水戸藤原塾 講演録 / 2000年3月

水戸藤原塾 講演録
藤原 直哉 氏

 皆さん、こんばんは。花粉症でちょっと鼻声で申し訳ないのですが・・・。

 久しぶりに株価の一覧表を見て、小松崎さんと高い、安いという話をしていました。最近、株式欄とかには全然興味がないのですが、久しぶりに見て思ったのは、バブってますねぇ。

 おかしいと思うのは、有名な会社の株が高いです。これ、うそです。有名な会社というのは、大体バランスの悪い会社なのです。最近有名になった会社というのは、特にバランスが悪い会社で、そういう会社の株が高いですね。危険信号です。このワタミフーズが何で8,400円もするのかとか、コジマ電機が2,800円だとか、何かこれクレイジーなんじゃないかな。前にも申し上げたのですが、いわゆる「ミニバブル」ってやつです。これはかなりきてますね。毎日見ていると、あまり違いがわからないのでしょうが、久しぶりに見るとよくわかります。日本はもう、ミニバブルです。そしてアメリカが「本バブル」? 本バブルにミニバブルで、株はもう終わりです。持っている人は、全部売ったほうがいいかもしれません。

 今日、ソニーは2,000円のストップ安です。この間、2、3日間でプレステを百万台ぐらい売りました。あんなヒット商品はないです。 iモードが7、8ヶ月で2百万台売れたのに、プレイステーションは、3、4日で百万台ですから、ものすごいです。それが、今日いきなり株がストップ安をしています。マイクロソフトがこの秋にでも新しいゲーム機械を出すという、ただそれだけで、株がストップ安しています。どんな機械を出すかは言っていません。単に出したいと言っているだけじゃないかな、と思っているのですが。

 今の日本の状況というのは、非常に憂慮すべきことが多い。今年はこれからインフレがきますから、みなさん、よく注意しなくてはならない。それと、来年の3月いっぱいで生命保険の死亡保険金の上限保証も打ち切りです。今、自民党で法案が出ていますが、多分あのままいきますと、保険会社がつぶれた場合には、いよいよ死亡時の保険金も全額戻ってこなくなります。日本はその辺の準備がまだできていない所が、非常に心配です・・・。

 リーダーシップの話の中でちょっとしたのですが、変化に対して、守る姿勢をとっている人や、とっている会社はこれから本当に辛いと思います。自分から、変化を求めていくような姿勢でないと、これから会社も個人もたまったものじゃないということを最初に申し上げておきたいと思います。

 ものすごく変わっていっている時ですね。歴史の中ではそうそうこういうことはないのではないかと思います。例えば、右肩上がりが終わりましたと言いますが、右肩上がりが終わって何になったのですかというと、こういう形になったというものがないのです。要するに、変化が激しくなったとしか言いようがない。

 例えば「eビジネス」という言葉がありますよ。「eビジネス」なんて言葉は、5年前にはなかったです。「インターネット」とう言葉が5年ぐらい前に出てきて、今は「eビジネス」と言いますが、5年ぐらい前というのはなかった言葉です。しかし、プレステーション2なんか、インターネットでボンボン売って、おもちゃ屋さんを素通りしてしまうわけです。知らないうちにものすごいものが、どーんとやってきて、ごっそりお客さんをもっていってしまうのです。これも後、5年ぐらいすればまた状況が変わってきて、今度は他のものでやっているかもしれません。インターネットではないかもしれません。

 いつも、変わっているというのが、今の大きな特徴ですね。ですから、いつも変化に対して適応できる、逆に変化を求めていくくらいのつもりでないと、これからはだめじゃないでしょうか。
 
 最近のニュースでポイントがあると思うのは、まずインフレです。原油の値段がものすごく高いです。ついこの間、1バーレル34ドル台までつけました。第二次石油危機のとき、確か30ドル台だった。それから湾岸戦争の時が31ドル、湾岸戦争の前に41ドルまで上がった。まだ41ドルまではいっていませんが、とにかく、この1年で原油の値段が3倍になってしまいました。本当にインフレが始まるときの物価の上がり方というのは、こう上がるんです。株価がバブルになるときも、土地の値段がバブルになるときもそうです。上がっている最中は絶対止まらないんです。上がりきって、今度は落ちてくることが多いのですが、とにかく上がっている間は絶対止まらない。

 去年からこういうものは結構目立ってきまして、まずハイテク株がダーっと上がってすごいです。それから石油。それからもう少し小さいスケールで見たら失業率。今はちょっと落ち着いていますが、去年ワーっと上がりました。それからご存知の方いらっしゃると思いますが、パラジウムという貴金属があります。これが今800ドルぐらいですが、つい4ヶ月ぐらい前までは100ドルから200ドルの間だったんです。あとこれを逆に見るとユーロ。これは反対にワーっと下がっている。特に最近下がり方が激しいです。スタート直後から、ドルに対しても円に対してもユラユラユラときたのですが、ドンと下がった。すごいですね。

 ですから、インフレはそのうち来るだろう。だけど先のことだろうと思っていると、あっという間にきます。そして、止まらない。ヨーロッパなんか、すごいですよ。去年の秋から毎月毎月、物価上昇率が上がっていって、ユーロが安くなっているのと、原油が高くなっているのとダブルパンチできているんです。それから、この中でお車の仕事をされている方いらっしゃると思うのですが、パラジウムというクルマの触媒に使うものがあります。特にレクレーショナルビークルでよく使っているのですが、アメリカの自動車会社が言うには、ロシアが輸出を引き締めて、今パラジウムが10年前の10倍に値段が上がっているんですね。アメリカの自動車メーカーが、クルマのコストが1台100ドル上がったと言って騒いでいます。パラジウムがなくなっているわけではなくて、ちゃんとロシアの大地に眠っているのですが、プーチンさんが掘らせない、輸出させないと言っているのです。それで、パラジウムだけで1台あたり100ドルコストアップになって、アメリカの自動車会社も悲鳴を上げているのです。
 それから、アメリカのトラック業界がこの間ワシントンdcで大騒ぎをしていました。原油の値段が上がったので、軽油の値段も上がっているのです。こんなんじゃ、商売にならないというわけで、アメリカのトラック業界が騒いでいました。

 インフレというのは前々から申し上げている通り、一度火がついたらもう止まらないです。本当に早いです。でも、これが今始まっています。日本は円高がきているからいいです。円安になっていったら、たまったものじゃない。お茶の間直撃型インフレです。前から申し上げている通り、円高のときは、円安対策、円安のときは円高対策というのが今の時代の常識ですから、今、為替がちょっとずつ円高で、これから円高対策なんか考えている会社はもう遅い。次に円安になったときどうしようか、と考えてなくてはいけないから、今からインフレのことを考えておかなくてはいけない。

 専門にやっている人からおもしろいグラフを見せてもらったのですが、為替の今回の円高への崩れ方は、1990年から1991年ぐらいの崩れ方によく似ています。あの時、140、150円で崩れていって、80円まできました。今110円で崩れている。それで次は50円なのです。これは大いにあり得ることで、アメリカのハイテクが本当に崩れてしまうと、50円ぐらいにいったって不思議じゃない。そうなると前から申し上げているとおり、おそらく世界の通貨制度の大きな変更ということが起こるでしょう。ですから、今年はこれから世界的にもいろんなことが起こる年でしょう。だから変化に対して建設的に、積極的に接するような態度でないと、乗り遅れます。変化に対して、守ろうと思ったらもうアウトです。そういう姿勢だけで、ちょっとアウトじゃないかな、という気がします。

 金融機関の方の話は、「越智通雄」にオチがついたと、みなさんよくおわかりだったでしょう。越智通雄さんが余計なことを言いまして、クビがとびましたね。クビがとんだとたん何が起きました? 大正生命に早期税制措置発動、南証券破産、イトーヨーカドー銀行認可、ソニー銀行認可、それから、生命保険死亡保険金の保証を2001年3月末で打ち切り、全部動き出しました。つまり、越智さんが何をしていたのか、あれでよくわかった。改革は待ったと全部止めていたのです。江戸時代末期の大御所時代みたいなもので、止めていたのです。越智さんが辞めたとたんにダダダダダーと全部動きだしました。

 今の日本、最近変です。変というのはここ10年ぐらいです。フィナンシャルタイムズを見ると、今日の1面なんか小渕さんが苦虫噛み潰したような顔が出ています。スキャンダルで小渕政権が大変だって書いてある。後ろの方をめくっていくと、小渕さんが困っていて、ドコモの話でワーワーやられた話が書いてある。しかし日本の国内では、小渕スキャンダルというのはみんなあまり騒いでいません。たしかに、小渕さんというのは郵政族ですから、ドコモの話はよく知っているはずです。だから、ドコモの株が上がるので秘書に買わせてなんてやったら、やっぱり、何かあるでしょう。しかし、我々日本人はそういう政治家のスキャンダルはうんざりすりほど聞いているから、またかと、さもありなんぐらいです。特に、ドコモスキャンダルで小渕政権が今日にでもつぶれるような話は、全然聞かない。しかし、そのフィナンシャルタイムズなんて見ていると、もう小渕内閣がいよいよこれで終わりみたいな雰囲気が漂ってくる。越智さんが更迭された後、次に谷垣大臣になりましたね。谷垣大臣なんか、フィナンシャルタイムズに顔写真入りで一面、出ています。金融改革はちゃんと推し進めますと言って、外人記者を呼んで話をしている。新聞、テレビでもやっていましたが、アメリカ政府が日本の構造改革、不良債権問題をもっと速度を上げて片付けるようにと要求をつきつけていました。どうも私は、小渕さんは本気に外国から見放され始めているのじゃないかと思う。早く引っ込めと、外からやられ始めているんじゃないかという気がする。

 許永中の事件があります。この間捕まって、「田中もりいち」という弁護士が詐欺で逮捕されました。どうもあの話はすごいことになっています。許永中というのは、やくざもんで武器や麻薬の密売をやっていて、kciaとつるんでいたらしく、日本の公安が前々からマークしていたらしい。あの人、この2年間隠れていたでしょう。しかし、誰に接触したかはちゃんと調べていたらしいんです。小渕さんが外務大臣をやっていたときに、どうも接触していたらしい。亀井さんともつるんでいるらしい。今捕まっていますから、どう考えても、これから今の自民党に、今出ていないようなすごいスキャンダルが出てくる可能性があるのです。

