活き活きとした企業から学ぶ! / 2006年6月(設立6周年記念講演会)

活き活きとした企業から学ぶ!
大久保 寛司 氏 (人と経営研究所 代表)

 みなさん、こんにちは。またこの季節が来たなということで…。
 ここの協議会のホームページを拝見しますと、私の講演録が過去6回出ています。ということは少なくとも6回はお邪魔したのかなと…。7回目ということで少し過去のを見てきたのですが、毎回苦しんでいるな、ということを感じました。全国いろいろな所でお話をさせていただくので、いわゆるネットの世界で私の名前で検索していただくと、講演録はプリントすれば多分これくらい出てくると思います。いろいろな所で出していただいているのですが、ここの鬼澤さんの奥さんのテープ起こしの質が高いものですから、しゃべった以上に良い内容ができているということで、ヒット率が高いということなのです。ですからその都度それなりに良い話をしなければいけないというふうに思いまして、珍しく毎回ここの時だけは事前に力みます。力が入ります。そして最後は結局「何を話してよいか分からん」というままに準備?が終わって、最後はもう「えいや!」でいくしかしょうがないなということでお邪魔をさせていただいております。
 いろいろな演題でお話をさせていただいているというのもつらつら見て、なるほどな、自分自身もいろいろなことを考えているんだなということで、自分自身の考えの変遷が分かるような気もしました。
 今日は「活き活きした企業から学ぶ!」ということで、具体的にお話をさせていただきます。

 去年、ブロックス主催で経営者の方々に随分集まっていただいて、二十何人、その方たちとブロックスで取り上げられている企業をたくさん訪問させていただきました。一緒になって学ぶということをさせていただきました。「目からウロコ」という以上に、今までの自分の説明が間違っていたな、というようなところも発見できましたので、今日はそのあたりも合わせていくつかご紹介をさせていただきたいというふうに思います。

 この間はホンダクリオ新神奈川に行ってまいりました。本日の参加者名簿を拝見しますと、全く初めての方と、超ベテランの方とものすごく幅がございます。何度も聴かれた方と初めての方と、「経営品質というのはどうでもいいから、ともかくお前の話を…」という方もいれば、そうでない方もということでなかなか難しいのですが…。ホンダクリオ新神奈川は、相澤会長が去年確かこちらにお越しいただいてお話ししていただいていると思います。
 結論から申し上げますと、「行かないと本当の良さは分からない」ということです。特に相澤会長は「ともかく部下は叩けばいいんです」、「怒鳴り散らせばいい」と言うのです。「褒めるなんてことは私はしたことがない」、「ひたすら追い詰めればいいんです」、講演の話を聴くとこういう話なわけです。普段私自身が考えていることとは対局だなという感じがするのです。しかし実際行ってみて分かりました。実態は全く違うということです。
 結局恥ずかしがり屋だからああいうふうに言っているだけ、というのが分かりました。ものすごい優しさを持っています。
 いちばん感じたのは、直接お店に行きます。お店に行って、相澤会長と従業員の人たちのふれあいの雰囲気です。言葉のやりとり…。ものすごいアットホームです。あれが、相澤会長が講演されるように叩きつけ続けられた部下であれば、あんなコミュニケーション、もしくは表情にはならないはずです。これは、もう痛感しました。やっぱり一人の思いというのはものすごいなというのを何よりも感じたというか、見ることができた、という感じです。
 ひたすらきれいというか…。会長もおっしゃっています。本社部門、ショールームが三十何年経っているわけですが実にきれいです。ですから「古いということと汚いということは必ずしも一致しないんだよ」という、その言葉の意味を本当に痛感させていただきました。
 かつすごいのは、お店に入りますと、ショールームですから普通だったら車が主張するのです。車があるか、ないか、分からん雰囲気です。置いてはあります。何か。完全にくつろいでいただく場です。くつろぎの空間の場になっています。大袈裟に申し上げると、足を踏み入れて椅子に座っていると、ずっとそこにいたい、という感覚の店づくりができています。これはすごいなと思います。
 ホンダのグループのディーラーというのは、大体一人当たり47、8台売っているわけです。その中でホンダクリオ新神奈川というのは98台ぐらい売っているということですから、平均の倍売っている会社です。
 それからCS調査、これはネッツトヨタ南国の横田さんもこちらにお越しいただいていますが、同様に、ホンダクリオ新神奈川も6年連続ですか、CSダントツ日本一を維持し続けているわけです。
 今申し上げたように、素晴らしい業績をもちろん上げているわけですが、それはやはりショールームに踏み入れるだけで分かります。
 私の知り合いがやはりホンダクリオ新神奈川から買っているということで、この間講演をしていたら、「実は僕はそこから買っているんだよ」という人が出てきました。「車検に行って毎回新車を契約して来る」と言っていました。それはそうしちゃうと言うのです。そうさせてしまうのです。そこがもうやっぱり違う。
 ご承知のように、毎朝500メートル四方は全員で掃除をしているわけです。いちばん延びた時は1500メートルです。さすがにそこまでやらなくてもいいだろうということで、今は500メートルで抑えているということでしたけど、毎朝掃除をやっておられるわけです。
 ちょっと私から意地悪な質問をさせていただきました。「雨の日はいいでしょう? しなくてすむから…」ということを申し上げたら、なんと返答が来たか。「落ち着きません。朝掃除をしないと落ち着きません。」私はまたさらに意地悪な質問で「いや、本音を教えてくださいよ。建て前はほら、会長が横にいるからいろいろおありでしょうけども…。」真顔で「大久保さん、本当にやり出すと、やらないとかえって落ち着かないのです。」「どうされるのですか?」「外がきれいにできないから、そのときは事務所を徹底的にきれいにします。」こうおしゃっていました。その目つきがすごいです。真剣な目つきです。
 当然ですけど、何よりも一人ひとりの雰囲気の良さと明るさはすごいです。車の販売店、入って行くと、場所によっては「何ですか?」と聞かれるケースもあります。何ですかもへったくれもないわけなのです。「いらっしゃいませ」というのが正しい声掛けなのです。当然ですけど、ホンダクリオ新神奈川も、ネッツトヨタ南国も、お客さんの姿が見えると人が飛び出て来ます。だめなお店というのは中に入っていますから…。そしてやおらお客さんが受付に来て用件を言わないと聞かない。この差というのはものすごく大きいです。でも飛び出さない方は、そういう所と比較するとそれがどんなにだめかというのが分からないのです。それは良さを見ていないからだろうなというふうに思います。雰囲気の明るさというものはやはりすごいものがありました。
 もう一つ、営業本部長の方からお話をうかがいました。それ以外にも相澤会長に並んでいただき、今の新海社長、営業の担当役員、営業マン、サービスマン、事務の人、全部並んでいただいて、翌日半日間ずっとQ&Aをやるということをさせていただきました。人柄というのが見事に出てきます。やはり会長がこういうふうに言うのを鵜呑みにしてはいけないというのがよく分かりました。
 一言で申し上げれば、相澤さんへのものすごい信頼があります。相澤さんは徹底して家族主義ですから、会社を辞めた人は「辞めた」と言わないで「家出」と言いうわけです。出戻りが、18人目がもうすぐ戻ると言っていました。先々週行ったのですが、7月1日に18人目がもうすぐ戻ってくるそうです。戻ってくるというのはやはりそこに魅力があるからなわけです。
 どうしてそういう組織ができたんだろう、ということです。やはり基本は「思い」です。すなわち、一見相澤会長はがさつな、乱暴な言葉が多いのですが、気遣いの名人なのです。男の人に対しては、どこへ出ても恥ずかしくないビジネスマンをつくる。ご本人は謙遜されているのでしょうが、「こんな車の販売業なんていつだめになるか分からない。その時に彼が家族を路頭に迷わすようなことがあってはいけない。いわゆるどこに出ても恥ずかしくないビジネスマンをつくっていくんだ。」それから女性に対しては、これは今、公の場で言うと言い難い言葉かもしれませんが、「気遣いのできる、優しいお嫁さんをつくるんだ」と…。今、いろいろ死語になった言葉かもしれませんね、「お嫁さん」なんていうのも…。ですからお茶とお花が必須です。お茶とお花の場も二十何人と一緒に体験をさせていただきました。みなさんそれぞれのいろいろなトレーニングを積まれています。何と言うのですか、やはりそういうふうに人を大事にしています。

 去年訪問した企業で、きわめてシンプルなことを、きわめて単純なことを発見しました。それは何かと言うと、人が育つ企業が強い。あまりに当たり前ですけどね。これが強いです。そして人が育たない企業は弱い。ここでちょっと繊細に言葉を使っているのは、「人を育てる企業」と言っていないということです。「人が育つ企業」が強いのです。
 実は、「人を育てる」というのは、どうも違うなと今思っています。育つのは本人ですから…。例えば、「私は彼を育てた。」私はそうは思わないです。それはちょっと傲慢な言葉です。「彼が育ったんだ」ということです。
 すなわち人が主体的に育っていく企業が強い。だったら何かと言ったならば、強い企業というのは人が育つ環境、条件、基盤づくりをしているということです。その反対に人が滅びていく企業は弱いでしょう。人がボロボロやめていく企業は多分弱いと思います。だから人が育っているかどうかということです。
 その基本は何かと言うと、今日冒頭に、「私は今までの説明で間違って勘違いしていることがありました」とご紹介しました。それは何かと言うと、従来経営品質の世界で、いわゆる市場分析をして、どんな人が必要なのだろう、どんな技術、スキルが必要なのだろう、それがどれだけ充足できているのだろう、できでいない場合はどうするのだろう。育成するのか、それとも中途採用するのか。そういう形で人材の育成とか、人材採用計画を、経営計画と一貫性を持たせてやらなければいけない、という話をしてきました。これが根底から間違っているということではないのですが、極めてレベルの低い話をしていたなということを思いました。
 それは何かと言うと、去年訪問した、「DOIT!」で取り上げられている企業は、業種、業態では厳しい企業であるにも関わらず、当然ずっと業績を伸ばし続けているわけです。そこでの人への考え方と捉え方が違っていたということに気づいたのです。
 すなわち今の、経営計画があって、それに基づいての人材の育成というのは何かと言うと、人材の育成というのは経営計画実現のための手段なのです。それの説明自身はあるレベル以上の説明だったのです。しかし違っていたのです。実は今の話を持っていくと何かと言うと、売上と利益を上げるための手段として人の育成が位置づけられているのです。根底から違っていたのです。
 去年行った企業は何か。人が中心なのです。人が育つのが全てなのです。とんでもない間違いをしていた、と私は思いました。そして人が育つのが全てだということで、経営者が人に焦点を当てて、その従業員の人たちを徹底して育てるとどうなるか。素晴らしく育ちます。その育った人たちは最高の仕事ができるのです。その最高の仕事は最高のCSを実現するのです。結果として高いパフォーマンスを維持し続けることになる。このスパイラルだったのです。経営の教科書には出ていなかったな、これは…。すなわちあくまで人が中心なのです。
 大袈裟に言うと、バグジーのビデオなんか見ると、時々宗教的だというようなことを言われる方があります。一つの思いにかられてそれにずっと進むというのが宗教的だとすれば、昨日思ったのは、今の人はほとんど「売上利益至上主義教」ではないか。それが正しいと是認し、それが全てだと思っていませんか。ほとんどあれも宗教ではないですか。こういう感じがします。ただ大切なのは、それを推し進めていったとき、一人ひとりが成長して幸せになっていくのかどうか、というのがものすごく大事なのです。今の世の中の「売上至上主義教」の「きょう」は狂っている「狂」でもあるのです。根底が間違っていた。今、私は大変なメッセージをしていると思います。ほとんど今の資本主義を否定しているかもしれない。
 でもなぜか。経営というのは本来何のためにあるのか。人が幸せになるためだったはずです。世の中が良くなるためだったはずです。そうですよね。ところがこの間の6月何日頃だったかな、日経ビジネスに出ていましたが、ともかく今は企業は相当業績を上げ、回復してきた。三年連続で史上最高の利益を上げ続けた。しかし人は疲弊し切っている。ノイローゼになる人が続出している。多くの大企業ではカウンセラーをどんどん増やさざるを得ない状況になっている。何かがおかしい。売上と利益は上がるようになったけど、精神的にバランスを壊す人をたくさん輩出しているのだったら何の経営か。
 正直言って、この発想は私自身は五年前には持っていなかった。いちばんそれを教えていただいたのは、この間鬼澤さんも行かれた伊那の経営フォーラムというのがあったのですが、「かんてんパパ」の伊那食品工業です。あそこの塚越会長との出会いというか、あの方の本を読み、あの方の話を聴いてから、多分私自身が変わったんだろうと思います。

