戦略視点の経営革新 / 2000年7月

戦略視点の経営革新
岡本 正耿 氏

どうも、岡本です。よろしくお願いします。1時間ほどお話をして休憩で、その後また1時間ぐらい、そして最後に質疑応答とお聞きしています。まず前半の1時間、どちらかというと総論的なお話をして、後半の1時間に各論のお話をさせてもらえればと思っています。

1.戦略とは
お手元のレジュメの1つ目に「戦略とは」と書いてあります。実はこの経営品質の考え方が一般になかなか理解してもらえないのは、いろんな類似のものがあるからです。例えば日本では太平洋戦争の後、いわゆる品質管理のデミング賞というのがありました。それからヨーロッパ・EUというのは数カ国分の票があり票がすぐまとまるので、最近ではヨーロッパが国連で作ったISOというのがあります。アメリカはあれだけ巨大な国でも一票しかないのです。ISOはヨーロッパのいわば障壁作りとして作ったわけですが、ヨーロッパから見ると残念ながら日本企業はほとんどクリアできてしまうというものです。大体イタリアなどのああいう国を想定すれば、日本人の方がよほど真面目なので大体取れてしまうのです。あるいはTPMやZDなどいろんなものがあるわけですが、それらとの違いというものが戦略というところにくるわけです。

これらとどう違うのか。私たちが生きているこの社会は、上には自然のシステムである生態系があります。それからもう1つは技術システムというのがあります。これは製造業だったら、物を作る機械と物の操作をするわけです。どちらかというと従来の各種の経営改善のアプローチというのは、大体この技術システムアプローチなのです。ですから相手は物であったり機械であったりします。物は心を持っていないので、意欲や志などはあまり関係ありません。技術システムとしてさまざまな経営ツールが開発されて、それをうまくやった場合には賞になったり、あるいは経営改善のツールになったりしてきたわけです。しかし経営品質、あるいは経営品質賞は、そういう技術システムのアプローチとは違います。基本的には社会システムのアプローチをとっています。
社会システムというのは何が中心かというと人間が中心です。社会システムの中でいちばん大きいのは全地球という単位になります。あるいはもう少し小さめになると国家という単位です。あるいは地方自治体なども社会システムです。そういう社会システムの1つとして、例えば企業を捉えていくわけです。ですから基本的な考え方は自治体であろうとNGO・NPOであろうと、あるいは民間の利益を求める企業であろうと、あるいは病院や学校でも全部同じです。ですから民間企業に特有だと思われているかもしれませんが、実はそんなことはなくて、全ての社会システムに活用し得るという考え方でできています。
中心に人を置いているという社会システムの厄介な点は、人なのでいろんな人がいるということです。まず技術システムのアプローチと根本的に考え方を変えなければならないのは、いろんな人がいるということなのです。それを「多様性」と呼んでいます。いろんな人がいるからいろんな価値観があります。あるいはいろんな思惑があります。あるいはいろんな都合・事情があります。その都合・事情をそれぞれ勝手にやっていくとまとまりません。それをどうするかということが1つの考え方です。もう一つは、その人たちが変わるのです。もう一方の軸が流動するのです。価値観は変わります。ですから流行だってファッションだってコロコロ変わります。株も上がったり下がったりします。
そういう変わるということと多様性ということを重ね合わせると、我々は「複合」と呼んでいるのです。「複合性」です。システム工学では単純な因果関係を「単因果」といいますが、複合性なので単因果のアプローチをとっても物事は解決しないのです。例えば非常に効率をしようということで生産の効率だけをよくしたとしても、同じように販売側がシンクロしていなければうまくいきません。つまり技術システムを採用する、技術システムのアプローチをとってしまうと、経営品質でいちばん嫌っている「部分最適」ということが起きてしまいます。部分はいいけれど全体のまとまりに欠けてしまう。社会システムというのは部分でアプローチすると大体うまくいきません。全体をどうやって円滑にするかという視点を持たなければいけない。これは企業でなくても家族・家庭でも同じです。お父さんだけ、お母さんだけ、お子さんだけ変えようとしても無理で、全体としてどういう家庭を築くかという全体のビジョンができなければまとまっていきません。
社会システムの、それぞれの多様性と流動性をあわせた複合性を前提とすると、どうしてもまとめ上げていく何かが必要になります。

実際に月にアポロが飛んだのは1969年の7月でした。1961年にその計画が米国議会で承認されるわけです。ケネディが大統領でした。ちょうどアイゼンハワーのころから、アメリカは宇宙開発でソ連にだんだんと負けていきました。その時にケネディは「宇宙開発でソ連に負けないように頑張ろう」と言うこともできたと思うのですが、ケネディはそういう言い方をしませんでした。「月に人類を運ぼうではないか」といいました。それも「今世紀のうちに」と日限まできったのです。これが全アメリカ人の心を1つにまとめていきます。あの巨大なNASAという、あらゆる科学技術を集積するシステムが出来上がってきます。そして遂に1969年に月に人類を送るわけです。1961年の時点で、月に人類を送れる可能性は専門家の予測で30パーセントでした。ということは70パーセントは不可能ということです。であるのに、ケネディが「月に人類を送ろうではないか」と宣言したことによってみんながその気になったわけです。社会システムというのは、みんなをその気にする何かがなければいけません。
ちょっと理屈っぽい話になりますが、技術システムの方で使う言葉に「コントロール」という言葉があります。いわゆるQCの語源のクオリティ・コントロールです。このコントロールの語源はそんなに古い言葉ではありません。アンゴルフランス語なのですが、「コントル」というのは車輪という意味です。「ロトゥール」というのが車輪に対して止めるとか、制御するという意味で、つまり車輪を動かなくする、ブレーキというような意味なのですが、明らかに物に対して使う言葉です。
それから「マネージメント」という言葉がよく使われます。日本語で言えば「管理」ということです。これも「マネージ」という言葉の語源はイタリア語ですが、「マヌ」というのは手を意味し、最初は手で馬を操るという意味でした。ですから馬を叩いたりしてうまく走らせようというのがマネージという言葉の語源です。だからあまり人間に使っては失礼な言葉です。そういう言葉が生まれたのは、階層社会において貴族・王様がいて、奴隷のような人までいる階層があって、自分より身分が下の人は馬のようなものだった。だからそういう言葉が生まれてきたわけです。
言葉というのは意味なので、その言葉を使って物事を進めてしまうとどうしても技術システム的に人を見ることになってしまう。その「人」というのは社内も人ですが、取引してくれるビジネスパートナーも人です。さらにお客様も人なので、全て人が絡んでくる社会システムを技術システムと同じように単純化してやってしまうと、なかなかうまくいかないわけです。
先程ケネディが「月に人類を送ろう」と言ったのは何かというと「戦略」です。それは言葉としてはいちばん古く、マネージメントよりもコントロールよりも古いのです。紀元前です。アテネの都市国家でデモスというのが作られていました。「デモ」というのは何かというと、日本語で言えば「市」や「区」、「番地」という意味です。ですから何町何番地みたいなことです。それまでは人は家柄で証明されていました。例えば岡本とか鬼澤とか名前で血筋が証明されたわけです。それに対してクリステネスという人たちがやったのは、何町何番地で人間を証明することです。だから階層をなくしていこうとするわけです。その階層をなくしてみんながフラットな社会を作ろうとしたその考え方を「デモクラチア」と言って、それが今日の「デモクラシー」の語源です。その時に市民集会というのをやります。20歳から60歳の人を集めて市民集会をするのですが、そのうちに人が集まりすぎて話がまとまらないということが分かってきて、その町ごとで代表を出すようにします。その代表が100人委員会を作るわけですがそれでもまだ多いというので、その100人委員会の中からさらに非常に前向きで物事を考えられる人を10人集めます。その10人の組織を「ストラテゴ」と呼びます。これは戦略の英語の「ストラテジー」の語源なわけです。そのストラテゴというのは何かというと「構想」なのです。要は都市国家をどういう都市国家にしていこうかという構想を持つことが、元々「ストラテジー」、「戦略」の意味なのです。

ですから、基本的に社会システムというのは構想がないと前にいかないということを、紀元前にギリシャ人たちは見つけていたわけです。ギリシャは哲学、ユダヤは宗教、ローマは法律と、それぞれその構想をどうやって運営するかというシステムに落とし込んでいくのです。ユダヤは宗教システムによって国家を成り立たせようとします。それからローマは法律によってそれを行おうとします。そしてギリシャは哲学によって行おうとします。方向はそれそれ違ってくるわけですが、いかに国家をつくり上げていくかということです。戦略というといかにも戦争の時の「どうやって敵に勝つか」という感じがするのですが、語源的には構想という意味に近いのです。
そうすると、まず構想がなければ始まらないというのが経営品質のポイントなのです。「どんな構想をお持ちですか」ということです。もし構想がないと、多様性と流動性ですからバラバラになってしまう危険性がある。まとまらない組織になってしまう。あるいは今回のそごうや雪印のようないろんな事例がありますが、ああいうものが意味することは、構想の希薄さということです。構想が希薄だと組織は危ないのです。
チェスコの今の社長になった方が雪印の専務でした。そして財務系の今の社長と権力争いをしたわけです。あの辺からあの組織はおかしくなっていくのです。それからそごうはもうご承知のとおり、水島さんのある種の自分勝手なものの考え方が組織を疲弊させていきます。ですから何か事故が起きるというと、必ずその組織が歪んできている。歪んできてしばらく経つとああいうことが起きてきます。
構想がないと組織というのは危ないのです。もう何をやるかわからないのです。そういうことがまず経営品質の最初のポイントなのです。しかし、これが従来のアプローチからすると「そんなことなくたって金儲けをうまくやりたいのだ」ということになってしまうので、経営品質が分かりにくい、一般になかなか理解してもらえない1つの理由なのです。

ものの考え方の大前提に2つあります。私たちがものを考えるときに、事実前提で考えるというのが一般に思われていることですが、事実前提というのはいくつか欠点があります。事実に即してものを考えていこうとすると、事実でどちらが確かかといえば未来よりも過去の方が確かです。したがって事実前提で議論をすると、過去のことを言っている人が絶対に勝ちます。そうすると経験論が支配する。「過去こうだったのだから、それでいこう」という話になるわけです。もう1つ、同じように未来を語り合ったとしても近い未来のことの方が確実性が高いので、明日のことを話す人の方が十年後のことを話す人よりも説得力があるということになります。ということは近視眼的な経営になります。さらに厄介なのは、社会の中の事実というのはまさに多様で流動なので、ああも言えるしこうも言えるのです。事実というのはいくらでもあるわけです。みなさんが言い訳をするときには巧みに事実前提を使い分けます。役員会がうまくいっていない会社というのは、明らかにこの事実前提型の会社で、ものすごい言い訳・弁解だらけです。ところがうまくいっている会社というのは事実前提でものを考えません。
石井食品という会社が千葉県にあります。大体年間売上げが160億円ぐらいあります。この会社はチルド惣菜を作っていて、コンビニエンスストアなどに納めています。このチルド惣菜はコンビニエンスストアでしばらく保存しなければならないので、着色料や保存料など、あまり体には良くないものを入れなければなりません。ところがこの石井食品は2年前にそういう保存料は使わないと宣言をしました。使わないと宣言をしたのに、売上げの大体1割ぐらい、15~16億円はそのチルド惣菜なのです。自分たちの言っている保存料は使わないという経営宣言と実際に自分たちがそういうものを作っているということが合わなくなってくるのです。昨年そのチルド惣菜の製造から撤退しました。16億円の売上げを捨てるわけです。しかしそのことが業界に大変評価されました。なぜか。つまり保存料を使わない経営という「価値前提」を明確にして、そのとおりに実行したのです。言っていることとやっていることが一致しているわけです。勝ち組、負け組という言い方をすると、負け組の方は大体この価値前提がなかったり、あるいはケースバイケースで行われるので結局は事実前提でものが考えられてしまう。
先程言った「月に人類を送ろう」というケネディの言葉、あるいは第2次世界大戦の時にチャーチルが「今から100年後に、あの時が正念場だったと言われるだろう。諸君、頑張ろうではないか」と言ってヒットラーに対してイギリスが立ち向かうという姿勢を明らかにした。そういうことがなければ組織はまとまらないのです。それが価値前提なのです。
価値前提というのは、言ってみると「どういう生き方をするか」ということです。当面でいうと「どんな道を行くか」ということで生き方にも通じるわけですが、アメリカでよく「○○way」と言います。それがはっきりしていなければ、社員は何をしたらいいのか分からなくなってきます。大体何をしたらいいのかといったら、儲ければいいのだろうという話です。
どういうことになるかと言うと、例えば今回の雪印で最初に事故を起こしたのは市乳部です。詳しい方もいらっしゃるかもしれませんが、市乳部というのは元々不足払い法というのがあって、酪農家に対して国家が乳業会社で支払うものに補填してお金を払うわけです。つまりお米の価格と同じ管理価格なのです。管理価格なので仕入れをコントロールできません。一方売る方はスーパーマーケットやコンビニエンスストアで自由競争なので、結構安く売らなければなりません。ですからどの乳業会社でも市乳部というのは儲かっていません。しかし「儲けろ」と言います。そうするとどうするかというと、今回やったのはリサイクルの行き過ぎのようなことです。そういうことになってくるわけです。価値前提がないと、会社なんて一瞬にしてああなってしまうのです。
バブルのころの日本企業はみんなそうではないですか。「株をやらないと馬鹿だ」と長谷川慶太郎さんが言って、みんな「俺は馬鹿じゃない」と株をやってしまったのです。その挙句バブルの崩壊後はめちゃくちゃな状態になるわけでしょう。
極端に言うと、経営品質でこれさえあればいいと思っているのが価値前提なのです。他のことはいくらやっていても、価値前提がなければその企業はいつ間違いを起こすか分かりません。いつだめになるか分からないのです。
米国コロラド州のスプリングフィールドという所に、ビジョンを考える一種のビジネススクールがあります。アメリカの若い経営者たちがそこに来て何をやるかというと、自分の来し方行く末、つまり生まれてきて子供時代にどんなことをやりたかったのか、どういうふうな生き方をしたかったのか、それから社会の中でどういう役に立ちたいのかということを毎日空を見たり、音楽を聴いたり、あるいは馬に乗ったりしながら考えるのです。およそ1ヶ月間で何のために生きていくのか、何を大事にして生きてきたのかをまとめます。そして彼は帰ると自分の会社でそれを表明していくわけです。そこの先生に言わせると、「ビジョンさえあれば、他には何もいらない。」いかにビジョンというものが大切で、そしてまたアメリカでもビジョンなしにやっている会社がいかに多いかということです。
まずその価値前提というのがなければならない。そうしないと人間は本当にどうやって生きていこうかということを考えないわけです。そうすると、目先の利益や何でもいいからとりあえず儲かればいいという話になってしまうということです。
3年程前の1月8日、東京が大雪だったことがありました。その時にこの価値前提のある会社とない会社というのがはっきり分かれました。例えば午後の3時から4時ぐらいに、きちんとした価値前提のある会社というのは、総務部長が自分の部下を上野駅や東京駅、新宿駅などに派遣して、私鉄が動くのか止まりそうなのかと調査に行っています。そうすると各私鉄も「ちょっとまだ分からないけれど、もしかすると止まります」という反応だったわけです。総務部の社員からそういう連絡を受けた総務部長は「よし、遠隔通勤者と女子社員は帰そう」ということで、大体3時半から4時ぐらいには帰らせています。ところがダメ会社の総務部長は何をやっているかというと、窓から空をみているわけです。「これはやむな。大丈夫だ、やむよ」とこれで遠隔通勤者も女子社員も帰さないわけです。挙句の果てに帰れなくなってしまった人が神奈川方面で何人も出てしまったわけです。
この晩、東京の私鉄はほとんど止まりました。ところが通常ダイヤプラス2便増発している会社があります。それから基幹駅から自社の私鉄の系列のバスを出している会社があります。京王帝都電鉄という会社です。京王帝都電鉄はこの晩全く止まりませんでした。それから真夜中に2便増発しています。止まってしまっている中央線の利用者と、それから小田急線が平行して走っていますが、この小田急線の利用者が帰れなくなってしまったので、その人たちを京王線で運ぼうということで増発をしている。増発をするということは大変なことです。コントロールセンターと各車両、駅の連携がとれていなければいけません。京王線と平行して中央線と小田急線が走っています。いくつかの大きな駅からは、この中央線と小田急線方面に帰る人のためにバスを出すわけです。この晩こういうことができた会社は京王帝都電鉄だけなのです。
それは全ての経営に現れてくるのですが、実はバブルのころに東京の私鉄は全部複々線工事に着手します。どうしてかというと郊外人口が急激に増加したので、要は都心の地価が高くなったので、どんどん郊外に若い人が移っていったわけです。その人たちが会社の通うので、その人たちを乗せるためには車両をたくさん走らせなければいけない。だから複々線が必要だということで、ほとんどの会社が複々線工事に入るわけです。しかしバブルは89年、90年、91年で崩壊します。崩壊する兆しが見えてきたころに、京王帝都電鉄は複々線工事の計画を取り下げます。どうしたかというとプラットホームを長くするわけです。プラットホームを長くするということは車両の連結数を制御できます。お客さんがたくさんいれば車両をつなげるし、お客さんが減れば車両を減らせばいいわけです。その代わりプラットホームは長くしておいて、何両もつないでも大丈夫なようにしようとしたのです。これをやったのは、またこの会社だけなのです。有名なプロ野球を持っている私鉄は途中まで工事してしまいました。有名なプロ野球を持っている会社ありますね。言わなければだめですか? 何とか義明というのですが、社長が威張っている会社です。あそこは工事を途中までやってさんざん住民に迷惑をかけておいて、途中で止めるわけです。京王帝都電鉄はそんなことは全くなくて、利用者還元で値下げをするのです。複々線の工事をしようと思っていたために値上げしたものを元に下げるのです。