 新聞を見ますと、今の日本も景気がよくなっているようなことが書いてあったりします。このままうまくいくんじゃないかと思っている人が結構いる。しかし、わたしはこれから今の日本も、自民党もひっくり返されてどんでん返しがくるんじゃないかと思います。予算もさることながら、最近誰も例のペイオフ延期の話、言わなくなったでしょう。あれまだ、法律通してないんですよ。あれを本気でやると言ったら、その瞬間に自民党政権は倒れるんじゃないでしょうか。あれは越智大臣が決めた話です。そして、越知大臣もういなくなったでしょう。どうも、中から全然変わらないのに業を煮やした外国が、外堀を全部埋めて、いよいよ自民党の向うずね蹴飛ばしに来てるんじゃないかな、という感じがする。そうするとこれから本当に一気呵成です。早いです。だからペイオフも金融改革も全部予定どおりで、これから1年、2年の間にがらっと金融界が変わるんじゃないでしょうか。

 さくら銀行がこの夏から、インターネット銀行を始めます。もう来年でなく、この夏から始めるのです。さくらのやるインターネット銀行というのは、たしか日本生命なんかも入ってくるのですが、社員40、50人でやるそうです。個人向けの預金や振込を全部やるのです。さくら銀行というのは、今、行員が確か1万6千人いて、住友と合併するにあたって、1万6千を1万まで減らして、それで合併することになっています。しかし、そのさくらがインターネット銀行やると言っています。あれをやると、個人客はほとんどみんなそちらに行ってしまいますよ。大体、インターネット銀行の方がコストが低いので、預金の金利も普通の預金金利よりも、上乗せすると言っています。そうなると、今のさくら銀行の営業基盤は壊滅します。同じさくら銀行でインターネット銀行をやるわけですから、はっきり言ってしまったら、生産会社と存続会社を分けるような感じです。

 みなさんよく知っていると思いますが、「さくら」というのは、一度おかしくなったことがあるのです。96年ぐらいでしたか、さくらの頭取が全銀協の会長をやっていたのですが、途中で変わったことがありました。やっぱり金繰りに困って、外国人から金を借りたのです。リストラを条件に金を借りて、あの時事実上一度つぶれたのです。そして2度目につぶれたのが住友と合併したときです。あれが2度目の倒産です。とりあえず、金繰りだけはついて、今やっているのです。インターネット銀行を本格的にこの夏から始めるわけですから、これは動きが早いです。インターネット銀行のテクノロジーは、もう世界中でほぼ完璧に確立していますから、そんなに問題はないです。銀行は自己責任の世界になるので、新設の銀行、さくらのやるインターネット銀行は不良債権ゼロです。不良債権ゼロの銀行で始まりますから、非常にいい。谷垣大臣がそれいけとやっていますから、ヨーカドー銀行、ソニー銀行も来年までにできるでしょう。そうすると、銀行もほぼこれで勝負あったです。

 そうすると、話の中心は保険会社です。日本の金融の最後の大整理の部分の一つが保険会社です。その保険会社は、大正生命にいきなり早期是正措置です。3月末までに増資しないとアウトです。日本を見ていると、ソルベンシーマージンが下がっているとか、みなさんすごく呑気です。要するに、「大正生命の契約者のみなさん、保険金戻りませんよ」と言っているわけです。それなのに、なぜこれだけみんな呑気に暮らしているのかと思うのです。去年の末でしたか、第百生命などはソルベンシーマージンの計算が間違っていました、公表している数字が違いますと言われて、新しく計算し直され、随分低い数字になりました。

 これから来年にかけて金融は勝負あったなので、遂に生保に整理の時がきたような感じがします。生保は最終的に死亡保険金の問題にいきつくわけです。年金はやっぱり払えませんというときに、死亡保険金を減額するしかない。しかし保険というのは、簡単におろして他にもっていけないのです。ですから、整理するのは銀行以上に大変です。でも、これに手をつけ始めた感があります。

 この間、金融機関の破産に関する法律が新しくなりまして、今回南証券にいきなり破産がかかりました。あれは実際、法律の効果を試しているのではないかと思うのです。よく知りませんが、あそこは社長が金を持ち逃げしたんでしょう? いわゆる、いかにも、という感じの事件です。ああやって監督庁がいきなり破産かけるというのは、金融機関に対する大変な脅しです。特別かつ、抜き打ちで行って、帳簿の金と残っている金を合わせて、「足らないじゃないか、債務超過じゃないか」。もう、破産と全部業務停止です。あれは、相当強力です。今までの法律では、ああいうことはできなかったのです。金融機関に営業停止命令は出せますが、破産ということは言えなかったですから。だからみんなの想像以上に、日本は大きな整理に向けて動き出しているという感じがします。

 それから、為替に関しても106円あたりで日銀が介入しています。ところが、ほとんど為替ルートは動かないでしょう。ほとんど動かなくて、ジワジワジワジワ、円高できています。海外の新聞を見ると、日銀の介入を意外感を持って受けとめた記事が出ていますが、どうも日銀が本気で介入している様子はない。今の日銀の介入は、ドルを支えにいっているような感じがするのです。もともと、なぜ円高になっているのか。ユーロ安とドル安の大きな原因の一つは、日本の生保が売っているからだと思うのです。大正生命から始まって、いよいよつぶしますという話じゃないですか。こうなってくるとやはり、利益を出せるものは出して、できる限り情報公開に耐えられなければなりません。そうすると、外債は処分して、利益を出さなければならない。特にユーロは、ユーロが始まる前に生保が随分買っていました。「ユーロは強い通貨だ」だというので、みんな買って、買ってから「参った」となり、今ごろ投げているわけです。アメリカものに関して、アメリカの債権は買わないけれど、去年随分株を買ったのです。だからアメリカのダウ下がったでしょう。あれは日本の生保なんかが随分売っているはずです。ですから日本の金融整理をやっていくと、円高になります。日銀が少しずつ、止めに入るというような感じです。
 もう支離滅裂になりつつあるな、と思うのはグリーンスパン議長が株高を非難したり、secの議長が株高を非難しているのに、アメリカの株はまだ上がっています。昨日もまた、少し上がっていましたが・・・。ああいうのは、89年の秋に起きていたことです。当時のことを覚えている方ならおわかりだと思いますが、三重野さんや、あるいは大蔵省の連中が、不動産の過剰投資が行き過ぎであるとか、異様に株が高いとか、随分警戒感を出した発言をしていました。それでも株は上がっているし、不動産屋の金の流れは止まらない。そして落ちてきたでしょう。
 特に、最近グリーンスパン議長とか、secのヘッドは口を極めて、警戒感を述べているわけです。「高すぎる、高すぎる」と「いつまでも続かないぞ」ということを何度も何度も言っている。しかし、みんな平気でバブっています。これはちょっと違います。市場は今までは、当局者の政策をもう少し聞いていました。どうも最近、みなさん「いや大丈夫、大丈夫。グリーンスパンはやっぱり古い人間だ、オールドマンだ」という感じで、危ないな、という感じがします。
 これでどうなるか、ということです。ダウは下がってきています。ダウは下がってきてもあれは大型株ですから、会社そのものはあまりたいしたことはないかもしれない。しかし、ナスダックが下がってしまうと、ハイテクにもうお金いかなくなるのです。ハイテクというのは、アメリカだけでなく日本もヨーロッパもアジアも、全部リンクしているのです。ハイテク関係の会社というのは、80年代の後半の不動産屋とまったく同じで、借りた金、株を売って集めた金を、全て運転資金にまわしているのです。生存に必要な血液みたいなものです。だから日本は総量規制をやって、不動産が本当にひっくり返りました。不動産にお金が行かなくなったので、経済の根幹が折れました。あれですっかりひっくり返りましたが、今ナスダックが落ちると、同じことが本当に起こりのではないですか。ナスダックが落ちますと、要するに増資ができなくなります。みんな、株売ります。そうするとハイテクの会社は、大きい所から順番につぶれる可能性があるのです。

 例えばソフトバンクやcskを見てみると、最近異常だと思いませんか? ソフトバンクなんか、株が高値から半分ぐらい下がっているでしょう。cskは最近ゲームが売れないですから、その子会社のセガに金がありそうにない。それで余裕資金が減っているというのならいいのですが・・・。要するに、あの業界というのは増資の金が運転資金にまわっているわけです。非常に怖いな、という気がするのです。

 不動産の例で考えてみれば、市場が壊れました。金を止めたら、本当に死んでしまったわけです。でも、不動産は全員が死んだわけではなく、役に立つ不動産だけが生き残っているということです。「使ってなんぼの価値があるか」という不動産だけが残っている。不動産の値段は収益還元法で評価する。これが今の常識です。さあ、これをハイテクに当てはめてみましょう。「使ってなんぼ」のソフトウェア、「使ってなんぼ」のハードウェアだけに価値がある。ハイテクの会社は配当還元法で株価を決めます。この二つの原則を出たときに、今の世界のハイテク業界はどうなるでしょうか? 「こういうものもあればいいな」、「こういう素晴らしいものあるよ」というのは見向きもしなくなる。例えば、バブルの最中に東京都庁を造りました。当時は「非常に奇抜なアイディアでいい」と言っていましたが、今は「なんだあんなもの造ったんだ、何だあんなデッドスペースが多いんだ」と、「丹下なんかに頼むか、あんなビルになるんだ」と言っています。「いちばん広く使えるから、ビルは四角く造るのがいい」とか言っています。そういうことでいったら、今のソフトウェア、今のインターネットなんかも星の数ほどソフトがありますけれど、みんないらないんじゃないの? インターネットエクスプローラーとネットスケープの二つさえあれば、全部用は足りるんじゃないですか? それから、配当還元法で株価を評価するといったら、赤字の会社の株価はいくらになると思います? ゼロです。赤字の会社ってゼロなんです。

 そうなってくると、想像を超える変化が起こると思うのです。いわゆる「ハイテクバブル」の最後ですよ。逆に言うと、ここでキャッシュを持っている企業というのは、おそらく何十年に一度のものすごいチャンスでしょう。例えば、「アマゾン.コム」という、インターネットで350万冊の在庫のある本屋の会社があります。あれなんかは間違いなく、株が落ちると経営できなくなります。しかしあれだけの本屋です。誰か買いにきます。世界一の本屋を買えるのです。おそらく、そういう奴はキャッシュをしこたま貯えて、どれを買ってやろうかな、と虎視眈々と狙っているはずです。株が下がると、ソフトバンクの本なんか、「やっぱり損した」で終わると思うのです。しかし、持っている会社の中で、いいやつを必ず誰か買いに来ると思うのです。どれがいいかというのは、いろいろ調べてみなければ、わからないのでしょうが・・・。だから、孫が地上のえさを取りにきていま。もっと大きいワシが、孫を狙っているのではないかと思うのです。ソニーぐらいになれば、一番上のワシぐらいの風格があるのでしょうけが、マイクロソフトだって独禁法でいろいろ揺れていますから、どうなるかわからない。これからいよいよ、ハイテク業界というのはビッグバンじゃないかと思うのです。ハイテクとして一つの業界というよりも、今までの業界とどんどんマージしていく時代だと思います。

