般企業であればこんなことはないと思います。
その中で実際に転職した人は3分の2に及ぶというのです。これだけ看護師さんというのは転職率が非常に高くて定着しずらいという一つの証拠だと思いますね。

離職(転職)理由の比較
 先ほど介護の話をしましたが、その時に使ったスライドです。転職した理由を看護師さんと介護の職員と比較してみました。そうすると看護師さんはまず人間関係が転職理由の第一でした。2番目はスキルアップ。自分が成長したい、新しいことを勉強したい、だから環境を変えたいということです。3番目が待遇でした。
 片や介護の職員はまず第1が待遇でした。2番目が人間関係、3番目がスキルアップ。実は介護職員にはいちばん先頭に個人的な理由というのがありました。これはちょっと分析できないので外させていただいて、はっきりとした要因にまとめるとこういう形になりました。

 そうすると面白いことが分かりました。人間関係、スキルアップ、待遇というこの3要素は両方とも同じでした。順序が違いました。明らかに違うのが待遇ということです。
つまり看護師さんたちは、一応自分が貰っている給与やいろいろな待遇についてはあまり不満を持っていない。それよりも人間関係が悪い職場だったら転職しようと思っている。
これは何かというと、実は多くは医師に対するストレスです。医者はわがままで、「とにかく俺の言うことを聞け!」、「文句を言うな!」とかそういうような体質がまだ色濃く残っている。私を含めて・・・。やはりそういうことが看護師さんに非常にストレスになるのです。ですから医者との関係に疲れてしまって、もっと良い所に変わりたいという人がいます。でも昔よりも良くなりましたよ。医者も随分と遠慮するようになりましたので、昔より良くなったのですけども、それでもまだ残っています。
介護職員の人は、やはり待遇が悪くて、このままでは生活していけないということが多いようです。

職員が定着する3つのキーワード
 これらのことから職員が定着する三つのキーワードを整理するとこうなると思います。
まず第一は、仕事のやりがい
そして2番目には、評価と報酬
そして3番目は、働きやすい環境
この三つをきちんと整備してあげることが定着を高める大きな大前提だと思います。

人事管理方針
 これが私どもの病院の人事管理方針です。実は人事管理という言葉もあまり好きではないのですけども、まあ一応一般用語ですから使います。それは原則を言うと、「選んで」、「育てて」、「活かす」ということです。まず良い人材を採用しよう。2番目には、選んで採用したらとにかく一生懸命育てよう。そして育てたら社会に有為な人材としてそれを活かしていこう。この三本柱でございます。

採用(面接)基準
 これが私たちの病院の採用面接の基準です。こういう人を採用できるように努力しています。
まず第一には、経営理念に対する共感度、これはもう絶対条件です。そして個人目標よりも組織目標を大事にしてくださる人。そして学歴や資格、経歴、経験年数、これらは私にとってはたいして関心がありません。それよりも社会適応能力や人間力。簡単に言えばどんな資格があろうともなかろうとも、人間的な魅力を感じるか感じないか、つまり私が一緒に仕事をしたいと思う何かがあるかどうかということの方が、私の選択基準としてはかなり重要です。そして俗に言うIQよりもNQやEQ、つまり思いやりの指数とか感性の指数とか、こういうものを大切にして採用するようにしています。

 DVDの中にも出ましたが、私は職員の採用試験には必ず参加します。例えそれが清掃担当のスタッフであろうと、売店のパート職員であろうと、派遣職員であろうと保母さんであろうと同じです。それはやはり良い人を選択するということが人づくりの中では絶対に欠かせないことだと思っているからなんですね。

 そこで私がやることは、まず徹底して理念を話します。これは1時間でも2時間でもお話しします。だいたい、もういいよというぐらいにやります。多くの場合は、看護師さんにこういうことをやりますとだいたい嫌われます。なぜかというと、看護師さんというのはそういう教育を受けていないのです。そしてだいたい「理念って何ですか?」と云う感触です。私は面接する時に看護師さんに「前にあなたが勤めていた病院の病院理念とか看護理念って何ですか?」と言うと、答えられる人はまず95%以上いません。それだけ理念というものを頭に入れて仕事をすることが大事だということを1回も教えられていない。教育されていないのです。
理念が病院にあっても、それが理事長室の壁の飾り物であったり、看護部長室の壁に張ってあったりするだけで、一般の人たちは誰もそれを知らない、と云うものでは、そんなものは全く意味がない。私たちの病院はそうではいけないと思っていますから、とにかく理念というものを、私たちはこういうことを大事に病院として活動します、これを柱にしています、将来はこういう病院になりたいと思っています、ということを徹底して何時間でもお話します。
だから最初の面接はだいたいそれで終わりになってしまいます。面接に来た人はそれで度肝を抜かれて、2回目には来ない人もいっぱいいます。あんなうるさい病院ではとても自信がないと・・・。「どうしましたか?」と電話すると「ちょっと自信がなくなったので・・・」とヘジテイトして2回目から来ない人もいます。でもそういう人は要らないのです。そういう人は私の対象外ですから・・・。
2回目に来る人は何か脈がありますから、また同じような話を更に深く繰り返していきます。その時に必ず言うことは「採用面接というのは私達だけがあなたをテストしているんじゃないんですよ。あなたも病院をテストしてください。あなたの目で自分の人生を託すだけの価値のある職場なのか、病院なのか、それをしっかりと見極めてください」と。だから1回目や2回目ですぐ入りたいという人でも、すぐには結論は出しません。「もうちょっと時間をかけて、よく自分で見て、できればほかの病院も一つ二つ面接してきて、その中でどうしても最後にうちの病院が残ればまたお会いします」というふう話します。

 とにかく面接には時間をかけ、双方が納得いくまで何回でもやります。ですから、自分は5回も面接されたという方が職員の中にもいます。2回とか3回でパスした人もいて、何が違うんだろうとよく言われてしまうのですが、それだけ納得するまで時間をかけるというのが私の採用方針の骨格です。ですからすごい時間がかかる。エネルギーも要る。一方では手術もしなくちゃいけない、外来も検査も仕事は山ほどあるけれど、これだけは欠かさないでやってきました。

 実を言うとこれが人づくり、組織づくりの核心だと私は思っているんです。だから組織に合わない人は入れない。組織に馴染まない人は最初から入れない方がいいんです。入れて攪乱されるよりは、最初から門戸を厳しくして選んだ方がいい。
こんな偉そうなことを言いますが、実は私が院長になって最初の10年間、こんなことはとてもできませんでした。それは私の能力もなかったし、そういうことを手順をふんで採用するだけの私自身の我慢もできなかったんだと思うのです。その時は見事の連続でした。採用しても採用してもみんな辞めていくということの繰り返しでした。
それは最初言いましたように、ラインセンスさえあればその日の仕事のためにすぐ採用してしまっていたからです。現場が苦労している姿を見て、なんとか早く埋めてやりたいと思えば、不安だらけと思いながらも、それでも採用していました。それが最初の10年間ぐらいの私の失敗の原因でした。
それから徐々にこういうようなスタイルをとるようになって、自分自身も我慢ができるようになって、少しずつ良くなってきたかなというふうに思います。

 もう一つ採用に関する当院の特徴は、入職前に給与額を約束したことが1度もないということです。それはまずとにかく理念とかそういうことをお互いにしっかりと話をして、ここの病院で働きたいか働きたくないか、あるいはそこまでいかなくても、この病院の考え方や生き方に何か触覚に響くものがあるかないか、そういうものがあるかどうかということを採用の前提にしていますから、条件優先で、例えば給料はいくら貰えますか、休みは何日ですかというようなことを前提に選んでくれる人はまず採用することはいたしません。
職員の立場からすれば、川越胃腸病院に就職できるのは嬉しいけど、給料がいくら貰えるかぜんぜん分からないということは相当不安であることには違いないと思います。しかし給料面でも職員の期待を裏切ったことはありません。私の心の中には絶対に前職よりもプラスアルファした条件で迎えてあげるという自信があるからこそ、こういうスタイルが許されるのだと思います。でも条件次第で入ってきたんじゃないという動機は、これから先の仕事をするのに非常に大きなポイントだろうというふうに思います。要するにこの病院に来ればどういう仕事ができる、みんなとどういう思いで一緒に仕事ができるということを選んで来てくれた人の方が育っていきます。

 私がなぜ職員に繰り返し繰り返し経営理念の浸透を行うのかといいますと、実はこれなのです。ピーター・ドラッカーがこんなことを言っていました。
組織において成長するには、自らの価値観が組織の価値観になじまなければならない。同じである必要はない。しかし共存できなければならない。さもなければ心楽しまず、成果もあがらない。
まさにこのとおりだと思います。したがって「経営理念の共有こそ、職務満足の第一要件」だと思っています。

 私どもは戦略ツールとしてBSC(バランスト・スコアカード)を少し活用しています。これは職員と病院との方向性を一致させる一つのツールも有用です。
病院理念のミッションからビジョンに落としこんで、それを病院の戦略とし、それが部門の戦略に落としこまれて、最終的には職員の戦略、職員の目標にまで縦に1本の楔を打ち込むということです。つまり簡単に言えば、同じ目標に向かって努力するということの一つの方針を病院できちんとつくろうということでございます。

・人材の育成方針
 人材の育成ということですが、簡単に言えばこの四つかなと思います。
一つは、私どもの病院ではとにかくみんなで人を育てようと・・・。私自身が1人で職員を云々ということでは決してありません。採用したらあとは職場でみんなで育ててくれるということです。そのキーワードは愛情です。1人が上から下へ育てるのではなくて、みんなが一緒に育っていこうよ、みんなが一緒に大きくなっていこうよという、いわゆる「共育」の方が良いと思います。
2番目、これは大事なことなんですが、人を育てようと思えば、「仕事で心が奮い立つような体験を現場で積ませてあげる」ということがキーポイントだと思います。つまり感動ということですね。仕事によって患者様から感動の声をいただく、そして感動の場面に自分が直接立ち会っている。こういうような経験というのが仕事の醍醐味となり、職員の充実感になっていきます。こういうものを経験するとまた頑張ろうと、給与の額とかそういうものを超えたはるかに大きな、心の琴線に触れた感動ですから、これが大きな大きなエネルギーになっていきます。
そして「目に見えない報酬こそ育成の基本」、つまり評価ということですね。評価はしばしば給与をどうするかとか、昇給をどうするかとか、賞与の額をどうするかということになりがちですけども、これは違います。もっともっと深い、目に見えない報酬こそいちばん職員が求めているものだと思います。つまり簡単に言えばお金のかからない評価ですね。ちょっとした言葉かけ、ちょっとした気遣い、こういったことが職員の心を奮い立たせます。これは上に立てば立つほど大事な要件だと思います。
先日妊娠してつわりのひどい職員が、つわりということをあまりみんなに分からないように我慢をして仕事をしていたのですけど、私が通りかかっているということを知らないで、診察室の後ろの手洗いの所でゲーゲーやっておりました。私が後ろを通りかかったので、ぽんと肩を叩いて「無理はするんじゃないよ」と一言声をかけただけで、もうつわりが吹っ飛んだと後で同僚に言ったそうです。
こんな簡単なことでもいいのです。職員はトップ自ら自分のことを心配してくれている、自分のことを見ていてくれているという思いが相手に伝わっただけで、もうその職員は活き活きです。こういった小さな目に見えない評価、報酬とまではいかないけれど、そういう気遣い、心遣いが上司には必要だろうと思います。それは別に院長でなくてもいいんです。組織長で十分なんです。
そして「個人と組織の相互発展を目指す」ということが大事です。個人の発展と組織の発展は同一線上になくちゃならないということですね。別々の方向を向いている組織は非常に難しいと思います。
育成ということですが、先日ある会合で当院の看護部長がある病院の看護部長と同席をする機会がありました。その病院で以前勤めていた若い看護師さんが今当院に転職してきて勤めている、そういう病院の間柄だったものですから、つい転職してきた看護師さんの話になったそうです。実はN君という看護師さんは前の病院で仲間にされず、転職してうちに来たわけです。その看護部長さんがおっしゃるには「あの子は物覚えが悪くてね、教えても教えても頭に入らなくて、みんながもう嫌になっちゃったのよ。結局あの子はうちではついていけなくて川越に移ったんでしょう」という話でした。
事実そのとおりかも知れません。彼女は一つのことを覚えるのに人の2倍の時間がかかります。しかしなかなか良いところがあるのです。笑顔がなかなか良い。一つのことをやるのに人の2倍も時間がかかるものですから、さぞかし現場は手を焼いているだろうなと思い、そういう中では本人も厳しい思いをしているだろうと思って、私も半年後の面接の時に「どうだ、正直に言ってごらん。うちの病院を辞めたいと思ったことがあるだろう?」と聞いてみたのです。そうしたら即座に「それだけはありません!」と言ったのです。それさえあればこの子はものになると。そして現場に伝えて、この子は当院に定着しようとしているから、人の2倍時間がかかってもちゃんと育ててくれと話をしました。
実は当院ではいちばん若いスタッフで経験も乏しいのですが、先日深夜の2時にある患者さんの緊急手術がありました。こういった時間にもかかわらず、非常召集をかけたらこの看護師さんがいの一番に駆けつけてきました。だからどんなにできない、できないと云っても、前の職場で育たなかったんじゃなくて、育てようとしていなかったんだと思いました。愛情を持って育ててやれば、達するレベルは違うかもしれませんが、貴重な職員にちゃんと育つということを私自身はこの例からも感じております。