 伊那食品というのは、もうともかく一言で申しあげると、遠くを見て経営をしている。短期を絶対に追い求めないという発想です。実際私自身も何度かお邪魔して、塚越会長に随分時間をいただきました。ものすごい信念です。
 この間も伊那の経営フォーラムでお話をされていました。どんどん人減らしをすることによって株価が上がる。全くおかしいことだと言っています。経営の基本はまず人を雇うことです。そしてその人たちを幸せにし、その人たちの幸せを通して良い仕事をしてもらい、お客様に喜んでいただく、という順番だと…。明確にそうなのです。これも私の間違っていた説明です。「これからのグローバルの時代、世界最高に安い所から素材を買い、世界最高に高い所に売る。これがこれからの製造業の生きる道です」と言っていました。私が伊那食品を訪れ、専務の息子さんと話をしている時、突然こう言われたのです。伊那で寒天を作っている会社です。工場がいっぱいあるわけです。油を使います。「そう言えばこの間随分安い油の見積もりがきたけども…。」専務に向かって何と言ったか。「まさかそこに契約発注していないだろうな?」私は瞬間理解できなくなったわけです。言われた専務が何と言ったか。「もちろん。」何なんだ? その時、会長がこちらの方を向いてニコッと笑い、「私はそういう経営をしてきました。私のいちばんの自慢は、誰一人辞めさせなかったことです。従業員を増やし続けたというのが私のいちばんの自慢です」と言うのです。
 先を見なければいけない。ただし、よろしいですか、そう言いながら47年間の連続増収増益なのです。ものすごいことです。ご本人もおっしゃっていました。「増収だけならある程度いける。」人を減らさないで、増やし続けて連続増収増益、47年間です。
 一度伊那食品に行かれたらいいです。入って行った時の雰囲気、明るさ、ものすごいです。一人ひとりの笑顔の、挨拶のレベルが違います。本社に入って行った時、もう空気が違います。動いている空気が穏やかです。そして経営としては革新し続けています。工夫し続けています。全員が生き生きしています。まさに経営品質で言うところの、経営品質の理念を実現した企業そのものという感じがします。すなわち従業員が生き生きとしていて、会社としてもある程度の利益を出さなければ維持できませんから、そして社会に喜ばれる、自ら革新し続けるというのをベースに置いて、全部実現している。
 伊那に行ってタクシーに乗って伊那食品のことを言うと、ほとんどのタクシードライバーが自慢気に語ります。自分の会社のように語るのです。嬉しそうに…。タクシーの運転手がそこの地元の会社を嬉しそうに語るケースというのはあまり出会ったことがありません。
 雪の深い所ですから、冬になると、朝、来る途中で車が側溝に落ちているそうです。社員の人はそれを見るとどうするか。「ちょっと待っててください。」本社に行くと大体4、5人連れてきて、みんなで助けるそうです。困った人がいたら助けるのがお互いに当たり前になっている。穏やかな雰囲気…。
 そしてあくなき改善、変革をし続けています。いわゆる商品を作るという意味では、革新の連続の企業です。みなさんもご存知かもしれませんが、粉末の寒天を作った時に、これはすごいと…。技術の勝利です。全国区のスーパーが売ってくれる。小さな会社の売上と利益が一気に数倍です。営業本部長の人は、「社長」、当時社長ですよね、「社長、全国区のスーパーで売ってもらえます!」それに対して塚越さんは何と言ったか。「それは断ってくれ。」今、その人が社長になられていますが、「意味が分からなかった。」「急激な成長は必ず反動が生まれる。人と組織を切らざるを得ない時が来る。それは悪だ。だからやめよう」と言ってやめられた。
 「大切なのは地道に成長し続けることだ。」これは「年輪経営」いうふうにおっしゃっています。「年輪というのはこうだ。少々寒すぎたからといって成長しないことはない。」すなわち不景気だ、周りの環境が良くないといって成長しないのは違うんだというわけです。ある意味ものすごく厳しいです。「どんな環境においても成長し続けなさい」とも言っています。「しかし急激な成長はだめなんだ。」実際庭に大きな、急激に育った木があったそうです。台風で倒れた。見てみたら年輪の間がスカスカだった。なるほど。急成長とはこういうものだ。こういうことをおっしゃっていました。全くそのとおりです。
 徹底して人が中心です。ご本人にお会いした時、こうもおっしゃっていました。「大久保さん、いろいろな経営手法といろいろな評論家が言っているけど、ともかく従業員のための企業がこの世にあってもいいでしょう。私はそれがいちばん大事だと思います」ということをおっしゃっておられました。
 日経の夕刊にずっと連載されましたでしょう。一ヶ月ぐらい前に塚越会長の話が一週間、出ましたよね。あれで読まれた方も多いと思います。去年、「ためしてガッテン」、クイズ番組その他、寒天がいかに体に良いかということが放送され、ブームになってしまいました。その時お会いしたら何と言ったか。「大久保さん、会社設立以来最大の危機が来た。」「なぜですか?」「ブームだから…。」ブームを危機と捉えるのです。普通は喜びの喜々です。何倍も売れるぞと…。ところが違う。「つい工場を24時間稼動をさせてしまった。なぜかと言うと、『寒天を食べることによって、うちの主人が健康を取り戻せます。是非作ってください』と言う声がいっぱい寄せられて、不本意ながら24時間稼動をやってしまった。」でもすぐやめるのです。なぜか。「従業員の体を壊して利益を上げて何になるんだ。」
 すなわち判断の軸が違うのです。判断の軸が…。人の幸せのために経営をやるんだ。売上のためにやるんだといったら、倒れた人はどんどん切っていけばいい、元気な人を雇えばいいのです。少しだめになったら捨てればいいのです。という経営をしている所、多くありません? それはそれで正しいのです。売上と利益を上げるのが目的だから…。そこに論を挟む余地はないわけです。やり方は正しいのです。ただ目的が間違っている。間違っているのです。ということを塚越さんにお会いしてお話を聴くにしたがって痛感しました。
 ご本人は高校三年間、結核でずっと入院されていた方です。二十歳でやっと出て、拾われた会社の子会社の、10人の寒天の会社の社長…。担当した時は年間の売上の負債があったということです。何も知らない。その中で、寒天ですから化学、機械が出たら機械工学、経営全体、全てを全部自分で勉強された方です。「自分は学歴がないから…。」そりゃ、「歴」はないかもしれません。でも学ばれた質量は桁違いです。
 お手紙を頂戴しました。ものすごい達筆です。もうちょっとこっちは手紙なんか書けない。あまりのすごさ…。もうありとあらゆる面ですごい。それでいて、何と言うのですか、仕事を楽しんでおられる。ものすごく楽しんでおられる。苦しみじゃないんですね、楽しんでいるのです。そこら辺が、何と言うんですかね…。

 我が家からは車で2時間ぐらいで行けるものですから、2時間高速を車で飛ばして、時々家内とそこまで行きます。雰囲気が良いです。寒天だけの食事、レストランもありますので、みなさんも是非一度行かれたらいいですね。(かんてんパパガーデン)
 全員が朝、30分か1時間前に出てきて、近所中を掃除されるのです。全部強制ではありません。ホンダクリオ新神奈川も同じです。
 去年、11月に行った沖縄教育出版という所もそうです。みんな30分から1時間前に出てきて…。沖縄教育出版なんていうのは、沖縄に行った方ならお分かりだと思いますが、あの国際通りを全部掃除するのです。きれいになると犯罪というのは減りますよね。ニューヨークの方ではゴミをなくすことで犯罪が減った。これは事実です。
 きれいにする方法というのは、きれいなうちに掃除することなのです。汚くなって掃除をすると大変なんですね。だからきれいにする方法は、きれいなうちに掃除をこまめにやるということをすればいい。やはりいろいろな企業というのはそれをやり続けているなと…。

 ですから何を申し上げたかったかと言うと、素晴らしい企業に学んだことというのは、まず雰囲気がものすごく明るいということです。明るい、雰囲気が…。それからきっちり挨拶ができるのです。それから整理整頓が、事務所の中も外もきれいで行き届いている。実はこんなことを学びましたということなのです。

 その気になると、この「明るい」というだけで2、3時間お話ししたいことがありますが…。明るくなると良くなりますね。
 そうすると時々、「大久保さん、うち、今の業績考えると、明るくなれないんですけど…」と暗く言われる方がいらっしゃるのです。表情を見ていると、難しそうだなと思います。どうしたらいいかと言うと、笑えばいいのです。笑うと明るくなります。
 人間というのは面白いもので、明るく笑って悩むことができないの、ご存知ですか? 表情を明るくして悩むといったら、ほとんど分裂症になってしまいます。これはありえない。
 悩むというのは感情でどうしようもない面があるのです。感情というのはコントロールできないものがある。でも表情は意思で作れるのです。そして表情で穏やかで明るい表情を作ると、必ず良くなるのです。これが日本の古来のことわざで言う「笑う門には福来たる」です。でも多くの人は福が来たら笑いますよ。業績が良くなったら笑います、というわけです。同じなのです。泣いているでしょう。ハチが刺しに行くのです。泣いているな、というのでブスッといくわけです。だからいかに明るく笑うか、ということです。
 あと、挨拶というのはものすごく大事です。
 全部これは当たり前です。一つ発見しました。当たり前を最高レベルに実現すると奇跡が起きるということです。例えば挨拶だって「おはようございます…(ボソボソと、暗く、小さな声)」、これも一応挨拶です。「おはようございます!(元気に、大きな声)」というのも挨拶です。それ。with スマイルです。実は当たり前にもレベルがあるのです。ある意味、当たり前をやっていくということはいちばん難しいことです。
 この間、ある銀行の方とお話をして、各拠点を見て回ると、「大久保さん、全く正しい」と言われました。「何ですか?」「この3つができている所は銀行でも業績が良い。」車の販売ディーラー、もちろん、実は業種、業態違えども、いろいろな方にこのお話をさせていただいたら、「大久保さん、全くそのとおりです」と言われる方ばかりに出会いました。
 ということは、まずきれいにすること、挨拶をきっちりすること、そして明るく笑うということです。

 どうでしょう、みなさん、明るく笑うの、得意ですか? ちょっと聞いてみますね。自分は笑うのが、笑う表情を作るのが得意だという方? 別に前に出てやってもらわないですから、大丈夫ですから…。得意と苦手の2つでいきます。では、得意ですか? 他に得意な方、いらっしゃいますか? いらっしゃいますね。周りから見て笑っているかどうかはよく分からないですが…。苦手だという方は? 苦手な方、多いですね。苦手な方、どうしたらいいと思います? 笑顔ができるようになるにはどうしたらいいと思います?いいですね、基本は練習ですね。
 ということで今から練習したいと思います。私のビジネスパートナーのデライト・マインドという所の代表の梅原さんという方に、そのために今日東京から来ていただきました。もうスペシャルサービスを今から無料でやっていただきますので…。はい、梅原さん、お願します。
 素敵な方です。私が笑顔のトレーニングをやるよりいいでしょう?

【梅原氏】ありがとうございます。本当に、この会が始まる5分前にそういうお話を頂戴いたしまして、今、この舞台に上がること、ドキドキさせていただいております。デライト・マインドの梅原と申します。よろしくお願いいたします。(拍手)ありがとうございます。
 何者が上がったのかということでちょっとご不安なところもおありかと思いますので、簡単な自己紹介だけさせていただきます。うん十うん年前にトヨタ自動車に勤めさせていただきまして、その時はショールームで勤務をいたしておりました。接客、接遇はその時、身につけてきたつもりです。また、モーターショーがありますと、あのターンテーブルの上に乗っかって、マイクを持って車の説明をする、という仕事をしておりましたので、発声、かつぜつはその時身につけてきたつもりです。新車が出ますと、北海道から沖縄まで、ずっと新車と一緒にキャンペーンを行っておりましたので、笑顔で全国を回らせていただきました。
 では早速、笑顔のトレーニングというお話をいただきましたので…。
 それでは、恐れ入りますが、みなさま一度手を止めていただきまして、一緒に体操に付き合っていただいてよろしいでしょうか? では、恐れ入りますが、手をグーッと上に伸ばしてください。グーッと伸ばしていただいて、右手だけ残していただいていいですか?ではこの手をこうやってグルグルグルグル回していただいて、では、この手をあごに持っていってください。あ、ありがとうございます。ずーっとあごに…。ありがとうございます。実験にご参加いただきまして、ありがとうございました。ほとんどの方が手がここ(おでこ)。大久保先生も最後までここでいらっしゃいました。私、「あご」って申し上げましたよね。だけれどもほとんどの方の手はここに、おでこにいっていた。これは人間が視覚が大きな比重を占めるからなのです。私の手をよく見ていてくださった方は、もう無反応でここ(おでこ)にきているのです。そして「あご」という声を聞いてからこっち(おでこ)に持っていった方と、「あごだよね」とずっと残っている方といらしゃいました。
 これ、何が言いたいかと申しますと、人は視覚が大切だということなのです。目で見たもので確かめてしまいたい、と思う動物。だから「人は見かけじゃないよ、中身だよ」と言われているけれども、見かけで判断されてしまということが理解いただけますでしょうか。
 そこで見かけはいかがなのでしょう? 先ほど大久保先生がおっしゃっていただいたように、「人から見て、笑顔かどうかちょっと分かりませんね」というお話がありました。では恐れ入りますが、お近くの方、どなたでも結構です。お隣の方のここの口角を見ていただきたいのです。まず、みなさま、笑顔ではなくて、普通の時、例えばパソコン入力をされている時ですとか、車を洗っている時ですとか、何もしない時をイメージしていただいて、お隣の方のお顔をじっくり見ていただいてよろしいでしょうか? では、お隣の方、見ていただいてよろしいですか? 普通の顔ですよ。5秒間だけ我慢してください。5秒間だけ…。では、お隣の方の真顔、いきます。はい、1、2、3、4、5。はい、ご協力ありがとうございました。
 ここのこと、口角と言いますけども、お隣の方の口角がほんのり上がっていたな、と思った方、手を挙げてください。ああ、そうですか。では、お隣の方、口角、一文字だったな、横一文字だったな、と思われた方、手を挙げてください。はい、ありがとうございます。では、お隣の方、口角が下がっていたな、ここが下がっていたな、と思った方? はい、ありがとうございます。
 いかがでしょう? やっぱりここがちょっと上がっていたら感じが良いなと思われるでしょう。もし横一文字だったならば、何か冷たいな、事務的だなという印象をお持ちになると思います。下がっていたら「え? どうしたの? 怒ってるの? 何か気分悪いの?」とみなさまが気を遣ってしまう顔の表情ですよね。だとすると、もうここが上がっていればいいというのはご理解いただいていると思います。
 そこで、これ、筋肉なのです。今、「トレーニングをしましょう」と先生が言ってくださいました。地球には引力がありますから、ここ、放っておくとダーッと下がってきます。ですので、引力に逆らって、今から筋トレ、筋肉トレーニングをいきます。
 では、「フ・ヒ運動」なのですが、「フ」は鼻よりも前にフッと吹き出してください。「ヒ」は口角を上げるのではなくて、ここ(頬)です。ここの筋肉をキュッと持ち上げてほしいのです。ここでポイントは、目を細めることです。目を細めていただきますと、うまくキュッと口角が上がってきます。
 では一緒に、声を出して筋トレ、まいります。ご準備よろしいですか? ではまいります。はい、フ、ヒ、フ、ヒ、フ、ヒ、フ、ヒ、フ、ヒ…。あ、OK! フ、ヒ、フ、ヒ、フ、ヒ、フ、ヒ、フ、ヒ…。あ、OKです! ごめんなさい、前列の方、ご協力いただきましてありがとうございました。
 いかがでした? ちょっとお疲れになりませんか? 痛くなられましたでしょうか?痛くなるまでやってください。これ、筋トレですので痛くなるまでやってください。今、何人かの方にちょっと首を振らしていただいたのは、ここ(頬)が上がっていらっしゃらないのです。フ、ヒ、って横に引っ張っている方が多いのです。ですので、ご自宅にお戻りになりましたらば、シールでも、それから奥様の口紅でも、それから消えるようなマジックですね、消えないマジックじゃなくて、消えるマジックで点々をつけていただいて、フ、ヒ、フ、ヒ…とこの点々が縦に動いているかを確かめていただきたいのです。まずここの口角を上げる。
 それでは、恐れ入りますがみなさま、テーブルの上にブルーの封筒が置いてありますけども、今度はこの封筒で口を隠していただいて、お隣の方同士、目で微笑みが伝わったらOKサインを出してあげてください。では、お隣の方、いかがでしょうか? OKサイン、出ていらっしゃいますか? OKですか? よかった! はい、ありがとうございます。
 目で微笑みなのです。例えばここの口角だけが上がっていても、目が死んでいたら、これは作り笑い、営業スマイルとか言われて、あまり感じが良いものではないですね。ここでしっかり、目で微笑みを伝えていただきたいのです。
 この、目の玉の中も変えることができます。E・H・ヘッサンという方が研究をなさいました。心理学者の方です。生物学的に言いますと、明るい所にいる時には瞳孔がキュッと閉まっていて、暗い部屋に入ると瞳孔が開いてくる。これは生物学的にそうですよね。E・H・ヘッサンが心理学的に研究をなさいました。相手に興味を持つと瞳孔が開いてくるそうなのです。瞳孔が開いてくると、その分だけ反射率が高くなってくる。だから目がキラキラと輝いてくるのです。文章を書いている時に、「私は大好きなものを見つけたので、目がランランと輝いた」とかって言いますよね。ランランと輝いているはずなのです。瞳孔が開いて、それだけ反射率が高くなっているから…。
 ということは、これからみなさまがいろいろな方にお目にかかったときに、その方に興味をもっていただけると、みなさまの目がキラキラと輝いているはずです。人間同士って不思議じゃないですか。「ああ、私、あの人苦手…」と思うと、あの人からも目から「苦手」という信号が何となく送られてしまって、せっかくのコミュニケーションがとりにくくなってしまう。でも自分から「好きですよ」ということを発信していただければ、相手の方からも気持ちよく声をかけていただけますよね。
 ということで、みなさまの大好きな大久保先生を、これから「好きだよ!」ということで、ちゃんと瞳孔を開いて、キラキラとした瞳で、これからの楽しいお話を、よろしくお願いいたします。よろしいでしょうか。(拍手)
【大久保氏】大変出にくくなりました…。楽しいですよね。あの説明を受けていて分かると思いますが、説明する人自身の雰囲気が大事ですね。あれを暗い雰囲気でやられたら変ですものね。
 人に関心を持つと瞳が開く、というのは面白かったですね。関心を持ち続け、今度開きっぱなしになってしまうとどうなっちゃうのかな、と思いながら…。