 インターネットブラウザの強い会社、例えばマイクロソフトが、仮に株価が下がり、格好がつかなくなって解体されたとします。それを例えば、世界一の小売のチェーンウォルマートが買ったとします。もう、勝負あったです。極端なこと言えば、世界の小売の半分はウォルマートが占めてしまう。
 誰が買うかわかりませんが、例えば本屋のアマゾン.コムを、どこかの飛行機会社と合わせてトヨタが買ったとします。トヨタかどうかわからないが、自動車会社が買ったとします。何が起きるかというと、製造工場を持ち、なおかつ巨大な流通網も全部持つことになります。そうすると、全世界に人間のいる営業網とインターネットの営業網、両方持つことになります。しかも、ブランド力はものすごく確立しているわけです。何でも売れるじゃないですか? つまり、もはや車だけ売っている必要はないわけです。本だけ売っている必要もないわけで、両方のブランドを統合することによって、何か世界中にアナログでも、デジタルでも、物の売れるネットワークができます。おそらく、それをやられたら、どこも勝てないでしょう。私は、そんなことがこれから起こるのではないかと思うのです。

 今、本当に21世紀を考えている、金を持っている連中というのは、多分そこを狙っているんじゃないかと思います。つまり最初に申し上げた、変化に対して守っていたらだめだというのは そういうことなんです。そういうシナリオを考えている人にとっては、早く株下がって欲しいと思うはずです。少なくとも、いつまでもこんな状態であることは望ましく、早く株が下がって、早く日本も変化していった方がチャンスが増えますよ。そういう連中が片方にいて、もう片方はでは、一日でも長く株は下がらないで欲しい、とただひたすら天に祈る思いで、毎日毎日柏手を打っている人たちがいる。どっちが勝つかです。日本は神の国だから、最後は柏手が勝つかもしれないけれど、やっぱりビジネスの原則でいったら、変化を求めているやつには主導権を取られてしまいます。

 日本は昭和20年に戦争に負けました。何がなくて困ったかということですね。たしかに、製造業の設備はみんななくなりました。国民も疲弊しました。しかし、経済を再建するにあたって、いちばんなくて困ったのは実は資本金なのです。資本がないのです。例えば、今、日本でも長銀や日債銀がつぶれていますが、何でつぶれたかというと、その不良債権を埋め合わせる資本がないのです。キャッシュは山のようにある。日銀が刷っています。しかし資本金というのは、非常にリスクの高いお金のことです。リスクにさらすお金です。そうすると、経済が破綻、疲弊した国というのは、リスクにさらすお金がないのです。資本金がないのです。これは資本主義の世界では、昔からどこでもそうなのです。経済が破綻する。戦争に負ける。疲弊する。必ず資本が足りない。だからその時に、資本を持っているやつが千載一遇のチャンスに乗り込んでくるわけです。これはもう、資本主義の一つの原則みたいなものです。

 そうすると90年代というのは、日本はバブルが弾けて、典型的な資本不足に陥っているのです。今でもそうです。だから、資本、リスクにさらす勇気を持っているやつの金がどんどん日本に入ってきて、リップルートが長銀を買って、今度はホテルチェーンまで買うんですって。つまり、資本を持っているやつがどんどんいい買い物できるわけです。でも、これでアメリカの株がずっこけるでしょう。アメリカから資本金が消えます。日本はどうかというと、日本もなかなかないです。まだ大変です。そうすると、今度どこが出てくるかです。例えばロシアは、パラジウムが冒頭しています。石油もわっと上がっています。彼らがここで得た金によって出てきたら、すごいことになります。
 世界の大きな流れで見ますと、アングロサクソンおよび、アメリカ・ヨーロッパの連中とユーラシアの真中にいる連中というのは、近代の時代はいつも綱引きをしていたと思うのです。例えば石油危機の時というのは、アングロサクソンの連中を中心とした経済がちょっと爛熟をしまして、力が弱くなった。そこで産油国が原油の値段を引き上げて、アングロサクソンの連中から富を奪い返したわけです。それが日本やアメリカにとってみれば、石油危機という形になりました。そして、彼らは大変潤った。その潤った金で彼らはその時に、水道を造り、工場を造り、生活の基盤を作ったわけです。今、湾岸諸国非常に綺麗な国が多いのですが、いつからあんなに美しいインフラを持っていたかというと、あの石油危機のときにしこたま欧米から金をむしり取って、あれで造ったわけです。石油危機がなかったら、いまだにまだ遊牧民の国ではないでではしょうか。そんな金なんかどこにもなかったですから・・・。

 ロシアにだってオイルを持っている連中が、金をふんだくりにくるわけです。ロシアは冷戦には負けたでしょう。だから、やらずぼったくりでアングロサクソンを含めた欧米の連中が、しこたま富を持って行っちゃったわけです。そしてロシアは経済破綻する。湾岸諸国は1バーレル10ドルぐらいまで原油の値段が下がって、もう、お手上げです。しかし、この1年間ぐらいで取り返しにきています。ロシアも、湾岸も取り返しに来ていますね。これで、アメリカの株が下がってごらんなさい。これはドル、売られます。そうすると、アメリカ経済完全にお手上げになります。そうなってきた時に、思いもかけないことが、起こるのじゃないかと思うのです。ロシア、イランの連中が、欧米の会社をtobかけにくるなんてことがあるんじゃないかと思うんです。本当にありうるんじゃないかと思うんです。イスラムの会社がtobかけにくる。あるいはこういう時は、いい加減な経済をやっている国というのは、隠し金があるのです。みなさん、よく分かると思うのですが・・・。今日本でもそうです。裏社会というのは、金持っているでしょう。いい加減なやつほど、金を貯えられるのです。そうなってくると、中国にだって、山のような隠し金あるはずです。ロシア、中南米にだってあるはずです。全部オープン経済とっていますから、ないのはアメリカだけです。そうなってくると、彼らが先進国に出てきて、今までの意趣返しと言っては怒られるけども、自分たちも少し商売をしようというので出てくるんじゃないかと思うんです。

 例えば日本も、今大きな目立つ企業買収というのは、確かに欧米の連中です。リップルートが長銀を買ったりしていましたが、しかしもう少しミクロで見ていくと、東京の赤坂や六本木あたりの土地は、結構アジア人が買っているのです。ちっちゃい土地をアジア人がこまめに買うのです。そしていつのまにか、地主がシンガポール人や香港人になっていることが多いです。投資なのです。例えば汐留の開発には、シンガポールが入ってきたでしょう。あれは、リクワイエが買ったのです。すぐ収益が上がるとは思っていなくて、次の基盤と思って買っているわけです。
 そういう図式が出てきますと、欧米の連中は当然怒りだします。石油危機の時は石油を取られたが、彼らは要するに、取りに行った金を奪い返しにきたわけです。欧米の連中がオイルダラーの還流だと言って、奪い返しにきました。当時はまだ、湾岸諸国の連中も西側の技術を使わなければ、なかなか自分の国を復興させることができなかった。だからある意味で、西側の言いなりになることも多かったわけですが、今度はどうでしょう。前々から言っている、ユーラシアが一つになるということは、どこかの国が、あるいは誰かがうまく音頭をとって、これから富がユーラシアに戻っていくわけですから、資源を持っている国、実物を持っているところに今度富が集まっていくわけでしょう。これを誰かが動かして再配分の権利を握ったら、彼らがある意味では次の経済をかなりコントロールする立場になるわけですね。それは誰かということです。私は、湾岸諸国の連中は自分達でやってくるだろうと思うのです。イランなども革命の後、それなりに力をつけてきたわけですから、イスラム人が本当に資本主義をやると、本当に出てくると思うのです。例えば、ダイアナ妃が死にましたが、ダイアナさんのだんなさんというのは、ハロッズのオーナーです。ご存知ですね、今、ハロッズはエジプト人が持っているのです。
 ふと気がつくと、近代を創っていったアングロサクソンではなくて、大陸、ユーラシアの連中が、ああいう形で静かに経済を押さえに来ているのではないかと僕は思うのです。それを言ったら、日本はアングロサクソンについている方ですから、中国人や台湾人、ロシア人、いろんな連中がやって来て、これからおおいにいろんな会社を買いに来るのではないかと思うのです。今はまだ来ているのはアメリカ人、ヨーロッパ人です。しかし、彼らの力の源泉、資本の源泉というのは株です。株が高いから、彼らはまだ資本金があるのです。これ、株が落ちて通貨が暴落すると、もう資本にならないわけです。彼ら自身が資本不足になる。そうしたら、消去法でいって資本を持っているのは、ユーラシアの資源国です。ユーラシアの資源国というのは、今まで我々が慣れ親しんできた西欧の思想とは、まったく違う思想文化をもっている連中です。さあ、こういう連中が日本にやって来る。

 例えば今回サウジのアラビア石油、何年かしてサウジ政府があの石油を買って、日本で石油の流通までやりますと言い出す可能性だってあると思うのです。つまり、彼らはもうどこかで石油のメジャーと対抗するようになっていて、石油のメジャーに勝つ為にあの石油を買いましょうと。それで、日本にあの白いのをかぶったオバqがやって来て、あれオバqって言うんですが、オバqがやって来て、やる可能性が大いにあると思うのです。

 90年代というのは、日本は非常に沈滞化していましが、産油国を含めまして、産油国の世界中の特に優秀な人たちは、みんな、アメリカ・ヨーロッパに行って、mbaを勉強しているのです。要するに、90年代にグローバルエコノミーが拡大する中で、欧米人がどんなふうに会社の経営をやっているかということを、欧米のビジネススクールで世界中から人を招いて、教えているのです。私がシアトルで勉強している、リーダーシップの先生の話を聞いていると、ヨルダン、サウジ、インドにも行っているし、ロシアという話はしてなかったが、中国にも行っている。そういう人達に教えているのです。今までの日本人の、今でもそうかもしれませんが、ユーラシアに対するイメージというのは、やはり後進国なのです。後進国のイメージです。ところが、この10年間に起きたことというのは、経済が非常にグローバル化する中で、どんな田舎の国でも、一番優秀な連中から先に欧米のビジネススクールに行って、あるいは大会社に一度就職してみて、グローバルスタンダードによる経営のやり方を、みなさん勉強しているのです。これで、アメリカ・ヨーロッパの経済がずっこけたら、彼らは必ず母国に帰るはずです。母国に帰って、自分の国で実際に試してみるんじゃないですか。しかもこの90年代には、世界中の人たちがそういう大学に集まっていたわけですから、横のネットワークはすごいはずです。一緒に勉強した仲間ですから、シンガポール人、台湾人、中国人、サウジ人、ヨルダン人、シリア人、みんなお友達という世界です。