・職員の3つの満足
 職員には3つの満足があると私は思います。経済的な満足は当然です。これはイコールそこに「納得」というキーワードをつけました。
医療界では今看護師さん募集に躍起になっています。7対1の入院基本料が設定されてからより一層過酷になりました。大病院が看護師さんを一網打尽に連れていってしまうのです。そうすると地方の中小の病院は看護師さんが不足し病棟を閉鎖したり、あるいは廃院に追いやられている病院がいっぱいあります。
そういう病院では、看護師さんが辞めると言い出しますと、経営者は困るわけです。したがって「頼むよ、1万円給料を上げるからいてくれよ」というようなことがよくあるそうです。これは絶対にやってはいけません。これをやると給与のバランスが見事に崩れて、いる人のやる気をそぎます。
だから経済的満足というのは誰もが納得できるものであるということ、これが重要なキーワードだと思います。
1番目より大事なのは、実を言うと2番目です。心理的な満足、これが「やりがい」ということです。仕事の質と充実感、達成感、それから成長とか向上、責任と評価、職場環境などの心理的な満足こそ、私は職員にとっていちばん大きなものだというふうに思います。もちろん1番目がきちんと成立しているという条件はつきますけど・・・。
3番目は社会的満足、つまり「誇り」ということですね。どこの病院に勤めているのかということを胸を張って言えない人がいっぱいいます。これはかわいそうだと思います。それは自分の病院に誇りを持てていないということですね。お金を貰うためだけに、給料を貰うためだけにその人は働いている。これでエネルギーが出るわけはないと私は思います。

ハーズバーグの「動機付け?衛生理論」というのがあります。つまりこれは何を言っているかというと、人間関係とか、給与とか、身分とか、地位とか、そういうことを一生懸命整備をしても、職員のやる気を高めるレベルには届かないということなんですね。給料をいくら高くしても、職員はそれでやる気を出すかというと限界がある。それをやる気を高めるところにもっていくためには、どうしても動機付けの要因、達成感、成長感、評価とか責任とか、こういったところに焦点をもっていかないと、不満ではないけれど満足はしていないという変な状態が起きます。これをよく考えておかれた方がいいと思います。

昔から人の育成ということで、よくこの山本五十六さんのお話が出てきます。
「やってみせ 言ってきかせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」
山本五十六さんですから、もう何十年も前の人の格言ですね。
これに対して最近のサラリーマン川柳を見たらこういうのが出てきました。
「やってみせ やらせてみたら もう来ない」
「してみせて 言って聞かせて ムカつかれ」
もう今の時代の育成は非常に難しいですね。昔の格言がそのまま通用しない。
もう一つあります。
「鉄は熱いうちに打て」
というのがありました。鉄を打つと現代ではどうなるか。
「熱い鉄 強く打ったら すぐに辞め」
「熱いうち 叩き曲がった ままになる」
こういのがやはり最近の若い人たちの難しいところでしょうか。

・仕事の評価
 仕事の評価ということなんですが、私は仕事とはこう考えています。
仕事とは、人の幸せや社会の発展に貢献することを目的とする活動で、相手に価値を生んで初めて完結するもの。
相手に価値を生んで初めて完結するというのは、実は大久保寛司さんのお話をちょっとパクらせていただきました。
先日大久保さんとお話をしている時に、こういうことをおっしゃっておりました。「相手に価値を生んで初めて完結する。ただやったというだけでは仕事とは言えない」という大久保さんのお話、全く同感いたしました。
つまり仕事をするということは業務をこなすということとは違うし、ましてや指示をした、命令をしたということだけでその人の仕事は完結していない。相手が価値を生んで初めて完結する。そこまでを確認してその人は初めて仕事をしたということになるわけですね。
したがって「ああ、忙しい、忙しい。今日は仕事した!」とか、よく仕事、仕事という言葉をみなさんは簡単にお使いになると思いますけど、完結して初めて仕事というところまでいくと、実は仕事をしている人はあまりいないのかもしれないという感じもします。
私はいつも「自己満足の仕事は道楽だよ、それは仕事じゃありません」と職員の人たちに言うんです。道楽ならばいいけれども、相手に喜んでもらって、相手に価値を生んで初めて仕事というものですよということを、私の自己反省も含めてよく話をいたします。
私が仕事の成果を評価するのはこういう方程式です。その人の「能力×努力×方向性(目的)」です。能力というのは、極端なことを言うと1から10まであるとしましょう。実はそんなに違いはないんですけども、極端な話として1から10までとします。努力も0の人はいません。私は何も努力していませんという人はいませんから・・・。努力も極端なことを言えば1から10まであるとします。じゃあ方向性も1から10まででしょうかというとこれは違います。方向性は?100から+100まであります。つまり組織の方向性、企業の方向性、病院の方向性と逆噴射した方向性ならばマイナスです。ですから掛け算をしたらすごいことになっちゃうわけですね。能力のある人ほど逆噴射したら、その人は絶対に組織にいてもらっては困る人なんです。ですからこれをなんとかマイナスではなくてプラスの方向に向かせてあげなければいけない。それが上司の役割です。つまり路線をきちんと軌道修正してあげて、いつも焦点が病院の方向性、組織の方向性にきちんと合っているということ、そういう方向にもっていってやることがその人の幸せであり、病院の幸せでもあるということですね。
実は面接の時にこの方程式を紙に書いてテーブルの上に置き、評価を伝える時に職員の人たちにこの方程式を見せながら話をしているんです。

・能力
 能力というのは専門技術能力とか社会適応能力とか、健康管理能力とか、こんなものがあると思いますが、この中で圧倒的に大事なのが2番目、社会適応能力だと私は思っています。もちろん私は医者だし、看護師さんとか、薬剤師さんとか、自分の専門技術能力を発揮したいと思って病院に来る人たちには、この能力も評価してあげなければなりませんが、最終的に患者様をどれだけ幸せにしてあげられるかという視点で考えるならば、2番目の方がはるかに重要だということになります。この中で特に大事なのはコミュニケーション能力というものだというふうに思います。
私の友人の話をします。彼は私が認める非常に素晴らしい人格者で、本当に真面目な医者なんですけども、この友人の外来では1から10まで全部患者さんの話をよく聴きます。ですから私が5分しか1人の患者様に時間を割けられないのに、彼は15分、20分と長い時間をかけて診療します。それだけ患者様の言うことを聴いてくれるドクターであればさぞかし満足度は高いだろうと思いますでしょう。でもそうではないんです。なぜか低いんです。なぜかと言うと、聴いてはいるんだけども患者様が納得する返事が返せないのです。これはだめなんです。
つまり患者様というのはなぜそんなに延々としゃべるかというと、自分の思いを聴いてくれという一方で、自分の迷いや自分の困っていることに対して返事をくれ、それをどうしたらいいんだということの返事を求めているわけです。だから20分かけても、30分かけても、話を聴いてくれるだけじゃだめなんです。瞬間的にその人の悩みや問題点を自分の頭の中で整理して、それに対する的確な返事をしてやらなきゃいけないということですね。ですから診療時間の長さと患者満足度は必ずしも関係ない。もちろん1分や2分でパーッといかれたら、それはもう何もできませんけども・・・。
したがってコミュニケーション能力というのは双方向の意見がきちんと納得できるような形で成立して初めてコミュニケーションだということで、一方的に話を聴いても、一方的にしゃべってもそれはだめだということになります。

・賃金制度
 私どもの賃金制度ですが、導入の目的は、頑張った者がきちんと手応えを感じられる給与制度にしたい、やる気が起きる制度を導入したいと云うことでした。ご縁をいただいて東京の賃金管理研究所の指導を受け、新職能給制度を1983年から運用しております。弥冨会長と所長のご指導をいただいているわけですが、仕事の質と責任度は等級で評価し、熟練度と勤続というのは号俸で、この二階建てでやっています。この点はどこの給与制度でも大きな差はないと思います。昇給というのは年2回の成績評価に基づいて昇給評語を決定して行います。昇格というのは直近数年間の昇給の評語が一定の基準を満たして、かつ仕事の質の向上が認められ、上位水準の職能の発揮が期待できると認めたときに決定します。この制度の素晴らしさは、時代の変化にもしっかりと対応できていると云うことです。
左が等級の説明書ですが、詳しいことはここでは割愛いたします。

・成績評価制度
 成績評価制度です。頑張った者が報われるということにするためには、当然その仕事を正しく評価しなければなりませんから、その評価システムが必要だということになります。病院界では多くの病院でこの成績評価制度がうまく稼動しておりません。
なぜ稼動していないかと言うと、その人の技術のレベルばかりを評価しようとして壁にぶち当たり、そこで止まってしまうことが多いようです。たとえば医師の話ですが、あの人はどういう手術の技術を持っている、この人はどういう内視鏡の技術を持っている、そういうことをやり始めますと、A医師は30人の患者さんを診られる、B氏は15人しか診られないということになると、それではA医師の方が2倍の良い評価かというと必ずしもそうはいかない。でも多くの病院はそれで判断してしまいます。ですから医師の月間の患者さんの数とか何とかグラフにして張り出して、どこかの保険会社の月間の業績のようにしてしまう病院があるそうですが、私はそれではうまくいかないと思います。

なぜかと言うと、医療人の評価では必ずしも数字に反映されない業績を持つからです。せれが「サービス」ではないかと。私たちは「医はサービス」ということを視点にして評価しようと思ってきましたから、どんなに優れた技術を持っていようとも、患者様が満足し、患者様が喜んでくださらなかったら、その技術はないと同じだと思っています。したがって技術というのは相手を満足させるための一つのツールであって、それが技術イコール絶対評価の対象じゃないと私は思っているのです。すなわち相手の価値を生まない技術は本当の評価に値しないということです。

成績評価のもう一つの特徴は、相対評価であると云うことです。この前どこかの講演に行った時にある病院の先生と立ち話になりました。「私の所は相対評価にしていたらどうもうまくいかなかったから、絶対評価に切り替えようと思う」とお話しになった院長がおられました。私は絶対評価というのはかなりリスキーじゃないかと思っているのです。なぜならば人間の評価を、絶対評価を評価できる人なんか誰がいるんだろうと思ってしまうのです。ですから私はスーパーマンや並外れた能力の人が1人で評価するのなら別ですけど、そうじゃない複数の人が評価するんだったら、やはりそれは相対評価の方がリスクは少ないと思います。それと相対評価というのは目のバランスですから、評価者によってあまり大きなブレがないという気がしているのです。
大事なことは、直属の上司に1人で評価させるということです。その評価者は病院がしっかり選定しなければならない。評価者訓練もきちんとやる。
項目はだいたいこういうものです。4つの大項目とそれぞれに5つの小項目があって、合計20項目の要素について評価してもらうんですが、その評価の点数は6点から14点ということで、中間の10点を標準者に定めます。ですから評価する時に、例えばこの項目だったらこの子がだいたい標準だなと思うその子を標準の10点にまず置いて、この子よりも優れているか、この子よりも劣っているか、そういう目のバランスで点数を配置すると誰がやっても比較的うまくいくかなという感じがしております。
その総合得点で上から順位がつけられます。それによって、(S)(A)(B)(C)(D)の5ランクに一応分けて評価するようにしています。(S)はだいたい5%ぐらい、(A)が20%ぐらい、(B)が55%ぐらい、(C)が15%、残りの(D)が5%、こんな感じです。