 実は人への関心というのもキーワードです。素晴らしい企業で、当然人が育つ企業というのはどういう企業か、ということなのです。それは何かと言うと、先輩とか、経営全体で言うと社長ということになりますが、その人が徹底して人に関心を持っているのです。これ、基本です。関心を持っているかどうかというのがものすごく大事です。人に持つことなのです。
 何を言っているかというと、多くは仕事をやっています。そうすると、仕事がうまくいくとか、いかない、特にうまくいかないときに、ここの部分だけ見てしまうのです、仕事だけを見てしまいます。しかし仕事と言うのは人がやっている、人の出力であるわけです。この仕事のところというのは見えるのです。こちら側は見えないのです。人の気持ちとか、意識ですから…。実はこの見えないところに原因があるのです。こっちは結果です。結果は見えるけれど、見えないところの原因がやはりいちばん大切なんだなと…。
 人に関心を持たない限り、ここ、人のところにアプローチすることができません。ですからやはり素晴らしい経営者で、人が育つ、人を育てると言っていいのかもしれませんが、人が育っている企業というのは、うまくいかないときに、なぜこの人はそうしてしまうのか、なぜそういうパターンをとってしまうのか、なぜできないのだろうと…。すなわち人に焦点を当てるのです。だめなケースは、「こうやって、ああやって、こうしてもいいから考えないですぐにやれ!」、こうなります。仕事だけ見るとそうなります。
 やはり強い企業は、今日冒頭申し上げたように、人が育つ企業が強いのです。だから人を中心に物事を考えていく、ということをすることができれば、多分その組織、企業というのは強くなるのではないかなというふうに思います。

 これ自身、もうちょっと深い意味もあるのですが、ちょっと割愛して、それ以外に素晴らしい企業で共通していることが他にもあります。それは何かと言うと、「協力する、助け合う」、このレベルが高いということです。これが極端に高いです。
 例えばホンダクリオ新神奈川の営業部長の話を聴いていて大変面白かったのは、「あなたはものすごい台数を売ってますよね。」何と言ったか。「いやぁ、他の会社だったら半分も売れないと思います」ということをそのトップクラスの営業マンが言われたのです。そして入社して3年の方かな、やはり100台ぐらい売られるらしいのですが、その方にある人が「そんなに売れるんだったら、他のディーラーに行ったらもっと給料が増えるじゃないの。他のディーラーに行けばいいじゃない」と言われたことに対して何と言ったか。「他の会社に行ったら、僕は半分も売れないと思います。」ベテランも、入社数年の人も同じことを言うのです。その基本は何かといったら、「皆で協力して助け合っている会社です」ということを言われる。
 例えば今、ショールーム販売が中心です。お客様が来られます。営業マンとやり合います。その時にお客様はこうだとおっしゃっています。「お客様は何を見られるか。その時、いろいろサービスをしている事務員の人を見ます。サービスマンを見ます。この人たちの動きと言葉を見ている」と言うのです。今、車の購入意思決定権者はほとんど奥様だそうです。もうだんなというのはほとんど何の権限もないと言っていました。実感はあるのですが、それはそれとして…。普段乗りませんから、しょうがないのですが…。女性がショールームに入った時、最初に見るのは女性を見ると言っていました。必ず女性。男のセールスマンなんて見ないと言っていました。やはり女性を見る。その女性がどういう動き、表情をしているか、というのがものすごく大事らしいです。
 すごいのは、こういうふうに書いて彼が言ってくれたのは、「事務、サービス、営業、これが我が社が完全に一体になって動いています。」これが協力する、助け合う。一体というのは一つのボディーになっているということです。一体感。これはすごいですね。この反対が何かと言うと、バラバラ感です。孤立感です。そうですね。
 例えば、昨年行った訪問企業の従業員の方にお話をうかがっていてすごいなと思ったのは、ともかく休み明けの月曜日に出てくるのが楽しいと言う人が多いのです。どうですか?
 ちょっと今から確認してみますね。同じ会社で来られている方、別に隣は見なくていいですから…。月曜日の朝、楽しいというか、前向きで、足が軽く来るか、それとも足重で、「うゎ、月曜日始まっちゃった…」という感じで来るかのどっちかということで、ちょっと確認してみたいと思います。私は足軽、「足軽」という表現は良くないな。フットワーク軽く出てくるぞ、という方? はい。点々々といらっしゃいますね。ちょっと足重だぞ。分かりました、そうですね。まあそんなものだと思いますけども…。
 訪問した企業は、みんな月曜日、楽しいんだそうです。仕事が楽しいのです。仕事が楽しいというのはどういうことかと言うと、仕事そのものもありますが、何が楽しいかお分かりになりますか? 職場が楽しいのです。職場が楽しいのです。事務所に出るのが楽しいのです。これなのです。
 実は足重の方は、職場が楽しくない可能性が高いのです。ちょっと反省してみてください。どうですか? その原因は上司かもしれませんよ。それから課題のノルマかもしれません。まあいろいろあるでしょう。いずれにしても職場が楽しいということが大事です。
 実はこのベースはこれなのです。一体感。ちょっと大袈裟に申し上げます。仕事の重さではないのです。というのは、一つは職場が楽しいということと、個人にインタビューさせていただいていて、月曜日が楽しいというのと、もう一つ基本は自主性のレベルが高いということです。いわゆる、仕事に対して全部自らです。受身でやるという発想がないのです。
 こういった企業というのは、やはり当然のことながら生き生きしているわけです。自主性が高いということは、一人ひとりが成長目標を持っています。自分はこういうことができるようになりたい、このレベルまでなりたいというような、成長目標を持っているというケースがものすごく多いです。
 この反対に、職場に出てきた時に一体感がなくてバラバラだというと、実は仕事の質量は軽くてつまらないものでも職場は嫌になります。なぜかと言うと、どんなに重たい荷物でも、自ら進んでそれにチャレンジする時というのは、それは嫌ではないのです。すなわち自主性、自らということです。ところが人間というのは不思議なぐらい、受身になった途端、どんな軽い荷物でも持ちたくありません。そうでしょう。
 誰か素敵な人が困っている。「荷物をお持ちしましょう。」重たいことは自分にとっては嫌です。でも精神面でその人の役に立つ喜んでもらえると思った時、重たいけれど苦しくないですよね。ところが嫌な人に「ちょっと、それ持ってくれよ。」それが半分の重さであっても、「これですか…」と…。誰しもいやになるものです。
 実は全部絶対的・物理的な重さではなく精神的なものだからなのです。その基軸は何かと言うと、自らか受身かのどちらかなのです。やはり去年学んだ企業というのは、一人ひとりが自らです。トップとか先輩が、若い方たちに対して自ら動くような仕掛けというか、仕組みを作っているということです。
 そういうふうに申し上げると、「大久保さん、うちの場合だめです。まず経営者があれですから…」とか「上司があれですから…。」この方もまた自主性がないですよね。上司がどうこうと言われたとき、私が必ず申し上げるのは「上司が変わることなんて期待しないでください。未来永劫ないと思ってください。あなたが変わったらいい」というお話をよくいたします。やはり相手に変わって欲しいというのは自主性ではないですよね。これまた受身になります。ですから自らどうするかということがものすごい大事だということです。

 例えば沖縄教育出版では、驚きましたが、毎朝朝礼をやっているのです。行ったら分かります。あの会社の朝礼に出るだけで、人が元気になって帰って来ます。多くの会社の朝礼は元気を失う朝礼が多いのです。終わったら、「ふゎ~、よしやっと仕事か…」と言うから何の朝礼かよく分かりません。いろいろ聴くと、上司がすっきりするための時間とか、上司ご高説拝聴会とか、情報伝達会が多いわけです。だからつまらないのです。沖縄教育出版の朝礼はものすごく楽しいです。
 平均して毎朝どのぐらいやるかご存知ですか? 1時間ですからね。化粧品と健康食品の通販の会社で、電話でセールスをする人たち、受注をする人たちがいっぱいいるわけです。席が並んでいまして、その席のままに座って、壁際に誰か立ってやるのですが、ものすごいです。朝礼が平均1時間ですよ。6時間のパートタイマーの方がいらっしゃいます。6分の1は朝礼で終わるのです。働く時間は6分の5です。
 面白いですね。この朝礼をやるようになってから業績が上がり出したそうです。電話でセールスする職種で、ですよ。なぜだと思いますか? 川畑社長はこうおっしゃっています。「みんなでお互いに分かり合うようになったら、6分の5のこの時間の質が変わるんですよ、大久保さん」、掛ける150%だと…。質が変わる。そしてそれが量に転化するわけです。「だから結果的には長い時間働いているのと同じ。だから業績が上がるんです。」
 私自身も二十何人の経営者の方と一緒にお邪魔した時、もう感動の連続でした。とにかく最初は元気になる体操をやるのです。ハッピー体操というのです。「ハッピー! ハッピー! ハッピー!」と叫んでいるのです。普通の人が傍から見たら変です。もう何の集団だろうというぐらいの感じです。ところがその中に入ってしまうとその気になってくるのです。
 ベテランの女性と言うとちょっと差し障りがあるかもしれません、新人に近いベテランの女性が私に対応してくださったのですが、「ハッピー!ハッピー!」とやるその時の目の輝き、まさに奥がランランと輝いていて吸い込まれました。すごいと思いました。
 その朝礼のいちばんすごいのは、何も決まっていないということです。決まっているのは司会者が決まっているだけです。「私、今日司会やりますのでよろしく」と出てきて、次に何と言うか知っていますか?「何かありますか?」これだけです。そうすると100人座っているでしょう。はい、と手を挙げて出て来るのです。「昨日、私はお客さんからこういうことを言われました。みなさんも気をつけてください」というのもあれば、「私こういうことでキャンペーンをやっているのですが、何か良い知恵ないでしょうか?」と知恵を求める人もいる。「私、こういうことで行き詰っていました。そうしたら誰々さんが助けてくれたんです。みなさん、この人に拍手してください。」こんな調子で1時間続くのです。すごいと思います。
 私たちが行った時、何分だったと思いますか? 朝礼が2時間10分。川畑社長は何と言っているか。「ずっとやってもらっていても良い」と言うのです。その間電話は取れないし、セールスできないのです。「構わない」と言うのです。社長は嬉しそうに見ています。その場の雰囲気の良さがすごいのです。大体沖縄の方は明るいですが、その中でも極端に明るい方ばかりです。
 知的に相当重度の方を雇っておられるわけです。どのぐらい重度かと言うと、半分ぐらいの方は聴かれたかもしれませんが、その方は今から3年ぐらい前からですかね、配送センターで仕事をしておられるのです。「今朝、何を食べてきた?」と社長が聞くと「長島」と言うのだそうです。要するにコミュニケーションがとれないのです。長島は食べられませんから朝食にはなり得ないのですが、そういう会話しかできなかった人が、今、知的重度の障害の後輩に仕事を教えているそうです。もちろんパソコンなんてできません。去年「僕もパソコンやりたい」と言ってきたそうです。今、毎日ブログを書いているそうです。「朝何食べてきたの?」「長島」と言っていた人が、パソコンを覚えて、今ブログをやっているのです。川畑社長に言われました。「大久保さん、どんな人間でも育つんですよ。育ててないだけです。」ガクッときますよね。
 配送センターに行った時、また衝撃だったのは、センターの方にいろいろうかがっていたら、「彼らは言われたことの作業は絶対にごまかしません。人の悪口を言いません。うらやましがりません。人の足を引っ張ろうとしません。ひたすら自分の与えられたことをしっかりやろうとするのです。1.0 の働きをしてもらっています」とおっしゃっていました。
 経営者が二十何人で、戻ってみんなで話し合いました。「どちらが障害者なんだろう。心的障害を持っているのは私たちじゃないだろうか。」彼らは害も障りもないです。障害という言葉は適切だと思わなくなりました。普通の人の方が周りに対して障害があるのではないでしょうか。そんな感じがいたします。
 そういう方が働いていて、組織の一体感。沖縄教育出版の場合、結局朝礼が情報共有の場であり、思いの共有の場であり、また自ら考える場であり、全てなのです。そしてそこで一体感が出るからこそ、良い仕事ができる。
 業績はずっと前年比伸ばし続けています。人も増やし続けています。「とにかく沖縄は雇用がないので、雇用を増やすことが大事なことだ」と社長は言い切っておられます。そのとおり、確実に従業員の方も増やされています。
 やはりそこも入っていった時、何と言うのですかね、信じられないぐらい一人ひとりが明るい挨拶をしてくれます。
 この挨拶ができないというのでとんでもない例を聞きました。これは否定的な例なので名前は伏せますが、超一流企業と言われている所です。ずっとローカル、地方で勤務されれいた方でした。地方採用でありながら、ある意味では本社に抜擢されたのだと思います。数ヶ月でノイローゼです。精神的にバランスを崩してしまった。なぜだと思いますか?
 朝事務所に出て行って「おはようございます」と言っても誰も返答がなかったのです。自分が無視されていると思ったのです。以前から勤務している慣れている人は何とも思いません。良い、悪いは別にして、それが自然ですから…。なぜ私が挨拶するのにしてもらえないんだろうかと考え込んで、精神的にバランスを失って、出社できなくなったのです。すごい話ですよね。
 実際多くの大企業で一流ブランドの企業の本社の人というのは、信じられないぐらい挨拶ができません。これも名前ははばかりますが、某超大手の何万人の企業をちょっとお手伝いしていて、そこで入り口に立って挨拶運動というのをやってみました。すごいんです。一流企業だからやる気になると本気になるのです。まずたすきを買いました。それも畳表、イグサで作ったのが通販で売っているのです。黄色の文字下地が黒で「挨拶運動」と書いてあるのがあるのです。別に売り込んでいるわけではないのですが、それをつけまして、数人立ってやるというのをやりました。その会社は今年の三月ぐらいからやっているのです。
 挨拶です。何人か並びます。数千人入ってくるわけです。最初は反応のあった方が半分ぐらいだったそうです。今はほとんど返答するようになりました。その後にガードマンの方の所を通るのですが、それまではガードマンに挨拶する人がほとんどいなかったのだそうです。声を出して挨拶する人はガードマンだけ…。「おはようございます! おはようございます!…」ずっと言い続けていました。あれは修行以外の何ものでもありません。要は無反応ですから、返答がないのにやり続けるというのは修行だと思いました。あれは永平寺以上じゃないかと思いました。あれ以上のトレーニングの場はそうはないのではないかなと思いました。それでも笑顔でやり続けていたのです。ところが今はどうなったか。ほとんどの人がやるようになったのです。
 私もやりましたが、面白かったですね。ただ何千人やって、「おはようございます!」とこっちの顔を見て、スマイルで言ってくれた人というのは15人ぐらいですかね。カウントしてましたからね。カウントする癖があるのです。データでものを言わなければいけないという発想があって…。あと20人に1人ぐらい逃げていくというか、避けるのです。こっちに原因があるのかもしれないですよ。私の雰囲気が良くなかったのかもしれないです。意外だったのは、挨拶しない方は女性が多かったです。男性の方はほとんど挨拶される方ばかり…。