そういうようなことがいわば「way」なのです。そのwayを持っていないと、実はその次の、実際にそれを具体的にビジネスに活かしていく方法が見えてこないのです。
戦略ということをもっと具体的な話にすると、構想から仕事の仕方、最近ビジネスモデルという言い方をしますが、そういうものに実際に落とし込んでいかなければなりません。そのときにどのようなポイントでいこうかという話になります。大体価値前提がない会社では管理が幅を利かせます。管理とは何かというと効率を追求することです。同じことをうまくやることです。だから何をやればいいのか分かっているのです。これはhow toだけです。販売管理や生産管理、人事管理、財務管理だったりするわけです。

私立病院の半分は今赤字です。しかし管理はやっています。病院には事務長というのがいます。これは病院の経営者、院長の親戚で医学部を出られなかった人が大体事務長をやっています。その辺りの屈折もあるらしくて、効率追求でせこいことをやるのです。例えば入院患者の賄い。当然朝・昼・夜と食事を出さなければなりません。それを別々のチームにやってもらっていると人件費がかさんでしまいます。そこでお昼に賄いをやってもらった人たちに、「悪いけど、おばちゃんたち夜の分もやってくれない?」と頼んでしまうわけです。その代わり夜の別のパートさんたちには辞めてもらうのです。そうすると昼の後片付けはせいぜい3時ぐらいには終わってしまいます。それでそのころから夜の仕込みが始まって、ゆっくりやっても5時ぐらいには食事ができてしまうわけです。そしてそれを出すわけです。
そして病院というのはどういうわけか1時から3時は寝ろというのです。寝なければいけないのです。今度こちらでもお話しするかもしれませんが、高梨という経営品質で一緒の先生が「病院というのは面白いね。寝ている患者を起こして催眠剤を打つよね」と話していました。信じられないのですが、本当に1時から3時は寝なさいと言うのです。そして今度は3時になると起きろと言う。意味が分からないでしょう。1時には寝なさいと言って、3時には起きろ。ここにもう既に病院の自己中心性が現れています。あれは自分の都合です。それは余計な話なのですが・・・・・・。
それでおきてまだ2時間ぐらいなので、5時に食事がきても食べられない。だから残してしまう。そうすると怖い婦長が来るわけです。大体婦長というのはどうしてこんなに怖いのだろうというような人が多いです。食事を残していると「だから治らないのよ!」とものすごい言い方をして脅します。だから気の弱い患者さんは食べたように見せるために残飯を捨てに行くわけです。近くのごみ袋に捨てるとばれてしまうので、隣の病棟まで捨てに行くのです。そうすると冬は木枯らしが吹いているので、肺炎を併発したりして、結構余計な病気にかかってしまいます。
今インフォームドコンセントといって患者さんにしっかりと説明をしたり、患者さんとじっくり話すというのが医者の仕事だと言われています。良心的な医者は、例えば病室に行ったらおばあちゃんの背中をなでてあげたりしながらじっくりお話をする。そうすると15分、20分経ってしまいます。するとまた事務長がくるわけです。「先生、患者1人に15分もかけられては病院は先生が何人いても足りません。1人2分ぐらいにして下さい」というのです。「だけど患者さんの言うことを聞いていたら、15分ぐらいすぐ経ってしまう。」「だから患者さんの言うことを聞いちゃだめなんですよ、先生。」そしてどうするかというとベッドを高くしてしまうのです。ベッドが低いと医者が座って話してしまうので、ベッドを1メートル20センチぐらいにしてしまうのです。そうすると少し見ただけで、1人2分ぐらいで次に行こうということになるのです。その代わり患者さんは大変です。ベッドが高いので下りられない。一回下りたら上れない。そういう漫画のような話が現実の病院なのです。
医師法が改正されて、もうそろそろ日本も日本医師会の毒魔から開放されなければいけないのではないかと思います。医師法の改正で院長が医者でなくてもいいことになりました。みなさんのような実業家が病院の院長をすることができるのです。そうなると結構面白い発想の病院ができるのではないでしょうか。どうですか、みなさん。病院を経営するとしたらどんな病院を作ろうと思いますか? 私はいくらでも酒が飲める病院とか、美人看護婦しかいない病院とか訳の分からないことを考えているのですが、実はアメリカではそういう病院があります。
日本でも、青梅慶友病院ってご存知ですか? これは老人医療の病院ですが、スタッフ数は通常の病院の1.5倍。法律上最低限の人員というのが要求されるのですが、その人数の1.5倍なのです。つまり人員が多いのです。なのにこの病院は収益が出ているのです。大塚さんという院長さんですが、この病院はさっきのように1時から3時は寝ろというようなことはありません。患者さんにはこういうことをお願いしています。朝起きたら着替えてください。寝巻きのままいないで下さい。通常の病院というのは、寝巻きのままいてずっとベッドで寝かせてしまいます。大塚院長に言わせると、それが寝たきり老人を作るそうなのです。
だから「お年寄りでどういう方がだめになるのですか」と聞いたら、「いいお子さんやいいお孫さんがいると大体だめです」とおっしゃっています。「おじいちゃん、今日具合が悪いの? 寝てなさい、寝てなさい。」そしてそのままずっと寝てしまうそうなのです。たちの悪い孫かなんかがいるといいらしいです。「じいちゃん、だめだ! 起きろ!」なんて言われて起きてしまうので元気になるそうです。
ここでは女性の患者さんは80歳を過ぎていても「お化粧をして下さい」とお化粧をしているのです。お邪魔した時に看護婦さんに案内されていたら、向こうから80歳ぐらいのお婆さんが来て、看護婦さんがすれ違う時に「今日もお綺麗ですね」と言うと、お婆さんは少し顔を赤くして「ありがと」なんて言っているのです。ちょっと気持ち悪かったですが・・・・・・。そういう本来の「生きる」ということはどんなことなのかということをこの青梅慶友病院は分かっていて、そういうことを支援しているのです。
顧客満足・CSというのを一生懸命やっていて、こういうことをなさったそうです。専任看護婦制というのを作って、70歳ぐらいのお爺ちゃんの患者さんに50歳ぐらいの女性の看護婦さんをつけたそうです。そうしたらそのお爺ちゃんが「いいね。50歳の女の看護婦さんが全部俺の面倒を見てくれてありがたいね」と喜んでくれた。そこで同じようにお婆ちゃんの患者さんにも50歳ぐらいの男性の看護士をつけたそうです。そうするとそのお婆ちゃんの機嫌が悪くなったそうです。男性の患者さんが喜んでくれたので当然喜んでくれると思ったら、文句をつけてくるのです。「どうしてですか?」と大塚さんに聞いたら、「お婆ちゃんでも30歳未満のジャニーズ系でないと許せないんだ。50歳のおやじ看護士ではだめなんだ。」そういうことで今悩んでいます。「若い、ちょっとジャニーズっぽい看護士をつけないとだめなんだ。女の人はいくつになってもそうなんだな」と言っていました。
あるいは長野の篠ノ井病院。ここは部屋ではなく、食堂で食事ができるのです。もちろん病気によっては食事制限がいろいろあるわけですが、病気に差し支えない範囲でメニューがいろいろ選べるのです。大体病室で食べるのは憂鬱です。6人部屋などで隣が明日にも死にそうな患者さんだと、その隣で食べているのは憂鬱になってしまいます。しかし食堂で美味しいご飯が食べられる。ここも儲かっています。
それからカナダのトロントにショールダイスという病院があります。これはヘルニアの専門病院です。するとどういうことができるかというと、ヘルニアの薬しかいりません。ヘルニアの検査機械しかいりません。医者もヘルニアの医者だけです。だからすごくコストが下がってきます。総合病院の大変さは、あらゆる種類の病気に合わせて薬や検査機械が必要です。
もう1つはブラザーという制度があります。例えば私が昨日手術したとします。そうすると今日入ってきた患者さん、明日手術をする患者さんに対して私はブラザーになるわけです。何をするかというと、手術前の分からないことなどを全部教えてあげたり、手術の後どうしたらいいかなど、全部を先輩患者が後輩患者に教えるという制度です。そのおかげで看護婦さんは通常の病院の3分の1で済んでいます。その患者さんたちはブラザーの制度を大変評価していて、とても喜んでいます。退院後に同窓会などがあるそうです。「同病相憐れむ」と日本でも言うように、同じ病気の先輩ほどありがたいアドバイスはないのです。私は足を骨折して手術の前の日に、「先生、麻酔が覚めてくるころ痛いのですか?」と聞いたら、「いや、俺は折ったことがないから分からない」と言うのです。「コノヤロー!」と思いました。自分の病室の隣に、先週手術した先輩がいたので、その人に聞くと「明け方、目が覚めてからちょっと痛いけど、30分ぐらいで大丈夫よ」と言ってくれて、ほっとしました。だから先輩患者からアドバイスを受けることがいかに後輩の、ビギナーの患者にとってありがたいかということを分かってやっているのがこのショールダイスという病院です。
アメリカ・カナダは、今、病院のカスタマー・サティスファクション・ランキングが公表されます。トロントではこのショールダイスが第一位。もちろんヘルニアしか治せないわけですが、ヘルニアに関してはダントツで人気の病院です。
それからサンフランシスコに、パシフィック・プレスビテリアンという病院があります。ここは勉強させる病院です。例えば今日、肝臓が悪くて入院したとすると、『肝臓病入門』という本をくれます。そしてこの本を読みなさいというのです。休めると思って入院したら、本を読めというのだからたまりません。その本を読んで、いろんな疑問や不安を感じたり、分からないことはカルテに書くわけです。カルテは完全に共有カルテです。自分のカルテを自分で書けるし、見れるし、それに医者も書いてくれるのです。そうすると自分の疑問や、勉強して分からなかったことを書いておくと、翌日医者がそのカルテを見て答えたり教えてくれるわけです。本を一冊読み終わると、今度は『上級肝臓病入門』なんかを渡されるのです。それでまた勉強して、また書いていくわけです。10階建てぐらいの建物の最上階が医学図書館になっているのですが、どこの病院にもある医者のための図書館がここでは患者さんのために開放されているのです。そこでもっと高度な専門的な勉強をしなさいというのです。
同一病種における入院日数というのが、アメリカの病院のCSランキングの最重要ポイントです。同じ病気でどこの病院がいちばん入院日数が短いかというのが重要なポイントなのですが、この病院はダントツで一位なのです。なぜかというと、要するに患者さん自身が勉強するので、どんどん病気について分かっていく。あるいは認識の深さが出てくる。それが二つの側面で効果を発揮するのです。一つは行動変異が起きます。病気を深く理解すればするほど、その病気に対してどうすれば勝てるかということが日常の行動の中で起きてきます。もう1つが、最近よく言われる自然治癒力、免疫力の強化です。ですから、別に治療の仕方がうまいわけではないのです。そういう勉強させる仕組みを作ることによってヒーリング効果、いわゆる癒しの治癒側の効果が出てくる。
また、ハーバード大学の医学部がやっているベスイスラエルという病院があります。ここはニューヨーク州知事が入院して、退院する時に「これほど自分の尊厳を大切にしてくれた一週間はなかった」と言ったそうです。みなさんは病院に行ったときに、自分がいちばん偉いと実感したことがありますか? 私はありません。私は入院したり、医者に行くと、医者がいちばん偉くて、次が看護婦さんで、奴隷が患者という感じがします。威張っているのは大体向こうの方です。ところがこのベスイスラエルは、患者がどんな人種であろうと、どんな社会的地位の人であろうと、とことん尊厳を持ってきちんとした扱いをするのです。それがこのベスイスラエルの特長で、ここも高収益の病院です。