 株が下がったとともに、今、金があり余っている欧米が資本不足になって、反対に物の値段が上がりお金がユーラシアにいく。90年代に欧米のビジネススクールで学んできた各国のエリート達が、そのお金をそれと同じようにまわし始める。お金の大きな流れを考えると、そういう風に変わっていくのではないか、そんな気がするのです。というか、多分消去法でそれ以外にないと思うのです。

 いずれにしろ、日本は蚊帳の外です。少なくとも日本は90年代、確かにmbaとか言っていました。しかし、ほとんど企業派遣の人達で、全部成田空港で帰ってくるときに忘れて帰って来るのです。絶対会社に持ち込まない。欧米の新しい経済ルール、素晴らしいリーダーシップ、絶対日本の会社に活かさないようにみんな持って帰ってきますから、何にもならないです。どうもこれから、想像を越えることが日本でも起きるんじゃないかな。

 日本は、特に今の政府など、全部アメリカを見ているでしょう。アメリカさんのおっしゃる通り、全部アメリカに頼っている。生きていますが、アメリカも資本不足になった。頼れる相手ではない。そうすると、これからはいよいよ我々はユーラシアの連中と付き合わなければならない。大変なことになるんじゃないかという気がしています。我々は相当な覚悟を持って臨まないと、日本のような、これだけ輸入をしている国はたまったものじゃない。鎖国なんかできる国ではないですから。食べる物も燃料も、のきなみ輸入に頼っている国ですから、少なくとも欧米、アングロサクソンからユーラシアへのこのポーラーシフトを歓迎するぐらいの体制でいかない限り、これは乗り切れないでしょう。か、そんな感じがします。今は株がまだ高いから、アメリカ人やヨーロッパ人もすごい元気がいいけれど、これからちょっと変わってきます。だから日本もそこまで見てないとだめです。そういうふうに言うと、返す返すもこの90年代というのは、日本は本当に無駄に過ごしたなという感じが強い。そんな大きな世界のうねりに対して、変化に対応する為の準備をしておかなければいけなかったのですが、問題先送りで随分いい加減にやってきました。今回の大正生命の早期是正措置などを見ていてもわかるのですが、他の生保だって、調べれば調べるほどマイナスが出てくるわけですから、早期是正措置なんか出るのはもう時間の問題なのです。しかし、出てくるまで、待っているわけです。出てきたら、「やっぱり出てきたか、ダメか」でしょう。やはりこういうものをよく予測して、変化させていかないと間に合わないです。だからそういう意味で、日本は随分時間を無駄にしたんじゃないか、という気がするのですが、もうそんなことは言っていられません。生き残りをかけて、日本は大々的にもう一回勉強し直して、新しい環境に飛び込めるようにしておかないと、にっちもさっちも行かないだろうという気がします。

 実は水曜日にある野党の人たちの会合があってちょっと行ったのですが、がっかりしました。自民党もだいたいがっかりするのですが、野党もだめです。経済の分からない政治家は今何もできない。福祉をやろう、充実したいという政治家がいます。いいことです。しかし経済が分からなかったら、福祉の財源をどうやって持ってきていいかが全くわからないのです。今の政治家、自民党もそうですし、野党もそうですが、ことごとく経済のところがボッカリと穴があいている。真っ暗闇に穴があいているとう感じです。全てブラックホールになっている。経営者の人たちはというと、自分の経営のことはわかるのですが、よそのことは分からない。大きな仕掛けがわからないのです。つまり、自分の毎日見えている世界、新潟の監禁事件じゃありませんが、ちょっと開いている窓から桜は見えるのだけれども、他は見えていない。だから講演会でいくら政治家達が経営者の話を聞いても、全然全体像が見えてこないのです。恐ろしいなと思いました。

 おそらく与野党ともにこんな調子では、海外から完璧に馬鹿にされ尽くされていると思います。最近よく、日本は不思議な国だと言われています。しかし不思議な国だというのは、ある意味で婉曲な表現です。一言でいったら、馬鹿だってことです。馬鹿だと言うのは簡単だけど、日本は歴史があるから、意味があって馬鹿なことをやっているんだろうと、馬鹿にしか思えないことやっているんだろうというので、不思議な国だと多分言っているのではないか、と思うのです。日本の政治家と向こうの一流の連中が集まれば、10分話すだけでボロが出ます。あれ見てるとがっかりします。

 今度選挙があります。おそらく自民党はかなり票が減ると思います。しかし、野党も野党で、どこが全部で過半数とれるまでにはこない。そうするとやはり連立政権でしょう。自民党はまた割れて、野党はまた割れて、割れて割れて、くっついたり、離れたりということになります。しかし、もともと経済分からない連中がくっついたり離れたりしていますから、あまり変わらない。その間にドルがずっこけてくると、今度アメリカがごたごたしてくるでしょう。そうなってくると、もういよいよ日本の政治家、完全にお手上げです。安保のことわかりません。輸入どうします? わかりません。金融わかりません、経済わかりません、ビッグバンわかりません、何にも分かりませんで全部お手上げになります。少なくとも今のままだったら、そうですね。どうにもならない。特に今年に入ってから、最近すごくそんな感じがします。いろんな人と会ったり、話をしたり、様子を見ていると、完全にあきらめる人はあきらめていて、お手上げのやつはお手上げで・・・。しかし現実だけは目の前でドンドン進んでいって、インフレなんかも始まるし、思いもかけないことが始まってしまうし、インターネットはすごいすごいと言いながら、ソフトバンクの株価はピークから半分にてしまうし・・・。これ、新たな変化です。この変化を誰も正視できないでいる。まともに見られない。いや、怖いな、というのが率直な感想です。そうしますと、もう一から勉強するしかないのです。どんなに遅くても何でも、明治維新の時と同じです。天地も離れているのだけれども、新規蒔き直しで、一からやっていく以外にどうにもならない。

 今週ある所で、経営者の二世が集まった会議に招かれて講演をしたのです。みんなのどかそうにやっているわけです。随分のどかな連中で大丈夫かなと思った。大体20代で、まだ社長にはなっていないわけです。後10年か15年ぐらいでバトンタッチする人達が多くて、随分のどかそうでした。流通業の人が多かったもので、eビジネスの話をちょっとしたのです。eビジネスというのは最近急激に発達してきて、プレイステーション2を見ても分かるとおり、自分たちの商売だと思っていたところに、いきなり関係ない人たちがどーんと割り込んできて、目の前の全部を持って行ってしまうわけです。俺のブドウ畑だと思っていたのをみんな誰かが持っていってしまうような話です。ああいよいよブドウがなったと思っていたら、ある日突然目が覚めたら、誰かが全部ブドウを盗って持っていってしまった、というような話です。今のeビジネスを見ていると、これからいよいよ美味しいワインを造るはずなのに、ブドウをみんな持っていかれた、そんな感じです。それで、「インターネットやっている人いますか」と聞いたら、十何人かの中で半分ぐらいしかいないのです。インターネットをやっていなくても、分かる人は分かるのでしょうが・・・。次にこういう質問をしたのです。アメリカ、ヨーロッパで、eビジネスがすごく進んでいる。すごく進んでいるということは、それをやっている会社があるはずです。やっている会社があるから進んでいる。eビジネスをやっている会社が、どうしてこういうことができるのかわかりますか、という質問をしたのです。なぜだと思います? eビジネスというのは、すごい勢いで世界中進んでいます。そういう進んでいる会社はなぜそういうことができると思いますか? その会合の人たちに、皆さんの場合はなぜやっていなくて、やっている会社はやっているのか、何が違うのでしょうか、と申し上げたのです。なぜ、やっている会社はeビジネスのことが分かるのか。理由は簡単です。よく勉強しているのです。

 すなわち、eビジネスをはじめとしたこういうテクノロジーは、勉強してない限り絶対わからないのです。だから、これをやっている会社の社員やトップというのは、やはり死に物狂いで勉強しているのです。だから、分かるのです。やはり勉強していないと分からないのです。非常に簡単なことです。だから欧米などでも、勉強していない所、メーシーズだとか古いデパートなんか、もう軒並みだめです。経営者が現状に満足して、もう俺の勉強することは何もないと思った瞬間、その会社はだめなのです。eビジネスなどは特にテクノロジーがすごいですから、勉強しない限り絶対にわからない。だから、勉強した所は分かるけど、勉強しない所は分からない。非常に簡単なことです。そういう意味では、まだ日本も随分勉強が足りない。

 この間、シアトル行った人たちが東京で同窓会をやりました。ちょうどシアトルから大学の職員の人が一人来ていて話をしました。いわゆるエクゼクティブラーニング、エクゼクティブ、会社に勤めている人達の学習コースはいろいろあるのですが、よく聞くとアジアで日本が一番遅れています。中国は確かに国としては遅れているのです。だから優秀な人達がみんなアメリカで勉強しているのです。話を聞くと、日本は韓国にも台湾にも負けています。日本は常にこう言うのです。「確かにいいけど、全部英語じゃないの。」そうです、英語なのです。簡単なことだけれども、だからみんな英語を勉強して行くのです。台湾は国ぐるみでやっているそうです。国が40人ぐらい選抜して、ワシントン大学に送り込むんですって。産業界から広く募集して、国家のエリートを集めて徹底的に現代のビジネスについて教えるという講座を、ワシントン大学が受注したわけです。要するに台湾政府から選抜された人達がやって来るので、勿論、全部英語です。その準備もあって、これから台湾行くんだと言っていましたが・・・。やはり迫力が違います。どうも日本人は、完全に今思考停止ですね。

 人材も企業もこれから大きく変わります。そうやって変化に適応できる所は残りますが、適応できない所はやはり終わりです。どうやって適応するかというと、基本的に変化を待っている所は無理です。変化を待っているというか、変化を拒否している所は少なくとも無理です。変わって欲しくないと思っている人は無理だと思います。この世界のうねりを見ていると、変わって欲しくないと思った瞬間に、もうそれは負けていることになります。やはり変わるから俺も変わって、少なくとも、これはどういう形で関与してやろうかという意志を持っていないと、まず無理でしょう。アジアに負けます。

 特に最近、今年に入ってから非常に危機的だなという感じがします。いよいよ動いているのに、日本人は全然動けない。こんな日経新聞を見たても、訳のわからない馬鹿みたいな記事ばかり載っていて、何だろうと思います。要するに、現状の説明しかないです。どうやったらこれからうまくいくのかというのが、ほとんど誰の知恵も出てこないのです。今、非常に危険な時だと思います。これから、今年、来年、多分いろんなことが起きるでしょう。