 ちょっと話がそれましたが、やはり、協力する、助け合う、一体感ですね。これができている企業と組織はものすごく強いです。何度も申し上げますが、これがないと、少々自分で自分なりのノルマを果たし、自分なりの役割を果たしたとしても、その組織に朝出て行くのはつまらないと思います。やはり疎外感というか、孤立感の中で仕事をやるということはつまらないのだと思うのです。
 だからさっき、梅原さんが言ったように、人への関心というのが基本です。人に関心を持つ。人に関心を持つ基本は何かと言うと、やはり名前で呼ぶことだと思います。
 この間、信じられない事例を聞きました。あるサービス業です。お客さんの待ち時間が長い。責任者ばかり20人集まっていたので「もう少し短くならないでしょうか」と申し上げたら、「大久保さん、待ち時間は短くなりません。」「なぜですか?」「人員、減らされてますから…。」すごい。「それから、減らされたうちの残り半分が、実は今はパート化ですから…。正社員じゃないんです。」それで?「売る商品が今まで1つだったとします。何倍にも増えて複雑です。説明するのが大変です。それが素人で、かつ全体が減っているのですから、待ち時間は短くならないですよ」と言うわけです。20人のうち19人がそう言われたのです。確かにそうですよね。「でも何とかならないんですかね?」と言ったのです。
 そうしたら1人手を挙げて、「私、実は短くしました」と言う人が出てきました。ある意味では場を乱す人ですけどね…。いるんですよ、こういう素晴らしい異端児が…。
 平均待ち時間、ちゃんととっていたのですね、平均待ち時間65分。いろいろな処理をするという意味ではコンピュータシステムを変えなければいけないわけですが、コンピュータシステムを一切変えていない。人を一切増やしていない。何分にしたと思いますか?5分です。5分にしたと言った時、19人が「信じられない!」「不可能だ!」「嘘だろう?」でも事実。
 ではなぜ5分にできたか。お互いに協力し合って、助け合うようになったからです。お客さんがたまると、フロントの窓口の忙しい人をバックの人が手伝うわけです。当然こちらの人にも教育はしたのだろうと思います。それから用件を聞いて、先に振り分けて窓口を分ける。すなわちちょっと工夫をしました。でもいちばんベースは協力したからなのです。それだけです。65分が5分ですよ。
 私は申し上げました。「みなさんはお仕事が違うんだ。」これ、嫌味ですね。同じ仕事をされていますから…。実はこう申し上げました。「みなさんは短くしようとしなかっただけなのです。」
 今の話から何が学べるかというと、論理的に正しいことが正しいとは限らないということが言えるわけです。人が減って、パートで、商品が複雑になっているから短くなるわけがありません。論理的に正しいです。そして正しくなかったのです。人が抜けている。人の思いが…。そうですよね。だから彼らにこういうふうに申し上げました。「あなたたちはやろうとしなかっただけです。人はやれない理由を言うとき、やらないことを先に決めています。やらないことを決めたとき、人はやれない理由が湯水のように湧いてきます。」
 みんなそうです。やれないことを理路整然と述べる人、やらないことを先に決めているのです。何としてもやろうとする人は、やれない理由を列挙することはありません。それは単なる阻害要因として出すだけです。それをブレイクスルーするためにどうするんだ、というのが出てきます。でもやらないと決めた人は、やれない理由を述べればいいのです。その後は出てこない。
 でも言っている本人さえ、それに気がついていない。やれない理由を言う人が、まさか自分がやらないということを先に決めているとは思わないです。しかし実は決めているのです。だからどうしてもやると決めたら、やはり前向きなアイディアというのは必ず出てくるものだと思います。

 じゃあ、協力しろと…。例えばそこのお店がうまくいっているというので、他のお店から見に来た。店長さんも来た。「見ろ、こうやって協力すればうまくいくじゃないか。あなたたちもやりなさいよ。」やらない。ここが次の学びです。リーダーシップなのです。
 そのサービス業で恐ろしいことを聞きました。拠点長が変わると、お客さんの待ち時間が自然に変わるそうです。何も言わないで…。びっくりしましたよ。何も言わないでお客さんの待ち時間が変わるのです。すなわち人望のない人、あまり好かれない人が来ると、待ち時間がドーッと長くなるのです。それも自然に…。意識的じゃなくて長くなる。逆に、人に適切に関心を持っている人が来ると短くなるのだそうです。常識なんですって…。びっくりしました。拠点長はそんなことは知りません。彼女たちに聞いて分かったのです。
 どうしてそうなるかですよね。それが実は人への関心なのです。リーダーシップということを先ほど申し上げましたが、やはり素晴らしい企業のリーダーというのは人望というものがあります。信頼というものがあります。それなくしてメッセージは伝わりません。もちろんエネルギー、情熱をこめることによって、押し込む力はパワーアップします。しかし最後に受け入れてもらえるかどうかの分かれ道というのは、多分その人への信頼です。この信頼というものがない限りは、大袈裟に申し上げると、伝わりませんから、受け入れてもらうことはできませんから、どんなに正しいことを言っても無意味です。
 大体その業界では1年半から2年ぐらいで交代するらしいのですが、責任者の転勤の際には歓迎会をやるそうです。その方は一つのお店を担当するようになった時に、パートの方にも常に全部来てもらうそうです。そして宴会の席上で全員にビールを注いで回るのだそうです。「何々さん、よろしくお願いしますね。」「何々さん、よろしくお願いしますね。」飲み会の席ですから、当然名札はついていないわけです。就任して1日、2日です。
 ご本人、こうおっしゃっていました。「大久保さん、100人を超えた拠点を担当した時には、僕は全部言えませんでした。50~60人、70人ぐらいまでは何とかなったのですが…。」50人から70人の顔と名前を1日、2日で覚えているのです。人への関心…。
 ところが多くの人は人に関心を寄せないで、「私はこうやるぞ、ああやるぞ」、ビジョンを示して、「さあ、やれ。」誰がやるか…。根底が抜けているのです。人が抜けているのです。
 例えばこう言う人がいます。「そこのパートさん!」あくまでも名前で呼ぶことです。「パートさん」なんていうのは抽象名詞でしょう。そうですよね。すなわち「パートさん」と言っている人は、人に関心がないのです。そこが分岐点なのです。
 でも彼は自慢気に言いません。ずっとインタビューしていったらやっとその話をしてくれた。そしてそれがどんなにすごいかとかを彼は全く認識していない。「だって名前ぐらい覚えるの、当たり前じゃないですか」、これでお終いですから…。他の拠点長でそんな人はいません。
 すなわち私自身もそこから学んだことは何かというと、人の心を掴むのではなく、相手から自分を掴んでもらうことが大事なんだなと思いました。こっちから掴むことはある程度できるのかもしれない。でも掴んで振り回すのは相手の自主性がないのです。向こう側からこちら側を掴んでもらって、掴んでもらったらどうなるかと言うと、相手はこちらの気持ちが分かるわけです。そうしたらその相手に自分の思った気持ちのとおりに動いてもらえるのです。ということが自分の学びでした。そういうことか…。
 そこからもう1つ、別の言葉で表現しますと、どれだけ相手に関心を持つか。もう1つ、どれだけ相手を理解するかということです。相手の理解のレベルによって、人は全く行動が変わります。
 例えばみなさんの職場でも、いまいちだな、という人がいらっしゃるでしょう。理解することです。その人にはその人なりの言い分と思いが絶対にあるのです。ない人が万に一人はいるかもしれないですよ。でも多分万に一人です。基本的にはあるのです。
 私自身はいろいろな企業で1.5日の合宿で、ほとんどリーダーシップ研修が中心です。そこからいろいろなことを教えてもらっています。「大久保さん、そうは言ったってダメな部下はいるでしょう。あなただっているでしょう。」「います。」「世の中いますよね」「います」と言うと、そこで何かえもいわれぬ共感が起こります。そうか…。「ただし言葉が性格ではありません。言葉はこういうふうに置き換えてください。『私ではだめな部下』。絶対値として「だめ」をつけないでください。あなたでは能力を伸ばすことのできないだめな部下なのです。あなた以外の人がリーダーになったら、そのだめな人は変わるかもしれません。」
 実はこれは教えていただいたことなのです。ある方のリーダーの話を聞きました。ある組織を担当して、3人のうちのいちばんベテランの一般職の人が全然業績が上がらない。組織全体の足を引っ張る。3人のうちの1人がマイナスだからその拠点も業績が上がらないというところがあります。この拠点長になった人、一人ひとりに徹底して話を聴きました。この3番目の人の話を特に聴いたのです。聴き終わった時、こう言われたそうです。「拠点長、お話を聴いていただいてありがとうございました。歴代の上司で初めて私の思いを全部聴いていただきました」だったそうです。3ヶ月目、その人はトップの業績をあげるようになり、その組織全体を引き上げることになります。そして今、その人は不可能だというビジネスをどんどん実現されているそうです。わずか半年で…。そのきっかけは何か。人の話を聴いてあげた。その人の思いを聴いてあげた。能力がなかったのではない。上司が出させてなかったのです。こういう話をここのところ何件も聞きました。
 「あの人はだめだ」と言ったら、それはだめだと言う人が傲慢です。間違いです。「私ではだめだ」と言ってください。「私では彼の能力を伸ばすことができない。」人が変わったら変わるのです。そういうことですよね。
 別のケースでも全く同じケースがありました。大きな組織で、どうしても足を引っ張ってしまう人がいました。人事部門も気にしていて、「あの人を代えよう。あなたも責任者としてやりにくいだろう。」「ちょっと待ってください。私が半年預かりますから、もうちょっと待ってください。」半年預かっている間に、その人が組織を良い方に引っ張るようになる。
 実はその人はどこに行っても人を再生しているのです。歴代の上司が全部×をつけた人です。×が5つも6つもついている人が、その人が来た時から○しかつかなくなりました。何が変わったのだと思いますか? その人の能力は変わっていません。意識が変わるのです。なぜ意識が変わったのですか? 自分を理解してくれたから…。やる気のない人は必ず、自分は理解してもらっていないと思っています。そうなのです。だからそこを理解してあげることです。
 私のリーダーシップ研修なんていうのはたいしたことありません。大げさに言えば、「もうとにかくリーダーは明るくありなさい。笑っていればいい。あとは部下の話をしっかりと聴いたら良いです。」申し上げているのはこの程度です。現実にそれをやるだけで組織が活性化しますから…。下手に指示を出すから迷うのです。いちばん良いのはリーダーがいないことです。いないと組織が明るいです。「どうしたら明るくなるんだ?」と聞いたら「あの人がセミナーに出ている時は事務所は明るかったんですけど…。」実際にあるわけです。
 この間も面白い話を聞きました。ある大きな会社で責任者になった支社長が研修を受けなければならない。1週間か1ヶ月か分からないけれど、とにかく缶詰です。その方はつねに、一人ひとりの営業マンに「数字はどうなっているんだ?」「数字はどうなっているんだ?」と確認している方です。専務の人が「一切現場に連絡を入れるな。あなたはここにだけいろ。電話をしてはまかりならん」と言ってやった。確か1ヶ月。1ヶ月経った。その組織始まって以来の業績だったそうです。それで専務もお祝いに駆けつけて、明日から支社長が戻るといった時に、若い方が「明日から元に戻っちゃうんですよね」と暗く言ったという…。
 その人が朝昼晩チェックしているのは何のためだったか。簡単です。やる気をそいでいただけです。いなかったら最高の業績だったのですから…。そうですよね。てな話は結構あるのです。
 ところが、自分がチェックを入れているからこそ、ここまで業績を上げてやる気を引き出していると思っている人がものすごく多いです。大間違いです。あなたがいないのがベスト。
 私の『二十一世紀の残る経営消える経営』にも書かせていただきました。なぜ部下が伸びないのか。あなたが頭を抑えているから。あなたがスカートを踏んでいるから。あなたが足を引っ張るから。
 意外と上司で多いのは、部下が苦しんでいるときに、ここ(首)にロープがかかっているときに「楽にしてやるぞ」と足を引っ張る人がいるのです。確かに楽にはなります。ずっと楽になってしまいます。例え話ですけど、本当なのです。実はそうやって部下を殺している人がいるのです。「楽になったか? 息吹き返せ!」って、もうだめですよね。なぜか分かります? 状況を見る能力がない。観察力が弱い。状況判断能力が間違っている。そういうケースというのはものすごくあるのです。
 やはりリーダーというのは、もちろん適切な判断をする。そのためにはどうしたらいいかというのは、ちょっとこの場でお話ししている時間がないので、PHPから出ている『仕事の壁を破るヒント』に書いておきましたので、あれを是非お読みください。あそこに短い話が60話ほど入れてありますから、そこをちょっとご覧いただければご理解いただけると思いますが…。
 リーダーとしては、今申し上げたように適切な判断とか能力は要るのですけど、いちばんベースは、私は人に関心を持ってほしいなと思います。。人に関心を持つことです。そしてある意味リーダーはもう少しオープンになっていいな…と。

 昨日もある会社の幹部研修をお手伝いしていていました。これは県でもよくさせてもらっています。知事以下の合宿研修、知事と部局長が集まっての合宿研修というのをいくつかの県でさせてもらっています。自分にとって誠に恵まれたことだと思います。東北の県に行ってよくやっていますが、そこでは何回目になりますか・知事、副知事、出納長、いわゆる三役、あの方たちも全部出てきてくれます私の条件は、上から全部参加が条件です。そうでないと意味がないということで、そして一泊でやる。どこの県をお手伝いしても、知事以下の合宿研修などは県始まって以来といつも言われます。とにかく部局長さんたちが全員研修を受けるなんて考えられないと言われます。
 よく私がやるのは、一般の職員、企業であれば一般職、ノンマネージャーの方たちを後ろに置いて、幹部相手にずっと双方向のやり取りをします。おとついも出ましたし、先週もある有名な企業で役員の合宿研修を仰せつかってお手伝いしたのですが、全く同じコメントが出ました。そのコメントは何かと言うと、全く同じコメントが出ました。そのコメントは何かと言うと、「後ろで聞いていてどうでしたか? 普段の上司の姿と今日の姿…。」何と言うかご存知ですか? 「上司も人間だったんですね」というのがいちばん出るのです。要は上司は血も涙もないと思われているのです。そして「上司が悩んでいるとは思いませんでした。」すなわち部下の育成で、ね。組織運営で悩んでいない上司なんていないわけです。悩んでいない、鬼のような存在だと、手を切っても血が出ないと思っているのです。本当なのです。手を切ったら鉄が出てくるように思っているわけです。
 実は行政でも教育の世界でもお手伝いさせていただいたことがあります。企業も大中小、ともかくいろいろな所で合宿研修をさせていただいているわけです。研修といったって、私が質問して、質問した内容で出てきた参加者の発言を書いていて、「どうぞ考えてください」とやっているだけです。別に大したことをやっているわけじゃないんですよ。でもそういう場をご覧いただくと、とにかく「人間だったんですね」というのがいちばん多いです。何だと思っていたのでしょうか。上司のことを化け物だと思っているかもしれません。すなわち分かっていない。分かり合えていないのです。
 だから私は今週も先週も思ったのは、やはり上司は上司でもっと自分の悩みを、もっとも朝から晩まで一週間、悩みを部下に打ち明けられても、部下も「この人は無能だな」と思ってしまいますからね、やりすぎはいけないでしょうけど、適度にオープンにして裸になるというのはものすごく大事じゃないですかね。だって同じ人間ですもの…。そういうふうに思います。
 私の場合は、別に今こういう自由業をやっているからというのではなく、昔から職位と肩書きで見れない性分ですから、どんな人に対しても「人」という目でしか見れませんから、だから誰に対しても多分そう変わっていないと思うのですが、やはり一人ひとりがお互いに人を見るようになっていただくということがものすごく大事じゃないかと…。分かり合うというのが大事です。

