ミスティークツアーに参加して / 水谷 亮子 さん

ミスティークツアーに参加して / 水谷 亮子 さん
水谷 亮子 さん (2002/03/19 update)

2002年2月26~27日に、「ザ・リッツ・カールトン大阪・ミスティーク・ツアー」を企画いたしました。参加メンバーを代表して水谷亮子さんがレポートを作成してくださいました。
多くの皆さまにご覧いただきたいと思います。水谷さん、ありがとうございました。
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感動の「ミスティーク」を期待して、「ザ・リッツ・カールトン大阪 ミスティークツアー」第一班(2月26日~27日)に名古屋から参加させて頂きました。
1日目はクオリティ担当部長の桧垣真理子さんのセミナーを、、実際のラインナップの見学、スイートルームや食堂などの施設の見学、スタッフとの皆さんとの懇親会がありました。
2日目は前日聞き残したことをレビューする場が設けられ、非常に盛りだくさんのプログラムでした。
 桧垣真理子さん

■はじめてのリッツカールトンホテル大阪
あの暖炉がある落ち着いたロビーをイメージしていたのですが、外観は予想に反して近代的なオフィスビルのようだったため、ホテルがどこなのかわかりませんでした。
また、ホテルへの入り口がわからなくて、裏口のようなところから入ってしまい、残念ながら期待していた暖かいお出迎えには遭遇することができませんでした。でも、中へ入ると、うって変って木の温かみが伝わってくる、イメージ通りの素敵なホテルです。

■私が出会った最初のミスティーク
初日のロビーラウンジでの出来事です。
セミナー開始時間まで1時間程ありましたので、会場を探して1階をうろうろしました。
迷路のような通路ですし、通常ホテルにあると思われる「フロント」や「今日の催し物」という表示が全くなく、「ミスティーク」ではなく、「ミステリー」ツアーに来てしまったのかなと思いました。
とりあえずロビーラウンジで休憩することにして、紅茶とスコーンのセットを注文したところ、「砂時計の砂が落ちたら紅茶を入れに参ります」とスタッフの方がおっしゃったので、砂時計が落ちるまで楽しみに待っていました。
ところがどなたもいらっしゃいません。そこで自分で紅茶をいれようとカップに銀製の茶漉しを置いた途端、スタッフの方が「おつぎします」と素早くテーブルにつき、紅茶を入れてくださいました。
「カチャ」っという音を聞き取られていたのです。ミスティークですよね。
また、セミナー会場を伺ったところ、桧垣さんがセミナーを担当されていることや、2日目の会場は先程のロビーラウンジであることを教えて頂きながら、2Fの会場まで案内して頂きました。
あとでホテル施設の見学の時に、近代的なものはなるべく排除し、あったとしてもお客様の目に触れないように隠していると伺いました。
実際、自動ドアはないし、エスカレーターも見つかりにくいところにあり、「なるほど」と納得しました。
私にとっては迷路だった通路も、プライベートスペースを大切にした「もうひとつの我が家」というコンセプトそのものだったのです。

■感想
理念に共感でき、かつザ・リッツ・カールトンで成功できる資質を持つ人材を採用しているだけでなく、さらに日々磨きをかけていく仕組み、そしてそれにかかわるリーダーシップ、が素晴らしいと思いました。

桧垣さんが「リッツ・カールトンが他と大きく違うところは、会社の方向性が全ての従業員に明確に分かるようになっていることです。内部の財務諸表も共有され、従業員は、自分のチームの目標が何であり、どのくらい達成できているのかを知ることができます。また、会社の基盤となる価値観を共有するためにかけるエネルギーや時間はすごいものです。」と仰っていました。
沢山のスタッフの方との会話や、その行動を実際に拝見させて頂きましたが、フロント支配人の和田さん、クラブハウスの木原さん、ハウスキーパーの小泉さん、みなさん誇りを持って働いていらっしゃると実感しました。

それから、事実に基づいたクオリティの管理・改善。問題は常に人に起因するのではなく、プロセスに問題があると捉えるというスタンスが課題解決のスピードアップに繋がっているのだと思います。
お客様との瞬間・瞬間のコミュニケーションを大切にしながら、顧客満足の追及こそがビジョン達成への近道であると信じ、それを実践されていることにも感動しました。
和田さんに伺いましたが、お客様のリピート率は40~50%だそうです。自分たちが重視するデータもしっかりとられています。
ツアー終了後、桧垣さんとメールのやり取りで、「お客様の期待は私達のコントロールの域を越えるもので、期待を超えなければならないのは、私達の宿命であると受けとめています。「お客様がどう感じて下さったか」が全てですから。クオリティジャーニーに挑み続けます!」と熱いメッセージをいただきました。
お客様のニーズを先読みして進化し続ける、ザ・リッツ・カールトン大阪に、また泊まりに行こうと心に決めました。