・賞与配分方式
 当院の賞与配分方式です。これが私どもの大きな経営特徴だと思います。もちろんボーナスですから、収益に連動して支給することは当然ですね。利益の分配であるということはきちんと理解させます。
しかし私どもの病院の賞与配分の特徴は、その個人別配分の仕方にあると思います。基本給比例分プラス成績比例分の合計に出勤係数をかけるのですが、その成績比例分というところに特徴がございまして、個人の成績プラス部門全体の成績を評価すると云うところです。
どういうことかと言いますと、個人の成績というのは先ほどお示しした成績評価の順位別配分点数を傾斜をかけてやります。それから職位、等級の高いほど配分点数が高くなっていますから、成績によってもそうだし、職位によっても高くなるという構造になっています。
部門の成績っていったい何だ?って言われると思いますが、これは私どもの病院でもう20年間行っている患者様満足度調査結果を参考にします。これは800人から1000人ぐらいの患者様に満足度調査で各部門の人的サービスを評価していただきます。それは各部署によって全部署同じように、お掃除の整備課に至るまで、人的なサービスはどうかということを5点評価でいただいております。それを約1000人集めますとかなり正確な良い情報になります。それによっていちばん最高度の部署から貢献度点数として傾斜をかけていきます。いちばん低い所は0.8ぐらいにして、いちばん高いところを1.2ぐらいに分布させると、部門全体で頑張ったことも評価されているということになって、個人の成績プラス部門の成績ということが反映されていい形が出てきます。そうすると部署間の良い緊張も出てきて、これもなかなかいい競争意識に繋がっているようです。
ですからまず利益が出たら、その利益の中から賞与総原資額を決め、まずその中から基本給比例分を先に控除して、残りを成績比例分の総額にする。その総額を個人の成績と部署の成績によって配分してあげるという構造になっております。

・成績評価のフィードバック面接
 多くの病院では賞与額を決定したら、「はいご苦労さん」と云って部署の上司から自動的に渡されるのでしょうが、私たちの病院はここからが大変なのです。ここから一人ひとりのスタッフに成績評価のフィードバック面接というのを行います。これが大変なのです。もちろん部署の所属長、例えば看護部だったら看護師長や部長による個人面接がしっかりある。これは、あなたの半年間目標にしていたことに対してここまで到達したね、これは課題として積み残したね、というような目標管理中心の面接が当然ある。
これと並行して院長面接があるわけです。理念を中心にした面接が加わるのです。実を言うとこれが非常に時間がかかる。1人が20分、30分としても、短くてもやはり20分、長ければ1時間という人もいるし、30分ぐらいという人もいる。相手は何10人で私は1人ですから、夜な夜なこういうことをやらなければいけないわけです。だから午前様になって帰ることもあります。夜勤の看護師さんをつかまえてやったりするわけですから。看護師さんというのは不規則な勤務体制で、いる日、いない日というのがみんなありますから、出勤日にこれをやるわけです。

 大変な労力は要りますが、実はこれがなかなか効果的です。女性薬剤師さんは面接後にこんなメッセージを私にくれました。皆よく私にコメントを返してくれるんです。

 『私は、今回の院長先生との面談を終えて感激したことが二つありました。一つは、当院が人材基盤経営を掲げ、一人ひとりのスタッフに、業務の質や合理化だけを期待するのではなく、それぞれが一流人を目指し、共に人生を語り合えるような人間になって欲しいと、その成長への援助に心血を注いでいらっしゃることです。
もう一つは、院長先生の「サービスとは自分を切り売りすること」という言葉です。そのためには専門知識だけでなく、幅広い教養を身につけた一流人を目指すことが重要で、知識と技術に心を含めた人生の引き出しを沢山用意することが大切だと云われました。私も自分の身を切り売りしても恥ずかしくないよう、一流の感性を持ち、一人ひとりの患者様に満足と安らぎを感じていただけるよう、日々精進したいと思います。』

 26歳の看護師さんです。
 『院長先生との年2回の面談は、私にとって自分を振り返る良い時間を与えてくれます。半年間自分が頑張ってきたこと、頑張りきれなかったこと、また次の目標などを考えるきっかけになっています。
(中略)私の入職以来4年間は本当に学びの多い貴重な時間の連続でした。胃腸病院だから学べたこと、胃腸病院だから学びたいことが沢山あります。看護師として、また人として成長していく過程を院長先生に診ていただきたいです。
 (中略)一生懸命は職場にも、人にも伝わると思います。これからも現状に甘んじることなく、人にプラスの影響を与えられるように、一生懸命頑張り続けて生きたいと思います。』
 
 もう一通、これは26歳の看護師さん。
 『この度は熱い想いの賞与をいただき有り難うございました。病院経営が厳しい中にあって、常に変わらない病院の心を私たち職員に誠実に示してくださり、感謝の気持ちで一杯です。言葉で表すことは簡単ですが、それをどのような状況の中でも実践し続ける病院の姿勢に、理念を貫き通す強さと誇りを感じました。
 普段、多忙を極めていらっしゃる院長先生との年2回の面談は、私にとって緊張半分楽しさ半分です。先生の人生観や、普段考えていらっしゃることをゆっくり伺うことができて、そのお話の中に必ず自分自身にプラスになるキーワードが隠されているからです。』
 こういうコミュニケーションの取り方もあると思います。

働きやすい(心地よい)環境
 そこで職員にとって働きやすい、心地よい環境ということなのですが、それはすなわち私にとっても心地よい環境ということになるんですが、こういうことかなと思います。それは、
 部門の理念や方針を全員が共有していること(共感
 権限と役割が明確であること(責任
 全員で協議して決定する機会があること(参画
 チームワークとコミュニケーションが良い(協調
 オープンで明るい雰囲気がある(自由
 学びの風土がある(成長
 上司や経営者を信頼できる(信頼
こういうことが大切じゃないかと思います。
 もちろんこれは理想論であって、全部が整うということは難しいとは思いますが、こういうことを目指していけば、少なくとも一歩一歩良い方向に向かっていける、そういう気がしております。

 こういう院内の勉強会を私たちの病院では積極的に開催しております。一年間を通しても隙間がないほど充実して勉強会をやっております。これは私が指示したことではありません。それぞれ職員みんなが担当を決めて、じゃあ私たちは何日に、私たちはここで、というふうに自由に決めています。そしてこの勉強会は職員の誰が参加してもいいということになっています。したがって純然たる医療問題の勉強会にも清掃スタッフが参加したり、感染の勉強会であっても事務の人たちが参加したり、また最近では地域の他の病院スタッフにも開放しています。

院内保育
 また院内保育の整備も働く環境をつくる上で非常に重要でした。最近は少し状況が改善しておりますが、大学病院や基幹病院などでは看護師が結婚したら辞める、出産したらなお辞める、こういうことがよくありました。それはやはりママさんナースに対して働く環境を整備してあげなかったということだと思うのです。
私たちはもう20年前に院内保育を開始しました。当時は一つの民間病院でこういう院内保育制度をつくる余裕もありませんでしたし、今でも余裕はないんですが、こういうことを整備する病院は非常に少なかったと思います。87年に創って、通常の保育は3ヶ月時から、つまり首のすわっていないベビーから預かります。一応3年過ぎたら公立の保育所の方に移ってもらいますが、臨時保育も行い、3歳児から7歳児までは何か事情があった時はいつでも預かるよという形にしました。99年からは病児保育、病後児保育まで院内で行うようにしました。
担当の職員は全員が保母さん、あるいは保育士さん、幼稚園教諭などの有資格者で構成しております。預かるベビーの数は出入りが非常にあるので、ある時は1人になったり、ある時は10何人になったりするんですが、いつも有資格者でお預かりするようにしています。一人ひとりのベビーを実に細かく、実に誠意を持って預かってくれておりまして、ママさんナースたちの信頼感抜群です。「これで私たちは安心して働ける」と喜んでくれております。

ですから妊娠とか出産などに関わる退職、つまり妊娠とか出産を理由にして辞める職員というのは今ではほぼゼロになりました。

看護部職員離職率
 これが看護部職員の離職率です。私が引き継いだ20数年前は、離職率が20%を超える時もありました。その時はまだ計算していませんでしたけど、あのころはやはり苦労していたんだなということをこれを見ながら昨日のことのように思いだします。
 つまり20%を超えるような離職ということは、いくら看護師さんが定着率が悪いといっても、これでは非常に苦労感があります。つまり採用しても採用してもなかなか定着しなかったのだろうと思います。それから少しずつ少しずつ良くなって、先ほど申し上げたような方針を徹底できるようになってから、15%を切り、やがて10%を切り、今ゼロになってきたということです。
 しかしこの離職率ゼロというのは、実は経営者の立場から言うと必ずしも良いことばかりではありません。人が代わらない、新しい人が入ってこないということにもなるので、離職ゼロは嬉しいけど、現実には5%から10%、まあ5%ぐらいがいちばん適切かなと実感はしています。でも人の出入りが少なくなって定着率が良くなったということは、経営者としては人事管理が非常に楽になったと云うことは事実です。

サービスとは
 患者様を大切にする病院という意味では、サービスということには非常にこだわりを持っています。
私が考えるサービスというのは、人に対する熱い想いといたわりの心が行動という具体的な形に現れたものであって、思っているだけではだめ、行動で人に喜ばれるということが大事です。これを自らの悦びとして感じてほしい。そこからサービスというのは始まるんだよということです。
最後は、対応する人の人格とか心とか感性などがサービスの質を決めるんだと思うんです。ですからマニュアルだけではサービスの質は高まらないということだと思います。
つまり「良いサービスというのは良い人からしか生まれようがない」と思っています。だからスタッフは皆一流の人を目指さなければだめだということになります。
「人格以上は売れない」、こういうタイトルの本も出ておりましたね。

 そして私どもの病院が目指しているサービスの心というのはこういうものです。
欲しいものを、欲しいときに、最高のものと形で、笑顔と心をこめて届けたい
これを今みんなが目指しております。

こんな職員は病院の宝
 私どもはこういう職員を病院の宝と考えています。
つまり「『気』が充実」している職員。
意欲と笑顔」に溢れる職員。
五感が使える」職員。
そして「美しい言葉」が使える職員。まだまだ現実はそうなっていませんけども・・・。
そして「普通の感覚」の持ち主。患者様は一般の、普通の人ですから、その普通の人の感覚が分かる普通の感覚を持っていてもらいたい。
そして常に私たちと一緒の「経営感覚」を持ってほしいということ。
そして「顧客を持つ」。病院が顧客を持つ、それも大事なんですけども、一人ひとりのスタッフがそれぞれの顧客を持ってほしいということです。

 私どもの病院によくあるんです。例えば上の写真のスタッフなんか、「今日は君に会いたいから来たんだよ。今日は院長はどうでもいいの。君に!」ということがよくあるんです。
あるいは下の写真の看護師さんなんかでもそうです。DOIT!のビデオにも主役で出ていましたが、この看護師さんなんか実にパワフルで、誠意がいっぱいあふれていますから、このスタッフに会いたくて病棟まで足を運んでくださる患者様も結構いらっしゃいます。
 それから下の写真の左のナース、先ほどお話をした、他院ではじき飛ばされた若い看護師さんです。なかなか良い顔をしてますでしょう。こういう笑顔で働けば、このスタッフも人の2倍時間がかかっても必ず一人前になれます。