つまりそれが「戦略」なのです。これは辞書には出ていませんが、経営品質の考え方では戦略を次のように考えようと言っています。戦略の三要素は「投資性」、「選択性」、「優位性」ということです。
「投資性」というのは何か。戦略というのは何かの効率をよくすることではなくて、何をやるかを決めることであるというのです。つまりヘルニアの専門病院をやる。勉強させる病院をやる。尊厳を大事にする病院をやる。「何をやるのか」ということなのです。そこが投資をする焦点です。
そして投資というのはあれにもこれにもはできません。ですから選択が必要です。選択というのは実は厄介です。例えば天丼とカツ丼が好きな人がいたとします。お昼を食べるときに両方見て、どちらにしようかと迷います。天丼を食べるときにはカツ丼を諦めるわけです。諦めないで両方食べるおじさんもいますが、普通は諦めます。実際に天丼を食べてみてあまり美味しくなかったとします。そして隣の人がカツ丼を食べていて、美味しそうだったとします。そういうときは悔しいですよね。これを「認知的不協和」というのです。何か納得いかないということです。
選択するということは、実は天丼を選ぶということです。でも、そのときに反対側から見るとカツ丼を諦めているわけです。この諦めた、未練がましさが認知的不協和を呼ぶわけです。結婚式の翌朝の気分を覚えていますか? もうちょっと考えればよかったかなという・・・・・・。女性はちょっと耳をふさいでいてください。男性はハナちゃんとかキクちゃんとか、アケミちゃんとか、ずっと付き合っていた人が何人もいて、それを全部断念するのでしょう。トータルの断念コストはすごいです。それがこの認知的不協和なのです。

それが事業でも同じなのです。あの事業を諦める。この事業を諦める。この製品を止める。実はなかなかできないのです。「あれはずいぶん儲かったよな。またもう一花くるんじゃないか」とか、「いや、これはこれから売れるかもしれない」とか・・・・・・。そして全部諦めないでいると、断念の先送りが起きるわけです。全部断念の先送りをしていると、何でも扱っているのだけれどポイントがないということになるのです。
そごうというのは本当にポイントがないでしょう。そごうで何を買いますか? 買う物がありません。会社というのもちょっと左前になると何を言われるか分からない。かわいそうなものです。
「優位性」というのはあとでお話しますが、さっきから言っていることに通じるのは存在理由です。あそこは何のためにあるのか。どういうときにあそこのものを買うのか。それがなければ、やがてはいらなくなるわけです。もう少し先でお話しますが、経営品質では優位性というものから、最近ではユニークネス、独自性ということを言い始めています。


2.競争優位
ちょっとその前に「競争優位」というお話をします。ご存知の方も多いと思いますが、1980年ぐらいから言われ始めた考え方です。
「コスト優位」というのは、たくさん作れば安くなるということです。だからマーケットシェア、市場占拠率第1位の企業がコスト優位を発揮します。あるいは、船井幸雄というコンサルタントの先生が「地域一番店」ということを言っていました。その地域で一番売るお店のことをコスト優位にあるといいます。
コスト優位というのは、とにかく量を売ることによって他社よりもコストが安くなることです。これはロッキードが1930年か1940年に発見した原理です。だからみんなマーケットシェアを上げようとしてきたわけです。
それでは2番手はどうすればいいか。2番手企業が同じことをやっていたのでは勝ち目がないので、違うことをやるわけです。それを「差別優位」といいます。差別というのは元々経済学の言葉で「限界的差別化」といいます。根本的に変えるのではなくて、ちょっと変える。マージナルディファレンスという英語ですが、そのマージナルのマージンは売買差益のことをいう言葉です。だからちょっとした差のことなのです。ビールで、1杯目のビールの満足度が100だとすると、2杯目が90ぐらいまで下がります。この100と90の差。これをマージナルディファレンスといいます。ですから根本的にやることは1位企業と同じですが、一味違うという感じを出すのがこの差別優位という考え方です。
それに対して、自分のところは特定のお客さんに絞ってしまうとか、特定の製品に絞ってしまうというのが「集中優位」という考え方です。
例え話として市場をケーキだとすると、イチゴやクリームが乗った一番美味しそうな部分が上の方です。いいお客さんが上の方にいて、だんだん下の方に行くとありがたくないお客さんになると思ってください。市場リーダー、コスト優位の会社は、一番上の美味しそうなお客様から攻めてくるわけです。2番手は、やはり美味しそうなお客さんをちょっと違う角度から攻めてくる。これはだからチャレンジャーと呼ぶわけです。4つ目に書いてある模倣というのは優位性がないのです。だから真似するしかないのです。これをフォロワーと呼んでいます。あまりありがたくない地方市場や安物市場は、それしかできないということです。
それに対して集中優位というのは、我々が普通にケーキを切るときのように上から切ってしまう。これをニッチャーといいます。ニッチ、適所という意味です。このごろは日本経済新聞などでも盛んに「ニッチ市場」と書いてあるので、お分かりかと思います。
リーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワーと、自分の所はどのポジションをとるかというのが競争優位論だったのです。経営品質も最初はこの立場をとっていました。アドバンテージという英語ですが、優位性は何なのか。この考え方がなくなっているわけではないのですが、これで説明がつかない企業がとても増えてきたのです。

例えばユニクロです。ユニクロをアパレルリテーラー、アパレルメーカーと考えると、従来とは全く違う発想の会社なのです。去年1年間で800万枚のフリースジャケットを売っています。今年の発注予定が1200万枚です。2000万枚のフリースジャケットということは、日本の人口から見ると、赤ちゃんからおじいさん、おばあさんまで入れて、6人に1人がユニクロのフリースジャケットを着ているという勘定です。こうなると異常な産業です。通常アパレルでは、発注単位はいいところで何万着です。それを100万という単位で発注するといったら、総合商社はまず怖がって寄ってきません。そこでどうするかというと、ユニクロは韓国や香港の工場に直接行き、交渉してやっているのです。つまり、従来は総合商社を介在させてリスクを分散させようというのが日本のアパレルメーカーの常識だったのですが、そういうことは一切やらないわけです。
あるいはドンキホーテという深夜ディスカウントストアがあります。このお店の売上高比率は12時から朝の8時が今50パーセントを超えています。通常この時間帯というのはビジネスの時間帯としては考えられませんでした。
あるいは、しまむらという衣料スーパーをご存知ですか? 中年女性の普段着、肌着を売るお店です。今株価が16,000円ぐらいです。経常利益5パーセントをずっとキープしています。通常アパレルというと、若い女性のファッションというのが業界の常識でした。一切そういうものは扱わない。それから、チェーンストアの出店地は人口密度の高い所というのが常識でした。しまむらは人口密度の低い所の出店します。近くにしまむらの店舗のある方いらっしゃいますか? かなり不便な所にお住まいですね。冗談です、冗談。相当不便な所に出店します。地価が安い。そしてクルマ社会になっているからそこに買いに来てくれるし、何と言っても混まないのです。
今まで小売業は賑わいが大事だといろんな先生が言ってきましたが、今利益が出ているお店というのは混んでいないお店なのです。ユニクロもそうでしょう。混んでいる店というのは、誰もそこで物を買っていないのです。銀座の三越を見てください。木村屋のパンの袋を持っているおばさんはたくさんいますが、三越の袋なんて誰も持っていません。だから、賑わい型の店舗というのは物が売れないということが最近分かってきました。
そういう企業は競争優位論では説明ができないのです。なぜかと言うと、競争優位論は業界の常識を前提として考えられているわけです。だから同じようなことをやっている中で、コストが安い企業、少し違いをつけている差別型企業、それから限定している集中型企業とか・・・・・・。ところが、ユニクロにしてもしまむらにしてもドンキホーテにしても、これでは説明できない。あるいはソフトバンクも説明ができない。また、世界で最高の勝ち組と言われているシスコシステムズも説明できない。「この優位論だけではまずい」となってきたのが数年前です。その頃からアメリカでも新しい考え方が出てきました。
この辺で一度休憩を入れて、続きは15分後からお話します。どうもお疲れさまでした。
(休憩)

続きをお話します。
こういうレジュメを作るのはだいぶ前なのです。いつもこれだけ話そうと思って作るのですが、実際はまだ2番目がやっと終ったところです。どうも手際が悪くてしょうがないのですが・・・・・・。少し急がせていただきます。


3.コア・コンピタンス
 (1)鉄道か輸送か
「コア・コンピタンス」というのが競争優位論の次に出てきた考え方です。その考え方の元がどこにあるかというと、私がまだ学生の頃ですが、マーケティングという授業を聞いていると、ペンシルバニアセントラル鉄道が倒産したという話が出てきました。なぜ倒産したのか。「彼らは自らの会社を鉄道と考えたから倒産した」という話を教授がしているわけです。「何を言っているのだろう、このおじさん」と思ったのを覚えています。実はその教授は「彼はお客さんが求めているものを見ようとしなかった」ということを言いたかったのです。「お客さんは別に2本の線路の上を走ってほしいと頼んでいるわけではない。輸送、英語で言うとtransportationが欲しいのであって、つまり人や物を運んでほしいだけであって、何も線路の上を走ってくれと頼んでいるわけではない。ところが、鉄道会社の方はあくまでも鉄道が目的になってしまう。お客さんにしたら、代替手段の1つにすぎないのだ」ということを教授は言っていたわけです。これがコンセプト論として、日本の広告代理店などで盛んに使われていくわけです。

私はいくつに見えますか? 38歳? 実は昭和22年の生まれで53歳なのです。この前、もう少し人数が少ない時に聞いたら55歳なんて言いやがって、殺してやろうと思ったのだけれど・・・・・・。22年の生まれなのでそれで想像してもらうと、私が小学校のころはまだ電気冷蔵庫が普及していませんでした。家が貧乏だったから買えなかったのではなくて一般に普及していなかったのです。私はサイダーが好きだったので「サイダーが欲しい」と言うと、母が御用聞きの酒屋さんにお願いして夕方サイダーが届くわけです。私は朝飲みたいのです。しかし届くのは夕方なのです。サイダー会社というのは自分の製品を何と考えていたかというと、炭酸飲料と考えていました。
ところが昭和30年にコカ・コーラが日本に上陸します。コカ・コーラはもちろん炭酸飲料を売っていますが、そういうふうには考えていませんでした。自分たちが売っているものは「衝動」だと考えました。衝動というのはどういうことかと言うと、あらかじめ計画されないということです。今日は計画的な方が多いと思います。こういうセミナーなどは計画的に経営をやっていこうという方が多いと思います。しかし喉が渇くのまでは計画しないでしょう。今日は午前中1回、午後2回、喉を乾かそうとか、3時ぐらいに乾かそうとか、そういうことは考えないでしょう。まあアルコールに関しては、朝から飲むぞなんて言っている人もいますが・・・・・・。しかし普通の飲み物に関しては、いつ、どこで喉が渇くか分からないわけです。体調、外気温、緊張度、その他もろもろの要因で、いつのまにか喉が渇く。そしてその時にどこにいるか、自分でも分からない。だからいつでも、どこでも飲めるようにしなければならない。そこで自動販売機というものを考えたのです。
すると自販機を従来と同じ酒屋さんに置いてもらうのだったら、別に変わらないことになってしまうので、文房具屋さんの店の前や、タバコ屋さん、子供が集まるのでおもちゃ屋さんなど、いろいろなところに置いてもらおうということになります。日本は長く問屋制度で成り立ってきているので、おもちゃ屋さんには玩具問屋が行く。文房具屋さんには文具問屋が行くわけです。だから飲み物を扱ってくださいと言っても、「冗談じゃない。うちは文具・紙製品しか置きません」「うちは玩具しかやりません」と断られてしまうわけです。一方酒類問屋に頼んだら、「うちは酒屋しか行きません。」そこで自分で回るルートセールスを考え出すのです。赤い車で街の中を走っているでしょう。昔は「Drink Coca Cola」と書いてあったのですが、今は「Enjoy Coca Cola」と書いてあります。
今は缶なので、ああいう自販機ですが、当時は瓶だったのでストッカーの中に瓶を入れていました。あの瓶、覚えていますか? 覚えているということは相当年だということですが・・・・・・。ひょうたんのような形の瓶でした。これがなんと再使用32回転もできたのです。金槌代わりに使えたぐらい強かったのです。このビンを使って全共闘は伸びたのです。機動隊に投げていたのですから・・・・・・。これがペットボトルのような瓶に変わったから全共闘は急に弱くなったわけです。この空瓶を回収して在庫を補充し、集金して次のお店に行くというのがルートセールスというものです。このルートセールスがどこから出てきたかというと、衝動だから自販機で、自販機だからルートセールス。
つまりお客様の側に立ってものを考えてみると、業界事情や都合は全然関係なくなるのです。業界事情というのは炭酸飲料だから日酒販、国分、明治屋などの酒類問屋に卸す。そして酒類問屋から酒屋、酒販店に卸す。そして家庭というの物です。これは業界の都合なのです。コカ・コーラはそうではなくて、お客さんに合わせて仕組みそのものを変えるわけです。
今、コカ・コーラの自動販売機が日本国内に何台あると思いますか? ちょっと隣の人と話合ってみてもらえますか? 88万台です。1つのメーカーの系列の最末端拠点としてはダントツの数です。2番手が大塚製薬です。駅の売店やキオスクにある四面ショーケースと薬屋などにあるものをあわせても、大体半分の40万台です。結構多く見られるキリンビバレッジやサントリーフードで大体10万台。だからコカ・コーラは何を売ってもいいのです。例えば伊藤園がウーロン茶を出した。それではうちも出そうといって、シンバを出しました。UCCのコーヒーが売れているといえば、ジョージアを出す。キリンビバレッジの午後の紅茶が売れているというと、昼下がりの紅茶・・・・・。自販機が決め手なのだから、もう何でもいいのです。みなさんは近くの自販機に好きなものがない時に100メートル向こうまで行きますか? 行きませんよね。大体これぐらいのものにこだわっているなんて、ちょっと馬鹿です。
ある日、大塚製薬にいる私の先輩がちょっときてくれというので行ったら、変なまずい液体を飲まされました。「これ何ですか?」と聞いたら、「点滴液だ」と言うのです。点滴液を飲料にしたいと。いいかげんな会社なのです。昔、名古屋大学にお金を払って捕まってしまった悪い社長がいたでしょう。あの社長が「いちばん売れている飲料は何ですか?」と聞くので「コカ・コーラです」と答えたら、「それでは同じにしましょう」と言って、コカ・コーラは当時、缶になっていて赤いデザインでしたが、それを青くしただけなのです。そして「名前は分かりやすいほうがいい。『ポカリ』にしろ。」「どういう意味ですか?」と聞いたら「マンガを読むと殴るときに『ポカリ』と書いてある」と。相当古いマンガだと思うのですが・・・・・・。それで若いスタッフが「それではお客さんをばかにしている」と、スウェットというのは汗を発散する、汗をかくという意味なので、「ポカリスウェット」という名前で出すことになるわけです。
これがものすごい売れ方をするわけです。だって当たり前の所に置くのです。体を動かす所に置いたわけです。ゴルフ場でしょう・・・・・・。昔プロゴルファーの青木がショットする度にポカリスウェトを飲んでいたのを覚えていませんか? 現金な男で、契約が切れると途端に飲まなくなってしまうわけですが・・・・・・。ゴルフ場で無料サンプリングといって半年間ただで飲ませたわけです。それから女性がジャズダンスをするような場所や、テニスコートとか、とにかく喉が渇く場所全部に置き回ったのです。そしてどんどん売れていくのです。
一方その時にそういうことを考えなかった会社が、NCAAを扱った会社とゲータレードを扱っていた会社です。そのうちの1つは雪印という会社ですが・・・・・・。どこに置いたと思いますか? スポーツドリンクだからとスポーツ用品店に置いてしまったのです。グローブを買いに行くと喉が渇くかという話です。
だから結局話は単純で、お客様の目からものを見ている、それだけなのです。自分の側から見ていると、それが見えない。