 分かり合うにはどうしたらいいかというと、沖縄教育出版は毎朝朝礼でやっているわけです。1つは、多くの企業では、面談という1つの仕組みを作ってやっています。あれはあれで良いと思います。ただし多くの面談はまた上司ご高説拝聴会になるケースがあるので、あれは面談とは言いません。本当の面談というのは部下が9しゃべって、上司が1ぐらい、というのがいいですね。それぐらいの比率でやらないとだめだと思います。私がいちんばんお薦めしているのが「対話」です。
 経営品質のいわゆる8つの基準を使ってアセスメントをやっていくときに、いちばん私が重要視している価値、バリューは何かと言うと、8つの基準に照らし合わせて経営を見ていくときにお互いに論議する。これがいちばん価値だと思っています。大袈裟に言うとそれだけでいいと思っています。なぜかと言うと、常日頃はそういう観点で論議していませんから…。
 例えば「うちはお客さんのことを分かっているのか。」「どうやって分かっているのか。」「把握している方法をリストアップしてよ。」「これで本当に分かるのか。」「うちは本当にマーケットを理解しているのか。」というようなことをずっとしゃべって、みんなで論議するだけでもいいじゃないですか。
 よしんば分かったとする。「分かった結果というのは、その情報はどこに行っているのか。」「商品やサービスに反映されているのか。」「あまり覚えがないな。」「まずいな。」こういうのをお互いに語り合うことです。これがものすごく大事だと思います。
 だから私自身はアセスメントでいちばん重要視しているのは…。(ただし雑談会だけではあまり意味がないのですが)。やはり経営という観点で重要な角度からものを見る。ものを見るだけではなくて、お互いにそこで意見交換をするというのがものすごく大事だと思います。
 どれだけ分かり合えるかというのは、これはもう対話しかないと思っています。そして分からないとすごく不幸になります。ものすごく不幸になります。ちょっとしたことが分からないとだめですね。
 これはこの間、去年かな、研修でいただいた事例です。20代で結婚されて3年目に離婚を決意されたという男の方がおられました。もう40前後だったと思います。理由は何かと言うと、朝、奥さんが「いってらっしゃい」と言ってくれない3年間の不満です。これだけで離婚決意です。「他に不満は?」と言うと、「いや。他に強いてあげると…、あ、あります。帰った時に「おかえりなさい」と言ってくれない。」「他には?」と言うと「ない」と言うのです。
 私はその方の言葉がものすごく重たいなと思ったのは、「人間というのはつまらないことの積み重ねがとんでもない決断を下すんですね」と言われた時、「そうだ」と思いました。朝「いってらっしゃい」と言ってくれないだけですから…。
 この質問は合宿研修で必ずさせてもらっています。「おたくはどうですか?」いろいろな答がありますね。いちばん多い答は「大丈夫です」という答が結構あるのです。大丈夫かどうか聞いていないのですけども、「うちは大丈夫です」とか言っています。それから「うちは寝てます」とか、ひどいケースはこんなのもありました。奥さんからこう言われたそうです。「眠たい目をこすって、あなたに『いってらっしゃい』と言うのと、私が清々しく起きられるのと、あなたはどっちがいいの?」選択を迫られたケースもあるという…。いろいろありますね。
 その質問をしたら、どこかの県の知事さんなんか面白いですね。もう「いってらっしゃい」も「いってきます」もないですね。その方は毎朝「よっしゃ!」と掛け声をかけて、四股を踏んで出るとか…。知事もいろいろな方がいらっしゃるなと思いましたけども…。
 それ以外に、単身赴任の場合は「いってらっしゃい」はないですよね。それはそうです。毎朝あったら変ですからね。ところが単身赴任でもあるのです。毎朝電話している人もいるのです。この中で単身赴任の方、コミュニケーションがとれない? それは違います!それはとっていないのです。本当にとろうとしたら、今は電話があります。そしてほとんど奥様も携帯を持っておられるはずです。どこにいても連絡はとれるのです。毎朝電話とメールでやっている方、結構いらっしゃいました。そして家に帰ってきたら「ただいま」と言っている。うがった見方をすると、ちょっと確認されているのかなというのもあるのだけれど、それは別にしまして、あるのですね。ちょっと話がそれてしまいましたが…。
 その方が、なぜ言ってくれないんだというのを、離婚届の書類を出す前に確認したそうです。理由は何だと思いますか? すごく簡単です。「あなたが『いってきます』と言わないから…。」それだけだったそうです。「翌朝から『いってきます』と言うようになったら、言ってくれるようになり離婚せずにすみました」と言っていました。
 このケース笑いごとではありません。実はここは笑うところではなくて、真剣に考えるべきところです。僕は全然笑いはしませんでした。ガーンときたのです。すごい事例だ!思わず握手を求めました。「素晴らしい事例をありがとうございます!」
 すなわち何かと言うと、お互いにちょっとしたことが分かっていないと、不信と不満と不安が生まれるのです。ちょっとしたことが分かっていないと・・・。そしてこれは全ての組織で、組織間で常に生じていることではないか。組織の中でも隣の人と同じことが生じていないか。多分生じている。そうですよね。だから笑いごとではないのです。
 大切なのは1つのいろいろなことから気づくことなのです。そういう事例を聞いたとき、どう自分で頭を回転させていくか。もう自分の場合は癖になっていますが、すごいな・・・。
 逆にお互い分かり合っているとどうなるかと言うと、さっき言ったように協力し合えるのです。許し合えるのです。その範囲が広がります。何を申し上げたいか。お互いに分かり合っているということは大変なことなのです。組織の目に見えない土壌になります。その土壌が豊かであれば、すなわち分かり合っているレベルが高ければ高いほど、土壌に植えられた、撒かれた種とか苗というのはよく育つということです。良い実が実る。
 ところが多くの所は、そこは土壌で目に見えない世界なのでほとんど焦点を当てません、力を入れません、時間を割かない。そして目の前の仕事だけを処理する連続になる。実はこれはものすごく生産性が低い。お互いに分かり合っていないから不具合が出ますよね。手戻りが多くなるのです。
 何を申し上げたいか。お互いに分かり合うための時間を作っていただきたいのです。お互いに話し合うことです。正確に言いましょう。話し合いではなく「聴き合い」です。どこまでお互い聴いてあげるかです。要はお互いにどれだけ相手のことを理解できるか、ということに尽きるなと最近は思っています。
 さっき申し上げたように、人は理解された時、ものすごいやる気が出ます。話を聴いてくれないというのは最悪みたいです。一流企業でも、辞めた理由の9割が上司が話を聴いてくれない。たったそれだけです。
 ですから組織の中において、お互いに分かり合う場をつくる。やはり優れた企業というのはこれがきっちりととられているのです。
 ホンダクリ新神奈川の相澤会長なんかは面談の時間なんかは設けません。普段の雑談の中でじーっと耳を澄ませていると本人は言っていました。多分今までそんなこと、従業員の前では言ったことがないと思います。「あえて面談という時間はとりません。雑談の中でこの人は何を考えているか、どんなことで悩んでいるか、家庭状況はどうなっているか、それを全部確認するようにしています。」これは最高の確認の方法です。すなわちやはり相澤会長も一人ひとりをとても深く理解されているのです。
 バグジーの久保さんもそうです。年に1回、誕生日に筆で長い手紙を書く。今従業員は100人以上ですから、3日に1回、あの長い手紙を書かなければいけない。よほど相手のことが分かっていないと書けません。抽象的な「いつもいつも努力してくれてありがとう。どうでこうで、、、。」と抽象的な羅列で、宛先だけ変えるようなものというのでは受け取った相手に何かを感じてもらうことはできません。
 やはり常日頃その人のことに関心を持って、その人のことを知っている、情報を持っている、思いやりを持っているということがベースにあって初めて人に動いてもらうことができるのだと思います。
 ですから私自身学んだことは、ホンダクリオ新神奈川の方がおっしゃっていたのは、バグジーもそうです。「お互いに思いやる力が違います。お互いに思いやれるのです。」なるほどな、という感じがします。それから「ともかく社員同士が楽しいのです。お客さんが楽しいだけではだめだ」と言っていました。
 ホンダクリオ新神奈川、ネットトヨタ南国、バグジー、沖縄教育出版もそうです。社員同士が楽しい職場というのが大切なのです。そのためには、堂堂巡りになりますが、お互いが分かり合っている、お互いが助け合っている、協力し合っている、ということではないかなと思います。その対局にある組織というのは多分つまらないです。少々仕事ができたとしても、いまひとつ足取りは軽くなれないのだろうというふうに思います。