 皆さんは、エクゼクティブなのです。今、世界のエクゼクティブというのは、皆さん何をやっていますかというと、「learning」と言います。勉強という言葉です。アメリカの大統領表彰であるマルコム・ボルドリッジ国家経営品質賞の報告会などに行くとみんな言っています。「learning」、「learning」、「learning」。経営の最高トップが言うのです。勉強、勉強、勉強と。確かにそうなのです。勉強しない限り、分かるわけないがないのです。はっきり言って、やはりそうなんです。他に道はないということです。日経新聞を読んでいたって、絶対に分からない。勉強するしかないのです。

 すごいことが起きていますね。この10年間、本当に日本は時間を無駄にしたんだなと、我々はこれから感じざるをえないと思います。これが300年の泰平の眠りでなくてよかったです。たかだか10年ぐらいですから。今から150年前の日本人は300年間寝ていたので、大慌てしましたが、今回10年ぐらいなので、多少はいいんじゃないかと思います。さあ、これからみなさん、一からやり直しですね。日本全体、もう、政治家も頼れません。新聞なんか見てもわけが分からないし・・・。

 eビジネスなどは特に、英語でやらなきゃだめなのです。なぜかと言うとあまりにも変化が激しくて、日本語になってからではもう遅いのです。例えば経営のリーダーシップ論でも、びっくりしたのは、geのジャックウェルチです。要するに、シアトルの先生が言うには、ジャックウェルチは業界のシェア1位、2位のものしかやらないというスタイルは、もう古いものなのです。彼は利益重視で、会社を非常に激しく売ったり買ったりして経営を立て直したので、彼は既に企業文化をもっと友好的な友達感覚の建設的な文化に戻しているのです。しかし、今頃日本で売られている、昔のジャックウェルチの姿の本が、ジャックウェルチとして今売られているわけです。強い会社は弱いところを切り捨てて、強い所だけ残せばいいんだという、いわば非常時に使うテクニックをジャックウェルチが何年か前に使っていて、しれがgeだということで日本で日本語になって紹介されているのです。もう全然違うのです。1、2年の間に彼はすっかり企業文化を元に戻したのです。シアトルへ行って先生から聞くと、「はあ、やっぱり日本語になったの読んでたんじゃ、間に合わないんだな」とわかります。インターネットの世界もみんなそうです。情報関係もね。

 そしてやはり、英語を勉強しなければいかんのですわ。英語だからわからないよって、分からないに決まっている。日本人だけでなく、世界中の人、やはりわからないのです。だから勉強しているのです。勉強してわかるようになるという、非常に簡単なことを世界中の人たちは、本気でやっているということです。日本もこれから高いツケを払いそうですから、この辺でみなさん気分を全く新たにして、勉強しないことは絶対わからないですから・・・。いいですか、勉強しないことは、逆立ちしたってわからないですからね。それでだれにも頼れませんから。そういう覚悟で是非やっていただきたいというのが、今年に入って、まず最初に皆さんに申し上げておきたいことです。
じゃ、この辺でお休みしまして、各論の方に入っていこうと思います。


 ホテルに泊まりますと、最近ホテルのフロントの人が日経新聞をくれます。普段は日経新聞を読まないもので、今日は久しぶりにしげしげ見るのですが、例えば株を見ていても、フクスケなんていう株はまだ上場しているんですね。昔、仕手株で大騒ぎになって、こういうの見ているとつぶれない会社って、つぶれないものだな、と思います。よくまだ、やっているなと思うような会社が、一部上場企業見ても随分ありますよ。横浜松坂屋だとか、80円とか言いながら頑張ってやっているし、光通信なんか、11万5千円? こういうのは、やっぱりデノミが起きてゼロが三つぐらいなくなって、そのうち115円とか、なるんじゃないかと思いますけれども・・・。今、千いくらあるのでしょうが、日本もこれが後5年すると、この株式欄、いくつ載っているかです。非常に興味深いです。

 今日本の中で、これからの動きを見る上でポイントがいくつかあります。まず、先程言った、欧米の強さといったときに、ポイントは二つあると思うのです。なぜ、アメリカの企業は90年代強かったか。

 ひとつは、やはりハイテク技術です。インフォーメーションテクノロジー。二つ目はやはり、新しいリーダーシップだと私は思います。

 例えば日本でも、新しいビジネスをやる。外国人を呼んでくる。お店の支店の数を増やす。優秀な人材をいっぱい採ってくる。新しいテクノロジーでビジネスを始める。それをみなさん、ご自身の会社でやろうとしたときに、最初に何で困るかというと、会社の中がばらばらになることで困るのじゃないかと思うのです。いろんな人間を集めてくる、今までとやり方が違ってくる。社員みんなは拒否反応示したり、対立が起きたりして、大抵うまくいかない。例えば、茨城だけでやっていた会社が、今度東京にも出す、大阪にもいく、福岡にもいく、ニューヨーク、モスクワ、ロンドンにもいくといったら、一体社長として会社をどうやってまとめていこうかな、そうお思いになると思います。簡単に言えば、それを実現したのが90年代の特にアメリカの大企業でした。そうするとそこにはやはり、今までとは違うリーダーシップや、会社の中のチームワークがあったのです。この二つがおそらくカギだろうと思うのです。

 日本は、テクノロジーの方はコンピューターを通じてまだ入ってきていますが、その新しいリーダーシップ、チームワークのところ、異質な人間をどうやって幅広くマネージしていくか、幅広く一つの求心力を持って集めていくかというところが、ほとんどすっぽり抜け落ちているような感じです。ここにアメリカの強さの秘訣、同時に日本の今の弱さがあるのではないかな、と。やはりその辺をおさえないと、これからはなかなかうまくいかないんじゃないかという感じがしているのです。

 例えば長銀も今度リップルートが買いました。m&aを中心にやるということになった。このm&aというのは、今中小企業でも非常に多いのですけれども、今特に株式市場ではmaの対象となった会社は株が上がっています。けれども、これから少し変わってくると思うのは、maをやるというのは非常に異なった企業文化が一緒になるということを意味するのです。異なった企業文化が一緒になりますから、maをやった後、会社が伸びる所と伸びない所がはっきり分かれてくると思うのです。やはり優秀なリーダーがいる所は伸びていきますが、そういう能力がないリーダーですと、合併した後、うまくいかなくなります。現実に世界を見ても、ソロモン・スミスバーニー・日興證券シティバンク、これは典型的なうまくいかない例です。ですから、ジョン・リードというシティバンクのトップは今度辞めると言いましたが、文化があまりにも合わなくて、うまくいかなかった例ですね。

 それから、今の日本の合併の様子を見てみましても、今度トヨタ自動車とヤマハ発動機が提携を結ぶことになりました。ヤマハ発動機というのは、世界第2位のオートバイメーカーです。それから、ある意味で言ったら世界1位でしょうが、そういうトヨタ自動車と世界第2位のヤマハ発動機、オートバイ提携するわけですから、世界最強の自動車会社です。しかし、実際のことを考えてみれば、トヨタは豊田市にありますし、ヤマハは浜松にありまして、インテグレートされて相乗効果を生むような会社になるかどうかはこれからの問題です。そうすると、強いもの同士が集まったが故にうまくいかなくなることがやはりあるわけで。そうしますと、これからm&aが大事だと言いながらも、そのm&aを成功させるためには、かなりそういう柔軟性を持ったリーダーが出てこないとうまくいかないだろうと思います。

 今、二極分化ということが非常に言われています。確かに強いところ、弱いところ、あるのですが、弱いところというのは前から言っていますように、大体社風に問題があるのです。社風によって、その会社が衰退していくとしか言いようがないことが多くて、社風の改善とかいうところを真剣に取り組まないと、会社は強くならないなと言う感じがします。特に変化に対して、どういう反応を示すか、これが今の時代、特に社風の中でも大事なところです。変化が起きたときに、変化から身を守ろうとする、それが強すぎる社風は、今会社をつぶす社風になってしまうのです。

 企業文化の話は前にしたこともあるかと思いますが、改めて申し上げておきます。例えば今度ビッグバンがきます、ペイオフ解禁になります、という話がくる。

 そういう時に、「よし、チャンスだ、ネット銀行やろう。おまえはネット銀行やれ。おまえはどこかインターネットの提携するエンジニア呼んで来い。あれは暗号がカギだから、誰か暗号の知ってるやつ連れて来い。」。こういうふうにやる会社というのは変化を自分から求めていく会社です。

 ビッグバンが始まる。「これはもう、大変だ。これはもう急がないと我々も競争に負けてしまう。よし、ノルマはこれから1.5倍増しにする。今までの年功序列賃金をすべてやめて、業績給に全部変える。」。これは確かに積極的に動いているようには見えるのですが、実は防衛本能です。つまり、これはビッグバンそのものにどうするかということではないのです。ビッグバンで押し寄せてくる津波に流されないように、しっかり地面に足をつけていくためのお金をもっと稼ごう、というやり方です。つまり、仕事を忙しくすることによって、仕事を非常に鋭敏にすることによって、この変化に対して身を守ろうとする反応です。

 もう一つのやり方があります。「ああ、ビッグバンだ。大変だ、大変だ。なんとかしなきゃいかん。」しかし、その瞬間思う。「なんとかするために、じゃあ、インターネット銀行やろう」とか言い出す。あるいは、「社内カンパニー制、独立採算制を導入しようかな」と悩む。「もし俺がこれを言って、例えば失敗したら、俺はクビが飛ぶな。ちょっと言うのやめとこうか。」とか。反対に「社内カンパニー制にしてやりましょう」と誰かが言った。「待てよ。俺、このままあの人にうんと言っていると、彼はうまくいくかもしれないけれど、俺はひょっとしたら取り残されるな。そしたら、あいつに一人言わせておくのはまずいな。これはやっぱりみんなで、少なくとも俺自身も関与して言うようにしておかないと、新しいインターネット銀行が立ち上がったときに、俺は取締役になれないな。よし、これはちょっと足ひっぱったれ。」こういう文化があるのです。これは防衛するときに、自分の立場、人間関係の中で自分を守ろうとする防衛本能です。こういう文化というのが今、一番危険な状態です。特に変化が変化を生む時代ですから、今お感じになったようなことをお感じになられている会社がもしあったら、これはすぐに直さなければなりません。直すときに、なぜそういう防衛本能が生まれるか、そこです。手品みたいにこれで全部うまくいくというものでもないのですけが、会社の中が、内にこもっているわけです。縮小均衡に入っているのです。