 「気」の充実ということなんですが、気配り、気働き、気転、気概、気品、気迫、こういったことを私は想定しております。
 私はできるだけ病院らしくない病院をつくりたいと思っています。病院というところは誰だって行きたい所じゃありません。DOIT!の西川さんには「僕は疲れたら川越の病院に行きたい」と言っていただきました。「だけど病院というのは病気でない人には用のない所だから、早く病気になって川越に行きたいという僕は異常でしょうか?」というメールをいただいたんです(笑)。まあ確かに元気な人は病院に用事がございませんが、ただそう言っていただけるということは非常に嬉しいことです。
 そういう意味でも、一歩入った途端にここは病院じゃないと思えるような空間をつくりたい。だから病院らしくない病院をつくりたいというのが私の一つの願望でもあります。
それには何が必要か。それにはもちろん空気も大事です。それから病院に一歩入った途端に感じるあの病院特有の臭い、これは私にはちょっと耐えられない。もう病院独特の臭いというのがありますね。病院臭というものです。あれはいただけない。あれを嗅いだだけで、あれを鼻にしただけで、病院に入っていくのにちょっと滅入ります。そこに1時間も2時間もいるということはちょっと耐えられない。だから病院に入っても絶対に病院の臭いがしないという清潔感のある空間は非常に大切だと思います。
特にトイレの臭気はたまらないですね。病院のトイレというのは一般的に清潔感が足りないので、トイレは常に清潔で心地よくしてあげたいと思っています。
一歩入った途端に一瞬病院じゃないと思うような空間ができれば理想的な病院の条件かなと思っているんです。そういう病院を目指している。
そのために大事なことは職員の気が充実しているということが絶対条件です。だからスタッフ達が気配りや気働きができて、気転が利いて、そして気概と気品、気迫を持って仕事をしてくれていれば、そういう病院に近づけると思うんです。

パーソナルサービスを提供
 サービスというのはやはりパーソナルサービスじゃなくちゃいけない。もちろん私たちはリッツ・カールトンのような、ああいう一流のサービスには程遠いんですが、それでも一人ひとりが患者様のためにという気持ちだけは非常に強く持っています。
サービスというのは表現ですから、言葉と行動で表現しなければいけない。ですから必ず優しい一言をつけ加えようね、そしてできれば美しい日本語を使おうね、マニュアルだけで動いちゃだめだよということが一つの基本です。
そして日本には「かゆいところに手が届く」という良い言葉があるでしょう。それを目指してくださいと・・・。
それから「温かい手のぬくもり」、これは実は最先端の医療機器なんかには及びもつかないほどの大きな効果を発揮することがあります。

私たちの病院では原則として乳ガンは取り扱いませんが、ある乳ガンの患者様が乳ガンの全身転移で、どうしても最期を看取ってほしいと言われてお引き受けしたことがあります。その人は全身、骨の転移による痛みの中で夜も眠れなくてと仰いました。それには麻薬を使って痛みをとるのですが、それでも身の置き処のない、要するに1分として同じ姿勢でいられない苦しみが夜になると続くわけです。夜になると辺りが真っ暗になる。真っ暗になると患者様というのは不安に苛まれ、そして将来への絶望感の中で夜が怖い、暗くなるのが怖い、1人にしないでというような想いが常にあるわけです。そういった時に、麻薬を増やしても背中が痛いとおっしゃる。
ある時、夜勤の看護師さんが「どこが痛いんですか?」と聞いたら、「背中が痛い、腰が痛い」とおっしゃる。そこで自分の手をそっと背中に入れてあげた。そうしたらその患者様が「ああ、これ、気持ちいい」とおっしゃった。そうしたら一晩中背中に手を入れていたナースがいました。患者様は喜んで安心して眠られたそうです。
やはり温かい手のぬくもりというのは麻薬を超えるほどの効果がある。だから人間の手というのは恐ろしいものです。これが機械とか医療機器とか、そういうことをまず第一に考える医療姿勢を持っているとこういう患者さんを救えないということです。

それと「見つめ続ける姿勢」ということです。何もしてあげられないんですよ。骨転移も治してあげられないし、何もしてあげられないのだけれど、だけどあなたの痛み、あなたの苦しみをいつも共有していますよという想いが相手に伝わると、相手は救われるわけです。
こういう病院をつくりたいな、目指したいなと思っているのですが、まだまだそこまで届いておりません。

これはパーソナル・メッセージで、私どもの病院では入院してくださる方のベッドの枕元にいつもこうやって折鶴が二つ置いてあります。そこにはその人に対するパーソナル・メッセージが綴ってあります。これにとても喜んでくださる方があります。これは看護部長を初め、皆が折々に折ってくれておりまして、ここにパーソナル・メッセージを心を込めて書いてくれております。

職員のブランド(魅力)づくり
 職員のブランドということなんですが、私はこれは魅力ということに置き換えて考えています。こういう魅力づくりをしてもらいたい。
つまり人間性とマナーを磨いてもらいたい。それは挨拶がきちんとできる。そして笑顔がちゃんと出てくる。美しい言葉が使える。身だしなみがきちんとしている。私はこういうことが職員のブランドづくりに大事だから、これは是非気つけてちょうだいと・・・。病院の中でいくら良い仕事をしていても、外で会ったらとても(悪い意味で)医療人には見えない、というような格好をしないでちょうだいということもよく言います。ですから川越胃腸病院の職員として、どこで誰に会っても恥ずかしくない身だしなみをきちんとしていてちょうだいねということはいつも言うんですけど、まだなかなかです。
ただ、当院の職員は挨拶を非常によくしてくれます。院内に「ありがとう」とか、「お疲れ様」とか、「ご苦労様」というような言葉は本当によく飛び交っています。一番よく褒めていただけることは「職員の人たちの笑顔」かもしれません。これは私のいちばん大きな財産で、大切にしております。
それから先ほど申し上げたコミュニケーションがきちんととれること。相手のおっしゃることをよく聴き、それに対して返事をきちんと返してあげるということ。そしてそのコミュニケーション能力のいちばん大切なことは、やはり言葉を使う能力だと思います。
そして専門家としての高い専門性を目指すこと。
それからまずノーと言わないサービスを提供すること。できないと言うよりも、こうすればできるかもしれないという知恵を働かせてほしいということなんですね。
最後に自分の成長にお金と時間とエネルギーをかけてほしい
先ほど賞与の分配の時に成績比例賞与ということを申し上げました。こんなことを言うのは口はばったいんですが、正直申し上げると、実は近隣の病院の賞与の額に比べると私たちの病院は多分200%だと思います。それは高額な賞与だからいいということではもちろんないのですが、その賞与面接時には、賞与を頑張るエネルギーにしてもらいたいということとともに、決まってお願いすることがあります。
世間相場、半分の賞与はあなたたちが半年間働いた対価だから、それだけの利益をあげてくれたんだから、ご苦労様、文句なしに自由に使ってください。そして残りの半分は簡単に消えるものに使わないでほしいというふうに言うんです。これは病院からの心だから、是非自分が成長するために投資し、自分を太らせる、自分を大きくすることのためにこのお金を使ってほしい。もちろん渡せば相手の自由ですから、使ってほしいなというお願いをしてお渡ししています。
世界中で一流と云われるサービスを経験するとか、あるいは素晴らしいコンサートを聴きに行くとか、素晴らしい絵画を鑑賞するとか、消えない財産形成にお金を使ってほしいと言いながら渡しております。

医療サービスの展開
 あまり時間もなくなってきましたが、医療サービスの展開について、私たちはこういう考え方をしています。とにかく病院の質は規模の大きさではない。人間性尊重の心温かい医療サービスの実践で、小さくても「信頼度№1の病院」を目指したいという気持ちで今まで頑張ってきました。
それがCSの経営の方針であり、20年前から始めた患者様満足度調査であり、そして一括管理するサービス対応事務局の設置でございます。

この対応事務局の役割としては、対外的には患者様情報の一元管理、そして患者様の声の窓口対応とフィードバック、そして医療情報の開示や情報の公開、健康教室・健康サークル、いろいろなイベント行事の実施です。
体内的には職員へのCSマインドの啓蒙活動とか、このようなことをやっております。

これは患者様の声のシートです。どこの病院でも患者様の声というポストが置いてあると思いますが、それはいわば待ちの姿勢です。患者様が自分の意志で、強い意志でもって言葉に表していただけないと、書いていただかないと集まらないものですよね。でも私に言わせるとそれは1割か2割しかありません。あとの8割から9割は、思っているけれど言葉に書くまではいかないというものがあります。しかしこの中にいちばん大きな経営の情報が詰まっています。患者様はそういったことはちらっと言葉ではもらされるけれど、紙に書くまではね、ということなんですよね。
でもそういうことを少しでも聞き取った、耳にした職員がすぐその場で書くというのがこの患者様の声のシートというものです。これは病院を良くしたいという強い想いが職員に充満していないとできないことです。忙しい時にこういうシートに書くことは面倒くさいです。それを逐一このように書いて、すぐその日のうちに対応事務局にあげてくれる。これが実は8割ぐらいの情報源になっています。
ここに書いてあるのは実は売店にいる派遣社員の、しかもパートの人が患者様の声をこういうふうに書いて病院に出してくれたわけですね。私たちの病院では、派遣社員はよその職員だからうちの病院の職員じゃないよという考え方はしておりません。川越胃腸病院という同じ土俵の上で働くパートナーとして、どこの会社に籍があろうと、それは全く同じ扱いと心で接していますので、こういう人たちが病院のために情報をちゃんとあげてくれるということですね。これを書いたのが川越胃腸病院の正規の職員じゃないというところが私どもの一つの価値だと思います。

当院の患者様満足度調査の特徴
 20年間続けてきた患者様満足度調査なんですが、これは診療システムと人的サービスと医療設備とその他という項目で評価していただいております。20年間評価項目をあまり変えておりませんので、時系列的な分析が非常によくできます。
そして大事なことは、いただいたこういうアンケートの内容は必ず患者様にフィードバックするということです。これができなかったらアンケート調査なんかしない方がいいと思います。一方的にいただくばかりでは患者様も不満足だし、それだけではアンケート調査は完成しません。
そしてそれを必ず経営に反映させること。そして私たちの病院はそれをさらに職員の人たちにも賞与という形にして反映させているということが特徴です。
さらに2002年からはアンケート用紙に記名をお願いしました。つまり名前を書いて下さいと・・・。よほどの気持ちがないと名前まで書いてクレームを言うということはできない、不利益を被りたくないという患者心理が働く上ではなかなか名前まで書いてくださらないと思いますが、「よろしければお名前をお書ください」と書いておきましたら、今年の結果では実に91%の方が記名してくださいました。回収率も99、3の高率%でした。
箱にポトンと入れていただくだけなんですが、99%の回収率、そして91%の記名率というのは、私どもの病院を信頼していただいている証拠かなと嬉しく思っています。

これは2007年度の患者様の評価結果です。入院病棟部門、満足度91.1%、この数字そのものはあまりこれで満足するというものでもないんですが、面白いのはこの人的サービスの年次推移です。
20年間ずっととってみました。そうすると常にトップ争いをしているのは上の二つ、看護部と事務部ですね。これが常に私どもの病院のトップ争い。この両者は熾烈なトップ争いをしておりまして、勝ったとか負けたとか毎年大騒ぎになっております。ちょっとでも負けると、「あそこには負けない!」とか何とか言ってやっておりますので、そういう意味では仲が良いのにサービス面では競争していますから、なかなか良い感じかなと・・・。
これに肉薄してきたのが薬剤部と整備課、清掃課ですね。ですからトップの看護部と事務部を視野に入れて、もう追いつきそうな勢いなのが薬剤部と整備課、つまりお掃除のおばちゃんたちということですね。みな頑張っています。
最下位を独走していたのが診療部、医師でございます。これは毎年ダントツのビリだったのですが、みんなが頑張っているのに触発されたか2001年から見事に上がってきました。去年あたりはついに最下位脱出でブービー賞にまで上がってまいりましたので、これを見ると医者も頑張ってくれてるなと思います。医者が満足してもらうのはなかなか難しいことですから。一人の患者様に5分や6分ぐらいしか時間を与えてもらえなくて、その間に満足していただけるというのはよほど努力しないとできません。

これはクレームをいただいた患者様、意見をいただいた患者様に対して、一つひとつの事例に医療サービス対応事務局の担当員がきちんと電話をしたり、マンツーマンで会ってお話をしてお詫びをしたり、解決を相手にお伝えした結果、こういうことを解決しましたという報告書ですね。ですからアンケートは、一人ひとりのご意見にこういうところまできちんと完結させないとアンケート調査は完結しないということだと思います。

良い組織・強い組織
 私が考える良い組織、強い組織というのはこういうことです。
 全職員に経営理念が理解され、浸透している(
 そして徹底した顧客満足志向である(目的
 職員と病院のベクトルが一致しているということ(団結
 職員が各自の役割意識をもって行動しているということ(責任
 人が明るく、楽しく、活き活きと活動している(満足
この五つが揃えば非常に良い組織、強い組織だと思いますし、仮に五つが揃わなくても、それにできるだけそって努力をしていれば良い組織ができるというふうに思っています。