【桧垣さんセミナー】 メモ (質疑応答内容も含めてまとめました)
●ザ・リッツカールトン大阪プロフィール
ザ・リッツ・カールトン・ホテルカンパニーは、1983年にホテルを運営するオペレータとして設立。
アトランタに本拠地をおき、世界中に44のホテルを運営。土地・建物はパートナーシップを結んだオーナーのもの。大阪は今年で開業5年目、阪神電鉄がオーナー。客室稼働率は大阪のホテルの平均80%、リッツは86%。平均客室単価は、大阪のホテル平均 15,000~16,000円、リッツは31,000円。

桧垣さんのクオリティ部はミスティークのクオリティをコントロールする部門

(1)クオリティの向上
 「どこに焦点をあてればいいか」をクリアにし、方向付ける。
(2)クオリティのトレーニング
早い期間で改善できるようなノウハウの教育、Qualityの定義付けなどを、リーダーを含む各ポジションごとに必要なトレーニングを行う。
(3)データのフィードバック
CS/ES調査や問題発生傾向分析等の結果

●ザ・リッツ・カールトンホテルカンパニーピラミッド

◆7年ビジョン
リッツのあるところで絶対迷いなく選んでもらえる、オンリーワンのホテルになる。

◆2年ミッション
大阪・日本・アジアにおいて、NO.1の商品と利益を目指す。 

◆戦略
100%の顧客保持、顧客層の拡大、顧客支出の増大、効率性の向上。 

◆目標
お客様、従業員、オーナーの満足。すべての従業員にとっての仕事。

◆方策・戦略
どこの部門が何をやるかという具体的な戦略展開プロセス。

◆手段
TQM、MB賞基準を経営手法として用いる。MB賞受賞時の評価は、エンパワーメントは具体的なプロセスにまで落としこまれ、業績につながっていると評価されたが、一方で内部プロセスそのものの改善の余地があるとのコメント。それに対し、内部プロセスの効率向上を目標として取り組んでいる。

◆基盤
ゴールド・スタンダード=お客様および従業員同士が接する際、常に基準となる価値観VALUE、妥協を許さないもの。クレド、モットー、従業員への約束、サービスの3ステップ、ベーシックから成る「ゴールドスタンダード」

◆クレド(信条)
創設メンバーが作ったもの。価値(Value)お客様に心のこもったおもてなし、お客様にとって最高のものを提供する。これがルール。お客様がどんな印象をもたれたかが一番大切。

◆モットー
「クレド」に基づいて行動する私たちは「紳士淑女」。「従業員同士も紳士淑女」というところがリッツの特徴。日常の職場環境や人と人との関係が非常によくなければいけない。

◆従業員への約束
3年前にできた。お客様にいえることは従業員にも言えること。コンピュータやデータベースよりも人を大切にする。会社は個人を最大限に支援。個人の成功が会社の成功につながる。一人一人の意見が違っても、価値観が一緒であれば問題は起こらない。違わないことのほうが危険。違うことが多様性を生み、結果として最高のものを生み出せばよい。

◆サービスの3ステップ
365日この3ステップを行うことはとても難しい。すべての従業員にとって挨拶が一番大切なこと。清掃というのは業務に過ぎない。ニーズの先読みには、お客様にとって大切なことを瞬間に五感を使って感じとることが大切。その場で感じたお客様の潜在ニーズにあったサービスを確実に行い、次にいわれなくても再び同じサービスを提供することにより、またリッツを選んでくださる、他の方に紹介してくださる。そのときに確実にお応えできれば却ってコストは小さくてすむという考え方(実際に過去のデータにも表れている)。これがお客様が定宿を決める際の決定ポイント。

◆ベーシック
「クレド」「モットー」「従業員への約束」「サービスの3ステップ」を20項目に具体的に落とし込んだもの。
一番リッツらしいのは「No.10」のエンパワーメント。「判断して行動する」基準とは、「お客様が満足される」こと。そして「従業員も満足する」こと。権限委譲ではなく、判断からゆだねる。どこまでどうすればいいかを純粋に考えられるか、そして、そのあと行動できるかが大切。