 こっちに時間が進んでいくとすると、ここに海みたいな大きな断層があるわけでしょう。変化の時は、この先が大事です。この先がどんな時代なのか、この未来はどんな時代なのかというのを経営者がはっきり示してあげて、一人一人に「あなたは未来でこういうふうにうまくできるんじゃないですか。会社はこうなるんじゃないんですか」ということを示してあげる必要があるのです。こういうのを要するにビジョンと言います。まず、ビジョンがあることによって、変化の先にも我が社があるということがわかります。少なくとも、これがないと会社というのは防衛に走ります。だからビッグバンが起こっても、私の会社はこういうふうにやっていくんだというビジョンがなければいけません。

 しかしやみくもに、「ビッグバンがあったって、そんなのは自民党に取り入ってやれば、うちは大丈夫だ」というのだと、みんな「そうかな」と思ってしまう。そうすると、本当にこれでうまく生き残れるためのロジックというのが必要になります。どうやれば、うまくいくのか。そうすると、そのロジックがストラテジーです。

 しかし、そのストラテジーも、ただ単に人員削減だけやっていればうまくいくのか。例えば今の金融機関を見ても、それは無理です。インターネット銀行がでてくる。であれば、そもそも支店がいらないという話になってきますから、支店の数を統廃合するだけでは、当然そういう新しい時代にいかない。そうすると、根本的に変えていかなければいけない。そうした場合に、いずれにしても、銀行員のクビを切らなきゃならないということがあったとしても、例えば能力給で強い人だけ残すとします。しかし、問題は残った人がきちんとやる気をもってやってくれない限り、何の意味もないのです。一番いけないのは、毎年毎年、少しずつ、リストラ計画が出てくる。そうすると、「次は俺がクビを着られる番だ」とみんな思ってしまうのです。「今回は生き残った。しかし次は俺がクビ着られる番だ」と。そうすると、魔女狩り的になってきて、残っている人もみんなやる気がなくなってしまうのです。疑心暗鬼になって、「今度俺がクビを切られる、俺がクビを切られる。」。

 つまり、いちばん大事なことは、たとえ人員削減をするにしても、残った人がきちんとやる気を持って会社を運営して、未来にもっていってくれるようにしなければいけない。ここがポイントですね。これをやらないと、また防衛的な文化になります。どんなにビジョンがあったって、このビジョンの中に自分がいるという保障がどこにも見られなくなってしまう。「ありゃ社長だけかもしれない、俺たち、いらないんじゃないか」と。そうすると、誰もやる気がなくなってしまう。これはやはり、うまくいかない。

 そこで、前々から言っています、「ミッション」と「バリュー」と、「ストラテジー」。この3つを鮮明にして、つまり、「この会社というのは何をやっている会社なんだ、何を大事にすることによって、会社が成り立っているんだ」ということをはっきり示して、「これが我々の会社のやるべき仕事です。こういうふうにやるんです。こういうストラテジーでやるんです。」これを示してやって、「これに賛同する人はどうぞついてきてください」、こういうふうに言うことによって、初めて変化に対して、積極的に一歩を踏み出せるのです。

 つまり、その会社のミッション、ストラテジー、ビジョンというものが、変化を前提に作ってあれば、これに従って、これについてこようと思う人、自分の人生とその会社のやる方向に同一性を感じる人は、これで働くことができます。こういうのなしに、いきなり人員削減計画だけ発表しますと、「これはみんなクビになっちゃうんじゃないか」ということになって、みんな防衛本能に走ってしまう。ですから、防衛的にしないで変化を受け入れるためには、断層の向こう側に行く為に、断層の向こう側で会社が何をやっているのか、それをはっきりと示してやって、少なくとも、この断層の向こう側でやっている会社と各従業員に接点があるということが感じられるようなメッセージを、会社は出してやる必要がある。非常に大事なことです。

 これは既存の社員だけではなくて、優秀な人を外から採ってくるためにも特に大事なことです。新しい多角化をやろうといった場合に、単に「お金が儲かるネタがあるからやろう」というだけだと何をやっているのか見えなくなる。「その多角化はこういうふうに考えて私は仕事をやるんです」というものがあると、「じゃ、是非私はそこで働きたいと思います」という人が自然と入ってくるのです。こういうことによって本当に言ったとおりのことが、実現できるようになります。ですから今の時代、変化というものの反応をうまくやるためには、変化に対してみんなが一歩も二歩も進めるようにするためには、やはりちゃんとこの未来の姿を具体的に示すことです。論理的に示してあげる。それと一人一人の従業員、あるいは潜在的にこれから従業員になる可能性のある人たちの間に接点があるんだということをみんなに感じさせるようにすることが非常に大切なことだろうと思います。

 会社の中で強い、弱いという言葉がありますけども、結局突き詰めて考えてみれば、ミッション、バリュー、ストラテジー、ビジョンがはっきりしている会社は、やはり強いのです。小さくても強い。はっきりしていない会社はやはり弱い。だから、最近いわゆる大企業病なんていう言葉がありますが、一番弱い会社というのは事業部制で、「いっぱい稼いだ社員がいい社員だ、とにかく頑張れ」、こういう会社はやはり弱いのです。何をやっていいかわからなくなってしまいますから。うまくいかなければ、人員削減だけしますというのは、一番弱いパターンです。強いパターンというのは必ず絞っています。例えばヤマハだってオートバイはやっていますが、トヨタがやっていることと同じことをやってみようとは思わないわけです。やはり、自分の強みを常に見ている。それは簡単に言えば、自分の可能性をわざと縮めているのです。これを示すことによって、自分の道をはっきり示しています。だから道に迷うことがない。

 どこにでも行けるということは、ある意味で危険です。どこにでも行っちゃいますから。「わが道はここだ」とはっきりと決めていくということが、今の時代、安心感を持って会社が見られる姿です。おそらく、これから企業合併が起これば起こるほど、合併会社というのはこういうことをはっきりやっておかないと、会社がなかなか大変だと思うのです。m&aの時代とか言われながらも、今はみんな評価しすぎて、合併した後の会社をどんなふうにするのかということから先に進めていかないと、なかなかうまくいかない時代ではないかと思います。だから、ソロモン・スミスバーニー・シティバンクなんていうのは、緊急避難的に寄り集まった感がありますから、「さあ、俺たちはこれからどんな会社になるのか」全然見えない。大体、英語と日本語で会社の順番も違うし、日本語だと日興・スミスバーニー・ソロモンなんとかっていうんです。人によって言い方が違うのです。太陽神戸三井なんとかと同じで、そういうことだと未来が見えてこない。だから、今m&aが非常に盛んになってきますが、こういうふうに考えていかないとm&aもやはりうまくいかない。ですからうまくいくm&aと、うまくいかないm&aなんてことは、これから我々随分耳にすることが多くなってくるという気がします。

 あとは、政治の方でからんでくるのですが、もう一つ今年、非常に危険だと思うことは中国のことです。中国はみなさんご存知のとおり、今、改革開放路線が非常に揺れております。これでアメリカのハイテクが崩れたら、もう中国はアウトです。何とかハイテクと未来の期待でもっているようなところがありますから、ハイテクが崩れると、中国もやばいです。そうなってきたときに、台湾の問題が出てくるのです。

 今年7月に九州・沖縄サミットがありまして、中国も呼ぼうという話がありました。だけど中国が断ったのです。中国が来ないと言ったのです。だから、夏ぐらいに本気で台湾に攻め込むようなことがありますと、ちょっとごっついことになってまいります。それで今台湾、大統領選挙です。台湾の連中は、中国は絶対攻めて来られないと言って、タカをくくっているのです。しかし中国は、歴史に名を残すということが非常に大事な国です。中国の歴史書の書き方、どんなふうに作るか、みなさんご存知ですよね。今の王朝の歴史は、今の王朝が書くのではないのです。この次の王朝が書くのです。これが歴史になる。自叙伝ではないのです。次の王朝の人たちが、前の王朝のことを評価して書くのが、中国の歴史の書き方です。ですから、今の時点でとにかく何か問題を治めてうまくやっても、それは歴史ではないのです。次の王朝が今の自分たちを評価して、何をやったかを書くわけですから、筋を曲げて、わけのわからないことをやったとか、あるいは自らの生き残りのために中国を外国に売っただとか、そういうことを書かれるわけです。

 例えば、毛沢東だってそうでしょう。死んでから毛沢東の評価は地に落ちましたね。彼は建国の父としてだけ素晴らしいのであって、今、毛沢東というのは徹底的に否定されています。しかし、共産党であることに変わりはない。ですから、しょせん共産党の中の話なのです。これでもし、共産党政権が完全に倒れて、仮に台湾の政府が北京に乗り込んで中国を乗っ取ったとします。仮にの話ですが、そうしたら、江沢民も毛沢東も全部同じ、前王朝の人なのです。そして何か書かれます。例えば、秦の始皇帝いますね。非常に暴虐無人の限りをつくした。しかし、歴史の中では確かにそれもあるのですが、中国を統一した王朝として歴史に名を残しています。今の江沢民さんたちが、今の時代たとえ台湾にえらい反発をくってでも、もろに攻撃を仕掛けていって、北京が台湾を無理やり併合したとします。今、散々言われます。「暴虐無人の限りをつくして、なんだ」と。しかし中国の歴史の書き方というのは、次の王朝が評価するわけですから、やはり中国を統一した偉大な国家元首になるのです。

 今の中国は南北朝時代ですから、北京と台北、それぞれ中華を名乗る国があるわけです。鼓弓博物館もちゃんと二つあるわけです。それを一つにすることができたならば今の人たちから、「江沢民はなんだ、国際社会の常識をわきまえないで」と言われるけれど、江沢民亡き後、共産党亡き後、次の王朝の人たちは間違いなく、それは南北朝を統一した国家元首として書くはずです。「三国志」なんか見てればわかりますが、その辺の歴史の感覚というのがいまだにあると思うのです。その辺のことを非常に台湾の人たちは甘く考えている。日本も、アメリカも、ヨーロッパも、みんな甘く考えていると思う。皆さん、見ていて思いませんか?中国は非常に国家意識が高揚しているときだと思いませんか? 中国人だという自信を持っているときだと思いませんか? 世界中から「中国はすごい」と言われ、実際に過去10年ぐらいものすごい勢いで、発展するところは発展したわけです。文化大革命の大混乱を乗り越えて、今中国と言えばかなりすごい国だと世界中から評価が高まっています。中国人はそういうナショナリズムといいますか、国に対して誇りを持っています。だから、やたらに中国の人に「分裂するんじゃないの」なんていうと、大体ムッとします。「中国は違う、昔の中国じゃない。中国はこれから伸びていくんだ」とみんな言います。そういうエネルギーがものすごく強いから、中国に駐在する日本人とか、アメリカ人、ヨーロッパ人も同じことを言います。「いや、中国はもう変わった」って。ほとんど変わっていないと思のですが・・・。やはり国家意識がすごく高揚しています。こういう時は危険です。非常に危険で、歴史に名を残す残し方というものを考えたときに、今年の中国台湾をどうするのか、我々も非常に気をつけてなければいけないところです。