ある人に聞きましたら、組織というのは人と人との心組みのことを組織というのだそうです。そうすると、人と人との心の結合度が強いほど良い組織、強い組織だと言えるんだと思います。
したがって100人前後の人数ということは、心を一つにして一つの目標に向かって努力すればそれは結構強い組織ができる。これが私が目標としている病院づくりなんですね。

これは私どもがもう20年間やってきましたクリスマスコンサートでございます。熊本マリさんとか、森麻季さんとか、そういう一流のアーティストの方々人たちにもご協力いただいて、毎年300人、400人の方々においでをいただいて楽しんでいただいております。

これはボランティアの導入です。地元の小学生たちに体験看護をしてもらったり、あるいはクリスマスコンサートに参加してもらったり、あるいは私どもの病院で亡くなった画家の方がご自分の遺作展を1年中ここで開催してくださっているとか、そういった様々な催しものをやっております。

様々なイベント行事もあるのですが、その中で「焼きたてパンの日」などというのもあります。これはDOIT!のビデオの中にもありましたけども、私たちの病院で亡くなった方の奥様が私どもに非常に感謝していただいて、自宅でパン教室をやっていらっしゃるので、もう10年以上、20年近くなる間ずっとパンを焼いて、あったかいホカホカのパンを月に2回入院中の患者様や私たちに提供していただいています。有り難いことで、こういった善意の方々にも支えていただいております。

これは私の下手な写真ギャラリーです。今日使いましたスライドの風景写真はみな私が撮影した趣味の写真ばかりです。

これはあすなろ健康教室という活動です。地元の方々を招いて、病気の治療だけでなく予防まで含めた健康教室もきちんと開催しております。

患者満足は病院経営の特効薬か
 これだけ患者満足を追求していると言いますと、そんなことをやっていて病院経営は大丈夫なのかとよく聞かれます。もちろんサービスに徹し、職員満足を追求しようとすると、確かにお金も要ります、時間も要ります、人も要ります。みんなお金がかかる。診療報酬はどんどん削られ、収入は下がる。経費はかかる。それでは病院経営やっていけないでしょうということをよく言われます。確かにそのとおりなんですが。それは足元を見ればそういうことになります。
 しかし患者様の信頼、社会への貢献ということを一つのキーワードにすれば、今ここでじっと耐えていればまた患者様が増え、そして川越胃腸病院を信頼してくださる方が多くなる。職員が育ち、何処にも負けない強い病院ができれば、それが病院経営の特効薬になるんじゃないかと思うんです。

 そこで患者様の満足度と新患の数、新規に病院を訪れていただいている数です。アンケーと調査でいただいた満足度が向上するにしたがって、病院に来てくださる新患の数もこういうふうに上がっていっています。
 そして下段は満足度とレセプト数です。レセプトというのは患者様1人に1枚という診療行為記録ですね。ここでも満足度の向上とともにレセプトの数も増えているということが分かります。これは実質的に患者様が増えているということですから、やはりサービスを追求することは病院経営に貢献しているということがこれからも分かるんじゃないかと思うんです。

外科医と経営
 今までお話したことはどこの経営者の方々もおっしゃることかもしれません。しかし私は医者ですので、ちょっと医者らしいこともお話してみたいと思います。
 
 経営の意味というのは、本来は「人を育てること」だと松原泰道先生、お坊さんですけども、おっしゃっていました。ドラッガーは「顧客の創造と維持」ということを目的にするものだと言われております。
 私は経営というのは三角形のこの形で理解をしております。つまり哲学であり信念である「経営理念」の上に、人間を観る「情」の部分と、そして科学的なものである「理」の部分、これを組み合わせたものが経営じゃないかとちょっと生意気に考えております。

外科医心得七ヵ条
 私はある雑誌のインタビューを受けまして、これからの外科医の育成にコメントを求められた者ですから、「外科医心得七ヵ条」というものを書きました。それをちょっとお伝えして、少し経営の参考にしていただければいいかなと思うんです。

第一に、礼節と愛情
手術というのは礼に始まって礼に終わります。したがって必ず愛情と感謝の心でメスを持ちなさいということをまず後輩達に伝えます。これはどういうことかというと、あなたは手術という行為によって人の人生を左右するんだよ、この人の人生はあなたの手にかかっているんだよというその責任と覚悟を持って望みなさい、という意味でございます。
これは経営者の覚悟と同じだと思います。職員を預かるということは、職員の人生を左右する、職員の人生の貴重な時間を預かっている、という責任を私たち経営者は持たなければならないということなんです。したがって人の人生を左右するという覚悟は、手術する場合の外科医の覚悟と経営者の覚悟とは同じだと思っています。

2番目、判断と決断
先ほどちらっとお話ししました。明日も大きな手術があって、実を言うと数日前から私は明日の手術のことで結構頭がいっぱいです。明日の手術は相当大きな大変な手術なので、既に頭の中でイメージトレーニングが始まっています。
術前に予想し判断したその人の状態と、いざお腹を開けた途端に出てくるお腹の状態と同じこともあれば、全く予想外の新しい状況が目の前に飛び込んでくることがあります。その時に患者様にとってベストの判断をしなければならない。そしてベストな方法がとられなければならないし、ベストでなければせめてベターな方法をとらなければいけない。それをその場で即座に判断して即座に決断しなければならない。お腹を開けたら、これは一晩考えてからとか、明日改めて、というようなことはできないわけです。
したがってそれを瞬時に、遅滞なく、迅速に、そして正しく判断しなければならない。常に最高度の判断と迅速な決断を迫られるのが外科医の仕事でございます。待ったなし、1回勝負、これが外科医なんですね。

3番目、大胆さと慎重さ
手術は安全なところは大胆にいきます。困難なところは慎重にいきます。こういう緩急自在の動きというのが外科医の生命です。
新人の外科医に手術をさせますと、何でもない安全なところにすごい時間をかけたり、そして困難なところでもスピードを緩めなかったりするわけです。それは経験のなさと技術のなさなんですけども、これはだめなんです。
私はこれはある程度車の運転と同じだと思っています。高速道路で全く車もいないのに80キロ以下で走る人はあまりいないでしょう。でも実際にいるんです。私はそういう人の運転で助手席に乗せてもらったことがあります。全く車のない高速道路で78キロで定速運転する。それは80キロって書いてあるからです。1時間乗せてもらったら疲れ果てました。
そうかと思えば、車が混んできても構わずビュンビュン飛ばす人もいます。これももう疲れ果てます。ですから安全な所は飛ばしてもいい。だけど混んできて危険だと思ったら速度を緩めてほしい。これが緩急自在にできる人でないと外科医は大成しません。つまり安全と危険ということを見極める能力、「大胆さと慎重さ」、これは経営者にとっても重要です。

4番目、左手こそ命
これはちょっとみなさん方にはお分かりいただけないところだと思います。私は右利きです。99人の外科医は右利きです。手術は勿論利き腕で行います。だから実際には右の腕がきちんと動く人が外科医として有能だと思われますでしょう。実は違います。手術は利き腕でない左手が命なんですね。左手の動かない人に名外科医はいないと断言してもいいぐらいです。
どういうことなのかというと、実は利き腕の右手を生かすも殺すも左手が決めます。左手というのは右手が自由自在に動くための環境や場をつくる役割があるのです。これが私たちの専門用語で術野といいます。手術をする場、環境を左手がつくるのです。右手がもっとも縦横無尽に自由に動けるような環境を左手がつくってやる。だから左手が動かない人は良い環境ができないから、右手が利かないのです。だから左手が利く人が外科医としては名外科医としての資格があります。
右手というのは利き腕ですからある程度誰でも動くんです。だけど左手というのはそういう意識で努力と訓練をしている人以外は利かないんです。だから外科医を見ていても左手が動かない人は手術に非常に時間がかかって、しかもできた手術がきれいではありません。
こういうことがありますので、仕事には良い環境をつくるということは非常に重要だと思います。
ここには書きませんでしたが、もう一つ手に関して条件をつけるとすれば、手の大きい人、これも外科医の条件ですね、小さな手、もみじみたいなかわいい手に優秀な外科医はあまり見たことがないですね。大きな手で大きな組織を一括してつかみ取る、これを自由自在に動かせるという人が外科医としては大成します。

5番目、緊張感とリズム
適度な緊張感と良いテンポ。良いリズムというのは仕事をはかどらせます。つまり心地よい雰囲気をつくってあげるということですね。
例えば手術場に入ると、ある一種独特な緊張感と張りつめた空気があります。それは人の命をやりとりしている戦場ですから、鼻歌を歌ってほいほいできるような、そんな楽な現場ではないわけです。そういう所に新人の人たちが入ってくると、あのピリピリした雰囲気が怖くて恐ろしい怖がるスタッフがいます。これはもちろん当然ですね。遅滞なく最高度の判断をして、そして即現場で縦横無尽に動かなければならないわけで、おたおたしているとはじき飛ばされる現場でもあるわけです。
しかしその中にも心地よい雰囲気をつくってあげるということは実は非常に大切です。過度の緊張感を与えると職員の動きが非常に鈍くなります。したがって職員が自由に、自分の持っている力を100%、120%発揮できるような心地よい雰囲気をつくってあげると、手術そのものがスムーズに進行いたします。

6番目は、チーム医療
手術というのはチーム医療そのものです。1人のスーパースター、1人の術者だけで手術が完成するわけではない。そう言う意味で私は「神の手」という表現は余り好きはない。もちろん類い希なる手術の熟練者はいます。しかし手術には2人、ないし3人の助手である医者もいるし、そして麻酔をかけてくれる麻酔医もいる。そして何より看護師さんたちが数人いる。つまり一つの手術をするために10人近くの人たちが動くわけです。
ですからこれはチームの力を発揮しないと良い手術ができない。つまり手術は1人ではできない。周囲に対する気配りと感謝、一人ひとりが同じ目標に向かってベストな力を発揮するような、そういう仕事でなければならない。つまり手術というのは1人のスーパースターじゃなくて総合力だということが言えると思います。

七カ条のうち最後、技術は愛情
手の先ひとつにその人の人生がかかっています。したがって愛情のない技術というのでは人は救えない。どんなにうまく手術が完了しても、その人の人生そのものがそれによって救われたということでなければ、本当に手術が成功したとは言えないわけです。そこには愛情というものが絶対条件ですね。

おわりに
 そろそろ時間がきましたが、私は総合力ということに大きな意識を持っています。サービス業にホームランバッターは要りません。一人ひとりが自分の役割と責任を果たして、バントやヒットでこつこつと繋いでくれれば良い。チーム全体で努力すれば、個人がひとりでする仕事よりもはるかに大きな仕事ができる。しかし組織の中に1人でも横を向いている人がいれば、組織全体の仕事の質も成果も落ちます。サービス業は全部門と全職員の「結集力・総合力」が全てです。つまり少人数組織でも志のもとに結集した組織は強いエネルギー集団となりうると考えています。

その意味で医療はまさにオーケストラです。1人でも不協和音を出す人がいれば良いコンサートにはならないということです。

30歳の看護師さんが私にメールをくれました。
 『私は当院に入職してまもなく4年になりますが、ここで働くことができて良かったと、年々強く思うようになってきました。ここまで私たちスタッフのことを深く思ってくださる職場は今までありませんでした。他にもないと思います。この病院に出会わなければ知らないでいたこと、通り過ぎていたことが沢山あったと思いますが、「医療が究極のサービス業」であるということもその一つでした。それを実践している病院は初めてで、そのような病院で働けることはとても幸せなことだと思います。病院との出会いは自分の人生にとって本当に貴重で大切なことだったと思います。
これからも患者様に満足していただける、質の高い医療ができるように、病院と共に発展、成長していけるよう頑張っていきます』と。
この「病院とともに発展、成長」という言葉が嬉しかったですね。