●桧垣さんがこのツアーのために集めてくださった新しいミスティーク情報
(1)ゲストサービスエイド(GSA)という防犯、防災から病気、怪我の救急対応までをする、お客様と従業員のためのお助け部門があり、お客様の忘れ物についてもGSAが木目細かく対応をしている。ある時、パスポートが部屋に置き去られたのをハウスキーピングが気づき、GSAに連絡した。GSAはお客様が館内にいらっしゃらないかお探ししたが、すでにチェックアウトされていた。いろいろ探して、結局バス停にいるお客様を探し当て渡すことができた。またある時、セーフティボックスにパスポートがあり、GSAに連絡が入った。ある従業員から「前日に東京までの新幹線のチケットを手配した」という情報を入手し、東京のホテルに電話をかけ続け、10何軒目で見つけてお渡しすることができた。
(2)車椅子の女性がホテル館内に一人でいるのを見かけた従業員が声をかけると、お連れのかたが先にチェックアウトしてしまい、今日は一人で泊まるのだという。「なにかお手伝いできることはありませんか」と聞くと、館内を案内して欲しいとのこと。フィットネスセンターでは肩を貸してプールまでご案内し、お部屋までお送りして、「ご滞在中お手伝いさせて頂けることがあれば、どうぞご連絡下さい」と自分の名前も伝えて別れた。翌日チェックアウトの時間に部屋の前まで迎えに伺ったところ、お客様にとても感激された。

●採用とタレントプラスの考え方
QSP(Quality Selection Process) タレント・プラス社と開発した科学的な人材選考プロセス。1990年に開始。
副会長ホルスト・シュツィさんの言葉「クオリティにおける会社の成功は、従業員の適切な選考から始まる」
“The company’s success at quality begins with the right selection of employees”
資格をもった面接官が予め決められた面接形式で、リッツの舞台で成功できる資質をもった人を採用。良し悪しや優れているからではなく、リッツのステージの上でチカラを発揮して成功できるかを見極める。スキルはあとからでも教えられるが、考え方や自然に行う行動は後から教えられない。採用後はその人の強い部分(本人にとっても喜びを感じる部分)を伸ばす(後述:タレントプラス参照)。リーダーや各ポジションに求められる資質がある。また、リーダーはチームとして成功するために、各スタッフの資質について知っておくことで、強みを生かしたり、サポートすることができる。全員の資質傾向を参考に、チームの中での役割分担を決めることができる。


「資質の定義」
人が見ていなくても繰り返される行動に表れるもの。後天的な教育によって変わることのない無意識の行動に表れるもの。
★リッツ・カールトンで成功する資質とは
Talent theme(タレントのテーマ)
Work ethic(職業倫理)
Self esteem(自尊心)
Persuasion(説得力)
Relation ship extension(関係拡大能力)
Team(チーム)
Positively(積極性)
Service(サービス)
Empathy(共感)
Caring(気遣い)
Exactness(正確さ)
Learner(向上心)

◆QSP設問
日頃どのような行動をとるかを質問。その人が、どのような行動をとる傾向があるのかを検証するために、1つの項目に対して、5問質問。たとえば、人に思いやりをもてるかどうかをみる時の設問。
 「人から良く相談されますか?」 "はい"と答えたら、本人が思っているだけかもしれないので、 「具体的には最近どんなことがあったか話してください」 と具体的に聞き出し、検証する質問をしていく。

◆「タレントプラス」の考え方(GIFT)
(T+F)×I=G
T:TALENT(資質)
F:FIT(環境適合=育った環境、経験、学校教育等)
I:INVEST(教育、評価、配置等)
G:GROWTH(成長)

Gを最大にするには、Tからという考え方。
リッツ・カールトンでは、教育を「考え方」「スキル」「知識」の3点から考える。考え方はオリエンテーションやラインナップで、スキルは各ポジションのチェックリストに基づいて、教育を行う。

◆人事の4つのキープロセス
「QSP(クオリティ・セレクション・プロセス)」→「オリエンテーション、デイ21」→「トレーニング修了認定」→「毎日のラインナップ」の、4つのキープロセスで構成される。
「QSP」で選ばれた人材は、入社後、「オリエンテーション、デイ21」というプログラムに参加。最初の2日間は、総支配人はじめホテルのマネージャー達が、ゴールドスタンダードについて色々なエピソードも交えながら説明、紹介する。3日目に初めて各職場に配属され、入社21日目には、オリエンテーションで学んだことの確認と、各ポジションの基本的業務の「トレーニング修了認定」が行われる。その後も毎年再認定が行われる。ポジションが変われば、その都度認定が必要になる。
「毎日のラインナップ」は、「ベーシック」を深く考え、理解し、行動できるような情報を共有する場。
<進め方> ラインナップリーダーが、「今日のベーシックは何番?」「それはどういうことですか」「自分が最近経験したことはなんですか」「どういうところがいいところですか」「では、このとき気をつけなくてはならないことはなんですか」というような質問形式で進められ、具体的にスタッフが体験したことやスタッフの考えを引き出しながら双方向で行う。