例えば正直な魚屋というのは、絶対儲からないのです。魚関係の方がいらっしゃったらちょっと耳をふさいでいただきたいのですが、魚屋というのは正直に言うと魚の死骸を売っているわけです。「奥さん、これ夕べ死んだんだけど、持って行かない?」それを言ってはおしまいです。「イキがいいよ! 奥さんと同じだよ!」と言うから買っていくわけでしょう。だからお客様の視点に立ったら、きちんと嘘をつかなければいけないのです。イキがいいというのは、言ってみれば嘘です。嘘だけれど、お客様が「あ、美味しそうな魚ね」と感じるわけです。あれを「死後硬直していますが・・・」、なんて言ったら絶対に売れません。
ばか話をしているとすぐに時間がなくなってしまいますが・・・・・・。
富士写真フィルムの「写ルンです」、結構みなさん使われるでしょう。コニカの同じような商品の名前を覚えていますか? とっさに出てこないでしょう。「撮りっきりコニカ」といいます。これは元々「ナイスショット」として出したのです。「ナイスショット」ってどういう意味でしょう。ゴルフ場で接待の時にしか使いません。これもお客さんの立場に立ってみれば分かります。製品の試作品を作って、営業の人に渡したら「これ、写るんですか?」「写るんです!」とこれでできたのです。分かりやすいでしょう。コニカの「ナイスショット」の方は意味が分かりません。挙句の果ては「撮りっきりコニカ」でしょう。関係者いないでしょうね、大丈夫でしょうね。「これっきりコニカ」と覚えている人が多いのです。
富士写真フィルムは、元々はレンズ付きフィルムとして考えたわけです。どういうことかというと、若い人でも、特に女性は一眼レフのカメラを持たない人が増えているのです。そしてフィルム装着に自信がないという人が多い。そのままいくとフィルムの売上げがどんどん下がってしまうので、フィルムにレンズを付けてしまえという発想なのです。その人たちはカメラを持って歩く習慣がないのだから、友達と遊んだり、子供を連れている遊んでいる所で「あっ! 写真撮りたい!」となる。だから遊園地の中や動物園の中、あるいはみんなで集まっている場所になければならないのです。ですからそのような所に置き回ったわけです。
一方コニカはどうしたかというと、普通のカメラ店に置いてしまったのです。なぜかというと、「使い捨てカメラ」という認識なのです。こういうものを普通のカメラ店で買う人というのは10人のうち1人なのです。残り9人は衝動的に、自分たちが集まった場所で写真を撮りたくてその近くで買うのです。これが9:1のマーケットシェアの違いを作ってしまうわけです。
日経で調べたもので、ティッシュペーパーでダントツに評価が高いのはクリネックスなのです。2番はスコッティですが、10ポイントぐらい差があります。どうしてか。クリネックスは宝石を連想させるとか、貴族的だとか高貴なイメージがあるのです。スコッティはそういうイメージの広がりがないのです。トイレットペーパーやティッシュペーパーがダイレクトに想像されてしまうのです。こういうものはものすごく名前が重要なのです。「弥太郎」なんてティッシュペーパーを作ってもまず売れません。
私は失敗した側にいたことがあります。東芝で「勝手に氷」という冷蔵庫をお手伝いしたことがありますが、そのときに主婦を集めてインタビューをしていたら、主婦というのは聞くことには答えないで違うことを言うのです。こちらは冷蔵庫のことを聞いているのに、バズーカという名前のテレビについて「お宅のテレビはうるさそうな名前よね」と。「意味は分からないけれどうるさそう」と言うのです。それはそうです。「対戦車迫撃砲」という意味なのですから・・・・・・。おじいさんは知っているけれど、今の人は知りません。このバズーカの直後に松下が「画王」を出しました。これはもう負けです。バズーカは意味不明でうるさそう。こちらは分かりやすい。子供でも分かります。図画工作の「画」だから絵です。そして王様の「王」だから絵がきれいなんだなと分かる。語感もいいです。関係者がいるのでここからはやばいのですが・・・・・・。日立製作所の中でもこの話をしているから日立関係者の方、許していただきたいのですが、東芝が恥をかかずにすんだのは、日立の前にサンヨーが「帝王」というのを出しました。意味不明なのです。何の意味もないのです。そして日立製作所が「革命児」というのを出しました。これはもっと意味不明なのです。日立の人に聞いたら、「いや、あれは内部に革命を起こそうと言う意味で・・・・・・」と訳の分からない弁解をしていましたが、要はお客様の側に立つと名前ひとつ変わってきてしまうのです。
しかしなかなかお客様の側に立てないのです。鉄道か輸送かという話のころに、ハリウッドがなぜだめになったのかという話がありました。ハリウッドは自分たちが映画を作る産業だと思っていたからだめになった。なんでだめになったかというと、テレビが登場してだめになっていくのです。テレビの番組を作ればよかったものを、テレビを敵に回してしまうのです。実は日本も同じで、テレビが登場したころに東宝・東映・松竹・大映・日活の5社は5社協定を結びました。これは相互出演禁止協定なのです。だからよその映画に出てはいけない、テレビに出演してはいけないという協定です。その結果どういうことになったか。私と同年輩の方は覚えているでしょう。日活に吉永小百合がいました。いつも相手は浜田光男だったでしょう。同じ日活の小林晃はいつも馬に乗ってギターを持っているのです。そして最後宍戸錠とやり合って1人で向こうに行くのです。東宝は、いつも加山雄三は星百合子とばかりなのです。見ている方も飽きます。そしてどんどんだめになっていくのです。その間テレビは山口百恵など、どんどん新しいタレントを育てていった。今、完全にテレビに負けてしまったでしょう。去年の東宝のカレンダーの10月は宮本信子ですよ。1カ月宮本信子を見ていなくてはいけないのです。いいかげんにしろというのです。余計な話ですが・・・・・・。

(2)ドメイン(ターゲット、ニーズ、ノウハウ)
2番目に「ドメイン」です。ドメインというのは元々は生存領域ということですが、ビジネス・事業の領域としてターゲット、ニーズ、ノウハウで考えます。ターゲットはお客さん、ニーズはお客さんが求めている価値のようなもの、そしてノウハウは提供の仕方です。これを書けない会社は大体儲かっていません。
経営品質のアセッサーの勉強会で、マクドナルドとモスバーガーの比較研究をやってもらいました。このドメインで説明するとよく分かります。ターゲットはお客様、ニーズは価値、ノウハウはやり方と思ってください。「マクドナルドとモスバーガーは客層が違う」、とくだらない議論をやるのです。食品や街で買う薬などはターゲットのお客様を分けられません。だってかぜ薬のルルはちょっと頭の良い人が飲んで、ベンザエースはちょっとバカが飲むなんて言えないでしょう。ですからみんな同じようなものなのです。ただ家に近いとか、会社に近い、学校に近いということで利用する度合いが違うだけなのです。そしてマクドナルドは急いでいるというニーズに合わせています。急いでいる人はどこにいるか。急いでいる人はいろんな所で急いでいるのですが、急いでいる人が絶えず集まっているのが駅です。だから駅前なのです。あとは車で急いでいる人、だからドライブスルーでしょう。それからもうひとつ、価値は大人数という価値。ファミリーとか、学校の帰りにグループなどで行く。だから大型店なのです。説明がはっきりしているのです。説明がはっきりしているビジネスというのは儲かっているのです。お客さんにとって分かり易いのです。
ところがロッテリア。駅から100メートルの所に中型の店を作ってしまったのです。はっきりしないのです。みんなだめでしょう。ロッテリア、ファーストキッチン、ドムドム、森永ラブ、JRがやっているサンディーヌ、全部だめです。
ロッテにお邪魔したことがあります。専務さんとお話ししていたら、「岡本先生、うちのチューインガムを噛んでいたら絶対に虫歯にならないよ」と威張っているのです。それから打ち合わせが終って、もう一度挨拶しようと専務の所へ行ったらいないのです。専務の秘書に「専務はどこに行かれたのですか?」と聞くと「歯医者に行きました」と言っていました。だから当てにならない会社なのです。
モスバーガーの方はどうしたかというと、フランチャイズチェーンで2等地なのです。いい所のお店がのってくれないのです。だから、たこ焼きをやって失敗したとか2等地のチンケな店ばかりなのです。つまり2等地は小型なのです。2等地で小型ではどうしようもない。しょうがないから、こういう所にいる人は急いでいない人です。急いでいない人といったら暇な人です。商店街などで働いているアルバイトさん、パートさん、またそういう所に売り込みに来た営業マン、納品しに来たセールスドライバーのような人たちが、「今日は何を食べようか。昨日は焼きそばだったな。一昨日はほか弁だったな。今日はハンバーガーでも食べるか。」そういう人たちだから1人で来る人が多いのです。1人で来て、時間が多少あるからバイオーダーにするのです。マクドナルドなどは急いでいるからレディメード、作り置きです。バイオーダーというのは注文されてから作るということです。注文されてから作るから、シズル効果があるのです。シズルというのは、シズラーという店があるぐらいでお分かりのように、元々はステーキが焼ける音という語源なのです。みなさん、生の肉を見てよだれが出ますか? それはライオンに近い人です。大体焼いたり煮たりするから美味しそうに感じるわけです。つまり目の前で調理をしているわけです。鉄板の上でハンバーグを焼く。ポテトフライをすぐ近くで揚げている。そのにおいや音がする。それでそそられる。美味しそうに感じられるわけです。焼き鳥屋の煙と同じです。今日は帰ろうと思っていても、あの煙で入ってしまうのです。だからこういう物が発揮されたおかげで、モスだけがほぼ互角に戦っているのです。桜田さんが、ロサンゼルスのトミーズというハンバーガー屋さんが美味しかったので、それを日本でやっているわけです。
このシズル。あるこういう集まりでシズルの話をして、その後でパーティーがありました。結構年配のおじさんが来て、「シースルーというのはいいね!」「いや、シズルですよ。」「えっ! シズルか! どういう意味?」なんて言っているのです。意味を説明したら「意味はシースルーと同じじゃないか。要するにそそるんだろう!」と訳の分からないことを言っていましたが・・・・・・。
このドメインがはっきり書けるビジネスというのは大体成功しています。負け組はこれが不鮮明なのです。ドメインがはっきり書けるということは、いろいろ欲張っていないで捨てているのです。「急いでいる」ことと「大人数」だけを取ろうとしているのです。全部を取ろうとすると、大体はっきりしない店になってしまいます。
教室があります。こちら側が廊下になっていて扉が前と後ろにある。反対側は窓で、前には先生の教壇がある。教壇のすぐ前にAチームがいます。そして窓側にBチーム、廊下の後ろのドアに近い所にCチーム、その前あたりにDチームがいます。みなさん、中学・高校のころに自由に座った場合、どこに座っていましたか? 背の順番や先生が決めた場合は別ですが、自由に座った場合にAに座った方いますか? ここは優等生が座る席です。ですからこの辺は東大を出てNHKに入ったりします。Bチームは気はいいのだけれど、勉強はあまりしない。外を見ていたりするのです。適当な人たちです。結構経営品質のセミナーなどに最近集まっているようです。Cチームはドアの近くですぐに外に行ってしまうのです。不良です。これは山口組に入っています。そしてD。クラスにリルケを読む暗い少女がいたでしょう。それから鳩を飼っている暗い少年とかがいたでしょう。Aチームは一生懸命受験勉強をしているわけです。塾に行ったり、予備校に行ったり、あるいは家庭教師が家に来たりして、真っ直ぐ帰ります。Bはマクドナルドに行くわけです。「おい、マック行こうぜ」と駅前のマクドナルドに行きます。つまり大人数で行くのです。そしてC。これは不良なので「ガキの食うもんなんか食えるか。ハンバーガー、ふざけんじゃねえ!」と焼肉屋に行ってしまいます。Dは友達がいないから裏通りを帰る。そうするとモスバーガーがあるわけです。それで1人で入ると「学校の帰り?」と話かけてくれるのです。夕方学生服を着ていれば、学校の帰りに決まっています。でも人から優しくされたことがないので嬉しくなってしまう。
日本能率協会というところでCSの調査をやりました。そうしたらモスバーガーがダントツの1位になってしまったのです。トヨタよりも上になってしまいました。なぜだろうと調べたら、リルケや鳩のタイプが多かったのです。今でもモスバーガーに行くと1人ぼっちが多いでしょう。そして暗い感じの人が多いのです。だから桜田さんがやったのは社会事業なのです。余計なことを言っていると時間がなくなってしまうのですが・・・・・・。

(3)コア・コンピタンス
3番目は「コア・コンピタンス」です。これは括弧の中に書いてあるように、「会社が顧客に対して特定の価値を提供することを可能にする技能と技術の結びついた束」です。よく分からないですか。技術というのは、製造業の場合にテクノロジーというものです。技能はもう少し人間的なスキルというものです。
例えばキャノンとエプソンがジェットプリンタで競争している。そうするとジェットプリンタ業界として見てしまいますが、それはいけません。キャノンは光工学の技術からあそこにアプローチした。エプソンは元々諏訪の時計屋で、時計の精密技術からあそこにアプローチした。だからテクノロジーとスキルと言う風に見ると、実は同じ業界でも持っている強さが違うという見方をしています。そうするとソニーと松下の違いとか、東芝とソニーの違いがはっきりしてくるのです。これらを同一業界として見てはいけないということがコア・コンピタンスという考え方です。