そしてこれは実は私に宛てたメールではありません。当院の事務職員同志で、後輩が先輩に宛てて送ったメールを、本人たちの了解を得てもらってきました。
 『私は改めて、この仕事に就けたこと、そして何よりも大切なこと=当院に出会えたことに感謝しています。
(中略) 当院は清潔な建物だけではなく、心と心が深く結びついた人間関係があり、人(患者様、仲間達、関わる全ての人)を真剣に想い大切にする風土、努力の結集が自分に返ってくる喜びや充実感、このような職業人としてだけではなく、人としても大事なことを学びながら成長していける場です。
(中略) 「病院が好き、患者様が好き、仕事が好き、ここで働く自分が好き!」、これなんです!これが大切なのだと私も思うんです。私がキラキラ働ける原点は、これなんです。
(中略) 「働く人が幸せでいられることが患者様の幸せにつながる」─こんなに素晴らしいところで仕事ができることを、心から誇りに思います。全ては患者様のために!そしてみんなが幸せになるために共に頑張りましょう!』
「病院のために頑張りましょう」と書いてないところがいいんです。

 『私はこの川越胃腸病院で働くことによって色々な幸せを感じています。
まず、「この立派な素晴らしい環境の中で毎日明るい気持ちで働くことができる幸せ」、そして「努力が評価され、きちんとした形で自分に返ってくるという、やり甲斐を持って働くことができる幸せ」。それから「自分の職場や仕事に誇りが持てる幸せ」、「これだけ厳しい状況にあっても、将来への明るい希望を持って働くことができる幸せ」、「病院と夢を共有できる幸せ」─そんなたくさんの幸せを感じられる環境にいられることに心から感謝し、これからも精一杯努力していきたいと思います。』
これには職員としての幸せ要素が全部入っているような気がします。できればこの1枚だけでも是非ご参考になさっていただければ嬉しいなと思います。

経営者のあるべき姿
 経営者としてのあるべき姿、私が大好きで、今年亡くなった作家の城山三郎さんがこう書いていました。「哲学」と「志」なき経営者は必ず躓く。僕が魅力を感じる経営者の三条件。いつもあるべき姿を求めている、常に活き活きしている、卑しくない。
私はこの三条件の中で、特に「卑しくない」という処に心惹かれます。この卑しくないというのはどういうことなのかと思いますと、直接聞いたわけではないので分かりませんが、それは多分「自分中心でない」ということ、それから「自己の繁栄だけを望んで経営していない」ということ、こういうことではないかと思うんですね。

ガンという病気ですが、ガンという病気は死ぬまで自己膨張を続けていく組織なんです。そしてついには生体が死ぬんですからガンも死ぬんです。つまり自滅するわけですよね。
悪性の病気というのはここが特徴です。だから悪性の企業というのは自己膨張、自分中心であればいい、自分が膨張、大きくなればいいとどんどん膨張していくと、こういうことになりかねない気がするんです。
しかもガンというのは急成長するんです。ガンというのは時間の経過とともにだんだん大きくなるのではないんです。ある一定のところを過ぎると期間の2乗の大きさで大きくなります。Xの2乗で増大するんです。だから1が2になり、2が4になり、4が16になるんです。これだけ急膨張するんですね。そしてついには人間の命を止めるまで膨張し続けていくのがガンというものの特徴です。
それに対して良性というのはどういうものか。ある一定のところまでは大きくなりますが、そこからはもう成長を止めて大きくならないで共生を図るわけですね。これが良性の病気とガンとの違いです。
ですから企業も、私たちが目指す企業はやはり良性の企業でなければならない、悪性の企業にならないようにしなければならない、という気がしております。

私の経営者十訓はこんなことです。
1.明確な哲学、価値観を持つ
これは思っているだけですよ。なかなか実行できていないんですが・・・。
2.価値観、目標を職員と共有したい
3.人の共感を得る思考をしたい
4.仕事は「人が社会の幸せ」のために
5.職員が川越胃腸病院の宝
6.病院は社会の公器、私物化しない
7.公正、公平、迅速な判断をする
8.約束は守る
9.生涯現役、一生勉強する
10.楽しい時間、楽しい交友、楽しい人生

これが私どもの病院の宝物、職員の笑顔です。

ありがとうございました。以上です。

<休憩>

質疑応答
【鬼澤】ここからは私が進行を務めさせていただきます。時間は5時までという実質30分ぐらいの時間なのですが、もうびっくりするぐらい数の質問票をいただきました。正直言って全部は無理かなと思います。ご了承ください。すみません。こういう調子で毎月質問票を出してください。よろしくお願いします(笑)。
 望月院長、ありがとうございました。今日のお話で素人の経営者と言われたら、世の中に経営者で首をくくらなければいけない人がどれぐらいいるのかなと思ってしまいましたし、ガンみたいな会社も多いですよね。
 本当にたくさんいただいております。少し分類分けしようかなと思ったのですが、そういう時間もなかったので、見た感じで進んでいきます。

ひとつ目はやはり20年の月日ということの中でのご質問をいただいています。ちょっと読ませていただきます。
「素晴らしいご講演、ありがとうございました。現在の状況になるまで様々なご苦労があったと存じますが、職員が病院理念を理解し、一つの同じ方向に向けて共に進もうという中で、やはり反発する方もいたと思います。その際にはどのように対応していったのでしょうか。」
 最初のころ、理念を理解して同じ方向に向けて共に進もうという中ではやはり反発するという方がいたと思うのですが、その際にはどのように対応していったのでしょうか。
【望月】反発ということを私自身が余り意識したことはありませんでした。私どもの病院は私自身の理念とか方針をほとんどぶれさせないで、ある意味頑なに守ってきましたので、この病院の理念=私の考え方ということなんでしょうけども、それに相容れない人は穏やかに去っていったと・・・。そしてまた次に可能性のある新しい職員を、こういう基準で採用を繰り返してきた。それが長い間に、少しずつ少しずつ自然培養されてきたというか、20年かかって今に至っているということだと思います。
 だからその時その時を見れば確かに反発し、うちの病院のやり方は嫌だ、自分に合わないという人も確かにいまました。しかしそういう人は自然にリタイヤしていって、理念を共有する人を意識的に入れ替えていったというよりも、自然に入れ替わっていったということが表現としては適当なのかなという気がします。

【鬼澤】やはり似たような質問が多いですね。「先生がこの改革、この20年を始めてから、やっとできあがってきたなと実感されるまで、どれぐらいの年月がかかりましたでしょうか。」また同じように「始められた時に全ての人のベクトルを合わせるにあたって、いちばん苦労されたのはどういうことですか。」
【望月】お話の中で最初に申し上げましたが、就任後最初の10年は私の中では最悪の10年でしたね。それは私の経営者としての能力が今よりももっともっと拙劣であったということと、そしてもう一つは経営者として未熟で、我慢が足りなかったということだと思います。
 人を採用するのに、良い人を採用するという基準よりも、今日の日を過ごしたい、明日の人手を採用したいという思いで採用していた時は、組織に根付くような人材が採れなかったということだと思います。
 過去の失敗の経験では、足りない人員で一生懸命頑張っている時の組織や現場の人たちの顔を見ると、それが辛くて、できるだけ早く、1日も早く良い人を採用してやりたいという気持ちになるのですが、今はそう言う時でも現場の人たちに、「もう少し待ってね。今にきちんとした良い人材を入れるからね」という意味で、5人応募しても、10人応募しても、自分でこれぞと思う人が来るまでは待つように努力しています。そういう姿勢でいると、ある程度粒が揃ってきて、考えや組織を共有する、少なくとも共に話ができるような、会話ができるような人材が必ず採用できる、そこまで私も現場も待てるようになったということかなと思います。
 そこまでくるのに最初の10年は全くだめ、次の10年で少し出応えを感じてきて、そして5年ぐらい前からやっと、あー!、心地よく仕事ができる病院になってきたなと手ごたえを感じている、そんな感じがします。
【鬼澤】5年ぐらい前ということですね。

やはり採用についてもう少し聴きたいという方も多いみたいです。「面接をされ、採用の判断をされるいちばんの要因というのは何なのでしょうか。是非事例でお聞かせいただきたいのですが」という質問です。
【望月】私の大好きな職員は、資質としてはまず「ネアカな人」ですね。明るい人が好きです。明るいということは非常に大きなパワーを発揮しますので、周りにもプラスの影響を及ぼしてくれますし、何か一つの困難があっても乗り越えようとする力を持っていると思います。やはり表情の暗い人はどこか後ろ向きで、困難を乗り越える力も弱いような気がしますので・・・。
もちろん能力とか笑顔とか、その人の資質にはもっといろいろな点はあるんですが、正直言うと分からないことがいっぱいあります。さすがに私が5分で外来を診療するといっても、職員の人たちの裏から表まで短時間で理解できるということはありませんから、瞬間的に私がインスピレーションで言うならば、やはりネアカと笑顔の美しい人、それに付け加えれば一緒に仕事をしたいと思わせる人、ということでしょうかね。それがいちばん大きなポイントだと思います。
【鬼澤】それでだいたい平均3、4回ぐらいの面接になるんですか。
【望月】実はこの1年ぐらいはほとんど募集を出したことがありません。それでも今、人材は十分足りておりますが、応募があれば随時、定員に関係なく、良い人材があれば採りたいと思っております。応募があればどんな方でも全員に会います。採用するかしないかは別にして・・・。

【鬼澤】なるほど・・・。また人についての質問です。この方は狭山に住んでいまして、人間ドックをお願いしたいと・・・。
【望月】私どもの病院は基本的に人間ドックはやっておりませんので・・・。
【鬼澤】具合悪くなってください。そうしたらお客様になれます。普通のホテルとかレストランと違いまして、行ってみたいと思ってもなかなかお客様になれないですね・・・。

 質問ですが、「人を大切にしていくと、退職をする人のことを考え、判断を誤ってしまうことなどがないでしょうか。」「風土に合わない人をクビにしてしまうのは、人を大切にしていないような気もしますが、いかがでしょうか。」
クビにするのかどうか分かりませんが、そこのところをお願いします。
【望月】実は私は人を辞めさせたことは、今までに責任者の1人しかありません。その人は私自身の好きとか嫌いとかを通り越えて、組織に余りに逆噴射してしまって、その人のために何人人を入れても育たないということがありました。私も随分努力しましたが、ついに我慢の限界を超えて辞めてもらいました。それ以外は25年間で私が直接辞めてくださいということをお願いした人は1人もありません。
 ただこういう場合、当院の成績評価制度というのがうまく機能するんです。どんなに頑張っている人でも、組織に対して焦点が合っていない人というのは、仕事面に必ずマイナス要素が出てきます。ですから成績を評価すると、やはり評価が下の方にきてしまいます。そうすると、あー、この病院はやはり自分の生きる場所ではないのかなということを自然に感じるのではないでしょうか。そこで頑張る人は踏みとどまりますし、駄目だと思う人は自分の方からリタイヤしていきます。そうなれば私自身がクビにする必要はありません。

【鬼澤】関連するのですが、「やる気がないとか、反組織人である、だめな職員の再生方法というのはあるのでしょうか。」多分この方は会社で苦労されていると思います。
【望月】方向性を合わせるということが上司であり、トップの仕事だと申し上げましたが、それを私は年に2回、自分の大きな仕事としてやっています。それを何度も繰り返しても組織に照準が合わない方は、私はその人の幸せのためにも、組織のためにも、その人はここにいるべきではないと思うんですね。そういう人が生きる場所としてこの病院を選択しなくなって自然とリタイヤして辞めていくんですが、それまではとにかく組織に照準が合うかどうか、方向性が一致するかどうかということで、何回も何回も愛情を持って会ってあげるということだと思います。その手順さえ踏めば、その人が辞めようと組織に残ろうとそれはいいと思います。その手順が大切で、そのエネルギーを削ってはいけないというふうに思います。

【鬼澤】定着率が非常に向上すると、お話の中でも0%の離職率というのはどうかなとおっしゃっていましたが、その件に関する質問です。「定着率が向上すると、組織の活性化や人事面での処遇、昇進などが大変になってくると思いますが、その点についてはどのようにお考えになっているのでしょうか。」
【望月】お話の中でも述べましたが、100%の定着率は実は私としては歓迎しておりません。やはりなーなーになってきますし、みんな友達感覚になってきて、住み心地が良い、心地が良いいということが甘さにつながったり、新しい血が入ってこないためのよどんだ空気が出てきたりということは、人間の社会だから当然出てくると思います。
 したがってその意味である程度、5%ぐらいは新陳代謝があって、新しい空気、新しい風が入ってきた方が組織としては良いのかなと私は考えています。
 繰り返しになりますけど、成績評価制度でいちばん底辺のところにくる人が、うまく、1年に1人とか2人とか、そういった一桁以内の、5%前後の回転率でうまく回れば、経営者としてはいちばん良いだろうと思います。逆に言えば、人の出入りで苦労していたあの頃の自分の体験を思いますと、今の定着率は半分は心地が良くて楽でいいなという気がするんですが、長期的な組織の整備を考えると少し回転した方がいいなと思います。
そこではやはり成績評価ということは、一つのツールと言っては申し訳ないんですけど、やり方にはなると思います。