 今、3時35分ですから、3時50分まで、15分休憩をとります。もしご質問があれば、ちょっとメモをとっておいていただければ幸いです。

<休憩>

 たくさん質問をお寄せいただきまして、ありがとうございます。結構ありますね。例によって全部お答えできるか分かりませんが、お答えできる範囲でいくつかお話をさせていただきたいと思います。
 最近目が少々見えにくくなりましてですね…。
 質問:「ベテラン社員になると、ご指摘のとおりやれない理由を述べる者がおります。そのような部下にどうやる気を起こさせ、気がつかせることができるのか。ベテランが故に難しいのですが…。」
 字がとても謙虚な字で小さいのです。この人の人間性が出てるな。きれいな字で小さく書いてありましてね。
 要はベテランの方が部下なのですね。これ、書かれた方、いらっしゃいます? ちょっとあれですかね。部下が横にいたりしてですね・・・。そのような部下にどうやって気がつかせるか。
 気がつかせるというのはとても難しいです。難しいですが、でも気がつかせないとだめなのです。基本的に人は教えてもだめです。もちろん作業を教えるとか、そういうのは別です。でも気がつくべきことを教えるというのはもう滅茶苦茶難しいです。教えて、言葉で指示して人が動くのなら、こんな楽なことはありません。人は教えたとおり、言ったとおり動かないものだと思っておいてください。大袈裟に言いましょう。言ったとおり動くのなら、学生アルバイトでマネジメントができるのです。「みなさん、お客様が大事です。お客様が来られたらにこやかに挨拶をして、きっちりお見送りして・・・。事務所をきれいにして、どうこうやって、商品はこのように磨き上げてください。よろしくお願いします。」なぜきれいにしないのですか。なぜ挨拶しないのですか。人は言ったとおりやらないのです。
 何をやるかと言うと、自分がやりたいことをやるのです。ですから自分がやりたいことが、こっちがやってほしいこととどういうふうにイコールに持っていくか。そこが工夫なのです。ともかくベースは、私がマネジメント研修で申し上げているのは、「人は言ってもだめ」これだけ言っています。
 「ともかくしっかりやれ!」しっかりやれと言ったらしっかりやるのですか、ということです。「あれほどしっかりやれと言ったではないか。」ほとんど意味のない言葉ですね。だって「しっかりやれ」なんて中学生の子供だって言えるじゃないですか。「お父さん、しっかりやって。あれほどしっかりやってと言ったじゃないか。」そう言っているのとレベルが変わらないじゃないですか。
 どういうことかと言うと、そっちの向きに動くようにもっていくことが大事なのです。これは上司であろうと、部下であろうと、リーダーであろうと、一般職であろうと、一切関係ありません。動いてほしい人に動いてもらうには、動くべき方向を指示するのではなく、そっちに持っていくことなのです。そのためにやはり気がつかせるということが大事です。どうやったら気がつかせることができるかと言うと、これは気がつく環境条件を整えるしかないですね。
 例えば暗い人がいたとします。「あなたは暗いです」と言った場合、ほとんどの人は「そうですか。」絶対に自分が暗いとは思わない。簡単です。どうしたらいいか分かります? 知らん顔をして後ろに鏡を持って行くのです。そしてバッと出すのです。「これがあなたの顔です」と・・・。その中で「こんなに良い顔をしてたか」と言う人はほとんどいません。
 この間もマネジメント研修で暗いということが課題の方がいらっしゃったのです。上司から「お前の所はお前が暗いからだめだ」と言われている人です。本人の認識はない。「私は暗くありません。」気がつかないのです。「暗い」と言っているのに「暗くない」と言っているのですから。
 ところがその方は、合宿ですから夜、ホテルの一室で書類を読んでいたのです。ホテルには鏡がありますでしょう。チラッと見たら、なんと自分の表情は暗いことか・・・。翌朝おっしゃっていました。「僕の顔は暗かったです!」嬉しそうに、しゃべっていました。それも明るくね・・・。
 要はパソコンに臨んでいたり、書類を読んでいる時、いかに暗い表情で見ているかということがその時初めて分かったのです。それまではだめです。
 気がつかない人に気がつかせる方法の1つは、本の宣伝で恐縮ですが、私の本の中に『自分が変われば組織も変わる』という本があります。あれを読んでいただくと良いですね。いかに人は自分が思っている姿が他人が見ている姿と違うか。
 簡単な例で言えば、「あなたはよく怒りますよね。」「いつ怒った!」とやっているやつです。言われた瞬間に怒っているのだけど分からないのです。そういう事例が実例です、ずらっと並べてあります。「俺はいつも人の話を聴いているだろう。」「そんなことはない・・・。」「聴いているだろう、聴いているだろう」とずっとしゃべる人がいる。分からないのです。そういう事例をずっと並べてありますから、それを読んでいただくと少し気がついていただける可能性があります。残念ですけど保証はできません。
 というのは実際にその本をある一般職の方が読まれました。その方の上司が朝から怒鳴るんですよ。いつも仏頂面、暗い。悪い事例がドンピシャ全部当てはまるという上司がいたのです。でも全部はしょうがないというので、5ヶ所にポストイットを貼って「課長、是非お読みください」とその本を持って行ったのです。課長が何と言ったと思います?「良い本だな」と言ったそうです。「部長が読まなきゃいけないな」と言っているのです。いや、本当の話ですよ。それで今度課長は、丁寧にポストイットの場所を変えてですよ、「部長是非・・・」と言ったら部長は怒らないのです。「これは役員が読まなきゃいかんな。良い本をありがとう。」あの本には自分に指を向けろと書いてある。そこだけはパスして読むのです。なかなか難しい。
 ただしそれを読んで変わったケースがあります。いちばんすごいのは、本を置いておくだけで組織が変わったという、これは去年事例をお話ししたかもしれません。その本を社長が机の上に置いておいただけで会社が変わった。信じられない。お守りみたいでしょう。置いておくだけで・・・。何か信じられない世界ですよね。
 それは「聴く姿勢があなたを楽にする」とか「聴くことがいかに大切か」というのが表紙の見出しに出ているわけです。それをその社長が研修であてがいぶちで与えられたのですが、読まないで机の上に置いておいてそのまま2,3日出張してしまったのです。部下は勘違いしたのです。社長があの本を読んでいる。きっと話を聴いてくれるんだ。これは誤解です。社長が戻ってきたら「社長、ちょっとお話をしたいことが・・・」と3人ぐらいで会社を良くするアイディアをぶつけたのです。かつて社員からアイデアが出てきたことはなかったのです。そしてそれをやっていくことによって良くなったという本当の事例なのですが、その社長曰く「大久保さん、この本は置いておくだけで会社が良くなりますよ。」私が言ったら説得力がないのですが、その人が言っていることなのです。山口県の方です。そういうのを置いていただけると良いと思いますがいかがでしょうか。
 結論から言うと、気がつくきっかけ、条件、状況をどう作るかです。そして気がつくべきところを指摘してもだめですというふうに思っておいてください。ましてや年配の方に、とか、上司の方に、とか、社長に、と言っても無理です。無理なのです。だからそういう状況、条件を作ることだとお考えください。そのためには工夫、そのためには工夫をしないとしょうがないというふうに思います。
 質問:「人が育つ企業が強いというお話がありましたが、具体的な事例を教えていただければとお願いします。自主性も人それぞれだと思いますが、自主性を向上させる良い仕組みがあればお願いします。」
 仕組みとしてやっている企業も現実にあります。住友3Mなんていうのは失敗した事例をお互いに発表する大会があって、それで表彰を受ける。その中から出てきたのが「ポストイット」ですよね。失敗事例を話すことによって、誰かがそれを使う。その失敗も1つの研究投資。それをお互いに活かし合う場があるというと、自主性というか自ら、というのが出てきます。
 やはり減点主義の所では、自主性を育むというのは大変難しいと思います。
 それから環境条件で、組織の中でのいちばんの環境は上司です。上司がいちばんの環境です。だから伸ばす環境かどうかというのは、上司が伸ばすか、伸ばさないかということになります。
 自主性を向上させるときの1つは、やはり任せることです。本人に考えさせることです。実際にあの本の中にも書いておきましたが、こういう課長がいらっしゃったのです。課員を集めて「おい、このテーマで論議してくれ。みんなで論議してくれ。私はこう思うけどな・・・。でも、あれだ、みんな自由に発言してくれ。」誰も自由にできないということです。なぜかと言うと、課長がこうだと言ったのがもう結論ですから・・・。これは自主性をそぐ典型的なものです。「でも自主性が大事だから、みんな考えてくれ。」最初、自分はそいでいることが分からないのです。これはもう×です。
 やはり任せること、基本的には考えてもらうことです。考えるためにはテーマを与えることです。そのテーマ設定もものすごく大事になります。ただし任せてはいけない人に、任せてはいけないことを任せてはいけません。これは任せる方の知恵が不足しているのです。「私は基本的に任せる主義です。」この間ある社長がそう言った時、相澤会長がこう言われたのです。「やはり任せないといけませんよね。」「そうです。ただし、任せるレベルまで教育しましたか?」と言われていました。
 ご承知のように、CS№1のザ・リッツ・カールトン大阪は、クレーム1件当たり20万円について従業員全員に自由に裁量権があるわけです。瞬時に誰でもジャッジ、判断を下せるわけです。任せてあるわけです。それに対して心配がないのか。ブロックスのビデオにありますよね。「そんなことを従業員に任せて心配ないんですか?」と言った時に、総支配人は「ノー!」と即座に答えます。「心配ない。なぜならば、私たちの価値観、考え方を十分教育し、理解してもらっていますから大丈夫です。」
 だから任せるというのは、その価値観、判断の軸、情報、そういったベースを共有化しておくという前提があって初めて成り立つことなのです。それなしにただ任せるというのは、放り投げるというのは、これは無責任ということになります。だからその前段を整えることが必要になるだろうと思います。
 それからもう1つは、任せた時に失敗から学ぶということは大変貴重な学びであるわけですから、失敗しそうな時に自主性を高める1つの方法は、上司が平然と失敗させるということも大事なわけです。そうした結果会社がひっくり返ってしまうようなのはだめです。上司がリカバリーできる範囲での失敗、という前提がつきます。そういう前提であれば、失敗してもらうというのも、やはり本人に考えさせることになります。
 何よりもやはり、人は自分で考えたことの方がはるかにやれるのです。これも、マネジメント研修に出られた方が事務所に戻って、「これからはみなさんの自主性とアイディアを尊重するぞ」とやったのです。それで持って来たアイディアが100点満点で言うと30点。穴だらけ・・・。ところが約束したのです。私の研修に出た後で、ちょっとカッカ、カッカしていたせいもあるのです。「みんな笑顔だ!」とか、突然変わるとおかしくなるケースもあるのですが、とにかくずっと怒っていた人が突然笑顔になるとかえって怖いということもあります。まあそれは別にしまして、30点のアイディアだった。「でも大久保さん、私、部下に約束したので、好きにやってくれと言ったのです。なんと結果は70点でした。私は今まで100点の指示をしました。結果、できばえは30点でした。どうしてこうなっちゃうんでしょう?」
 理由は明解ですね。前者は自主的だから・・・。30点のアイディアで実現していこうとすると20点のレベルになってしまう。何とか努力するのです。だから70点のレベルまで上がる。片や100点のアイディアは受身だから、指示だから、うまくいかなかったら「あなたが悪いんだもんね」というのがどこかの潜在意識に働くわけです。やらない方向に人は動いていく。だから結果が30点のできばえなのです。極めて納得できることです。
 その人は不思議だと言っていましたが、僕には不思議ではありません。それは社員の、部下の方の自主性というところがキーです。そういうことですよね。やはり人は自分で考えたことは努力できる。
 星野リゾートを立て直された星野佳路さん、NHK テレビ「プロフェッショナル」1回目で放映され、そして好評ですぐ再放送されて、ビジネスセミナーでもよく講演されています。超有名人の方です。番組をご覧になられた方も多いと思いますが、負債が相当大きい、倒れたか、倒れる寸前のホテル旅館を立て直しに行かれるわけです。立て直しに行った時には優秀な社員、従業員というのは上から半分以上辞めている。でも彼は「残った社員は宝だ。残った社員が主役だ」というのでやるのです。
 私もあれを見てものすごく勉強になりました。伊東にあるいづみ荘だったかな、40億円の負債のある旅館を立て直すの、よくカメラがあそこまで入ったなと思います。何ヶ月間もずっと入っていたのです。最初にインタビューした時の副支配人、赤字の顔ですものね。顔が赤字、あるんですね。そしていろいろな仲居さんにインタビューする。赤字の仲居さんなんですよ、やっぱり・・・。
 それでもみんなで論議させるという方向にもっていくのです。全員が突っつき合いです。「あなたがやらないから・・・。」「私はこんなに努力しているんだ。あなたが・・・。」「あなたこそが・・・。」もうお互いに指の指し合いです。これ、ずっとカメラが入っているのです。すごいですよね。ところが星野佳路さん、平然と見ているのです。
 しばらくすると意見が変わってくるわけです。あれがどれぐらい、何ヶ月経ったかは僕も分かりません。どんどんアイディアが出てきます。この旅館をこういうふうにもっていこう。こうしたらもっと良くなるじゃないか、というアイディアが出てくる。そうすると星野さんはどうするか。リュックを背負って他の所へ行ってしまうのです。カメラが追いかけるわけです。「星野さん、まだ再建始まったばかりでスタートしてないじゃないですか。」彼は何と言ったか。「もう彼らは自分たちでアイディアを出すようになりました。自分たちで考えるようになりました。もう大丈夫です。僕は次の所の再建に行きます。」そして最後のナレーション、「その後この旅館は改善しだしました。」
 見事ですよね。感動しました。何回も見ました。すごい人間力の持ち主です。四十五歳です。怒ったことがないです。徹底して人の意見を聴き出す。そして映像の強さです。一人ひとりの意見を聴く時の表情と姿勢が出るわけです。穏やかです。納得して聴くのです。
 聴くことが大事だと言ったときに、こういう人もいます。「何でもいいから意見を言ってみろ。」背中がそりくり返っている。あれ、言うなというのと同じですものね。傾聴というのは前にかたがることを言うのであって、後ろにかたがるのは傾聴とは言いません。前にかたがって聴く。
 そして真剣に部下の話を聴くときには、部下でなくても他人の話を聴くとき、真剣に聴く基本は何か知っていますか? みなさんのようにメモをとることです。常日頃部下の話を聴くときにメモをとっていますか? それは素晴らしいリーダーです。よしんばそれが全然関係ないことを書いていたとしても・・・。なぜか分かります? メモをとりながら聴いてくれるというのは、認められているということになるのです。ところがいちばん良くないのは、「はぁ・・・。あ、その程度か、お前のアイディアは・・・。やっぱりな」とか言って、自分が偉いことを言って何の意味があるんだということです。愚かなリーダーですよね。リーダーとは言えないですね。
 だから自主性を育むという意味では、いろいろなことを考えてやっていく必要があると思います。失敗したときに、失敗を責め合うのではなくて、理想を申し上げますと、どうしたら補い合えるかということをお互いに考えることでしょうね。そういう組織になったらものすごく強いというふうに思います。

 また出てきた、同じようなのが・・・。「自主性を尊重しようと部下に自由にやらせてみたのですが、思うようなパフォーマンスをあげることができません。」出たー!という感じですね。いいですね、こういうの・・・。「実行とその成果を細かくチェックし、管理面を強化すべきか悩んでいます。どのようにバランスをとったらいいのか、アドバイスをお願いいたします。」これ、一言では言えないんですよね。
 まず、「自主性を尊重しようと部下に自由にやらせてみた。」よろしいですか? 本当に自由にやらせたのかどうかは分からないのです。何百もの事例を持っています「私は部下に自由にやらせています。」という方の部下にインタビューします。自由にやらせてもらっていますというケースは100に1つありません。だから自分は自由にやらせているつもりだけど、やらせていないことがほとんどなのです。「私はあなたに任せたからな。」翌日になって「どうなった?」と聞く。これは確認だからいいですよ。「そうか、こうやったらどうだ? あ、任せたんだ・・・。」それは任せていないのです。そのパターンをやっている人はものすごく多いのです。だからまず冒頭に、「自主性を尊重して部下に自由にやらせてみた」というのが本当かどうか分かりません。
 「思うようなパフォーマンスをあげることができません。」この間、マネジメント研修でこういうのが出ました。マネジメントがみんな、「やはり一言かけて、認めて、褒めることだ。私もやってみました。褒めれば褒めるほど業績が落ちています」と言うのです。「そうですか。」そして次にまた別のテーマで話し合ったら、「やはり部下の話を聴くことですね」となったのです。「大久保さん、僕もそう思ってずっと面談で聴き続けたのです。さらに業績が落ちています。」毎回ひっくり返す人が出てきたのです。これがセミナーの質を高めるのです。嫌味じゃなくてね・・・。もうそういうのは慣れていますから、全部分かるのです。
 その人は全部勘違いしているだけです。絶対にできていません。1.5 日やって最後に分かってもらいました。「話を聴くぞ。早く言え!言わないか!」これが聴く姿勢か、ということです。言われてみれば「言え!」と言っています。しかしその時の顔は怒っているわけです。顔は「言うな!」と言っているわけです。口で言えと言っても、顔で言うなと言ったら、言葉より顔の方がインパクトがありますから言わないわけです。ともかく話を聴いているつもり。その人は幸いにも全く聴いていないというのを研修の最後に理解してもらいました。褒めているつもり。褒めていないです。本人から褒めたつもりだけど、相手から見るとばかにされている状況なのです。
 何を申し上げているかと言うと、自分がこういうふうにやっているつもりというのと、やれているというのは何の関係もないのです。何の関係もない。逆相関とは言いません。関係ない。
 私はセミナーでものすごく勉強させてもらっています。「私はこういうことに努力しています」「部下に接する時にいつもこういうことに注意しています」と聞いたとき、すっとひっくり返して聞くようにしています。この人はこれができていないんだろうな・・・。これで外れたことがありません。
 客観的に冷静な時には、こうすべきだという観点でこういうことが大事だと思っています。だから多くの方はこう言います。「やはり当然ですが、部下の心が大事です。」誰でも言います。そしてほとんどの人は心ではなくて目先の達成の基準と数字だけを重要視して、心はないがしろにしているではないですか。ほとんどそうです。すなわち大事なことを大事にしていないのです。でも冷静になったときにはそれを言葉に出しているから、それができているように思うのです。
 ですからこの質問をされた方には大変申し訳ないのですが、本当に自由にやらせたかどうかは分からない。
 それともう1つ大事なことを言いましょう。自由にやらせるときに、やらせるテーマとその人のレベルを見なければいけません。低いレベルの人に高く難しい課題を与えて自由にやれと言ったら潰れます。それは課題の与え方がまずいのです。それはやらせてはいけないのです。
 それからやらせたときに大事なのは自主性なのですが、自主性で倒れそうになっているときに分からないように支えることも大事です。分かるように支えてはだめですよ。こういうふうにやったら、ね。ここは知恵と思いやりの要る世界なのです。
 やはり素晴らしいリーダー、マネジメントというのはここらへんができる方です。そういうことができるということも大事ではないかな・・・。
 質問:「実行とその成果を細かくチェックし、管理面を強化すべきか」、
 はい、これは全部人と事によります。人と事と次第によるのです。レベルの高い人はともかく一切チェックしない方がいいです。チェックしなければいけない人もいます。チェックしなければいけない事柄もあります。だから事と次第、人によるのです。これをワンパターンでこうだと言い切ったらそれは間違いです。違うのです。やはりケースバイケースなのです。
 そうするとどうなるかと言うと、ケースバイケースというのはいちばん難しい答なのですが、ケースバイケースを見極める能力が自分にない限り、それはできないということを言っているのです。すなわち自分自身の能力、洞察力、観察力、人を見る目、状況を判断する能力を高めない限りは、適切な指示、ガイダンス、任せるということは実はできないということです。ですから究極はどうなるかと言うと、自分を育てないとだめだということです。そのベース抜きにしてああだこうだ言っても無理なのだということなのです。
 ですから「管理面を強化すべきか」、管理を強化しなければいけない人もいます。
 例えば私自身のことで申し上げれば、前にいた会社で私自身が最初に課長になり、部下を持った時、部下が新人ばかりなのです。お客さんの所に行ってもらいます。戻ってきます。営業活動をやってきます。どうしたと思います? 「何をあなたは言った? お客さんはどう言った? はい、全部を大きな紙に書いてごらん。」と全部書かせました。「それに対して今、あなたはどう思う?」コメントを求めました。「そう・・・。私はこう思うよ。」「今度行った時はどうする? はい、シュミレーションしてください。」「こういうふうに言います。」「そうするとお客さんはどう言うと思う?」「こう言うと思います。」それに対して「うん、そう・・・。多分違うだろうな。」1回目は任せてみます。2回目、「こう言ってごらん。きっとこう出るよ。そのときにこう言ってごらん。」戻ってくるでしょう。「なんで分かるんですか? 全くそのとおり運びました。」若い時に手取り足取りそういう経験を積ませることです。
 しかしそれが積み重なって自分でどんどんできるようになったら、何も言いませんけどね。だから人の成長具合に応じて指導の質と量というのは変えていかなければいけないわけです。
 私自身は結構そういうのがどちらかといえば得意だったようです。ですから前の会社にいた時に、人を育てたということで表彰されました。業績表彰しかない所だったのに、人を育てたということで表彰してもらいました。「お前の所は若い奴が明確に育った。」その育て方は今申し上げたとおりです。
 今度はその育てた履歴をA4に書いてバインダーに綴じておきます。バインダーに綴じてずっと履歴を持っておくと面白いです。前の方で私が指示、指摘したことが、後の方にいくと当たっていたということが分かるのです。「大久保さん、どうしてこんなことが半年前に分かったんですか?」「それはね、十年やっているからだよ。」もちろん十年やっても分からない人も中にはいるでしょうけど。何故か当たるのです。読みなのです。ま、今日は営業活動のハウツーセミナーではありませんから・・・。昔はさんざんそういう経験を積ましていただきました。
 それからCSという観点で、仕組みだ、なんだかんだということも相当やりました。勉強させてもらいました。そして分かったこと、そんなことをやってもなかなか思ったとおりに良くならないということが分かりました。全部人だと・・・。人がその気になる、育つ。これ以上のものはないというところに今、きたのです。来年また違うところにいっているかもしれません。それは分かりません。
 だから最初は顧客区分だ、そしてカスタマーの要望・期待をしっかりと掴んで、それをどうプロセス、商品、サービスに転換して、どうでこうで・・・。その結果をこのように把握して・・・。そのような説明をさんざんしていました。そのようにしていて相手、お邪魔している企業が良くなったのか。あまり期待通りに良くはなりませんでした。なぜか!?
 仕組みは作っても意識が変わらなかったら、結局何も機能しないわけです。まさに魂が抜けたところでいくら仕組みを作ったってだめです仕組みを作って、仕組みだけでうまくいくのだったら隣の仕組みを持ってくればいいではないですか。それで全部うまくいくはずです。ところが実際には上手くいかないでしょう。意識がちがうからですよ。「何とか手法」を導入したら経営はうまくいくのですか?そんなもの、あるわけありません。手法を導入して経営はうまくいくのだったら、その手法はノーベル賞ものでしょう。そんなもの、あるわけないんですよね。
 無意味だと言っているのではありまえん。あくまでもツールですから。それを活かす人間の方が全て主役なのです。そしてそこに、人間に焦点を当てて、何を変えなければいけないかを考えることだと思います。変革だ、イノベーション叫んでもイノベーションはできないのです。イノベーションの基本は、自分自身の意識を変革していくことです。発想を変えることでしょう。そこなしにイノベーションと言ったって無理なわけです。イノベーションしなさいと言うのは簡単です。そんなことを言ったって何一つイノベーションは起こらないというのも私の学びです。
 ではどうしたらいいのか。人に焦点を当てて、その人に思いを持ってもらう。高い志を持ってもらう。役に立つ仕事をやっていこうという強い情熱を持ってもらう。そういうことが大事なんだということがここ何年かで気がつくことができたということです。だから話が極端に人間系になってきてしまったのです。
 細かい話をしろ、と言えばできないことはありません。でもそんなことをやったって経営は良くなりません。そういう意味で経営が良くなるのだったら、経営評論家が来たらいくらでも良くなるはずですよね。コンサルタントが入ったら良くなるはずです。コンサルタントが入って全部良くなるのだったら、こんな簡単なことはありません。ならないじゃないですか。コンサルタントが入って悪くなるケースはたくさんあるでしょう。この中にコンサルタントがいたら申し訳ないけど・・・事実ですよね。それは仕組みだけでアプローチするからだめなのです。人が欠落しているのです。人の思いが・・・。その思いをどう高めるか、そのための環境条件をどう作っていくかということを主眼にしていったとき、その組織は変わっていくんだな、こういうふうに思います。
 すいません、ちょっと質問からだいぶそれてしまいました・・・。