4.価値原則(バリュー・ディシプリン)
(1)業務の卓越性
競争優位の次にコア・コンピタンスという考え方が出てきた。もう少し明確にならないかということで明確になってきたのが、この4番目です。「バリュー・ディシプリン」というのですが、要はその会社がどういう価値の作り方の得意技をもっているかということです。それは3つあります。
1つ目の「業務の卓越性」というのは、製造や販売、サービスの提供がうまいのです。トヨタ、あるいは松下電器産業です。しかしそうではない会社があります。そういうことよりも、いつもユニークな製品を作る会社というのがあるでしょう。例えばソニーです。それから世界的企業でいえば3Mもそうでしょう。

(2)製品リーダーシップ
3Mはいつも斬新なものを作ります。ポストイットなどもあそこが作ったのです。あれは元々、賛美歌を歌っているときにしおりをいれておいたら飛んでしまったので同僚に相談した。そうしたら「絶対に剥がれない糊を作れと言われているのだけれど、何回やっても失敗してしまって、すぐ剥がれてしまう糊しかできない」と言う。「じゃあ、それを使わせて」というので剥がれてしまう糊をつけてしおりに挟んだら、風が吹いても剥がれないわけです。そして後で剥がそうとすると剥がれる。アートフライという人ですが、これはいいというのでメモ用紙にその糊をつけてああいうものを作るのです。
ところが営業マンが「たかがメモ用紙・・・・・・。その辺の紙でいいんだ」と言って売ってくれない。だから彼は役員秘書にポストイットをあげました。そうするとその秘書は自分のボスに、「契約書にサインしてください」などとポストイットを貼ってちょっと書いておく。すると役員が「いいね。俺にもくれよ」と。大体役員なんて人の物を欲しがるタイプが多いので、あっという間に役員室で流行ってしまった。だから秘書たちも必需品になるわけです。
そしてそこから先です。この秘書たちのうちの1人が、お昼休みに「私たちがこんなに便利なのだったら、よその会社の秘書部でも使ってくれるかもしれない」と言い始めます。そうだということで、フォーチュンという雑誌で特集しているアメリカの製造業のランキング上位500社の秘書部に、彼女たちが手分けして送るのです。そしてそのほとんどからオーダーが入るのです。すごいでしょう。3Mという会社はそういうことができる会社なのです。普通そういうのはマーケティングの仕事だから、勝手なことをやってはだめだと秘書たちが怒られてしまいます。ここはそうではないのです。勝手なことをやっていいのです。
そして「Take Small Steps」気楽に行けというビジョンが3Mにはあります。私はゴルフが相当下手なのですが、松ぼっくりだと結構いいスウィングをします、ボールだとだめなのです。そんなものでしょう、みなさん。あまり真剣にやるとうまくいかない。だから全社一丸となってはだめなのです。気軽にやればいいのです。だから3Mは「Take Small Steps」、本当に気軽にやっているのです。秘書とはいえ女子社員です。日本の女子社員はどうしているかというと、自分の家に持って帰ってしまうのです。会社のトイレットペーパーも持ち帰ってしまう女子社員がいるというから、困ったものです。まあ、それはいのですが・・・・・・。

 (3)カスタマー・インティマシー
3つ目の「カスタマー・インティマシー」というのは、お客様と非常に深く、親しく付き合うということです。価値原則にはこの3つのタイプがありますということです。このうちの2つとも、例えば業務も卓越しているし、製品のリーダーシップもあるという会社は地球上に1社もないのです。どの企業もこのどれかに軸足を置いているのです。そこですごい力を発揮して、残り2つは並ぐらいなのです。
そういう見方をしていくと、冒頭で言った構想・ビジョン、もう少し具体的な戦略、実際の日常の業務がつながって見えてくるわけです。つまりやろうとして掲げている構想と、その方向付けと、日常的にやっていることが見事に整合してくるわけです。そういう会社を「経営品質の高い会社」という言い方をしています。

なお、経営品質の「品質」というのは元々Qualityという英語です。語源はラテン語のクオリスという言葉だそうです。このクオリスというのは、性質を明らかにする、明らかな性質という意味だそうです。ということは目的に合っているということです。経営品質というのは、つまり構想に合った戦略か、戦略に合った仕事かという、はっきりとそのつながり、その整合性を見ていこうというものなのです。つながりがはっきりしていれば、間違いなく成功しています。成功していない場合には、このつながりがはっきりしない。あるいは元々構想がはっきりしないので、仕事が思いつき的になってしまう。そういうところがどうも努力のわりに成果があがっていない。従って今、経営品質は優位性よりもこの独自性という見方をし始めているのです。従来はコスト優位か差別優位かという見方をしていたのですが、特に新しいビジネスについては、どうもそれだけでは説明がつかないケースが多い。そういうものはその企業の独自の作っている価値は何なのか、という見方をする。


5.戦略ファンダメンタルズ
(1)継続的イノベーション
そうすると5番目に入ってきます。「ファンダメンタルズ」というのは、そのためにどういう努力をするかということなのです。そうすると「継続的イノベーション」というのはどういうことかというと、日々革新をしようということです。日々革新をすることによって、上の価値原則の2番目の製品リーダーシップが生まれてくるのです。

例えばディズニーランド。ディズニーランドがなぜ他の遊園地と違うのかというと、ディズニーランドを作るためのトレーニングというのはすごいことをするわけです。例えばニューオリンズのルイジアナのレストランを作ろうとするときに、普通だったらルイジアナっぽいレストランを作ればそれで終わりです。しかしバイユといういわゆる三角州のような湿地帯をまず作ろうとするわけです。その湿地帯にはホタルが飛ぶから、ホタルを飛ばそうとする。そしてああいう所では、大体コーヒーの焼いた匂いがどこかからしてくるので、その匂いをさせる。夕方ぐらいになると遠くでバンジョーが聞こえるので、バンジョーの音をさせる。そしてデキシーランドジャズが、風向きが変わるとときどき聞こえてくる。そういうようなことを徹底して作るのはなぜか。あそこはこの継続的イノベーションをやっているのです。
自分たちは同じようなことをやっているつもりらしいのですが、栃木県のある遊園地の経営者がちょっとうちを見てくれというので見たのです。「うちはディズニーランドとほとんど同じでしょう」と言うのですが、どこが同じなのかさっぱり分からない。全然違うのです。だってジャンバーを着た怖いおじさんが、子供の乗る遊具を動かしている。子供が降りてまた走ってきてもう一度乗ろうとすると、「また乗るのか、このガキは!」なんて言うのです。子供は怯えているわけです。全然違うのに同じと言っている。訳が分からない。そろそろつぶれると思います。
ディズニーランドのミッションというのは「思い出づくり」なのです。ランプシェードトーキングといって、家に帰ったときにランプシェードの下で、お父さん、お母さん、子供が「楽しかったね。この時面白かったね」と言う。だから道ひとつ聞くのも、答えてあげる方が思い出にしてあげなければいけない。ディズニーランドはアルバイトの人のことをキャストと呼んでいます。お客様はゲストです。
私は千葉商科大学で教えていて、あそこは近いので20人のゼミのうち3、4人はアルバイトをしているのですが、大学よりよっぽど教育効果がいいです。まずムード作りを覚えてくる。積極的にお客様に話しかける。というのは道ひとつ案内するのも、思い出になるような案内の仕方をしなさいというのです。
去年、山下さんという専務が辞める前にお話ししてくれた話です。若い夫婦がディズニーランドのレストランに来て、ウェイトレスにそれぞれメニューを頼んだ後に、「すみません、お子様ランチを1つください」と頼んだ。子供が一緒でないので「はぁ?」と聞いたら、「実は自分たちには小さな子供がいて、ディズニーランドもこのレストランも大好きだった。しかし交通事故で死んでしまったのです。今日は夫婦2人でその子を偲んで来てるので、お子様ランチを1つお願いします。」するとウェイトレスは「かしこまりました」とオーダーを通すと同時に、子供用の椅子を用意してきて、夫婦の間にさっと持っていったそうです。この夫婦はそのことに大変感動して、長文の感謝状をくれた。
まさに思い出です。全社員がお客様の思い出を作ろうとしているわけです。子供の死んだ夫婦が来たら椅子を出せなんて、いろんな場合があるわけだからマニュアルでは無理です。でも価値前提が明らかだから、誰もが思い出を作ろうとするのです。子供がちょっと迷子になったときも、その迷子を懐かしい思い出に変えてしまうわけです。そういうようなものをディズニーランドは持っていて、そのためにイノベーションを繰り返す。だから、レストランでホタルが飛んでいなければ思い出にならないわけです。おじさんが「また乗るのか、このガキは!」なんて言っているのでは、悪い思い出になってしまうのです。
私は東京の中野区に住んでいて、子供が小さいころに豊島園によく行きましたが、本当にいい思い出は1つもありません。「並んで!並んで!」「邪魔だよ!」とわざと柄の悪いアルバイトを選んでいる。さっきの教室のCチームのアルバイトばかり選んでいる。
余計な話をしていると時間がなくなってしまいますが・・・・・・。

 (2)顧客満足
2つ目が「顧客満足」といって、お客様の要望や期待に絶えず感心を持って、そこに焦点を合わせて経営していくというスタイルです。これは日本ではあまりありませんが、アメリカで経営品質賞の兄貴分であるマルコム・ボルドリッジ賞というのがありますが、これを受賞したリッツ・カールトンというホテルがあります。ここが大阪の阪神電鉄と合弁でホテルを作って、野村という阪神球団の監督婦人が来て品質を落としてしまうので困っているのですが・・・・・・。CSの高いリッツ・カールトンというホテルがあります。
それからフェデラル・エクスプレス(フェデックス)という会社があります。ここはアブソリューションというバリューがあります。アブソリューションというのは絶対に、確実にという意味ですが。ここのクーリエ、配達員は、ルイジアナの大洪水の時に、船のようなものを探してきて濁流を渡って来るのです。それからサンフランシスコの大地震の時には、エレベーターが止まっている高層ビルの階段を駆け上って来るのです。それから社長賞をとったアロンダ・マルチネスという女性がいるのですが、お客様の荷物を預かってサザビーのオークションに届けようとしていたら、車が故障してしまいました。すると自分の息子に自転車とバックバッグを持って来させて、そのバックバッグに荷物を入れて、なんと日本でいうと200キロ、自転車で走り続けて届けるわけです。この会社の絶対的信頼度はアブソリューション、必ず届けてくれるということです。濁流だったら他の会社は行きません。そういうのもやってくれてしまうのです。
顧客満足でいちばん有名な逸話のある、ノードストロームという会社があります。顧客満足ということに感心を持ったら、大体一冊はこのノードストロームの本を読むと思うのですが、こんなことがありました。ショールを買いたいと車椅子に乗った女性が来た。どういうことかというと、普通のショールだと車椅子なので引きずってしまうわけです。「短いショールはないかしら?」販売員が自分のお店を探すとありません。そしてマーシャルフィールドなど他のお店に行ってみるわけです。このお店はお客様のためならよそのお店も探してしまうという考え方のお店です。しかしどこへ行ってもない。そしてとうとう最後は自分で編んであげてしまったというお店です。

CS(Customer Satisfaction)というのは、本当にホスピタリティそのものということなのです。だから実は原点が違うのです。ウォルマートは今、全米第一位の小売業ですが、アーカンソーにこのウォルマートの博物館があるのです。その博物館に行くと変な時計が置いてあります。「当店が創業する以前に、既に工場がつぶれていた時計会社の時計です。当店はこの時計をうちで買ったと称するお客様から買い戻して、お客様にお金を差し上げました」と書いてあります。何のためにそういうことをしたかというと、貧しい人たちがウォルマートのお店で商品を買いたくても買えないわけです。何とかしてその人たちが買えるようにしてあげたいというので、いかにも自分のところで売ったような顔をしてクズのような物を受け取ってあげたのです。ですからテクニックとしてやっていることではないのです。元々そういう精神を持っている会社がアメリカには非常に多いのです。
つまりお客様を助けてあげたいという元々の精神なのです。だからバリュー、価値なのです。あれをテクニックとしてやっていたら、バリューではないのです。評判を作ろうとしてやったのではバリューではないのです。わざとらしさが見えてきてしまうのです。
顧客満足というのはそこまで深遠なものなのです。キリスト教文化と切っても切り離せないわけです。日本はだめです。「商人と屏風は曲がらなければ立たない」とうまいことを言うのが日本の伝統なので、なかなかできない。日本は昔からお客様本位と言っているというけれど、言っているだけです。日本の商業は石門心学のころからそうなのです。儒教などが多少入っている時にわりといい精神があったのですが、それもどちらかというと節約や勤勉など生活の仕方で、本当に徹底したアーカンソーの博物館で見てきたような精神は、残念ながら日本にはなかった。しかしこれからはこれが非常に必要です。本当に地域のお客様をとことん助けて差し上げよう、お役に立ってしまおうという考え方です。

 (3)コスト
3つ目がコストで徹底的に強さを作っていこうというということです。つまり他のところだと結構コストがかかってしまうところを、うちはかからないようにしていこうとするのです。しまむらという会社は、夜間にお店からお店へ商品を動かします。例えば今日、岡山で売れなかった物を翌日には広島に持っていってしまう。そういう非常に臨機応変な商品の移動をして、結果として非常に高収益を上げているのです。そのようなことがこの3番です。

大雑把に言うと、この3つのうちのどれかにその会社の価値の落ち着き先があるのです。そうすると経営改善や経営革新も、継続的イノベーションを中心にやるか、顧客満足を中心にやるか、あるいはコストを中心にやるか、これはそれぞれの会社のこころざし、構想と戦略、そして基本的なバリューからおりてくるものなのです。だからこれは自動的に導かれてくるのです。


6.エコシステム
そして6番目の「エコシステム」です。もう1つは今、その企業が誕生してからどのぐらいの段階にいるのかという視点で見ていこうというものです。というのは、赤ちゃんの時と青年期、中年期になった企業とでは当然違っていなければいけないのです。

(1)誕生
まず赤ちゃんの時は「誕生」というところです。比較的孤立しており、強力な競争相手の目の届かないような市場で、力をつけて成長する。要は強い相手に目をつけられてしまうとすぐやられてしまうので、この段階では目立ってはいけないということです。