【鬼澤】「40ベッドで100人の職員というのは多いのではないでしょうか」という質問もいただいているんですが・・・。
【望月】これは多いと思います。実は2倍のベッド数でも何とかやっていけるような気がします。そういう意味では効率が悪いということが言えるかもしれません。
 実は講演前に鬼澤さんにもお訪ねいただいたんですが、私たちの病院は事務職員だけでも非常に多いと云われます。よその病院の2倍か3倍います。それは余剰人員を抱えてやっているのかなというと、良いサービスを提供しようとするとやはりどうしても人が要ります。そして良い人が要ります。その人たちがぎりぎりの時間や精神状態で仕事をすると良い仕事にならないので、サービスということは合理化できない、オートメーション化できない、機械化できないものですから、どうしてもプラスアルファの人員はあった方がいいと思います。
経営的には、もちろん人件費の向上とかいろいろなことを考えれば厳しい部分はあります。でも今、人件費率を見ても50%ちょっとぐらいですから、その分良いサービスを提供して、単科の病院としては非常に多い患者様が来てくださっている間は経営的には何とかできます。それよりも職員がある程度ゆったりと気持ちで、良い仕事をしてくれれば、そちらの方を大事にしてあげたいなと思っています。
【鬼澤】企業側の立場で言うと生産性とか効率が前面に出やすいわけですけども、お客様の立場とかサービスという面からすると必ずしもそうじゃないということでしょうか。
【望月】そうです。

【鬼澤】人が多い。その中でもお互いを高め合っていくわけですけども、さきほど成績評価制度などでご紹介いただきましたが、「職員の方のモチベーション維持、常に高いモチベーションを維持していくために、何か特別なことを院長先生はしているんでしょうか」という質問です。
【望月】モチベーションのアップということでお尋ねになるならば、多分私は面接、年に2回の個人面談だと思います。職員の人たちが何人かあのようなコメントを書いてくれましたが、経営のトップは何を考えているんだろう、どういう人なんだろう、どういう方向にこの病院を運営していこうとしているんだろうということに職員は非常に大きな関心を持っています。ただ、関心を持っているけれども、職員の多くはそういう経営トップから、生の言葉で、生の表現で直接聴くチャンスも機会もあまり持っておりません。そういうときに年2回の面談ということは、非常にエネルギーがかかって大変なんですけども、今の職員のモチベーションアップということには極めて重要な役割を果たしていると思っています。
 もちろん賞与という目に見える評価でインセンティブを与えるということも、モチベーションアップの非常に重要なところであります。けれどもそれプラス最後のとどめといいますか、それはやはり経営トップや、もちろん規模があるからそういうことは全部できないとは思いますけども、せめてある程度の上司の人からそういう評価の後のフィードバック面談をきちんとする、つまり目に見えない評価をきちんとしてあげるということがモチベーションアップの重要なポイントだと思っております。

【鬼澤】被ってしまうかもしれませんが、働いている方々の中には正社員の方もいらっしゃるし、パートさんとか、派遣社員の方もいまして、「組織として全体をとりまとめていく中で、それぞれ社員さん、パートさん、派遣社員さんへの心遣いというか何か気になさっていることがあるのでしょうか。」という質問です。
【望月】常勤重視、企業では男性重視という姿勢にも問題があります。病院ではパートさんであっても相当な能力を持っている、だけど家庭の事情で時間が中途半端であるという人もいます。その人たちは自分が中途半端な時間しか勤められていない、だけど時間いっぱい、精一杯頑張ろうという気持ちを持っておりますから、そういう人たちを十分に活用してあげること。
そしてもっと大事なことは派遣社員です。よその会社に籍があって、川越胃腸病院に派遣されている人たち、その人たちに気持ちと温かさを提供してあげることだと思います。
例えば私たちの病院で職員の人たちに何か記念品を出すとか、何かの心を届けるというときに、私は派遣社員の人も除外せず全員にやります。例えば今回医療機能評価の再更新を行い、つい先日その認定がおりました。この認定には職員全員が関わってすごく努力してくれた。その認定作業に対して感謝の記念品を用意しようとして、副理事長を中心にして今やっと商品を整えました。それには派遣社員の人、パートの人、それから保育の職員、とにかく川越胃腸病院に縁とゆかりのある職員の人は全員分け隔てなく、常勤と同じ扱いです。こういうことをすると派遣社員の人たちは、会社のためよりも川越胃腸病院のために頑張ろうと思ってくださる。そのパワーが大事だと思いますね。だから分け隔てなく、というのがいちばん良いと思います。 

【鬼澤】はい、ありがとうございます。
DOIT!のビデオをご覧になった方はお分かりだと思います。多分この方はビデオをご覧になってこの質問だと思いますが、みなさんユニフォームが一緒なんですよね。「看護師さん、薬剤師さん、事務部の職員さんたちが同じ白衣を着ている意味を教えていただけませんでしょうか。」
【望月】実は病院というのは職種横断的な組織というのができにくい組織なんです。つまり病院というのは診療部は診療部、看護部は看護部、検査課、薬剤部とか、縦割り組織が非常に発達しまして、横の組織が育たない。ですから各病院はともすると各セクション間の仲が悪いんです。それぞれの、自分たちの部署のことだけを主張するから縦割りの組織でこうなっちゃうんです。
 私どもの病院は規模が小さいからその職種の壁をなくしたいという気持ちを持っています。そして川越胃腸病院としての仕事をするんだから、看護部としての仕事じゃないよ。診療部としての仕事じゃないよ。事務とか薬剤部、それぞれの職責が違うだけ、川越胃腸病院の仕事としてはみんな同じだよということを、ユニフォームを一つにまとめたということに表してあります。したがってナースのキャップも取り、事務もナースもとにかく女性は全部同じ。実は職種の壁を取ってください、そして川越胃腸病院として1人の患者様を満足させるには職種の壁があったらできませんということをみんなにアピールしたいというのがあのユニフォームに込めてあります。
 実はあのユニフォームは一人ひとりのオーダーメイドなんです。あれはデザイナーものでして、買ってきたものじゃありません。一人ひとりがこういうユニフォームをきちんと着てくださいね、着こなしてくださいねという意味で、頸にはリボンをつけ、ポケットもハート型にしてあります。あのデザインの中にはいろいろな思いが込められて、有名デザイナーに頼んで作ってもらっています。
 おかしいもので、職員の人の気迫が緩むとリボンがきれいに結べないんです。だからパッと見てリボンがうまく結べていない人は注意します。そして「鏡の前でもう一回結んできなさい」と言い、何回も何回も練習してきれいに結べるようにします。心が充実していないとリボンがきちんと結べない。結べないとあのリボンはだらしなく見えます。だから鏡を見て、リボンをキッと結んで、さあ今日も仕事をやるぞと・・・。あれは鏡を見ないと結べないものですから、それで鏡を見させるという一つのチャンスにしています。

【鬼澤】ありがとうございます。私も今日のセミナーの望月院長の言葉の中で、あ、いいな、ぜひお聴きしたいなと思っていたことなんですが、職員の人たちに美しい言葉をしゃべりなさいということをお話されているということでした。「職員の方にお話しされている美しい言葉について、少し具体例をお聴かせいただければ幸いです」というご質問です。
【望月】私は「医療は言葉」ということを一つの理念の中に挙げたんです。言葉で人を生かしもするし、殺しもします。言葉は武器です。私が女性を見て、あ、この女性きれいだなと思う条件は、実を言うと言葉なんです。きれいな言葉を使う女性は、もうそれだけで惚れちゃうんです。もうそれぐらい、女性に限らず、言葉の持つ魔力というか力はすごいなと思って、それを是非職員の人たちにマスターしてもらいたいなと・・・。
真心のこもった言葉というのが前提条件です。形だけの美しい言葉というのは人を打つわけではないので、そちらの方が前提ではありますが、それでも正しい日本語、美しい言葉・・・。今時の流行言葉を使うのは賛成しないのです。ですから人の心を打つきれいな言葉、正しい日本語を使ってくださいねというはいろいろな面談の時にしょっちゅうお話をするようにはしています。
ただビデオで後でふり返って見ると、ビデオっていうのは恐ろしいな、カメラっていうのは怖いなと思うのは、普段良いように思っても、あのビデオを見ると、ああ、まだこんな言葉を使ってる、こんな日本語しか使えていないということをしみじみ思ってしまって、実はあれを見るといつも反省しています。まだまだできていないなと・・・。心は出ているけれども、言葉がまだだめだなと反省しています。

【鬼澤】美しい言葉づかいというのはやはりサービスの大切な基本だなと思います。
 人の育成についてご質問をいただいています。「社員同士が共に成長していくような仕組みなどありましたらお聞かせください。」社員同士での勉強する場のことを聴きたい方だと思います。
【望月】実を言うと院内でやっております勉強会、研修会というのは私はほとんど関知しておりません。病院主導で行う勉強会というのはあの中で1割ぐらいだと思います。あとは全部自分たちが企画して、それも医療サービス対応事務局と研修委員会というのを自分たちでつくって、自分たちはこういう勉強をしよう、こういうことをやりたいねということをそれぞれが委員会の段階で勝手に企画して、自分たちでスケジュールを作ってやっております。それに私が呼んでもらうという形です。それぞれがもうスケジュールに入りきらないぐらいびっしり、もう1年先まで予定を入れているぐらい意欲的にやってくれております。それが職員同士の理解に繋がり、一つの大きな交流になっているということです。
 よその病院では、例えば看護部の研修というと看護師さんしか集まりませんよね。医者の勉強といっても医者が集まって、せいぜい看護師さん、興味のある人が集まるだけです。しかし私たちの病院の一つの特徴は、どこが主催しようとも全員が集まります。これはもう見事なほど、本当にお掃除のスタッフまで参加します。病院ですから夜勤があったりすると朝帰宅します。そして仮眠してまた夕方出てきて参加したりします。それだけ意欲が前面に出ていると私は非常に喜んでいます。
とにかく全員参加ということが私たちの病院の勉強会の一つの特徴で、職員がそれを自分の自主性でやっています。これが良いと思います。
【鬼澤】その職員さんたちの自主的な勉強会も、多分最初は結構ご苦労されたと思うんですね。最初の段階から社員たちが自主的に企画していくまで、今日の参加者は多分そこに至るまでをお聴きしたいんだという感じが・・・。
【望月】確かに最初は「時間内だったらやるよ」って言う人もいました。「時間外だったらやらない」というのもいましたね。だけどそれを繰り返していく間に、川越胃腸病院にいるんだったら、勉強しないと置いていかれるという気持ちがどうもあるみたいです。ですからそれが良い風土というか、学ぶ風土というか、競争意識だと思います。やはりそういう所に参加してちゃんと聴いておかないとみんなと会話が合わないなということを感じているらしくて、それは強制力でも何でもありません。
こういう勉強会というのは時間外で、5時半ぐらいからやるんですが、もちろんそれにはお給料を払ったことはありません。でも参加率はとても高いですね。
【鬼澤】じゃあ正直言って最初のころは少し少ない感じはありましたか。
【望月】もちろんそういう時もありました。最初のころは今申し上げたように、「時間外手当が出るんですか?」と聞く人もいたそうです。もうそう言う人は誰もいません。そういうような雰囲気から10年ぐらい経って今の状態になりました。