◆価値観浸透のためのリーダーシップ
総支配人やリーダー層のリーダーシップも価値観共有の鍵。
総支配人が「ミスティーク」となる出来事を知り、そのスタッフの職場まで直接出向き、価値観に基づいた行動をしたことを認め、感謝を表すこともある。
リッツでは、全スタッフが「お客様の前では一人一人がリーダー」であり、お客様のために判断し、行動するスタッフを、お互い紳士淑女と尊敬し合い、部門や職位を越えて支援している。

◆お客様の情報共有とクオリティの管理
お客様の状況を共有し、お客様がホテルを出られるまでに、その要望や、不満を解決するしくみがある。パートさんまでお客様の情報を共有している。
また、クオリティについてはデータで管理されている。
SQI(Service Quality Indicator)と呼ばれる指標においては、お客様のロイヤルティに最も影響を及ぼす項目について、担当部署が毎日欠陥発生数を測定し、報告。ホテル全体の1日の欠陥発生数をクオリティ部がレポートにまとめ、全セクションに配布される。各セクションはそのデータをもとに、日常業務の改善を行う。頻発する重大な問題に対しては、その問題に直接関わる部門と関連する部門からプロジェクトチームを編成して解決。問題は常に人に起因するのではなく、プロセスに問題があると捉える。

◆「問題解決の6つのステップ」  1~3に時間をかける
1.問題を明確にする サービスの低下とはいわない。具体的な問題を指す
2.問題を分析する(特性要因図:さかなの骨)誰がしたかではない 
3.解決策を生み出す 分析して原因を見つけ出す
手順・環境・レイアウト・人など、5つの視点からブレーンストーミングを行う 
4.解決策を選んで具体的に選択
5.解決策を導入
6.評価

◆「問題」MR.BIV
Mistake, Rework(やりなおし)
Brake down(故障)
Inefficiency(非効率)
Valuation(バラツキ)

◆社会貢献
リッツ・カールトンの価値観に共感できる資質として、人の役に立つことが好きな人間の集まりなので、地域の高齢者施設を訪問し、お花見や食事をしながら話をしたりする活動を行い、従業員も楽しんでやっている。環境保全については、ベーシック20番の「ホテルの資産を大切にし、環境保全につとめる」に基づき、ケアプログラムを実践している。ケア(CARE)とはClean & Repair Everything (全て清潔にし、修理する)を意味する。たとえば、「3ヶ月に1回、部屋をまっさらにする」と技術部が5室を選んで徹底的にメンテナンスとクリーニングを行っている。


【木原さん(クラブフロアのスタッフ)のお話】 抜粋
・リッツで一番好きなベーシックはNo.10の「エンパワーメント」。お客様がどんな印象をもたれたかが一番大切。
ご夫婦だから、お子様連れだから、ビジネスマンだからこうにちがいない、というのは間違った判断。
このベーシックがないと、一人よがりの行動になる。このベーシックがあるからこそ、全スタッフがお客様や会社から信頼されていると感じられる。そして、判断し実践できる。一人一人がコンシェルジェとして、700名のスタッフがラテラルサービス(部門を越えた支援)で支援し、自分だけではなく、リッツ全体でお客様を気遣う。


先月、ある男性のお客様から「自分の彼女を驚かせたいので協力して欲しいという」というご要望を頂いた。「それではまずはお客さまとの打ち合わせが必要だ」と考え、お客様とスタッフで作戦会議を開きました。
「正面玄関でクラブスタッフ全員が出迎える」「バラの花束をお渡しする」「部屋へ入ると二人の思い出の曲が流れる」「何気なく記念撮影したカードをお渡しする」というプランをたて、実行した。
お客様の彼女に感動頂けたのも嬉しかったが、依頼主のお客様も「ホテル全体でやってくれると思わなかった」と感動していただけ、それに関わったスタッフ自身も満足だった。
この間、自分のタスクを他のスタッフが代わってくれたり、ルームサービスやフロントのスタッフも通常の業務以上に頑張ってくれた。自分一人ではこの「ミスティーク」は実現できなかった。


・「判断したサービスが正しかったかの確認、更にサービスの質を高めるためどのようにしているか」の質問
上司が「こういうことをしたからこそ、お客様はまたリッツを選んでくださった」とか、「こうだからだめだった、ではなく、こうしたらよかったのではないか」など、毎日毎日前向きなフィードバックを与えてくれる。このコメントがお客様にとってどうであったかの判断となり、更にどうすれば良いかの気づきを与えてくれる。自分も、自分より新しいスタッフにはそのような声をかけるように心がけている。