(2)拡大
そして第2段階は「拡大」でクリティカル・マスと呼ばれています。この段階で大事なのは信頼を獲得することです。新入社員の時に一生懸命先輩、上司、同僚との小さな約束をきちんと守っていると、入社して10年ぐらいで信頼が獲得されて、課長になったり部長になったりします。あの頃に嘘ばかりついていては絶対にだめでしょう。大体新入社員の時に性格の悪かった人は定年まで性格が悪いです。ですから、この青年期というのは信頼の獲得です。
そうするとビジネスの場合どうなのかというとパートナー、取引先です。いい取引先と組んでいかないと、次のステージに行けないわけです。さっきのしまむらの場合には、ワコールの取引先順位の第一位がしまむらです。しまむらは返品ゼロで、全部売り切ってしまう。約束したのにあとで、どさっと返品してくる典型的な会社がダイエーという会社ですが、その正反対なのです。だから資金の回転の予定もつくし、ありがたいのです。そういう取引先の信頼感というのが第2ステージで重要になります。

(3)権威
第3ステージ、「権威」。こうなると、いわばかなり出来上がってきた企業なので、どうしても無駄が多くなる。それから制度化されたものが無意識に繰り返されてしまう。その制度そのものを見直そうとしなくなってしまう。そして本社には大体企業内国家公務員というのができてきて、ふんぞり返っているのです。経理部や人事部というのは企業内国家公務員の巣窟になって、現場の経験が全くないのですがやたら規則ばかり作りたがるわけです。こういう人たちが会社をつぶしていくのです。大体社長の近くにいます。社長はだんだん毒されてきて、現場が見えなくなってくる。
だからこういう時にどうしても経営革新というのをやらなければなりません。経営革新というのは、経営そのものを見直さないと経営革新できないので、実は経営品質が非常に重要になるのは出来上がった企業なのです。出来上がった企業ほど、こういう目で見直しをしないと、いつのまにか要らなくなっているのに繰り返されてしまっている無駄なことや、やってはいけないのに相変わらずやっていることなどが随所に起きてくるのです。
そしてイノベーション・トラジェクトリー、革新軌道に乗せなければならない。絶えず自分の会社を見直そうという軌道に乗せようというのが、「アセスメント」、経営の見直しというシステムなのです。セルフアセスメントというのが経営品質の考え方ですが、自分で自分を見直すということです。


7.プロセス・マネジメント
3ページですが、それが具体的にどこに下りてくるかというと「プロセス・マネジメント」です。プロセスというのは一種の流れということです。

 (1)バリュー・チェーン
例えばいくつかの考え方があって、「バリュー・チェーン」というのは会社が価値を作るのはどこなのかということです。そうすると5つあるわけです。「購買物流」といって部品・原材料を購買して自分の工場に入れてくる。ロジスティックスといいます。物流というと翻訳が悪いのですが、元々は兵站学(へいたんがく)のことです。最適なタイミングで武器・弾薬を兵士に届けるという意味です。それから「業務」。「出荷物流」というのは出来上がった製品をどこに持って行くのか。そして「マーケティング」、「サービス」。
従来は生産ということが価値を作ると思われていたのですが、マイケル・デルの作ったデル・コンピューターを見てください。生産しているものはなんてことはない、お客様から言われたとおりのコンピューターを組み立てているだけのことです。ところが今、フェデックスと一緒に作ったシステムでオーダーしてから5日でお客様の所に届きます。東芝、日立、あるいはソニー、NECなど他社のパソコンは、地球上に40日分ぐらい在庫があります。それでどういうことかというと、プロダクトライフサイクルという、導入、成長、衰退、つまり導入期、成長期、成熟期という考えがあります。大体パソコンメーカー、NEC、日立、東芝はこの辺(成長期)で、デルはここ(導入期)だけとっていってしまいます。つまり導入期だけをいただく。どういう事かと言うと、新しいペンティアムといって、パソコンに乗せるチップができた。新しいソフトができた。デルは5日しか在庫がないですが、40日在庫がある企業は前のそれを売り切らないと、次に着手できません。そういう時間の差をビジネスにしているのです。そういう場合に、このバリュー・チェーンというのが非常に重要な視点になってきます。

 (2)部門(機能)を横断するプロセス(企画開発、製造販売、支援)
それから2つ目が「部門(機能)を横断するプロセス」です。これは経営品質でいちばん一般的な言い方をするのですが、技術部門、開発部門、製造部門、営業部門などを横に見ていく。それが昔はバトンタッチ型経営で、部門から部門にというリレー型です。部門が独立していて、そこにバトンタッチしていくという経営だった。これでは時間もかかるしうまくいかない。そこで野中郁次郎という先生が、少しずつかぶさるお刺身型経営ということを言いました。さらにそれがコンカレントエンジニアリング、最初から製造、技術、営業が全員でのってしまう経営になってきた。だからさっきの富士写真フィルムの「写ルンです」というのは、35人の各部門の課長が集まって始めたことです。それで成功していくわけです。ですからそういう、部門横断型の組織がうまくいくかどうかです。

実は村井さんという人がアサヒビールを建て直す時にやったのは何かというと、2泊3日のドンチャン騒ぎなのです。研修と称して、実は夜、ドンチャン騒ぎをした。どうしてかというと、それまで製造部、技術部、営業部の人がざっくばらんに話をしなかったのです。「何かお話ありませんか?」と言うと、「特にありません」とよそよそしいわけです。村井さんはこれではだめだというので、研修は5時ぐらいに終らせて、研修所で夜ドンチャン騒ぎ。ドンチャン騒ぎの材料はいくらでも工場にあるのでビールをたくさん持ってきて、あとは亀田のあられ、お煎餅などで適当にやればいいわけです。そうすると研修が終ると、営業部の人が技術部の人と友達になっています。そして次に会合をやったら、「お前、もう少し考えてくれよ」みたいな話がだんだんできるようになってくる。
それまでのアサヒビールのラベルを覚えていますか? 戦闘機の旭日旗です。日本はまだ戦争をしているのか、という感じでした。それからどぶ臭いと言われていました。フレッシュローテーションというのをやっていないので、何となく変な腐敗臭がした。大体ものがまずそうな店にアサヒビールが置いてありました。流行っていない店に置いてあった。だからまずいものを食べてビールを飲むので、ますますまずくなるわけです。それで「夕日ビール」と呼ばれ、いつ沈むかと言われていた。
それを立て直すのに、村井さんはまさにプロセス(部門を横断するプロセス)をやったのです。各部門の人たちが忌憚なく話し合う。「キリンのラガービールの文化のもとで何をやってもだめだ」という話が出てくるわけです。「そうだ、だめだな。」「世界中のアルコールを調べてみたら、わりと辛口だとか薄いという方向に行っているようだ。」そして最初は、「コク」に対して「キレ」というものを出したでしょう。これは知覚品質をずらすという言い方をするのですが、お客様が評価する品質事項をずらすわけです。お客様はみんな「ビールはホップだ。やはり苦味だ」と言っているのに、それに対してキレのほうに移そうとする。その時のコマーシャルを覚えていますか?「コクがあるのにキレがある」と言った。キレあるということは、コクがないという意味でしょう。「コクがあるのにキレがある」と言うから、おじさんはみんな2本飲めそうな気がしてどんどん買ってしまったわけです。
同じようなことをやったのが花王の「アタック」です。「泡立ち」というのが知覚品質だったのを「酵素効果」に転換するわけです。その酵素効果に転換する時に「スプーン1杯で驚きの白さ」というフレーズを入れて、「そうか。そうすると黄ばみが落ちるのか」と奥様たちが実感して、それで売れていくわけです。
ですから、知覚品質を競争相手に対して自社に有利に持っていっている商品が、今売れているわけです。知覚品質というのはお客様が知覚する品質ということです。品質軸を自分の方に有利に持っていってしまうということです。

 (3)結果→プロセス→システム→(部分最適から全体最適、結果から根本原因)
それから3番目で、「結果→プロセス→システム→」と書いてありますが、結果をいくら議論しても改善できないのです。御巣鷹山で日航機が落ちた。「今後落ちないようにします」と言ってもだめで、原因を探ってみたら、前年、大阪空港でしりもち事故を起こしていることが分かった。その時にどういう修理が行われたか。隔壁が、横から見ると2枚の板をリベットで止めただけになっていた。そうするとこちらから風圧がかかるので、また壊れてしまうに決まっています。それでは何に原因があったかというと、空港保安システム、あるいはそのシステムの下にある修理プロセスがチェック機能を失っていたわけです。そこに目を向けていくというのが、結果からプロセスということです。さらにそのプロセスに欠陥があるとすれば、そのプロセスを包含する上位システムにというように、逆に全体に全体にと目を向けていかなければいけないということなのです。
だから大阪の雪印乳業の工場でああいうことが行われていたというのは、実は生産システム、あるいは生産の決定システムに問題があるわけです。昔、全酪連で同じような牛乳の腐敗事故が起きました。たまたま工場長が出張だった時に、大腸菌の上昇係数の異常値が出ていました。ところが工場長が見ない限り生産停止の指令が出せなかったのです。工場長はその日たまたま出張でした。そうするとそれが出荷されてしまったのです。そうすると、工場長がいないときにどうするようになっているかというシステムを作っておかなければだめなのです。それが「結果→プロセス→システム→」という見方です。
実はHACCPもISOも紙に書くだけなので、あるべき論を書いてしまうのです。でも現実に見直してみると工場長がいないときにはどうするか。工場長がいなくて、副工場長もいないときはどうするか。現実にはそういうことが起きるので、そういうことがきちんとできているかどうかを見直すということがアセスメントなのです。ですからHACCPやISOとの根本的な違いは、紙に書くことが目的ではないということです。現実にどうするかということが目的なのです。
例えば今回の場合、雪印の大阪工場でこういう事が起きたときに、ガバナンスはどこにいてどういう対応をするかということがきちんとできていませんということです。そして広報の体質も、そういう事故に対して、新聞記者に「俺は寝ていないんだ」なんて言ってしまう社長を会わせるとどういうことになるのか、そういうこともあらかじめ想定されていないのです。そういうことがきちんと見直されると、このようなことは起きてこないわけです。

 (4)プロセスをパートナー、顧客にまで拡張する(顧客満足提供の全体系)
4番目の「プロセスをパートナー、顧客にまで拡張する」というのは、お客様も実はプロセスを一緒になってやってくれているのだということです。特にお客様が企業の場合には、その企業と自分の企業とは一緒になって問題を解決するパートナーなので、お客様ときちんと連携しなければなりません。プロセスというのはそこまで拡大していくという考え方です。
アメリカのウォルマートというのはそれをやっているわけです。店舗のPOSデータをインテルサット経由で工場に入れてしまうのです。そして工場は自動納品するわけです。間に商談というものなくなるのです。1つのプロセスが、セールスマンが売り込みに行き、バイヤーがそれを駆け引きするインテグレートという別のプロセスをなくしていくということをやっているわけです。


8.バリュー・イノベーションの戦略
9.ふたつの戦略モデル
時間がどんどんなくなってきてしまいました。8番は見れば分かるということでどうでしょうか? 左が従来の考え方で、右が新しい考え方です。簡単に言うと、業界というものを前提として考えないということなのです。
例えばとても儲かっている、稼働率のいいホテルは東京の新宿にあるパーク・ハイアットです。1泊45,000円です。誰が泊まっているのでしょう。神奈川県警かTBSではないかと思うのですが・・・・・・。もう1つ、1泊5,800円の東横インというホテルが稼働率が高いのです。東横インというのは東急系ではありません。蒲田に本社があって、東京と横浜の真中だから東横インというイージーな名前なのですが・・・・・・。ここは飲食部門が一切ないホテルです。地方でビジネスホテルに泊まると、無理矢理朝食券というのをくれます。ちんけな狭い食堂で、朝行くと八つ墓村のおばばのような人が食事を持ってきて、前の晩作ったのを食べさせられて、たまりません。ファーストフードもあるし、喫茶店もあるし、いろいろあるからそんなものはいりません。だからそういうのを止めてしまったのです。通常100室当たり38人というのが平均の社員数です。ここは正社員5人とアルバイト10人の15人なのです。それで徹底的に客室だけを良くするわけです。ベッドはセミダブルです。この東横インの支配人は全員女性なのですが、「朝起きた時に狭いベッドだとなんか惨めな気持ちになる。ベッドが広いととても豊かな気分になれる」というので決めたのだそうです。男の支配人ではだめです。「コストがかかるし、ベッドはやはりシングルの方がいい。」そして館内の自動販売機は全部定価、額面価格です。よくビジネスホテルで、宿泊費は安いのだけれど、250円のビールで500円も取るようなところがあるでしょう。考えていると眠れなくなってしまいます。
柏か我孫子に玉姫殿という結婚式場があります。あそこで千葉商大の卒業生が結婚式をやった時にテレホンカードがないので買いに行ったら、500円のカードが800円で売っているのです。「どうしてそんなに高いの?」と聞いたら「記念品ですから」と。玉姫殿が写っているだけです。何が記念品だと頭にきて、その日のスピーチはでたらめなことを言ってしまいました。学生はたまらなかったわけですが・・・・・・。
要は、業界を前提としない企業が今、勝ち組なのです。だからビジネスホテル業界などに加盟していると、宿泊室数に対して何パーセントのお客様が入れるレストランを作らなければいけなくなってしまう。業界常識というのが逆に戦略を持たせなくしてしまっている。だからサンルートや東急インなど、業界常識どおりにやっているところはみんな苦しいわけです。
業界常識を考えないでやっていこうというのが右側です。8番も9番もそういう意味です。特に9番は整合性、全体がフィットしているかどうかを見ていきましょうというのが右側の考え方です。左側は、どちらかというとテクニック、手法でものを見ていく方です。手法では分からないので、全体のまとまりで見ていきましょうというのが右側です。


10.バリュー・イノベーションの基本思考
10番がそのポイントです。1つ目は業界が当然とみなしているファクターの中で、それを止めていいかというアプローチをしましょうということです。CSというと、お客様が求めているもの全部を積み足していきます。しかしそうすると会社はつぶれます。CSというのは、お客様が評価してくれないものをいかに捨てるかということなのです。ビジネスホテルの朝食は、お客様が評価してくれないのだから捨ててしまおうということです。どうせたいしたことができないのなら、捨ててしまえということです。
2つ目は、業界水準より相当程度引き下げるファクターは何か。この東横インの場合、フランスのアコールというところが見本です。ここは歯ブラシや髭剃りなどのアメニティを全部止めるのです。そういう所に泊まる人というのは、そういうものをもって歩いているからです。ペナペナに曲がってしまう歯ブラシを置いてある、安いビジネスホテルがあります。あんなもの使えません。使っていると曲がってしまう。しかしみんな持って帰るのです。何に使っているのかよく分からないけれど・・・・・・。コストとして発生しているのに、お客様は喜んでいない。こういう無駄は止めていこうということです。これが2つ目です。
逆に、業界水準に比べて十分に引き上げるべきファクターは何か。この東横インの場合にも、フランスのアコールの場合にも、お客様がいちばん求めているのは熟睡するということでした。そこでどうしたかというと、まずベッドを良くしました。次に騒音が入らないようにしました。窓を二重にして、隣の部屋のいびきやテレビの音が聞こえないようにモジュラーブロックにして壁を厚くした。つまり静かに眠れるようにした。それからなおかつ、もう1つお客様が求めているのは清潔さだったのです。ビジネスホテルというと、どうしても不潔な感じというのが否めなかったのですが、重点管理項目を清潔管理にしたのです。そしてその他は一切捨てるわけです。そして高収益になっていくわけです。それがこの3つ目のことです。
CS、お客様満足、知覚品質というのは、余計なものを捨てないと重点が明確にならないのです。だから余計なものを捨てていきましょうということです。そうしていくと、4番目に極めて独自の価値が生まれてきます。業界が今まで提供していなかったもので、どのようなファクターを創るべきか。東横インの場合には朝食は出ないのですが、コーヒーとロールパンのサービスを無料で行っています。おじさん、ただというのが大好きなので、みんな喜んで食べています。そういう価値が話題になって、次のお客様を呼んでくるわけです。