 だいぶ他にも質問がありますね。あ、この人は頭が整理されているし、字もきれいですね。
 質問:箇条書きで書いてあります。「1.講演に感謝」ありがたいですねぇ。「2.話し合いは聞き合い、賛成です。実行に努めています。3.物作りの世界にいると発言が苦手な人がいます。こういう人に発言を促す良い方法を事例で示していただけますか。」
 箇条書きでかつ字がきれいです。大きくて・・・。これは相手の立場に立っていますね。先ほどの小さいのがそうじゃないってことではないですよ。この方は謙虚だというだけですからね。たまたま僕が目がきっちり見えないので・・・。57になると老眼になるんです。どうでもいいですね、そんな話・・・。
 発言しない、苦手な人というのはいます。特に物作りとか技術者、ディーラーで言うとサービスマン、エンジニア、話が苦手だ。横田社長も相澤会長も何と言っているか。「あれは嘘だ。彼らも話が好きだ。なぜか。休憩時間になったらすごく楽しそうに遊びのことを話している。ただ上司と話さないだけだ。」だから話が好きか嫌いかと言うと、必ず嫌いだとは限りません。
 それから苦手な人はいると思います。これは明確にいます。苦手な人に対して発言を促す方法はすごく簡単です。質問することです。ただし発言し易い質問をしてくださいよ。そこでまた難しい質問をしたら、相手はうーんとうなってさらに発言をしなくなります。
 それからもっと大事なことを申し上げましょう。簡単な質問をさせてもらう。もしくは少し意見を言った時にこっちがどういう表情で聴くかなのです。
 例えば発言が苦手な人がやっと何か発言してくれた。それがとてつもなくつまらないアイディアだったとします。この時が勝負です。なぜか。良いアイディアだったら、「そうだ、君も良い考えを持っているな」と心底言えるじゃないですか。楽なのです。え?というような発言があった時、ここが勝負です。よろしいですか、表情を変えてはいけないですよ。ムッとなった瞬間、「あ、僕はやっぱり言わなかった方がよかった・・・」と思うのです。全身全霊で「そうですか、あなたはそう思うんですか」と真剣にどれだけ聴けるかなのです。つまらないアイディアほど真剣に聴かなければいけないのです。
 人の話を聴く名人が松下幸之助さんです。人の話を聴く名人だったと言われます。役員会で若い人が商品の説明をする。他の役員がしらけてフンと横を向いている時に、幸之助さんだけは「フンフン、フンフン」と前に乗り出して聴いたというではないですか。フンフンと聴いて、最後に「うん、まだ難しいな」とかいうのはあるんですよ。
 例えば有名な話があります。ある方が商品開発して持ってきたテープレコーダー。「どうですか? こんな技術を入れました。」「そうか、君は頭が良いからな。しました重たいな~」と言うんですってね。「重たいのはですね、こういう機能と、こういう機能をこういうふうに満たしたんです。ですから重たくなりました。」「そうか、良い商品を作ってくれたな。それにしても重たいな~。」こういうの、×なんですよね。
 何を言っているか分かりますか? 多くの人は相手の話を聴かないで、持った瞬間「重たい! こんなことに時間と金をかけたのか!」と頭からやっています。相手の話を何も聴いていない。努力した慰労もしない。結果についてバーンと否定している人。実はマネジメント、九割がこれをやっています。共感していないです。今日前半で話した、相手のことを理解していないです。そして結果だけ見てすぐに否定しています。その後どうなるか。話をしなくなります。実はあの人は話が苦手だ、したくないというよりも、話をさせていないケースが多いのです。
 これも実際あるケースでありました。「やはり双方向で話すのが大事なんだな。」セミナーが終わった後、社長が出てきた。「今日は私も意見を言うけど、みんなも意見を言ってくれ。私はこう思うんだけど・・・」と言ったら、偉い筆頭役員が「社長、おっしゃいますが、私はそれには反対です。」私のルールはどんどん自由に意見を言い合いましょうということです。そして私が横にいるわけです。社長は「今日はどうぞ自由に意見を言ってください。」「こうこうで難しいと思います」と言われた途端、社長の顔が歪むわけです。そして相手が間違っていることをバシーッと論理でひっくり返した。私が見る限りにおいては、部下の役員の言った方が内容的には間違っていて、社長が言っているほうが正しいのです。内容的には・・・ただしい。だけどひっくり返すことによってやる気をなくしていますよね。その後、誰も言いません。その後「他の方も自由にどうぞ。」誰が自由に言えるか・・・。
 そういう人はこう言うのです。「私はいつも自由に発言してくださいと言っています。なのに自由に発言してくれません。」あなたの顔、雰囲気、日頃の言動が自由にさせてません、ということなのです。やはり自分に原因があるのです。それではうまくいかないのです。
 その方に後でビデオをご覧いただきました。表情を・・・。「これは自由に言えという表情じゃないですよね。」決して楽しくはなかったと思います。不愉快だったと思います。でも姿を見ていただかないと分からないから・・・。口では「自由に言え」と言っていますけど、全身で相手を否定しているわけですから、これはだめです。
 ということで、発言が苦手な人には適切に質問すること、どんな発言に対しても前向きに聴くということ、これが大事です。
 そして「こういう人が集まる場所には、必ずと言ってよいほど多弁なリーダーがいます。多弁なリーダーに聞き役になってもらうよう気づいていただく良い方法がありましたら、ご教示ください。」これで苦しまれている方、多いですよね。
 まず、しゃべり過ぎたらいけないということは理解していただかないといけません。理解してもらっても、頭の理解ですからほとんどそれは改まりません。やはり最初はまずさっき申し上げた本を読んでいただくことが良いと思います。
 読んでも、この方、こういうリーダーは多分変わらないと思います。本人に「今日もしゃべり過ぎですよね」と言ったら、「僕はしゃべっていないよ、みんなの話を随分聴いたじゃないか。」簡単です。テープレコーダーに全部録ってください。そして時間を計ってみてください。どれだけしゃべったかが分かります。
 これ、私の友人がある会社に行ってやりました。徹底的にみんなに話し合ってもらう議論の場を持ちました。テープレコーダーで録り、後でテープ起こしをしました。文字数と時間が出てきます。8人でやって、半分は自分がしゃべっていた。本人の理解、「みんなに発言してもらった。」愕然としていました。
 だから客観的にそういう事象で気がつかせてあげたらいいです。表情が暗い場合は鏡です。話が長い場合はテープレコーダーです。これがいいです。
 コミュニケーションというと、「やっぱり大久保さん、飲むことですね」と言う人が出てきます。ところが飲むといったって、飲んだ場ですごいケースがありました。正座させて説教が始まるという上司がいました。「お前、まず座れ。正座だ!」そして酔っているから繰り返しになるわけです。リピート。たまらないですよね。それでしらふになった時には「コミュニケーションをとりました。」全然とれていないわけです。
 双方に策を授けました。飲む時はポケットにICレコーダーを入れてくれ。そして後で本人に聞かせてあげてください。例えば酔っ払いが留置所で叫んでいる時、翌日テープを聞かせると「こんなにひどかったのか・・・」というのがあるでしょう。あれです。あれを体験させてあげればいいです。もっとも人によっては「これは俺じゃないだろう」という人も出てくるかもしれませんが・・・。なにがしかの形で客観的に分かるようにしてあげるということです。
 だからアンケートをとるのも1つです。僕がお邪魔している所というのは、部下から全部アンケートをとって上司を評価してもらいます。なぜかと言うと、上司は「私は正しい」と言いますから、いかに正しくないか、部下のコメントをもらわないとだめです。
 この間すごい人がいました。大企業で360度評価ということでいろいろな所から評価をもらっているのです。そうしたら部下の中にはやはり良いコメントが多くて、2人ほどちょっと否定的な人がいたのですが、その方はすごいです。家に持ち帰って奥さんに見せているのです。「見ろ、俺も結構会社で良い評価をとっているだろう。」奥さんは何と言ったと思います? 「本音で書いているのは2人だけですね」と言ったというのです。それは当たりでしょう。
 もうその奥さんは完全にコーチング・カウンセリング・コンサルタントみたいな奥さんでしたね。「うちの部下はどうしようもない連中で、こうで、ああで・・・」と言ったのだそうです。そうしたらかみさんに何と言われたと思います?「そういう人がいるから、あんた偉くなれたんじゃないの。みんなあなたより優秀だったら、あなたがいちばん部下じゃないの。」これ、正しいんですよね。「ばかな部下がいるから、あなたは偉くなって給料を貰えるんじゃないの。よかったじゃない、感謝しなさいよ」と言われたというのです。これもすごい本質を突いています。

 次の質問いきますね。教習所ですね。
 質問:「自動車教習所の業界は現在少子化問題にあります。」そうですね。年々免許を取る人が減っています。「各教習所がいろいろな取り組みをして、何とかこの危機を生き伸びる力をつけようとしています。我々が目指すべき道にこんなものもというものがございましたらアドバイスを願います。」
 あります! DOIT!シリーズにあります。益田ドライビングスクール、あれはどこだ? 松江? 島根か・・・。あれは合宿ですけど、ものすごいへんぴな所でコンスタントに年間6千人でしょう。教習所の卒業生は普通2、3千人といいます。毎年6千人です。そして大袈裟に言うと、そこに行くと人間が変わって出てくるのでしょう。要は収容所、収容所じゃないや、厚生施設みたいに人間が生まれ変わる所なのです。だからハチャメチャで、家の中ででたらめの生活をしていた人がそこに行くと、戻ってきたときに自分の部屋は整理するわ、周りは掃除するわ、挨拶はするわ、と変わってしまうわけでしょう。そういう教習所です。本も出ています。小河さん、益田ドライビングクール。本を読まれたらいいです。
 この間ブロックスのセミナーでその方に来ていただいてお話しをうかがいました。80歳ですけども、ほとんどこうやって立たれて、直立不動でずっと話をされました。大変に感銘を受けました。何かと言うと、ものすごい楽しさを提供されています。
 当然ですけども、ドライバーの教習官が全部生徒から評価されます。私は岐阜のある所から来ましたが、うちの娘が教習所に行ったら、「もう教習官が怖かった」と言っていました。恐い教習官で、怒鳴りつけるような人というのは、そのドライビングスクールを潰そうとしているのと同じです。ところが車の中にいたら分からないじゃないですか。あれ、テープに録ったらすぐ分かりますよ。それから生徒に評価させても分かる。その気になればいくらでも分かるのです。そういうことをやっていませんものね。
 だから本当に良くしようと考えたら、いくらでもアイディアは出る。そしてほとんどの教習所はやっていないから「大丈夫です」と・・・。全ての教習所がお客様の視点に立ち、すごい仕組みと意識変革をやったらものすごくきついです。まだまだできていませんから・・・。そういう意味では、口コミが基本だと思いますが、「あそこに行ったらいいよ。」
 そして免許が取れる以外のプラスの付加価値も考えなければいけないのでしょう。免許が取れるというだけだったら、多分いちばん近い所を選ぶのではないですか。分かりませんけども・・・。「あそこは楽しいよ。」「こんなふうに勉強になるよ。」「あそこに行くとOBの集まりがあってね、こんなふうだよ。」益田ドライビングスクールは、卒業生が年に1回集まるわけです。全部で何万人集まるのだったかな、何千人だったか忘れてしまったけれど、町の半分か・・・、ちょっとデータは忘れてしまいましたが、とてつもない数の人間が集まるわけです。OB、卒業生が集まってお祭りをやるのです。要は楽しんでいます。
 そうだ、合宿でこういうこともやっています。親に手紙を出すのです。だから更正施設と同じです。そこに集まった人なんか、親にありがとうとか手紙を書いたことがない人・・・。それが人によっては、「何て書きゃいいんですか?」「育ててもらったんだろう。『ありがとうございます』ぐらい書いたらどうだ?」「思ってもいない。」「いいから書け。」書くでしょう。書かれて受け取った親は勘違いするわけです。「子供が変わった!」というぐらいのものです。その変わったという思いがどうも子供を変えてしまうみたいで、本当に人が変わっているわけです。
 本の中に実例がたくさん出ています。いかに人間が変わって更正したか。やっぱり更正施設みたいだな・・・。更正しているわけです。それはやはり基本は小河会長のそういうドライビングスクールをつくる、という思いです。
 ある意味では日本一へんぴなドライビングスクールかもしれません。そこで平均の二倍から三倍の卒業生をずっと維持し続けています。やはりそれだけの価値を提供しているのです。自動車教習所だから免許を取るのが全てだから、そこにだけ、というのではちょっと視野が狭いかもしれません。もうちょっと発想を変えて・・・。
 そして今日申し上げたとおりです。みんなで協力し合って、事務の方も、受付の方も、教習官の方もみんなで、経営者も、お互いに語り合う。どうしたら喜んでもらえるだろう、どんな喜びを提供できるだろう、どうしたらその喜びを高められるだろうということをみんなで話し合って、努力されて、それこそ明るい教習所をつくられたらいいじゃないですか。多分それ以外にもアイディアはいっぱい出てくると思います。