 おそらく、そういう歴史の大きな憂いの中で、アメリカ流の外交というのは対応できないと思います。アメリカ流の対応というのは、その時の損得です。常に損得なのです。欧米の外交は今の損得でやってきます。しかし、中国流の歴史の書き方というのは、次の王朝が前の王朝を評価して書くわけですから、これは今の損得でやると逆に秦朝末期と同じで、外国に中国を売り渡してとんでもないやつ、ということになってしまいますので・・・。その国家意識が強い時ほど、そういうことを考えるリスクが大きいという感じがします。
 ですから、中国、台湾との付き合い方というのは、今年どこかで断層が来る危険が非常に強いと思う。断層というのは、今までと何か違うのです。阪神淡路大震災と同じで1週間で全然常識が変わってしまうわけです。そういう感じです、戦争が起きるとか、何か起きるとか・・・。我々はこういうことをよく考えていかなければいけなくて、そうなってくると、中国人は文化の違い、ものの考え方の違いというのが、アメリカ人やヨーロッパ人のようにはいかない部分が多いということを、我々よく考えておかなければならないのでしょうか。非常に大事なことだと思います。

 それからもう一つ、ある意味でがっかりしたのは、日本の官僚制度がいよいよメルトダウンに近いと思うことです。警察の話見ていればわかります。よくみんな嘘つくな、と思うのですけが・・・。
 もっとびっくりしたのは、オウム真理教の連中が開発したソフトを一生懸命日本政府が購入していたという話です。ご存知でしょう。防衛庁だとか、郵政省だとかが使っているソフトを、こともあろうに、オウム真理教の連中が開発していた。日本政府が、オウム真理教に金を払って買っていたというのです。欧米の新聞なんかに1面で出ています。「japan cult install software in japanese government systems. 」。「オウム真理教の連中が、日本政府のシステムにソフトウェアをインストールした、導入した」というのです。普通に読めば、ものすごいテロを今まさにやっているとしか読めません。

 アメリカ合衆国政府の海外渡航危険条項の欄を見ますと、日本も危険な国になっているのです。特に地下鉄の時に気を付けろと。最近、窓側にも座らない方がいいみたいですが・・・。今のところ、地下鉄の中で毒ガスをまくというテロが世界中で日本しかなかったのです。他の国ではなかなかなくて。非常に危険なテロをやっている集団が、今でもちゃんと合法的に日本に存在する。西洋の人たちはわからない。なんで、こんなテロリスト集団を日本人はいつも許しているのか。非常にみんな不思議がっているのです。しかし、とにかくいます。地下鉄に乗るときには、見知らぬ物に手を触れるなとか書いてあります。そういう外圧が強いですから、日本政府も法律を作ってオウムを禁止すると。しかしなんのことはない、簡単に言えば、政府が自分の金を払ってオウムを養っていたわけです。外国の人は失礼にあたるから言わないのでしょうが、もう、論外ってやつです。何の言い訳もできませんね。あまりにもすごいことだから、役所の連中も誰も何にも言わないです。

 警察の話はもう、うそをついたという話だからたわいない話です。警察は昔からうそをつくわけで、犯人を後ろから撃つとか、証拠を捏造するとか、昔からあることです。どこの国でも、警察は本当、信用ならない。日本なんか、この程度でも信用ある方です。たわいないことです。世界中の警察、あまり信用ならない所多いです。だから警察が関与した犯罪というのは、世界中多いのです。

 でも、このテロリスト集団に、税金でお金払ってソフトを納入させたなんて話は、ついぞ聞いたこともない。私、ある政治家に言いました。「完全に、メルトダウンしてますね。日本の官僚システムは、まったくチェック機構が働かなくなりましたね」という話をしましたら、苦笑いをしておられましたけれども・・・。これから、同じことがどんどん出てくるのではないかと思うのです。完全に箍がゆるみました。大体、ソフトの業界というのはそもそもいいかげんな業界であります。何も、オウム真理教がオウム真理教の名前で入札して受注したわけじゃない。富士通だとか、そういうビッグネームが受注するのです。それを丸投げするわけです。口銭だけ抜いて。丸投げされた所はまた、口銭抜いてまた丸投げする。三つぐらい丸投げされて、最後のキャッチャーがたまたま、オウムだったのです。最初に受注した人は、誰が最後作っているかなんて知りもしない。非常にいいかげんな業界だから、こういうことが起こってしまうのです。こういうのは、昔の日本を知っている人には非常に嘆かわしいということなんでしょうが・・・。

 こうなったら、もはや政府の終わりですね。私も昔、企画庁に勤めていましたでしょう。企画庁の最近の景気の話とかを聞いていると、本当、噴飯ものです。なぜ、政府は景気がいいと言うのですか? 言っている根拠を見てみると、仕事が忙しいことを景気がいいと言っているのです。生産量が増えた。投資が増えた。これをもって、景気がいいと彼らは言う。しかし、みなさんよくおわかりだと思います。今の時代は、忙しくても全然儲からない時代です。どんなに忙しくても、全然儲からないのが今の時代の特徴です。忙しくやっていなければ、キャッシュフローは回らないから、つぶれるだけです。だから必死に仕事を忙しくまわして、キャッシュフローを回して、会社を回してる。これが日本の実態です。

 例えば飛行機会社見るとわかります。最近飛行機が混んでいます。昔の方が空いていました。しかし今の方が飛行機会社というのは、経営が苦しいのです。大体すごい赤字を抱えています。忙しいけれど全然儲からないというのが、今の大きな特徴です。そういうのを見ていたときに、企画庁なんて行っている連中というのは、昔ながらの、工場の操業度が上がれば景気がいいだろう、という発想から抜け出していない。堺屋長官なんていうのも、そういうのを見ながら景気は底打ちだとか言っていますが、役人の顔を見ていても、やっぱりダメではないでしょうか。つくづく感じます。これも、今年に入って極めて顕著になってきましたね。

 それから、茨城県は農業県ですが、農業は今、ヒビが入り始めました。ご存知ですか? 構造改善事業のところ。あれ、ゴッツイ話になります。いいですか。農水省の構造改善事業のところで、技官が挙がりました。あれ、突破口です。日本にはいくつか、聖域があります。その中でも農業は一番の聖域で、ものすごく固く守っていたのです。ところが、ウルグアイラウンドをのまされまして、自由化になりました。流れは金融と全く同じです。一つ穴が開きますと、そこからワーッと広がっていきます。農業構造改善事業でノンキャリアの技官が捕まった。どんどんやっていきますと、あれはすごいです。芋づる式にいきます。恐らくあれ、本気だと思います。
農業というのは、日本の構造問題の一つです。金融は結局、大蔵省解体までいったでしょう。おそらく、これから農林省も無事ではすまないです。一つ穴が開きますと、ワーッといく。今自民党が抑えているわけです。しかし自民党が選挙で負けますと、あれは一気にきます。ですから、農業関係が金融に代わって次の新たな構造改善の一番中心、大きな変化がくる部分だと思います。特にみなさんの県は農業県だと思いますので、金融に続いて、次は農業だというふうにお考えになっていただいていいと思います。

 スキャンダルから入っていくというのが、極めて日本的です。住専の問題しかり、住友銀行のスキャンダルしかり、金融の変化はスキャンダルから入ってきました。スキャンダルから入っていって、出口が規制緩和です。入り口がスキャンダルで、具体的に言えば所轄官庁が消えてしまうのです。消えるというか、所轄官庁の統制がほぼなくなる。このパターンです。ほぼみんなそうです。農業は構造改善事業から始まりまして、構造改善事業ですから、土建屋ともつるむわけです。どうもその辺が、遂に今来ている感じです。これが最近の新聞の中で、役所関係で注目されているな、という感じです。

 石原都知事、外形標準課税を導入するというお話がありますが、 私は大賛成です。もっとやれ、と思うのですが・・・。銀行だけに課税するのは不公平だという話もよくわかります。しかしなぜ、銀行だけにあんなに優遇しているのかということが、もっと不公平じゃないかと思ので、非常に結構じゃないかと思います。しかし、もう少し大きな目で考えていきますと、地方自治体はこれからはああやって、自分で食う飯は自分で稼がなければならない時代になってくるだろうと思うのです。

 実は今年の1月に、なんと日本の国債発行金額は時価総額でアメリカを抜きました。日本の新聞に載っていましたか? 載っていなかったんじゃないかな。今年の1月に日本の国債の発行金額、遂にアメリカを抜いて世界一になりました。だから、日本は世界一の財政赤字大国です。すごいものであります。だからこれから先、そうそう簡単に地方交付税交付金を出せなくなる。そうすると前からお話しているように、地方は自立を迫られます。石原さんみたいに独自の財源を考えていけるところでないとだめです。

 でも、今回の石原都知事のごたごたを見ていてつくづく思ったのは、金融、農業、もう一つの聖域にいよいよメスが入ったなということです。もう一つの聖域とは何かというと、自治省です。大蔵省、農林省、最後の大きな砦が自治省です。みなさん、地方にいらっしゃって、地方の県庁や市役所に行かれますと、中央の役所から来た人は大体座っています。あれは自治省の系統がありまして、所轄の役所から出向のポストがあって来ています。中央と地方の関係は非常に淫靡な関係になっておりまして、お金と人で自由自在に動く関係ができているのです。地方交付税交付金というのがありまして、昔は中央政府から大量にお金が流れていたのです。しかもこれは、一切市場経済とか情報公開にさらされていないところです。日本の金融機関でも情報公開することがなかったら、こんなにならなかった。情報公開しておかしくなったでしょう。

 もう少し古く見てみれば、ソ連が崩壊したとき、なんで崩壊しました? ペレストロイカじゃない、何だっけ? 情報公開ともう一つ何かありましたよね。ソ連が崩壊した最大の原因の一つは情報公開です。ペレストロイカか。ゴルバチョフが出てきて、ソ連の実態を全部情報公開してきました。あれで、ソ連の国民は愛想をつかして、崩壊したわけです。秋田県、宮城県などで地方自治の情報公開で市長が倒れました。情報公開というのは、すごい力を持っているのです。もうすでに地方の政府では、情報公開で大騒ぎが起きているところです。遂にこれが中央の自治省と地方の関係に来たような感じがするのです。

 例えば警察の事件も、誰が最後の怒られました? 新潟の県警本部長と警察庁の局長です。これ、中央と地方の接点の所でしょう。この中央と地方の接点のところが、温泉で酒を飲んでいたという話です。でも処分されたのは、県警本部長と中央の局長です。これ、もう二度とできなくなります。中央の局長と地方の警察本部長は、ゆめゆめ温泉なんて行けなくなります。何が起こると思います? 警察庁と地方の警察はどんどん距離が離れていくということです。つまりこれ、簡単な情報公開です。一緒になってやっている様子が情報公開されたことによって、中央と地方が警察組織の切れていくわけです。