11.日本経営品質賞のフレームワーク
さて、まとめのところです。経営品質のフレームワークというのは今8つあります。この8つの整合性を見ているわけです。それぞれ大体今お話ししたようなことを意味しているわけですが、そういうことがお互いにうまく結びついて、効果を出していく。それがどう結びついているかということを見ていくわけです。


12.まとめ
まとめとしては、今まで話したことを繰り返していますが、「すべての人にとってのすべてであろうとするな。」つまりあれもこれもやろうとするなということです。捨てることによって伸びる。
ヤマト運輸は松下電器産業と三越という2大荷主を捨てました。そして宅配便という新しいビジネスに入っていきました。ミスミは、従来の金型問屋のあれもこれもというのを捨てました。そして今日のミスミのシステムを作りました。要するに捨てないと新しいものはできません。現在のあり方を捨てないままで何か作ろうとすると、どうしてもそれは整合しない、矛盾になってしまう。矛盾というのは、何とかそれを合わせようとする適当なやり方になっていってしまうのです。
「フォーメーションをプランせよ。」フォーメーションというのは、現場からどんどんアイディアが出てくる、さっきの3Mの秘書たちのようなものです。JR東日本が民営化してすぐに、東北新幹線のトンネルを掘っていたら水が出てきた。従来だったら排水溝を作るだけで終っているのを、大清水という商品開発にまで結びつけてしまいました。つまり現場が燃えてくるわけです。アイディアを上に出そうというようになってくるのです。そういうのがフォーメーションということです。
価値前提、さっきお話した一連のことがきちんと行われていくと、現場自身でいろいろなことに気付いてくる。こういうことを総員経営と呼んでいて、「総員の知恵を結集せよ。」ということになるわけです。部門主義というのは部門の中で何でもやろうとするでしょう。そうではないのです。全社員の知恵、例えば100人社員がいたら100人の知恵を終結すればすごいことができるのです。さっきの3Mの秘書がいい例です。そういうふうに経営の仕組みを考え直そうということです。
5番目が「ありのままの真実を受け入れよ。」よくいうポジティブシンキングやナポレオンヒルの何とかは止めてもらいたいということです。現実をリアルに見てそれに対応していく。だから何が何でも頑張るという経営ではなくて、現実というものをきちんと把握して、何をやっていくか重要性の順位をつけてきちんとやっていこうということです。

前半やたら時間をかけてしまって、後半が全然時間がなくなってしまってすみません。いつもの手です。こうやって逃げているわけです。質問の時にまた多少お答えできればと思います。どうもありがとうございました。


<質疑応答>
どこまできちんとお答えできるか分かりませんが、できるだけ質問の趣旨に沿った答えをしたいと思います。
最初に実際に進めるとときにどうするのかという質問をいただきました。

質問:岡本さんは実際に経営品質に取り組んだ企業を指導したことがありますか? もしあったら、取り組み方の間違いや具体的な例をお聞きしたいです。

岡本:「理論上では難しく、理解ができないため・・・」と嫌味が書いてありますが・・・・・・。私自身の経験でいうと、大企業で3箇所、地雷を踏んでクビが飛んでいます。実は経営品質協議会の事務局は生産性本部の中にあり、東京の渋谷にあるのですが、そこのスタッフともう1人の先生と、あるモータサイクルの会社、これは言ってしまうと分かりますが御巣鷹山で落としたことのある航空会社、そして東京の大手町にある、ある銀行のいずれも部門のある範囲を限定してやってくださいという依頼をいただいたのです。
例えばモータサイクルでいうと、企画部分は触れないで製造と販売だけを見てほしいという依頼です。ところが製造と販売の結果、輸出したアジアなどで欠陥車両が出ます。欠陥車両などは、アジアのシンガポールやマレーシアなどの道についての十分な調査をやっていない、またそこのサービスディーラーのレベルを認識していないために起きてしまった。それを戻すのはやはり企画開発です。ところがそれは困ると言われてしまう。結局、一生懸命に製造や販売のプロセスについてアセスメントをやってきても意味がないのです。意味がないことをやっていると、社員はだんだん疲れてくるのでいずれストップしてしまいます。
同じように航空会社の場合には、離陸する直前、ドアを閉めたところから、着陸してドアを開けるまでの範囲でやってくれと言われたのです。ところがお客様が航空会社に電話をかけてくるかもしれない。あるいは空港でその航空会社のサービスに接するかもしれません。だから先輩企業のシンガポール航空や英国航空などは、お客様はトータルで考えている。事実、英国航空の場合などは、空港の改善にお客様の評価をかなり取り込んでいったのです。ところがその日本の航空会社の場合、機内のサービス、つまりキャビンアテンダントのサービスに限定されてしまいました。実は重要な顧客要求はそこにはないのです。それは従来のCSの発想なのです。
従来のCSの発想は、ホテルなどだととにかくフロントやボーイが頑張りなさいというものでした。そんな所で愛想を良くしてもだめなのです。根本的な仕組みの作り変えをしなければだめなのです。そのためには全体を見なければいけないのです。ところが社内の人間関係や組織上の問題があって、どうしても限定的にやってくれという話になってしまうのです。
銀行の場合には、推進者自身が会社を辞めてしまいました。敵だらけになってしまったのです。銀行というところはすごいでしょう。昔、その銀行に総務系の役員研修でCSの話で行った時に、専務が座り、その後ろに常務が3人座っている。その後ろに平取が座り、その後ろに部長が座る。冗談を言って専務が笑うと、1秒ぐらいたって常務が笑う。常務が笑うと平取が笑う。完全な管理組織なのです。そういう所である範囲だけやろうとすると、ほとんど無駄に終ります。
まず、限定された範囲でとりあえずやるということは結構危険であるという、失敗の経験です。

もう1つは、今回受賞したリコーで田村さんという部長がやっているのですが、要はトップマネージメントに説明をしてはだめだということです。トップマネージメントの考えていることに合わせてやるということです。トップマネージメントに「CSは大事です」とか「経営革新は大事です」と説明すれば、反対する人はいません。でも「そんなことは分かっている。お前に言われるまでもない。冗談じゃない。お前なんかに言われてたまるか」と言われ、逆に敵にまわります。だから、どちらに行きたがっているのか、どういう問題意識を持っているのか、トップマネージメントが考えていることをよく把握してください。そのためにどういうアセスメントをやるか。そこから先は推進者の戦略なのです。トップマネージメントにお説教することは最も危険です。だからトップの方自身が今日話を聞いていらっしゃるのだったら話は別です。トップだからあなたは説教していいのです。トップでない人が説教してはまずいということです。
フェデックスの小話に、役員3人がもうすぐ殺されるという話があります。財務担当の役員が「ちょっと待ってくれ。帳尻が合わないから、もう1度計算させてくれ」と言います。そうしたら死んでもいいと言うのです。2人目は経営品質の担当者で、「もう1度経営本質の話を社員にさせてくれ。そうしたら死んでもいい」と言います。3人目の別の担当の役員が「俺を先に殺してくれ。経営品質の話を聞くぐらいだったら、先に死にたい」と言うのです。先生面してやってしまうと、それぐらい全部が敵になってしまうのです。
ですから、むしろアダプテーションなのです。最初からベストを目指すのではなくて、今の経営サイドが考えていることに、いかに経営品質を役立てて活用できるか。部分から入るのはやむを得ないことだと思います。理想から入ろうとしても、現実の企業ではまず難しい。
具体的にやる場合、どうしても一挙に味方を増やさないとまずいです。従ってその方法論としては教育しかありません。例えば管理職の教育であったり、あるいは役員の教育であったりするのですが、企業の規模に関係なく、最低でも十数人は作らないと議論が始まりません。議論が始まってしまえばこっちのものです。必ず「もう1回、あの話を聞かせろ」というようなことになってくるので・・・・・・。できれば30人ぐらい教育を受けてもらうと、その人たちから問題意識が出てくるので議論が誘発されてくる。そうすると次ノンステップに入りやすいということです。最初のうち1人だと、相手がいないために空回りしてしまうのです。そのための教育研修は鬼澤さんの方でも、あるいは東京の方でもいくつか用意してあるので、是非ご参加いただければと思います。


質問:価値前提としてビジョンだけ作って安心してしまい、ビジョンがお題目になりつつある企業にメスを入れるためにはどうしたらいいでしょうか? つまり経営者側がビジョンどおりにまわっていると勘違いしている場合、どうしたらいいでしょうか? 

岡本:実はそういう企業にアセスメントが非常に役立つわけです。つまり経営者はビジョンを言っていて、そのとおりに会社が動いていると思っている。しかし現場ではそんなもの誰も覚えていない。とにかく目先の利益が優先されてしまっている。そういうときに、どういうふうにして乖離が起きているのか。なぜトップの言っていることが、どこかで実務作業としては変わってしまうのか。まさにそれを明確にするのがアセスメントなので、やっていただくと明らかになってくると思います。

同じ方からの質問です。
質問:客層、価値、やり方はどの順番で決めるものなのか。やり方を先に決めておいて、あとから価値や客層が決まっていくこともありなのでしょうか? 自社のコア・コンピタンスを明確にする場合、どの部分から決めていくのが成功への近道なのでしょうか?

岡本:これは一概には言えないと思います。例えば今、私自身が多少ともお手伝いしている会社の場合もいろいろです。それは病気の度合いによって違うのではないかと思います。
 かなりいろんなことをやってきた。しかし今ひとつピリッとこない。あるいはいろんな経営改善もやってきたけれど、もうひとつ新しいことをやりたいというようなレベルだと、ほとんど方法論は問わない。何をやっても大丈夫です。
ところが、経営改善なんて今までやったこともない。大体そういう言葉そのものを知らない。とにかく成り行きでやってきた。あるいは体育会的なノリで「行くしかない!」というようなことでやってきた。そういう場合、議論を誘発してもラーメン屋のアホおやじの会話と同じになってしまうのです。
ラーメン屋でアホおやじが話しているでしょう。「税金高いな。」「うん、高い。払えないよ。」払ったことあるのか、と聞きたくなります。ああいう話になってしまいます。やはりバカを5人集めてもどうしようもないということです。ですからそういう場合には経営品質という話ではなく、ビジネス常識を教えなければなりません。あるいは対話技術を教えなければなりません。そういうような基礎的なことを覚えてきてから、次の経営品質にいかなければいけない。ですから経営品質の前の地ならしのようなことが大変です。挨拶のできないような人たちを集めて話し合いをしても意味がりません。
 ですから、かなりレベルが高い場合にはビジョンが先であろうと、あるいは戦略が先であろうと、現場改善が先であろうと、どこからでもいけます。しかしレベルが低い企業の場合は、まず地ならしをして、とにかくものを考えられるようにしてから次にいかなければいけない。それを答えにさせていただきたいと思います。


質問:ボルドリッジ受賞企業、あるいはJQAの受賞企業は、継続的成果を挙げているのでしょうか。JQAを推進していくためには、どこから、何から進めるのがいちばん良いでしょか? 継続が難しい企業も多いと聞きますが・・・・・・。

岡本:7月2日に米国のゲイセツバーグ(Gaithersburg)に経営品質の総本山であるニスト(NIST:National Institute of Standards and Technology)というのがあって、そこでアメリカの審査員、エグザミナーの会議がありました。実は日本は8月2日にやります。要は日本で言えば、家元制度といえばいいのでしょうか。
例えば今、鬼澤さんに指定講師というのをやってもらっています。どのような仕組みになっているか。アセスメントコースが、競馬のような話で恐縮ですがG1、G2、G3とあります。これが入門から中級、上級と考えてください。それに何日間か参加してもらいます。事前に分厚い100ページのアセスメントレポートを読んで、それを評価して持ち寄って研修をやるので、かなりきつい研修です。それが終わると、アセッサーとして認定される認定コースが2日間あります。アセスメントコースが1週間ぐらい。そして認定コースが2日間です。それから審査員に応募すると試験があって、試験に合格するとまた2日間のコースがあります。さらにこの審査員の中から、このアセスメントコースを指導してもらう講師をお願いするわけです。この人たちはまた2日間研修があります。そのずっと手前に一般の人がいるのですが、これだけやると完全にマインドコントロールされます。ですから指定講師になると、染まっているので、自分の地元の近くで協議会を立ち上げるとか、必ずやってくれるのです。企業の中でも同じで、アセッサーまでやると元を取りたくなるのです。この辺で止めると元の木阿弥で損だなとなって、ほとんど審査員までは絶対にいきたくなります。企業の中で審査員までいった人を数名作ると、その企業の中で必ずアセスメントし始めます。だって、自分で勉強したことをやりたくて仕様がないですから・・・・・・。それが基本的なシステム、戦略なのです。
ですから、実際に受賞企業ではイノベーション・トラジェクトリーが起きてしまうので、継続するのが当たり前になってしまうのです。受賞企業で元に戻ってしまうというのは、アメリカでウォーレスという中小企業が失敗しました。受賞したものだから、社長が全国津々浦々講演に歩くわけです。その間に会社がつぶれてしまったのです。そういうことがありました。あとは実際に自分の見直しとして定着し、習慣化するわけですから、審査員が何人かいる企業や、認定アセッサークラスが結構いる企業というのは、自動的に回転し始めてしまいます。それから中堅・中小の場合には、社長自身が認定までとって、自分で自分の会社の見直しをするというケースが結構多いです。
従来の方法論、いわゆる手法でやる経営改善だとブームが終わると終わってしまいます。ベンチマーキングブームが終われば終わってしまいます。ナレッジマネージメントブームが終われば終わってしまいます。ところが自分で自分を見直す習慣なので、一度習慣がついてしまえば終わってしまうことはない。まして100ページのレポートを自分で一遍作るでしょう。そして一度作っていると、変わる度に作るというのは結構楽なのです。絶えずそのレポートを見直すと自分の会社の経営状態が分かるので、大変経営がやり易くなります。ですからやってしまえば自動的に、当たり前に継続されていきます。

この際、何か聞いてしまおうという質問があります。コンビニ業界について答えろということです。
質問:セブン・イレブン、ローソンのローカルチェーンについて、ドメイン分析してもらえないか。

岡本:面倒くさいですね(笑)。実はセブン・イレブンとその他とは何が違うかというと、まさにおっしゃるところのドメインに近い、ケーパビリティという独自能力が違うのです。セブン・イレブンには、1店舗当たり23人のアルバイトがいます。ローソンやファミリーマートのアルバイトは販売員ですが、このセブン・イレブンの23人のアルバイトはそうではありません。情報収集員なのです。どういう情報を収集するかというと、その店舗の商圏内で、この先1週間にどんな催し物、人が集まることがあるのかを調べるのです。例えば工事はどこで行われるか、小学校の運動会はいつなのか、あるいはPTAの集会はどうなのか。そういうことを持ち寄るのが23人のアルバイトなのです。その23人のアルバイトの情報に対応、即応して、品揃えを変更できるのがあの会社の強みなのです。
 似たようなことをしているのがヤマト運輸です。ヤマト運輸はチーム性でやっていて、6人の運転手に対して1人のチームリーダーがいるのです。このチームリーダーがどこで工事をしているかとか、どこの道では左側に止めたほうがいいとか、何時ぐらいにどこが渋滞するとか、おまわりさんなんかより地域の交通事情によっぽど精通しています。その彼が手配をするために、オペレーションロスが他の配便の会社より圧倒的に低いのです。つまり、プロセスを磨き上げているわけです。このプロセスを磨き上げる企業がやはり勝ち組みです。


質問:日本の大学に必要な戦略はどのようなものですか?