【鬼澤】給与形態で、さっき外部にお願いをしているというお話があって、そのことに対してのご質問ですね。「給与制度、賃金制度みたいなところについて、独自に作ることのデメリットというのは何でしょうか。外部に頼んだ方が良いものができるのでしょうか。」
【望月】先ほど申し上げたのは、東京の下落合にあります賃金管理研究所、その弥富先生というカリスマ的な賃金管理の大家がいらっしゃいまして、20数年前にその先生にお会いさせていただいて、私たちの病院の賃金制度の設計をしていただきました。賃金制度の設計はお願いして指導はお願いしていますけども、どんな指導であってもその病院独自の特殊性というのがありますので、あくまでも運用は私たちの病院としてやらないと、全て100%そのままで運用はできないというふうに思います。
ただ私たちはほとんどが賃金論に関しては素人のスタートでしたから、最初の導入の時はプロの指導を仰がないと全く非常識なことをしてしまうという恐れがありましたので、最初の導入からそこの先生のご指導を今も続けていただいております。川越胃腸病院の賃金というのはこういう運用で正しいでしょうか、こういう考え方でいいでしょうかということを常に確認しながらきておりますけども、あくまでも私どもの病院の特殊性というのはその中に十分入れてありますので、買ってきたものをそのまま運用しているわけではありません。

【鬼澤】それともう一つは目標管理制度を導入しているということで、「目標管理でもっとも大切なことは何でしょうか。是非教えてください」ということです。
【望月】実は目標管理は私は一切関知しておりません。これは現場の所属長や現場の上司がそれぞれマンツーマンで対応して、その人その人の個人の目標管理をしております。実は私のところまでは個人の目標管理は届いてきませんし、私がそれをいちいち管理、監督する気もありません。それは所属長単位でやるべきものだと思います。

【鬼澤】「トップは能力よりも思いやり、能力の不足は補えても思いやりの欠如は補えないという言葉が非常に胸に残りました。では思いやりの心というのはどのように育んでいけばよいでしょうか。」思いやりの心はいったい何ですかという、すごく率直な質問がきています。
【望月】それには特別な別にコツなどというものはないと思います。ただ自分が苦しい時に自分はどうやって乗り越えてきたのかなと思うと、自分の反省の中でやはり職員に支えられてきたという気がするんですね。そうすると職員の人たちの笑顔とか、職員の人たちの心というのが私を支えてきたので、じゃあ逆に職員の人たちの力にもなってあげたいと思うのが今のご質問に対する答えかもしれません。
 それともう一つは、こんなことを言っては亡くなった人に怒られるかも知れませんが、私にとっては初代の院長が反面教師でした。白のことも黒と言うし、気に入らない人間は「翌日出社に及ばず」と言うし、もうとにかくイエスマンしか周りにいられない状況で、「地球は俺中心に回っているんだ」と公言してはばからないような人でしたから、それを見て、その中で苦労している職員の人たちを間近で見たことでそのように思ってきたということがあるかもしれません。

【鬼澤】望月院長ご自身に関する質問も結構多いです。「ご自身がくじけそうになる時、どうやってご自身でご自身をモチベートされているか。またはストレス解消というのはいったい何をされているんでしょうか。」
【望月】実は私は根っからの仕事人ではあるのですが、それでも最近この5年位は結構上手にさぼれるようになりました。正直言って外科医のストレスというのは相当大きなものがありまして、手術をしてもその後に出血しはしないか、破けはしないか、常に何かありはしないかということが頭から離れないんですね。そういう状態が続くと、私もやはり心が疲弊するし、アンテナも折れてしまったり疲れたりしてしまったりするわけです。これは職員にとっても、患者様にとっても良いことではありません。そうすると自分はやはりどこかで気を抜かなければいけない、手を抜かなければいけないと思います。
 最近、今日お示ししたようなあんな風景の写真を撮りにでかけるとか、非日常の世界に身を置くということが私のストレス解消のいちばん大きなものになっています。ご覧いただいたように、私の写真の中には1人も人が写っていないですよね。つまり生きるか死ぬかという厳しい現場に何時もいますと、人の顔を見たくない時もあります。だから私にとっていちばん疲れるのは東京にでかけるということなんですね。東京に行って駅の雑踏の人の頭を見るだけでもう頭がガンガンします。
だから自分の自由な時間があればやはり自然の中にいて、自然の空気に癒されるというのがいちばん休まります。それを写真に撮ってきて、それを院内に飾ると皆さんが意外と喜んでくださるので、それが結構自分のストレス解消になっています。
 それともう一つは、多分私は普通の人の時間を2倍有効に使います。例えばちょっとした時間があると、とてつもない行動をすることがあります。例えば北海道であろうと九州であろうと、思いつけばすぐに出かけることがあります。1日の休みがあれば充分です。学会などで出かけるときも、半日や数時間の余裕があれば、車でガーッと走ってきます。土曜日の夜でも、あぁ疲れたな、でも今日はこれで今週の仕事は無事に終わったなと思ったら、よし、ちょっと飛ばすかと思って盛岡の方まで行ってしまったり・・・。だから1日あれば1000キロぐらい走ることも珍しくありません。
 普段ちょっと疲れたなと思って横になったりすると、1日ぐらいすぐ経ってしまったりします。と日曜日の朝でも油断すると起きるのがお昼頃になったりします。これが私にとっていちばん嫌いな日曜日で、あぁ今日も1日何もしないで過ぎちゃったと後悔するのです。ですから朝暗いうちに起き出して、2000メートルの山に登ってまた運転して帰ってきて、夕方には病院にいて回診していたりするわけです。
 そういうふうに人の2倍も3倍も動いていると、これが結構ストレス解消で快感ですね。
【鬼澤】みんな唖然として聴いていますね。なるほどですね。

 外科医の七カ条にありましたが、特にトップには迅速な判断、決断が必要だということでした。ではその時に必要なものは何ですかという質問をいただいています。
【望月】私は遅滞なく正確に、ということだと思いますね。外科医のことと合わせてみなさんにちらっとお話ししたんですが、実はあれというのは長く私の頭の中に持っていたものではなくて、このお話をするために、やはり外科医だから外科医らしいお話をちょっとしなくちゃな、と思う中でふっと思いついたことを強引に経営にかこつけてお話ししたのです。でも考えてみると、外科医の仕事と経営の仕事とよく似ているなというふうについ思っちゃったんです。
 その中でいちばん大事なのは、外科医にとって最も重要な要素というのは2、3あるんですが、その中の一つがとにかく決断のできる人。お腹を開けたらとんでもない状態にガンが拡がっていた。じゃあどうする。今まで想定していなかった状況がいきなりそこに出てきた時に、瞬時に、本当に瞬時にそれを判断して、じゃあ右から攻める、左から攻める、中央突破でいくという戦略を立てなければいけない。立てた戦略をすぐ実行しなきゃいけない。実行したら、最後まで行ってその場を完結し、お腹を閉じて終了というところまでやらなきゃいけない。私のような経営感覚のない人間が今日までとにもかくにもこられたのは、1時間か2時間の間に経営に必要な全ての要素を勉強する、そのトレーニングを積んできたこと、多分この訓練、トレーニングが大いに役に立ったんだという気がするんです。
外科医として成長するには、どんなにメスが切れても判断ができない人はだめです。お腹を開けた途端に「どうしましょう、どうしましょう。こっちからいけばこうだし、こっちからいけばこうだし・・・」と解説をしたり評論するばかりで判断しない人、決断しない人は絶対良い外科医になれません。間違ってもいいからとにかく決断する。「自分はここからいきたいけどいいですか?」とか「こっちからいったら地獄になりそうなので、こっちから攻めます」ということを、経験のあるなしに関わらず決断する人がいいです。そして決断したら迷わないことです。
【鬼澤】やはり経営者は日頃からそのための訓練を何かしておいた方がいいということですね。
【望月】そうです。例えば傷にためらい傷というのがあるのをご存知ですか。ためらいながら傷をつけると絶対にきれいな傷にならない。自分のことをこんなふうに言っては何ですが、何十年経った患者さんでも、お腹の傷を見るとこれは私の手術だと分かります。それは傷に私の習性というか癖が現れているんです。それは何十年経っても分かります。私の傷はピシッと1本、まさに一直線です。ほとんど定規で引いたみたいに真っ直ぐです。ところが今のためらい傷という話ではないんですけど、ためらいながら、これでいいか、これでいいかという風におっかなびっくりに切開する人がいます。そうする傷が曲がってしまいます。それは自信がない人の手術だってすぐ分かってしまう。
切開はこうだと決めたら始点から終点まで一気呵成にザッといくんです。そうしたらきれいな1本線ができて、ヘアラインスカーというんですが、髪の毛のようにきれいな傷になります。
だから経営者も、こうと思ったら迷わない方がいいと思います。

【鬼澤】川越胃腸病院にお邪魔した時に、職員の方が「院長先生は手術室の中と外では人が違います」という話をされてましたけれども、やはり手術室に入るとご自分でスイッチが入られるんですか。
【望月】多分そうだと思います。私がいちばん嫌いな仕事は外来なんですよね。すみません、あんまり好きじゃないんです。仕事をずっと同じテンポでやっていると疲れちゃうんですよね。だから厳しくともアクセントが欲しいです。外来で使うエネルギーと手術で使うエネルギーは数倍手術の方がエネルギーはきついんですけども、アクセントがあって楽しいということはあります。それと刺激があって、緊張感があって、ということがあります。 だから私は手術室に入ると多分ギアが入る、違うギアが入るんだと思います。
 ただ、これは経営者にも言えることなんですけども、やはりあうんの呼吸で、ものを言わなくてもいい理解者が隣にいると、手術もすごくうまくいきます。みなさん方がテレビで見る手術場の風景というのは、「ペアン」とか「クーパー」とか、いちいち外科医が言いますね。それに対して看護師さんが機械を渡します。あれは二流です。
一流は、手を出しただけで何が欲しいか看護師さんがすぐ分かります。欲しいものをパーンと渡すんです。その渡し方もコツがあるんです。それは手のひらに一寸違わず、ちょうど良い所に、心地よい強さで渡すんです。バシーンと渡すと痛いし、幽霊が渡すようにふにゃっと渡すと手に握れません。それをパーン、パーン、パーンと流れるようなリズムで、寸分違わぬところで欲しいものをパッと手に受け取ることができると、手術というのはすごくうまく楽しくいきます。これはもう一種のエクスタシーです。これを感じるのが手術というものの醍醐味です。
ですから、そういう自分のことを理解してくれて、協力してくれるチームがつくれると、これは会社経営も同じだと思いますが、非常に良いと思います。
【鬼澤】でも普段は、職員さんには思いやりとか優しさで我慢ができると・・・。
【望月】だいぶ人間が練れてきまして、ちょっと我慢できるようになりました。

【鬼澤】すみません、ちょっと時間になってしまいました。最後の質問ですが、望月院長の夢は何なのでしょうか。もしくは病院や仕事を離れたこれからの人生の幸せとか夢というのが何かありましたらお教えください。
【望月】私の病院に関しての夢は一つあります。それはこの病院なら死んでもいいと患者様に言ってもらえる病院にすることです。実はもうちょっとそれに近づいております。 いつも外来に来られる82歳の独居のご老人が私にこう言ってくれました。
「院長、私が死ぬまでは元気でいてください。私の死に水を取ってから死んでください。私はどんな病気でもいいから死ぬ時は川越胃腸病院でともう決めてます。だけど一つだけ困ったことがある。自分でその意思を表現して川越胃腸病院に来られる時はいいけれど、脳卒中だとか、心筋梗塞だとか、自分で意思を表現できない時にいきなり救急車が回ってくると、川越胃腸病院は救急指定病院じゃないから川越胃腸病院に運んでくれない。その時は困るから、私は何とかして川越胃腸病院に運んでもらいたいと、いろいろ考えたけど、やっと良い方方が見つかりました。」「何ですか?」と言ったら、「『救急隊のみなさま、私が倒れていたらどんな病気でも川越胃腸病院に運んでください』と大きな紙に書いて玄関の所に張り出しました」というお年寄りがいました。嬉しかったですね。
そういうことを言ってもらえる病院、つまりこういう病院だったら死んでもいいとか、家族の方で言えば、肉親は亡くなったけども、自分はやはりあそこにかかろうと思ってもらえるような病院、これができたら私の夢は完結します。

【鬼澤】ありがとうございました。まだまだ聴きたいことは山のようにあるのですが残念です。是非みなさん、患者になって川越胃腸病院さんに行ってください。そうすれば職員さんも見れますし、雰囲気もわかりますので。

 望月院長、本当にお忙しいところありがとうございました。みなさん、どうもお疲れ様でした。