 質問:「2件の質問をお願い致します。社員満足と顧客満足はどちらが優先されるものでしょうか。」
 父親と母親、という感じがしないでもないのですが・・・。そうすると明確に母親だと言いますから、そういう意味では母親は社員満足かな、という感じがしないでもありません。
 実はCS、いわゆるカスタマーサティスファクションを追求していくと、ESという従業員満足がなければだめだというのが数年前までの私の発想でした。そしてこれは間違っていることに気がつきました。なぜか。去年訪問した企業は、大袈裟に言うと経営者にCSの発想にあまり重点が置かれていない。ESだけです。徹底して人を大事にする。大事にされた人はお客様を大事にする。「大事にしろ」と言われなくてもするわけです。その結果お客様からの評価が上がる、業績が上がる。この順番です。
 原点は人です。お客様ではない。これは数年前と私自身の説明が全く変わっていると思います。最初はCSを中心に、それを実現するためには高いモラルの、モチベーションの高い従業員を実現していかなければいけないという順番でしたが、今は順番が変わりました。これは去年の学びです。
 CSだ、CSだと叫んでいる所はいっぱいあります。ただしESと言ったときに、勘違いしないでいただきたい。休みを増やしたり、給料を増やすという、そういう感じで捉える人、もしくは甘くするという人が多いのです。全く違います。
 本当のESは何かと言うと、その人が成長することなのです。人を大切にするというのは、その人の人生を大切にすることなのです。それはその人の能力を発揮させることなのです。実はもっと厳しいことだということが分かります。だから受身で「いいからやれ!」と言って、頭を使わせないで強制的にやらせるというのはいちばん生ぬるい仕事の仕方だと思います。なぜか。その人のいちばん大切な頭というものをフルに使わせていないから、考えさせていないから・・・。やはり人は自ら考えて、自分で思ったことをやりたいのです。その時に満足度は高まるのです。そういうESなのです。
 だけど時々勘違いするのは、「大久保さん、ESなんて甘いことを言っていて、この業界で生きていけるんですか?」ESを勘違いしています。甘やかすことだと思っている。其の人に伸びてもらうことです。その人に成長してもらうことです。その人に良い人生を歩んでもらうことなのです。それがESなのです。
 本を読んでも、ESの世界ではそういう説明はあまりしていないと思います。去年、いろいろな企業にお邪魔して、そこに気がつきました。から今、明確に、まずES。ネッツトヨタ南国の横田社長にもここにお越しいただいていますが、あの人はもうESからスタートです。どうしたら満足してもらえるか、安心して働いてもらえるか。バグジーの久保さんもそうですね。行き詰ってターンしたところはESからスタートですよね。すなわち人に辞められたらさらに赤字になってしまう。人がいないと商売にならない。どうしたら残ってもらえる? ともかく彼らに残ってもらおうというところからスタートです。そうしたら共通しているのは、給料を上げてくれ、とか、休みを増やしてくれ、というのはない。ネッツトヨタ南国で言えば、横田社長に言わせれば、「いちばん嬉しかったのはどういう時ですか?」と社員に聞いたら、「お客様に喜ばれた時です」。「じゃあお客様に喜ばれる経営をしたらみんな嬉しいんだね。」
 実はこれは業種、業態を越えて共通しています。多分人というのはそれぞれだという考えもあるし、それはある一面正しい。しかしそれぞれではない、共通部分もあるなという感じがするのです。それは何か。人に喜ばれた時に不愉快になる人はいないです。橋から落ちそうな人を見たとき、多分誰でもみんな助けに走ると思います。その時に、「この人は金持ちかどうか」とか考えます? 人というのは、何も考えないで瞬間助けようとするはずです。動物はそうしないかもしれない。これは人と動物の違いだと思います。人に喜んでもらうことは絶対に喜びなのです。
 もう1つ、人は成長する時に喜びを感じることができます。達成感というのも1つの成長かもしれません。1つの知識、何かができるようになる技術がついた、能力がついた、何かがよりできるようになってつまらなくなるということはないと思います。ほとんどの人はそこに喜びを感じられます。すなわちESなのです。
 だから人に役立つような仕事をしてもらう。喜んでもらうような仕事をしてもらう、其の人が成長できるような仕事をしてもらうということが、真のESなのです。そうしたら業績に連動するというのが分かりますでしょう。そうなのです。
 これは多分去年までの説明と違っていると思います。去年の気づきなのです。去年1年間通して気づいたことなのです。
 そうするとバグジーなんか典型です。久保さんが徹底して従業員を思うから、思いやられた従業員が徹底してお客さんのことを思うから良くなっていくわけです。スタートは人への思いやりです。ここがスタートだと思います。
 昨日、ある方からメールをいただきました。相澤会長の本に50冊サインをしてもらったのです。表紙を開いた所に、筆で言葉が書いてある。どんな言葉が書いてあると思いますか?「仕事って人を愛することかもしれません。」その「かもしれません」というところにあの人の人間性が出ていると思います。言い切っていないのです。「仕事って人を愛することかもしれない。」あそこまでやり遂げた方がそうおっしゃっているのです。ものすごく深いです。なるほどな、という感じがします。

 次の質問です:「伊那食品のお話ありがとうございました、お話のような経営は、ある程度会社に余裕があって初めてできるのではないでしょうか。例えば資金繰りに苦しんでいて、心に余裕がない時は無理だと思います。」
 確かに余裕がないと無理でしょうね。伊那食品は全従業員が海外旅行に出掛けます。業績が良くない時から・・・。塚越会長は何と言ったか。「業績が良くなったからといってやり出したことではありません。苦しい時からやっています。」これが塚越会長の答です。
 よく勘違いされます。業績を上げ続けたからできるようになったのでしょう。それは寄付はそうです。地元のいろいろな所への寄付とか、そういうのはそうです。でも社内のいろいろなプログラムと仕事の進め方、海外旅行も、もう当初から、ほとんどスタート時から、資金繰りにきつい時からやっています。・・・だそうです。
 余裕ができてからやろう。できるのだろうか。正直申し上げて、もちろん余裕がある方がやり易いとは思います。「時間ができたら勉強します」と言う人で、勉強した人ってあまりいないではないですか。やる人はやるのです。やらない人は状況が変わっても多くはやらない。やり易いことは事実です。それは事実です。だけど「条件が整わないからできません」と言っている人は多分できないです。その場合は状況、条件を整えることが仕事です。そこに焦点を当てていただきたいな、と思います。

 質問:「いつも勉強になり、本当にありがとうございます。今日こそ本当に部下の話を聴こうと覚悟して臨むのですが、気づいてみると自分がしゃべっています。どうしたらいいのでしょうか?」
 マスクをしてください!
 面白いですね。昨日も、こういう決意をしたというある方のメールがありました。「三歩歩くと忘れるニワトリみたいだ」と・・・。ニワトリって三歩歩くと忘れるんですかね? 僕、よく知りませんけども、表現が面白かったです。「三歩歩くと忘れるニワトリとちっとも変わりません。本当にできません」ということをおしゃっていました。
 でもこの人、いいじゃないですか。「気がついてみると」と気がついているからまだいいです。これ、考えようによっては前進ではないですか。気がつかない人がほとんですからね。「しゃべれよ、しゃべれよ」と言ってずっとしゃべっている人がいます。
 「どうしたらいいのでしょうか?」だから一言で言うと、これは耐えるしかしょうがないです。半分冗談で言いましたが、本当にマスクをつけられたらどうですか。最初だけ「今日は話を聴くぞ。」こうやるのです。マスクをつけられたらどうですか。マスク越しにやっぱりしゃべるんですかね。物理的にそういうのをされたらいいです。
 それからもう1つ、やはり私がいちばんお薦めするのは録音することです。そうするとやはりしゃべり過ぎだなということを毎回毎回実感することです。大切なのは、一気に聴けなくてもいいです。やはり少しずつ前進していくことが大事だと思います。だから今まで部下と話をした時、30分のうち29分しゃべったとすると、それが25分になったらすごい成長じゃないですか。4分も減っているのですから・・・。そういう発想で良いと思います。一気にゼロにしようとすると、体に無理がいくことがあるのです。
 実際にそういう方がいらっしゃいました。ある社長で、経営会議を土曜日にやるのです。朝9時から始まって、終わるのはその社長が疲れた時、という会社がありました。大体夕方までしゃべり続けるらしいのです。そこにあるアドバイザーが入りました。「あなたは話を聴くべきだ。」冒頭1分にしたのです。実際は10分しゃべっていました。でも本人は10分しゃべって「1分で終わったぞ」と言ったそうです。私は急激なのは良くないなと・・・。その方どうも翌日から寝込んだらしいです。やはり1日話す人が10分しか話さないと、精神的に付加がかかり過ぎてしまうのです。だから徐々に、というのも大切じゃないかな、というふうに思います。
 もうちょっと具体的に申し上げましょう。どうしたらもっと聴けるようになるか。リストを作って、毎日、場合によってはその都度確認してください。聴けたか、聴けないか、○×△をつける。もっと言いましょう。その表を部下にも評価してもらう。どうですか?もし本当にそうしたいのなら、そうしてください。
 順番はこうです。部下を集めて「今まで私は一方的に話をし過ぎたから、これからはあなたたちの話を聴くように努力します。ただしついしゃべってしまうと思います。でもそういう気持ちなのです。協力してください。ついてはみなさんと面談が終わった時に評価してください。本音で書いてください。私も評価します。」もう1つ言ってください。「急激に変わるということは期待しないでください。」ここまで言っておいてやってみるとか・・・。まあジャストアイディアですよ。そうすると何か変わるのではないでしょうか。できるような気がします。

 ここは5時には帰らなければいけないんですね。ここは官庁の施設でしょう。官庁の施設は、「ここは5時までです。」なぜ5時か分かりますか。5時には私が帰るんです、と相手の利用者の視点がまるでないのです。
 行政のいちばんの欠落点は、自分たちの軸でしか物事を考えないことです。もっと本質的なことを言えば、行政というのは何のためにやっているのかを考えることです。実は住民のためなのです。そのいちばん本質の「ために」が欠落して、自分はここまでです、と勝手に線引きしてしまうのです。結論から言うと、だから仕事が面白くないのです。受身で、自分で為すべき範囲の線を引っ張ってやる人に、生きがいと達成感は感じられないのです。しょうがない。自分で線を引っ張っている。その線を乗り越えなければいけません。ちょっと話が変わってしまいましたが・・・。

 質問:「対話をするにあたって、部下からの意見を聴くためにはどのような話し方をすれば良いのでしょうか。」
 これはもう説明しましたね。「例えば『何か話があるか?』と言っても、『ありません』という返事しか返ってこない。」
 「特にありません」というのは部下は言葉を割愛しているのです。「特にあなたには言いたくありません」と言っているのです。今の事例だけで1時間しゃべれます。そうなのです。なぜか。信頼というベースのない所で人は上司に意見を言いません。ましてや難しい提言になったときに言いますか。言わないです。誰も何も考えていないというのは、僕の考えで言ったら日本人はあり得ない。
 米国だと、ワーカーだ、考えなくていい。考えるのはこっちだと職種ごとに役割分担を区分けします。日本は現場の人が考えるというのが強さですから、全部自分が考える。どんな現場の人でも「我が社は・・・」「うちは・・・」と言うわけです。すごい家族意識ですよね。そして現場の人たちが「我が社の問題は・・・」とか飲みながらやっているわけです。あれは米国のワーカーと言われる方にはないのです。だってそういうことは考える必要がない、考えてはいけない、役割が違って区分けされていますから・・・。
 すなわち何が言いたいかというと、日本人はどんな人でも絶対に考えています。問題意識を持っています。それが証拠に、問題意識がないと言われる人を集めていただいて、「何か問題ないですか? この会社をよくするアイディアはないですか?」と聞いて出なかったことがないのです。第三者が聞くから・・・かもしれませんが、。いくらでも出てきます。それをまとめます。まとめると社長が怒るわけです。「私は普段から、アイディアがあったら出せと言っているんだ。なぜ大久保さんに言えて、私に言えないんだ!」そこで怒るような人に言うわけありません。「あなたが怖いから言いません」とは言えないじゃないですか。そのセリフ自身が言わせていないというのが分からないのです。そうでしょう。
 ですから話の意見を引き出す、アイディアを聞きだすためのベースは何かと言うと、自分への信頼なのです。そういうベース作りをなしにして面談をやってもなかなか出てこないと思います。ですから今後覚えておいてください。部下に向かって、「何か考えていることはないか?」「特にありません。」「そうか・・・。」その時「お前、特に言いたくありません」と言っているんだろうなんて言ってはだめです。「俺はそういうふうに聞いた!」そんなことはだめですよ。そうではないのだけれど、現実にはそうなのです。
 だから何を申し上げているかと言うと、指は自分に向けないとだめなのです。なんでもいいから言え。なぜ言わないんだ。なぜ言ってもえらえないんだ。
 なぜ朝、「いってらっしゃい」と言ってくれないんだ。あれもなぜ言ってもらえないんだと自分に指を向けたら分かったのです。
 いちばんベースは自分に指を向けることです。でもほとんどの人は外に指を向けて何とかしようとするのです。

 時間なくなってきてしまいましたね。まだだいぶありますね。あと1つぐらいですみません。割愛の方が相当出てしまって申し訳ない・・・。

 質問:「互いが分かり合うということは大切です。その中でも『違いを豊かさ』に変える視点を持つことで互いに高め合えることができるのではないでしょうか。」
 良い意見ですね。「違いを豊かさに変える」、これは良い言葉ですね。「意識を変えることがまず自分が気づき、自分が変わること。でもそれがいちばん難しいです。固定概念の脱却、自分にとって都合の良い解釈などをしていることが多いのだと思います。」この方はすごい認識力ですね。「そういうところに一言アドバイスをいただけますか?」
 この方、お分かりだからいいのではないですか。いちばん問題はこういうことを認識していない人がいちばん問題です。
 固定概念の脱却というのは、よく発想を変えろと言います。「発想を変えろ!」変えろと言って変わったらこんな楽なことはありません。「なぜお前は変わらないんだ?」と言っても変わらないでしょう。
 私の発想はこうです。発想を変えるのは難しい。発想の違う人を呼べばいいという発想です。だから議論するときに、発想の違う人を呼べばいい。そして自分が理解できないと思ったときに否定しないことです。そこで否定したら、また自分の発想の範囲内に収めようとするから、外に出ていけないのでだめになるわけです。だから異なる見解、異なる立場、異なる職種の人を呼んで、その人と一緒に話すということによって発想が変わってきます。
 僕はこれがいちばん良いと思っています。だからどんな会社に行っても、現場の人を呼びなさいと・・・。例えば保険であれば、代理店の人を呼んで一緒に考えたらどうですか。1つの商店でアルバイト中心だったら、そのアルバイトの人たちを本社に呼んで、その人たちに意見を出してもらったらどうですか。全部異なる立場、異なる見解、異なる職種の人を呼ぶ。これが私の基本です。そうすると必ずすごいアイディアというのが出てきます。間違いなく出てきます。
 いちばんだめなのが、同じメンバー、同じ席、同じ部屋でやっている。そう、役員会というのは大体どこでもそうです。これで発想に飛躍を求めるのが無理だと思います。もちろん優秀な人がいれば別ですよ。でも普通は発想を変えるなんてできません。
 ですから固定概念を打ち破るためには、自分と違う領域の人と付き合ってみる。そういうことです。そういうことをされると、必ず発想というのは豊かになってきます。
 それから確かに自分にとって都合の良い解釈をしてしまいます。それを改善するための方法は、きわめて平たい言葉ですが、やはり相手の立場に立つ。相手の立場に立つというのは、相手の軸で物事を考えてみるということです。それをシュミレーションされたらいいです。相手の軸で考えてみる。こちらから見たらおかしいということも、相手から見たら当然だ、というのがあるのです。そこをどこまで相手の立場になりきれるかというのが人間力だと思います。自分の幅を広げるというのですか、そこをやっていかないとだめかな、という感じはします。

 5時までにはこの会場を出なければいけませんので、もうそろそろやめないといけませんね。半分ぐらいお答えできませんでした。お詫び申し上げます。
ということで、今回の話を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。