 今回、石原さんの事件というのは、石原さんは自分からはっきりと中央にノーと言っているわけでしょう。自分で税金を決めると言った。いちばん慌てたのは自民党だったのです。なぜかと言うと、中央の統制がきかなくなるのです。中央の言ったとおりに地方が動かなくなるわけです。それは、せっかく誰の情報にも市場経済にもさらすことなく動いてきた、中央と地方の関係が崩れ、自民党の組織も全部崩れるわけです。自民党衆議院議員、あるいは、県議会議員というのがいて、彼らを通じて中央のお金が地方に流れていたわけですから、そういうところが切られるわけです。ですから、あの時の自民党の慌てぶり、すごかったです。

 本当に自民党もとち狂ったなと思うのは、もうすぐ選挙だというのに、増税しますと言っているんです。「外形標準課税は全国一律導入しなければいけない」とかなんとか、自民党が言っていたでしょう。しかし自民党は、日本中の中小企業から大増税やるぞと言っている話です。もうすぐ解散だというのに、あんなことをよく言うなと思いました。多分、自民党の人たちも意味がわからないで言っているのだろうと思います。それぐらい慌てていたのです。つまり、東京都だけ増税やる。だめだ、だめだ、と。要するに、銀行を守ろうというのではないのです。東京都だけ勝手なことをやられたんじゃ、中央の示しがつかない。しかも、自民党の東京都議会自民党は賛成にまわっている。首相、自民党の総裁は反対なのに、都議会自民党は賛成なのです。絶対につぶさないと、中央の統制が崩れるというあの危機感。だから選挙前にもかかわらず、全国一律大増税やるぞと言ってしまったのです。言ってから気が付いて、大変なことを言っちゃったというので、最近ほとぼりが冷めるまで解散を延ばそうというわけで、また解散しないと言っています。今まで予算審議が滞ったら解散するとその当時言っていたのが、余計なことを言ってしまった。解散すると大変だというので、最近は来年の1月の任期いっぱいまでやりますと言っている。増税ということを選挙前に言ってしまったと、言ってから気が付いたわけです。これは、言ってはいけないことを言っちゃったと、今頃気が付いているわけです。本当に愚かな話だと思うのですが、しかし、それぐらい慌てているのです。

 でもこの意図するところは、要するに税の流れからいっても、中央と地方は切れ始めているのです。変化が進んでいきますと、前から言っているように戦国大名みたいなのが出てこないとだめなのです。地方も、その地域でこういう仕事をするんだから、税金を納めようと思わせる政府を作った地方は伸びていくはずです。つまり、地方政府も同じです。地方政府も中央から期待できない未来にいかなくちゃならない。ただ単に税金が中央から来なくなったから、大変だ大変だと大騒ぎやっているだけなのですが、金が足りないから増税すると言ったって、払わないですよね。ブラックホールみたいな所にみんなお金が行ってしまうだから。しかし、「地方政府は未来にわたってこういうことをする、地方政府の仕事はこれとこれが地方政府の仕事なんじゃないかと思う。そのやるべき仕事、ミッションはこれで、地方政府はこんなふうに運営するんです。そして、10年経ったら、こんな姿になっている。したがって公務員の数はこれくらいいります、採用計画はこれぐらいです。地方政府のやる投資はこういう計画でいきます。さあ、これで県民のみなさん、こういう県でいいですか」という人が出てきましたら、おそらくみんな投票するでしょう。そこまできちんと言える県知事が、市長が出てきたら。そうしたら、強いです。みんな本気で税金を払うようになります。それが実行されてきたら、なるほどその県はまともに動いているということになってきます。石原さんの目指しているのは、まさにそこです。あの人がああやってうまくいきますと、みんな真似をしてうまくいきます。やっていくようになるでしょう。そうすると、地方はばらばらになってきます。中央と地方の間は切れてきますけれど、しかし、やっと本当の地方の時代ということになってくると思うのです。

 だから今と随分違うのは、誰がトップになっても、知事になっても変わらない、汚職の件数の違いだけであって、やっていることは変わらないというのが、今の日本の実態ですよね。しかし、これからは違います。昔、神戸が非常にビジネスがうまかったという話がありますが、不況の時代でもちゃんと運営できる、地域を活性化できる、昔で言えば戦国大名みたいな人がちゃんと運営している地方自治体というのは、県民もついてくるわけです。うまくいくのではないでしょうか。

 今の政治家を見ていると非常に情けないなと思うのは、もみ手をして一生懸命政策を売ろうとしているお客さんに、なんとか買ってくれませんかと、セールスマンじゃあるまいし、あの手この手でお客さんの関心をひこうとして政策を売っている。あれ、大きな間違いです。「こうやるから、ついて来なさい」、心の底から言える人がいたら、今みたいに混沌の時代ですから、必ず人はついてくるはずです。おそらく政治のスタイルも変わってきて、特に地方自治は分かりやすいです。「具体的にこれとこれをやるんだ、なぜこれとこれだけに絞るのか」。当然ノーと言う人がいるわけです。ノーと言う人はその人のそれなりの政策があって、まさに民主主義にルールで数で決めれば最高にいい。

 こういう世界のルールは一応できているのです。後はそれにのっとって、どういうミッションとか、ビジョンとか、バリューを言う人がでてくるのか、時間の問題です。こういうのがうまくいきますと、地方自治体というのはちゃんと機能します。そうすると、みなさんたちも、どこかでそいいう政治家というのを引っ張ってきて、みなさん自身が茨城県あるいは水戸市でそういう政治家を作って、ちゃんと運営させていくことが大事です。 「政治経済」という言葉はあっても、「経済政治」とは言わないです。政治が先に来る。そうすると一つ一つの企業が勉強して、ビッグバンに対して対応すると同時に、少なくとも、地方は地方で政治をきちんとその時代に合わせてつくり直して、政治のある程度の枠と、経済の枠と、これが合わさったときに本当にその地方というのは、うまくまわっていくんじゃないかなという気がする。

 ですから石原さんの今回の話というのは、単に銀行に対して、「金をぶん取ってやろう」というようにしか見えないような気がします。しかし、あれは非常に意味のあることです。中央と地方が、いよいよお金の縁も切れ始めているということです。こういう変化が起こってきたら、ぐるぐるぐるぐる動いていって、最後こうやって、地方も未来に向かってちゃんとできる市長、県知事を出して、ちゃんと作っていく。こういうものがやっぱり必要だということです。今申し上げたでしょう、県警本部長と警察庁の局長が密談しているのがばれたということは、これが切れれば、警察も切れるということです。一つ一つ、誰がやっているのか知りませんが、昭和の構造が壊れているのです。

 今の国会に憲法調査会ができました。ですから、日本国憲法もどうしようかという話になりました。過去50年間、誰も手をつけなかった日本国憲法を、そろそろいろいろいじくってみようかという話を、本気で国会議員が始めました。そうすると、動かないものが動き始めたという感じです。日本の政治の根本は憲法ですから、原点を動かそうというわけです。どこに動かすかは勿論、答え出てないわけですが、とにかく動かしてみよう、そこまできました。

 去年から見ていると、今年の1月のアメリカの株がワーッと上がってドンと下がったあたりから、急に慌しくなった感じがしました。2月、今3月の頭ですが、この3ヶ月、2ヶ月ちょっとですか、見ていると、次の変化、大きな変化、大転換の前兆みたいなもの、大地震の前触れみたいなもの、大地震と言うと怖いもののように見えますが、大きく変わる前兆みたいなものがいろんな所で出ているなという感じがします。そうすると、各論でその時、その時の情勢で、今日は北風、今日は南風、こんなふうにやっているだけではだめです。状況に対して自分でどう行動するかということを、そろそろみなさん、ご自身で考えて動いていかないと間に合わないです。わかっている人から順番に行動していかないと、もう間に合わないと思います。特に今年、来年は。

 今の時代もう一つ言えるのは、乗り遅れた人に対しては、ものすごく冷たい時代だと思いませんか? 忘れられていきます。例えば南証券なんて破産というけれど、南証券にお金を預けた投資家の話なんか一つも出てきません。30億円社長が持ち逃げしたんでしょう。投資家の困った声が一つもでてこないじゃないですか。なぜだと思います? 自己責任なのです。こんな会社と取引きしていた方が悪いということなのです。こんなこと、昔はなかったと思います。尾上の一件でも、投資家が迷惑を被った、おまえが悪いんだということは今まで一言も言わなかった。しかし、今、冷たいです。そんな証券会社使う方が悪いじゃないか、という話です。
 それから、どこそこの会社が何百人クビを切る。確か今から4年前、パイオニアが筆頭でした。900人だっけ? 最初クビ切り計画を発表した。そうしたら、大騒ぎ。今時、千人ぐらいクビを切るなんて当たり前の話になった。例えば、住友とさくらの合併なんていうのは、住友が1万3千人を1万人、さくらは1万6千人を1万人にするという。両方1万にしてから、合併するというのですから、二つ合わせて9千人クビが飛ぶわけです。非常に、当たり前にみんな言うようになりました。
 それから、企業倒産件数が増えていて大変だという話は聞くけれども、倒産して大変だという話は聞かなくて、やはり自己責任だと言われる。光通信の社長みたいに億万長者になると、すごいすごいと言っていて、非常に冷たい。昔みたいに大変なことがあっても、支えていこうという気がなくて、倒れたやつの屍は踏み越える為にあるという感じで、冷たいです。みなさん、今の時代それぞれいろいろよく考えて行動していかないと、あいつも消えちゃったかと、そういう感じになってしまう。非常に情けないことだと思うのですが、それぐらい日本中あるいは世界中、余裕がなくなってきているということなんでしょう。

 余裕がなくなるぐらい変化が激しいときです。ですから、いよいよ性根を据えて、勉強し行動するときが来たと思いますね。特に最近、根気が足りないです。若い人も年配の人も、根気よく一つの道をこうやって行くような所が足りない。このミッション、バリュー、ストラテジーというのは根気の勝負ですから、決めたらその通りいくということです。それに合わないことはやらない、合うことはちゃんとやっていくということですから、朝令暮改がいちばんまずいです。今日は今日の風、明日は明日の風というと意味がなくなる。北から風が吹いたら南に行き、南から風が吹いたら、北に行きというのは、時代に流される、風に流されるということになってしまい、時代に流されないためには、根気よく、ひとつのことを続けていく力というのが、ものすごく大事だろうと思います。


2000年3月10日