岡本:かなり違う・・・・・。大学の方いらっしゃっているのですか? 日本の大学をどうしたらいいとは、すごい質問ですね。私が教えてもらいたいのですが・・・・・・。加藤寛というのが千葉商大に来て、「製造物責任」ということを言い出した。要するに、学生が企業に行って使い物にならなかったら戻してくれというのが製造物責任で、PL法でやろうというのです。それを言い出して、結構昔の学生を戻されたら困るという話になりました。実は加藤寛さんの考え方というのは正しいわけで、アメリカである先生が「大学のお客様は企業である」とはっきり言っています。つまり学生ではないということです。


実はもう1つ質問いただいています。
質問:今回の講演とは直接関係しませんが、京都大学で学生の家庭訪問をやり出したことが週刊誌に出ていました。また授業中に化粧をしたり、携帯電話で話したりする学生がいると聞いたことがありますが、大学の講師をされていて、以前の学生と今の学生の質の違いを感じられることはありますか?

岡本:今日は大学関係の方が多いのですね。実はこの2つ目の質問と関係あるのが、大学改革をいちばん最初に関東でやったのは亜細亜大学です。それから関西圏では近畿大学です。いずれも大失敗しました。改革はしてはだめなのです。
亜細亜大学の場合、学生、及び受験生をお客様と考えました。どういうことをやったかというと、一芸入試ということをやりました。覚えていらっしゃいますか? 納豆飯を一口で食べられれば一芸であるなんて訳の分からない話です。頭が悪くても入れるようになってしまったのです。そうすると、まず、ちゃんと勉強する学生が一芸で入ったと思われたくないということで受けなくなりました。そして徹底的に甘やかし、試験を受けなくてもレポートでもいいとか、単位を取りやすくしました。実はレポートでよくなると学生は全然勉強しなくなります。お父さんやお兄さん、親戚のおじさんなどがレポートを書かされます。業界人しか知らないようなことが書いてある、素晴らしいレポートがあがってきます。だからレポートはだめなのです。試験をやらない限り絶対に勉強しないので、学生の質は低下します。ちょうどバブルの崩壊のころにその人たちが卒業になりました。そうすると企業は当然採りません。卒業生が採られないから、河合塾も代々木ゼミナールも翌年の入学偏差値を落とすわけです。そうすると一回転して、より一層レベルの低い学生が入ってくるという悪魔のサイクルに入ってしまったのです。同じことが近畿大学でもいえるわけです。
一方、うまくいっている大学は東京四谷にある上智大学です。この上智大学は学生数を増やさないと決めました。ですから1学部100人で、1人の先生あたりの学生数が少ないのです。ということはそれだけコミュニケーションが増えるし、就職の際の相談も細かくできます。関係者がいらっしゃったら申し訳ありませんが、昔はそんなにたいした大学ではなかったでしょう。今、急に上がってしまったのです。すごい一流大学になってしまった。だから学生数を増やさないということが鉄則です。近畿大学は逆です。学生数をべらぼうに増やしてしまった。誰でも入れるのです。
やはり試験をきちんとやらなければいけないということと、学生数を減らさなければいけないということです。
大学の学生がだめになったという意図の質問ですが、まったくそのとおりです。大学改革の美名のもとに甘やかしてしまったのです。そうでははなく、企業、就職先の方たちにもっといろいろ聞いて、こういう学生教育をしろという意見をいただいて、それを学内に活かしていけばいいのです。そうしない限り大学の改革は成功しないと思います。
現実にアメリカでは、オックスフォードとケンブリッジとでは圧倒的にケンブリッジの方が企業の評価が高くて、オックスフォードはうんと低くなってしまった。なぜかというと、オックスフォードは古典主義なのです。そしてケンブリッジは実学主義、今役に立つことを教えているわけです。そういう差がはっきりと出てきています。日本でも、お客様は企業だと考えて、そういうことを聞いていくべきではないかと思っています。


質問:ニッチャーが集まっている企業が強い場合もあるが、顧客は幾つかの部門、トータルのシステムを望んでいる場合もある。百貨店的でも戦略があれば生き残れると思いますが、今日的考えに合いませんか? 

岡本:日立関係の方からのこういう質問です。実は日立や東芝というのはこういう組織なのです。(図で説明)工学部を出ると、ラインのトップには技師長というのが事業部長クラスでいます。
質問者に対する答ではなくて、いただいた質問をみんなに投げかけているわけです。悪質な回答ですが・・・・・・。
工学部を出た新入社員のエンジニアが入ってきます。やがて偉くなったらここ(技師長)になりたいわけです。このライン、トンネル、あるいは煙突が日立だと70いくつ、東芝だと40いくつあるわけです。横には行けないのです。だから新しいものが生まれるはずがないのです。
反対にソニーは技術者が横に動くことを評価する会社です。技術者同士が横の連携を取っていろんなものを考え出すのです。だから訳の分からない物を作れるのです。ところが東芝や日立というのは、こう(縦に)行くことしか評価されないのです。それが良いか悪いかはここでは言いません。しかし、そういう仕組みそのものが企業の体質になっていることは事実なので、その人たちにニッチャーになれということは不可能に近いのです。ソニーにニッチャーになれというのは非常に実現性が高い。「プレイステーションを作りなさい」と言ったら作れるわけです。しかし日立や東芝には、この仕組みの中では不可能です。東芝ダイナブックスを作った溝口さんというのは、人の敵意を感じながらそれをやったわけです。中にはそういうことを思い切ってやる人も入るわけですが、現実にはなかなかできません。
ですから生き残れないとは言いません。生き残れないかどうかは私には判断がつきませんが、こういうやり方の経営では、面白いとか新しいとか、そういう視点は持ち得ない。生まれるはずがありません。評価されないことを社員はやりませんから・・・・・・。今の仕組みを温存する限り、そういうアプローチは難しいと言っているわけです。
その代わり、こういうやり方でなくては作れない物もあるでしょう。それはそういう範囲に限定してビジネスをやっていかざるを得ないのではないかというのが質問に対する答です。


質問:私の会社は8つの部署・部課に分けています。税理士先生は部門別経理をしています。従来の経理システムと今回のセミナーで得たものを比べると、部課別に分けて採算管理をしていくのは古いのでしょうか。部課別から横の部課へのつながりを仕組みとして考えていきます。

岡本:必ずしも古くはないと思います。実際の数字のユニットをどういうところで取るかとプロセスとは、直接は関係していません。ですから部門別の採算を取っていても、あるいは機能別の積算や損益分岐点計算をしていても、それは一向に構わないと思います。
 経営品質賞では、財務成果というものは結果としては見ますが、それを生み出す業務プロセスの方にフォーカスしているので、どの段階で原価を取るべきかとか、どの段階で利益を見るべきかということは考えていません。
ただし根本的思想の中に、マーケットマイナスというのがあります。コストプラスではなく、マーケットマイナスです。だから直接原価計算、さらに言うとアクティビティベースコスティングといって、意志決定部門が現場系のコストアップの原因を作っている。現場系のコストアップの原因を作っているのは意志決定部門、ホワイトカラーなのです。例えば業者を変えるとか、やり方を変える。これは現場で必ずコストアップになるのです。それに関しては、意志決定部門の方にきちんとした原価コントロールの責任を負わせるということは基本的な考え方として持っています。ですが採算管理その他に関しては、ある程度従来のやり方でいいのではないかと思います。


質問:戦略が決定して矛盾が発見できても、整合性は簡単にはとれないと思うが、この整合性をとるために、具体的な取組み例があれば教えていただきたい。例えば社長がある製品をやめようと思った。従業員レベルまでやれることを理解させたいというようなとき、どのような事例を用いればよいか。

岡本:戦略があって矛盾が見えてきても、その矛盾の解決が難しいのではないかという話です。そういうことですよね。いずれこちらでも、千葉夷隅ゴルフクラブや吉田オリジナルという中小企業の受賞事例を紹介してもらうと思うし、ビデオでも見ていただくといいのですが、結局社員自身が、オーナーシップを持ってこういうことをやらないと意味がないのです。この社員自身が矛盾を発見して解決していくような、分析の手法や話し合いの能力などを身につけさせなければなりません。
そういうことがないと、現実には「問題があったね」ということで終わってしまいます。ご指摘のとおりです。それは審査基準のカテゴリー4をよく読んでください。4のカテゴリーは教育をしろといっているのではないのです。ハイパフォーマンス・ワークシステムができるように、つまり目的に対する成果が挙げられやすいように、人をどうやって開発しているのですかということなのです。
ですから1から8までカテゴリーがあって、4を除く他のカテゴリーをやるためには人がやらなければならない。すると人が能力や技術、スキル、あるいはツールというものを持っていないとできるはずがないのです。そのためにどうしていますかということをカテゴリー4で聞いているのです。だからこの4が書けなければ、他のこと、あるべき論がいくら分かっても実現できないということになるわけです。
アセスメントをやると、このカテゴリー4が異常に低い企業があります。この4が異常に低い企業は、いいことをたくさん言うのだけれど、実行しないで終わっている企業なのです。なぜか。社員の能力がついていっていないということです。ですからその場合には、社員の能力を高めてからでないと無駄になってしまうのです。さっきお話したとおりです。地ならしができていないのに、上物を建ててはまずいという話です。


質問:捨てるべきものを決めるというのは難しい。経営品質に関連した企業のうち、製造業の中で捨てるべきものを決めて成功した事例を紹介してほしい。例は多い方がいい。

岡本:経営品質賞はまだ5社しか受賞していないので、どうなんだろうと言われてもなかなか難しいのですが、アサヒビールがさっきお話したようなことをやったのは、いわばそれまでのいろんなタイプのビールを捨てるのです。それまでいろいろやってきました。本生など生ビールの商品開発はアサヒがトップだったのです。しかし失敗しました。結局はサッポロが今やっている戦略が、かつてのアサヒと同じです。不安だからあれもこれもやるわけです。企業の力が十分にあってあれもこれもやるキリンのように、あちこちでやっていても財務力があればいいけれども、当時のアサヒはそんな財務力もないのにやっていったから、どんどんシェアを落としていったわけです。
村井さんの前が高橋さんと延命さんという人で、5年で5パーセントずつ落とすのです。だから2人揃って10パーセント。なかなか見事な経営です。計画的に年1パーセントずつ落とした。そして遂に18パーセントあったシェアが8パーセントにまでなってしまうのです。これはなぜか。いろんなラインナップをやってしまっているから落ちて行くのです。そしてスーパードライ1本に絞ってからシェアが上がっていくのです。捨てなければだめなのです。特に立場が弱いほど捨てなければいけません。立場が強ければ捨てなくてもいいのです。
千葉夷隅ゴルフクラブの場合には不便です。茂原から車で1時間ぐらいかかる。まだ東京湾が横断できなかったころなので、東京駅から茂原まで特急で1時間かかる。東京から行こうとすると、最低でも2時間かかるゴルフ場です。極めて不便です。実はあらかじめ立地という条件を捨てているわけです。立地という条件を捨てたがゆえに、何かを選択しなければいけないのです。通常ゴルフ場というのはサービスという認識はありません。大体ゴルフ場の支配人というのは親会社からの天下りで、親会社を定年になった人がくるわけです。もうやる気はないです。大体10時半ぐらいに来て、他の人と碁か将棋をします。そして3時ぐらいに帰っていくわけです。そういうのが常識なのです。加藤さんは元々親会社の人事教育担当の方です。そしてゴルフ場に行って、他のゴルフ場、ホテル、旅館にない温かいサービスしかないと考えるわけです。そうすればお客さんは来るはずだというわけです。そこに徹底するわけです。だから食堂のウェイトレスもキャデイも、グリーンキーパーもみんな温かいのです。プレイしている時の挨拶ひとつが違うのです。まさにディズニーランド的なのです。あれは他の要素を捨てたからできるのです。あとは、緑の待合的な接待的要素を捨てていきます。そういうことを捨てていくことによって、独特の味わいができていったのです。
ですから「捨てるべきものを決めるのは難しい」のではなくて、「捨てなければだめです」と言っているのです。易しいとか難しいではありません。捨てなければだめなのです。捨てないと集中というのが起こらないのです。もちろん質問された方の企業がいくらでも余力のある企業なら、捨てる必要はないかと思います。しかし通常の企業はそういう楽なことは言っていられないので、捨てなければいけないということです。
捨て方の順位は、先程最後に言ったとおりです。


質問:独自能力を創造する優良企業のトップのリーダーシップの共通点は?

岡本:はい。共通点は簡単です。語り部であるということです。いつも同じことを言い続けるということです。ビジョンやミッションを紙に書いただけでは、絶対に社員は信用しません。それをあらゆる機会を通じて言い続ける。これがボルドリッジの受賞企業でも、日本経営品質賞の受賞企業でも共通しています。価値前提にこだわりつづけると言うことです。そうすると、いつのまにか社員もその気になってくれるということが共通的な要素です。
 
 大体お答えしたつもりですが、これでよろしいでしょうか? どうもありがとうございました。 


以上